M ドルフィニアン Dolphinian 僕 アーニー Earny
M 熟年フォールスオルカン Middle Age False Orcan 俺 コウフ Cofe
M 中年シャーカン Middle Age Sharkan 私 ウィスフィ Wisphe
F 中年オルカン Middle Age Orcan 自分 パル Pal
エンテヨ Enteyo
スィワー Sewer
万能機器
「パルさん!」
警官がパルの部屋に入ると、彼女はベッドの上でごろりとなっていた。たぷたぷと脂肪のついた顔が、寝ていることで垂れ下がり、少しふてくされたような表情になっていた。
「何、新しい料理でもできたの?」
「違いますよ、アーニーの居場所がわかったんです!」
「な、なんですって!?」
アーニーは、横にした体をばっと起こそうとした。だが体が予想以上に重く、なんどもなんども腕を屈伸させ、鼻息を荒々しくもらしながら全身の肉をゆらすと、どうにか上体を起こしてベッドから足を下ろした。まさかこれだけでも肩で息をするほどになるとは思わず、パルは驚いた。
「だ、大丈夫ですか?」と警官もたまらず聞いた。
「だい、じょうぶよ。それで、はぁ、アーニーは?」
「スィワーを抜けたところの惑星です。しかし彼らのあとを追っていたら、とんでもないことがわかりました——新惑星ですよ」
「ふぅー、つまりそれって、未確認の惑星ってこと?」
「そうです。なんでそんなところを彼らが知っているのかはわかりませんが、とにかくアーニーはそこにいます」
「ぶぷぅ、ウィスフィさん、お風呂がせまいよぉ」
「ふふ、確かに君の体では、ここは狭そうだな」
小さな一部屋分のサイズはある巨大な浴場。しかしアーニーには狭すぎたようだ。何せ彼の体を洗うために、ウィスフィの部下たちが取り囲んでいるので、尚更部屋が狭くなっていたからだ。しかしこうでもしないと、もはやアーニーは自分の胸とお腹のほんの頂上部分しか洗えず、脇の下すらも洗えないのだ。
アーニーは、浴室の中央にある専用の椅子に腰を据えながら、周りに体を洗ってもらうのに任せていた。それが終わると、重い腰をあげてどうにか脱衣所に再び座り、服を着させてもらった。しかもそのサイズはウェスト5メートル用の超特大もの。さすがのアーニーもそこまではまだいっていないが、そのうちこの余裕のある衣服も、膨れる体に内側から破かれることだろう。
コウフは、家にこもって、ただ何かを食べていた。結局ここに来ても、独り身の寂しさを紛らわすために何かを食べ続けるのは変わらないようだ。時折、離れて暮らすアーニーと映像通信をするが、家の中でそれができるので、外に出ることもなくなっていた。なにせ外には、何もないのだから。
「ふぅ……ふん、ぐぅぅー!」
コウフは顔を真っ赤にして、両足に力を込めた。腕の勢いもかり、巨大ロボットが動きだすように、ゆうっくりと彼は立ち上がった。
「ぷはぁ! ひぃ、こりゃ、たまらんな……」
こりゃダイエットしないとまずいな——そんな気持ちで、一度はダイエットに挑んだ。しかし一日もしないうちに、彼は孤独と空腹にあっさりと負け、結局また食べてしまった。
コウフは、すり足で風呂場に向かうと、中央にある椅子にどっかりと腰を下ろした。それほど広いわけではないので、脱衣所はない。だが脱ぐのも、彼一人ではかなり大変だ。最近そういうのがおっくうになり、彼は服を着たままシャワーを浴びるようになっていた。しかも彼は、ついに昔のアーニーのように、自らで体を完全に洗えなくなっていた。どうにかタオルを横に伸ばしてお腹の下にくぐらそうとしても、それ以上にお腹が出てしまっているため、今じゃ上半身しか体を洗えない。だがアーニーの家のように、ここにはヘルパーは一人もおらず、彼はあきらめるしかなかった。
しかしそれも、やがて慣れるとどうでもよくなり、しまいには体を洗うのも面倒になり始めた。
「今日はもういいか」
コウフは、軽くお湯を浴びただけで、浴室から出ることにした。勿論ここで立ち上がる際も、多大な体力が奪われる。
体をびちょびちょに濡らしながら、彼は部屋を横切ってベッドに一直線に向かい、そしてどすんと座り込んだ。
『おいおい、体ぐらい拭いたらどうなんだ?』
「ふぅー、なんだ、ウィスフィか」
『コウフ、ずいぶんとつらそうだな』
「ああ。はぁ、全く、怠けてばかりいすぎたな。まるで俺もアーニーみたいになってる」
『確かにそうだな』
「そういえば、アーニーはどうしてる?」
『大変だぞ。多分明日からは、寝たきりになるかもしれない』
「なんだって? やはり太り過ぎでか?」
『もちろんだ。それに本人も、あまりに辛くてわーわー泣き出してしまったからな』
「はは、あいつは昔っから、辛いことは大嫌いだからな」
『相当パルに甘やかされてたってことだな。まあその分、我慢しないからストレスのバロメータが分かりやすいし、おかげでストレスをためさせないで済む』
「そうか……ふぅー、なあ、そろそろ飯食っていいか?」
『ああ悪い悪い』
ウィスフィがそう言って通信を切ると、コウフは早速万能機器で注文をし、部屋内のロボットアームで運ばれる本日五回目の食事を始めた。そしてそれを終えると、彼はそのままベッドの上で寝転んだ。
ウィスフィは、地下街の四隅の一つにある自分の家に帰宅した。そして彼は、自室に向かうと、ベッドに座り込んだ。だが休息をとるわけではなく、そのまま彼は、ベッドの脇にある数字のパネルをいじった。するとなんと、この部屋が丸ごと、下へと動き出したのだ。
やがて、天井が遠くなって明かりが届かなくなり、ほぼ真っ暗になった。
がこん、という音とともに、部屋の下降が止まった。あたりは真っ暗で何も見えない。が、何かがエコーがかって聞こえていた。
「おお、神よ。その十億年前から変わらぬ偉大なお姿……」
「……ウィスフィ、カ……メシハ、マダカ?」
「その前にご報告です。もう少しで、また新しい家畜が完成します」
「ハヤクソコセ、メシ、メシィ!」
「お、落ち着いてください! 今すぐ用意します!」
ウィスフィは慌てて、この深部に設置された機械らしきものをいじった。すると見えないが、何か機械が重々しく動く音がし、それから「ずどん!」という物凄い轟音と振動がエコーして聞こえ、ウィスフィはぐっとベッドのへりを掴んだ。
「……神よ。次の助言を、お願いします」
「ブブゥ……ジュブ……ゴブ……エンテヨ……グブ……」
「えっ、今なんと仰ったのですか?」
「——! エンテヨオォォォ!」
「ああ、申し訳ありません! 愚かにも聞き返したわたくしに、お許しを!」
「……モウヒトツ……モウヒトツダ」
「は、はい!」