School 1 - 〜小学生:成長 -
周囲の荒れた町並みに、木造二階建ての校舎が一つ。校庭もまったく手入れされていないけど、それでも貧困のこの町にある唯一の小学校。僕を含め、ここに住む全ての子供達が、この学校に通っている。
「よっしゃ、いっくぜー!」
友達の一人が、泥まみれのゴムボールを遠くへ投げた。僕達で作ったゲームのルールとは言え、あんなにも飛ばさなくていいじゃないかと、僕は心の底で文句を垂らしながら、転がり続けるボールを鈍足で追い掛けた。
ようやくボールを取りに戻ってくると、相手チームが既に勝利しており、
「あいかわらず
フヨッタ はおっせーなぁ〜」「しかたないよぉ。ぼくだってこれでも、ひっしにがんばってるんだから」
何せ僕は、低学年のドラゴンながら、学校内の誰よりも明らかにぽっちゃりしていた。空を飛べないのは先天的な左翼の障碍のせいだけど、動きのとろさはそんなの関係ない。でもそんな僕を、周りは笑って温かく見守ってくれた。ここではみんな、仲の良い友達なのである。
給食の時もそう、貧しい町の学校に出て来るものと言えば、国政連合が用意してくれる、僕達にとっては大変貴重な栄養源であるコップ一杯の食べ物。けどそれを周りは、体の大きな僕に少しずつ分けてくれる。なので僕だけ、大体コップ二杯分もの給食を、毎回食べさせて貰っていた。
僕が小学生高学年の時、この国で石油が発掘された。すると潤沢な資金で国は潤い、貧しい僕の町にまで隅々と、その恩恵が国中に行き渡った。さすがにインフラ整備などは都心部が優先され、僕の町には景色の変化はなかったが、毎回の給食が日に日に豪華になっていった——コップ一杯から皿が増え、「パン」や「牛乳」と言った新しい飲食物が追加され始めたのだ。
「おお、今日の給食すげー!」と、友達が歓喜の声をあげた。
「うわぁ、美味しそう♪」
僕が嬉しそうな表情を浮かべると、周りがいつものように、パンを半分分けてくれたり、お皿から半分ほどの料理を僕のに移してくれたりした。
「ありがと〜」
「いいってことよ! にしてもフヨッタ、最近また大きくなったなー」
「え、そう?」
「それだけ食ってりゃ、もっともっと大きくなっちまうな!」
友達がそうジョークを飛ばしてくれたのは、これから一年、いや、半年ぐらいまでだった。
「んぐ、んぐ、もぐもぐ、むしゃっ……ぐびっ、ぐびっ——げふぅ!」
大きなゲップを漏らし、お腹をぽんぽん叩いた僕。それを友達の一人が、心配そうに見つめてこう言った。
「なあ、最近、食べ過ぎじゃないのか?」
「えーそうかなぁ。でも僕、もっと食べられるよ」
「そうだけどさ……なんか俺、聞いたんだけど、海外じゃ太り過ぎて動けない人とか、いるらしいぜ」
「あはは、それって本当? 信じられない話だね——あ、それ食べないの?」
「ん? あ、あぁ……食いたかったら、別に食ってもいいぞ」
「やったぁ!」
こうして僕は、今日もまた色んな人から給食をお裾分けして貰い、裕福な生活に味を占めていた。