ちょっと今回は、見直しなしでだらだらと書かせて貰いました。行き当たりばったりなのでうまく話を噛み合わすことが出来ないのは日常茶飯事ですが、いざとなるとそれが結構痛手になることも屡々。まぁ当然っちゃあ当然ですけどね。
イカッネク Ykcutnek
M 僕 ナーガ ギラン Guillan
M 私 ホエリアン ディーブス Deebs
M 俺 オルカン ローバル Lobal
F 私 ホエリアン テフス Tefth
独特の特性というか、こういった島の、特に海洋族達に関しては、男達は体が大きくお腹もでかいが、どちらかと言えば筋肉質なのが多い。しかし女達は、脹よかさを重視して普通に太っている。これが美しいとする文化は、昔からあるので問題はない。しかしそれは、ギランの知るところのイカッネクではない。
だが、ようく町を観察すると、たった一日の記憶で朧気ではあるが、家屋の配置などは昨日見たものとかなり酷似している。家が改装されたように新しくなったとも言える。
ギランがあれこれ考えている内に、前を行くローバルはいきなり足を止めた。それに気付かずギランは、うっかり相手の背中にぶつかってしまった。だが向こうは微動だにせず、寧ろ彼の方が跳ね返されてしまった。
「あっと、すみません」
「ん、大丈夫か? 着いたぞ、ここが俺の家だ」
しかしローバルの背中が大きく前が見えなかったので、ギランは横にスライドしてその家を見た。するとそこには、周囲の普通の平屋と変わりはないが、玄関口の上に看板があり「島長の家」と堂々と書かれていた。なんとも分かりやすい。
「あれ……島長の家?」とギラン。
「そう。言ってなかったが、俺がここイカッネクの島長だ」
「——!」
「ハハハ! 外部じゃ、こんな
長 はいないってか?」「そ、そういうわけじゃないんですが……確かここの島長って、ディーブスさんじゃ?」
「ディーブス? どこで聞いたか知らんが、それは俺の息子のことだぞ」
「息子さん?」
「そうだ、。可愛いぞぉ。見るかい」
ギランが頷くと、島長のオルカン、ローバルは嬉しそうに彼を中に招き入れた。すると前と左右と三つの扉があり、ローバルは真っ直ぐに進んで、先の扉に入った。そこには、大きな大きな体を横たえるホエリアンの姿が。お腹の畝須はでかでかと丸く立派過ぎ、開いた両脚の外や股にもお腹が垂れ、顔が見えない。奥の方からはかなり図太い腕が両方に伸びて、両脇の腰丈ほどの小棚に
下膊 を置いている。だが途中の二の腕部分には支えがないので、ベッドのマットレスとフットボードの丁度境界線にまで、弛んだ肉が垂れ下がっている。「戻ったぞ、テフス」とローバル。
「あら、その人は誰? 見かけない顔だけど」
えっ、とギランは驚いた、二つの事で。まず一つ、目の前にいる肥大したホエリアンが、女性であり、恐らくローバルの奥さんであるということ。そして二つ目、そのお腹で、こっちから顔が見えないのに、どうやってこっちの姿を見れたのか。
「紹介しよう、これが妻のテフスだ」
「宜しく」そうお腹の向こう側から声が聞こえた。どこを見て挨拶すればよいのか分からず、とにかくギランは、顔がありそうな方に目線を向けて——結局はお腹なのだが——言葉を返した。
「あ、あの、どうも」
「ふふ、どこを見ていいか分からないのね」
「その……はい」
「上よ、上」
言われた通りギランは天井を見た。すると彼女の丁度真上に、鏡が斜めにセットされ、そして彼女の顔がここでようやく窺えた。それは、頬にたっぷりと脂肪を蓄えて両目を持ち上げ、首が完全にお腹と一体化したものだった。
「吃驚した?」
「え、ええ」
「仕方ないわ。それで、渦潮は大丈夫だったの?」
「えっ?」
「外から来たんでしょ? ここに外部の人が来るのは久しぶりだから
「それは……」答えに躊躇うギラン。個人的には大丈夫だと言いたいところだが、ローバルの話では船が沈没したかどうかと言っていたし——
「その話はいいじゃないか、なっ、ギラン? そうだ、ディーブスを紹介しないとな」
ローバルが空気を読んで、脇にのいた。すると横にはベビーベッドがあり、その中で一人の赤ん坊が、すやすやと眠っていた。ホエリアンの男の子で、母親に似たのか、綺麗な丸みを帯びて膨らんだお腹の縞々があり、ちゅぱちゅぱと指をしゃぶっているのがなんとも愛おしい。
「これは、凄く可愛いですね」
「だろう? 俺達の自慢の息子だ」
「きっと将来は、立派な島長になるんでしょうね」
「あったりまえよ! そして俺のように逞しい体付きで、このイカッネクを支えるのさ」
だがその言葉に、ギランは賛同出来ずにいた。もし、この赤子のディーブスが、彼の知っている痩せたホエリアンの島長だとしたら、今いる世界は過去である。その過去と昨日まで彼がいた現代のあいだには、きっと何かあるのかも知れない。
……いや、まだここが過去だと断定出来たわけじゃない。逆に、ここは未来かも知れない。今日見た夢の言葉が現実味のあることだと段々分かり初め、その内のどれかが答えなのだろう。少なからず、ここは昨日いたイカッネクとは同じようで同じでないことは百も承知だ。
ここでギランは、同時に自身の体のことも理解し始めた。もしかしてこの体は、その夢の中で語っていた人のものなのかも知れないと。ここまでの話はどれも信じがたいものだが、現実にこうやって不思議なことが起きているし、何かを信じようと思わなければ、この世界で当惑すること間違いない。とにかく、今の自分を夢見心地にさせないためにも、確りと地に足を着けるためにも、何かの理論付けが必要だ、例えそれが非現実的な事柄でも小さなものでも、
演繹 してそうさせることが大事である。「大丈夫か?」
ローバルがギランの顔を覗き込んだ。ふと思考から帰ったギランは、慌てて頷いた。
「まぁ仕方ないな、今日起きたばかりなんだし。どうだ、一緒に飯でも食わないか?」
「え、いいんですか?」
「当然だろ。第一ギラン、暫くお前はここにいることになるんだろうし、どうやって過ごすつまりだったんだ?」
「そういえば……」
「だから安心しろ、俺が面倒見てやる。ただこの家には生憎お前を寝かすスペースがないから、あの家をお前にやるよ」
「あの家?」
「お前が今日寝てた場所さ。あそこは俺の離れなんだが、ちと離れ過ぎててな、倉庫にしか使ってないんだ。食べ物もそこに保管してあるし、丁度いいだろ」
「でも、良いんですか?」
「当たり前だ。島長として困ってる奴を助けるのが使命だからな。だから食糧も勝手に食っていいぞ」
「ありがとうございます」
こうしてギランは、このイカッネクで暮らすことになった。今日の夕食はローバルの家で取ったのだが、その食事量たるや噂通りと言えば噂通り。どうやらテフスの部屋がリビングと兼用になっているらしく、そこで食事を取るのだが、たった一回の食事のために、隅にはこれでもかと食べ物が積まれていて、それはギランよりも、ローバルよりも、テフスのお腹よりも
堆 くなっていた。あっという間に満腹になったギラン。残りの時間は、まだ食事を進めるローバル一家との会話で済まし、夕暮れ時になると、提供してくれた家に戻ることにした。
少し歩いて、ギランは借家に辿り着いた。玄関をあけると、そこはかなり暗い。ほぼ陽は沈み、僅かな陽光でどうにか見える程度。今の内に彼はローバルからの教えで、玄関口の脇に備えられたマッチ棒で火を点け、玄関口の外と内の二つの蝋燭に火を灯し、キャンドルスタンドを持って室内の別の蝋燭にも明かりを分けた。
「島と言えど、電気ぐらいはあって欲しかったなぁ」と口を零しながら、玄関口にあった蝋燭を元に戻した。すると足に、何かが当たった。
下を見ると、それは鞄だった。手にすると、そこから磯の香りがして、同時に彼はふと思い出した。これはローバルが言っていた、彼が肩にかけていた鞄だ。ただ彼と言っても、それはギランではない別の人物のである。だが中身を見れば、今の自分が誰なのかを知ることが出来るかも知れない。それにメモ帳があれば、食事中に教えて貰ったイカッネクの歴史を記録することが出来る。そもそもギランの目的は、イカッネクの文献を作ることなのだから。
鞄をテーブルに置いて中身を出すと、そこには水に濡れてその後乾いたような、パリパリとしたメモ帳やペン、そして蝦蟇口。更には水筒とパンが入っていたが、残念ながらパンは完全に廃棄物と化していた。
どうやら身分を証明出来るようなものはないようだ。蝦蟇口をあけても、幾らかの金銭があるだけで、あとは何もない。
唯一頼りになるのは、メモ帳だった。破かないよう慎重に開き、そしてパラパラとページを
捲 って、最後に記された場所を見た。そこには、三十年前の年月日と共に、こう記されていた。「……これは……『まもなく俺は、イカッネクに到着する。俺の研究が正しければ、あと一ヶ月以内にこの島には——』」
続