イカッネク Ykcutnek
M 僕 ナーガ ギラン Guillan
M 私 ホエリアン ディーブス Deebs
M 俺 オルカン ローバル Lobal
F 私 ホエリアン テフス Tefth
誰が、こんな事実を信じて貰えるだろうか。噴火や津波、そういった内容なら、まだ救いようもあったかも知れない。だがギランが見た、この体の持ち主のメモ帳に書かれていたことは、突拍子もない話だった。
遠く離れた大陸の、化学薬品工場の大爆発。その際、有害な気体が偏東風に運ばれ、この島を通るそうだ。そこから更に気体が流されると、その効力は完全に霧消するらしいが、残念ながらこの島には、弊害が
齎 されるらしい。内容を一瞥したところ、ここが三十年前ということもあり、ギランが当たり前のように知っている事故後の対処などが、まだこの時代では一般的ではないようだ。ギランが生まれた世界だったら、そのような事故が発生した場合、しかも他の国や島に影響を及ぼしそうなものは、国をあげてでも対応する。だが今いる世界では、まだそういったことは行なわれていないようだ。
どうやらギランの体の持ち主は、自らその報告を行なうためにこの島へと来たらしい。だが、僕がそれを告げたところで、果たして島民達がそれを信じるだろうか。確率は無に等しいかも知れない。一回死にかけた僕だし、気が触れたと思われるかも。
「……とりあえず、セルバさんの意思を引き継いで、ローバルさんに言ってみよう」
もう夜も遅い。ギランは、就寝することにした。因みにセルバとは、このメモ帳の持ち主——即ち今のギランの体の元持ち主である。
翌朝。目覚めて、木の窓をあけ、明かりを部屋に取り込んでいると、窓からローバルの姿が。相変わらずオルカンらしい立派な体である。島長らしい風格だが、やっぱりちょっと太り気味かも。
「よおギラン」
「おはようございます、ローバルさん」
「ローバルでいいって。それで、すっかり忘れてたんだが、これが食料庫の鍵だ」
ギランは、それを受け取りながら聞いた。
「えっ、でもいいんですか? これ、みんなの食糧じゃ……」
「ハハハハ! ここだけとは、誰も言ってないだろ。そんなんだったら今頃餓死しちまうって」
「……あ、そう、でしたね」
「んでよ、俺はちと今日、隣の島に行かなくちゃならないんだ。悪いが今日は、のんびり島で過ごしてくれ。大丈夫、島民は皆優しいから、初対面でも気軽に接してくれるさ」
そしてローバルは、身を翻そうとし、ふと何かを思い出したギランは慌ててそれを止めた。
「あ、そ、その、ローバル?」
「ん、なんだ?」
「実は……信じられないかも知れないけど、実はこの島に、有害物質が運ばれてるんです」
「有害物質だって? それは本当か、船で運ばれているのか?」
目の色を変えてローバルが聞き返した。やはり島長として、心配なのだろう。
「いえ、風です。ここは偏東風というものが吹いていて、西の大陸から有害な気体が運ばれてるんです」
「……ブハハハハ!」
突如大笑いしたローバルに、ギランは目を円くした。
「そんなわけないだろう。この島はな、どんなことがあっても大陸が守ってるくれるよう契約を結んでるんだ。その代わり周囲の島々には、大陸からあらゆる施設が来て研究をしている。おかげでこの島にゃ、食いもんが溢れて食糧危機になることもなくなった」
「なくなった? つまりこの島は、元々あまり食べ物が豊富じゃなかったんですか?」
「ああ。俺が幼い頃、突然作物が育たなくなり、且つ魚も捕れなくなってな。正にその時、大陸側から助けが来たんだ」
もしかして、と僕は推測した。その問題も、大陸の方のせいかも知れない。けどそれを一種の自然現象と
嘯 いて、この島の周辺を利用したのかも。「でも、実際大陸側では工場の爆発事故が起きたんです。だからここも、また同じような目に遭うのかも……」
「心配性だなギランは。大丈夫、周りには大陸からの人達が大勢いるし、何かあったら彼らも大変だろう——っと、そろそろ時間だな。んじゃまたな」
そしてローバルは、踵を返して町中へと戻っていった。
やはり、信じて貰えなかった。だがこの体が受け継がれたということは、あのメモに偽りはないはず。これはどうにかしないと……
続