惑星クレイザー Planet Hcraeser
F 中年オルカン Middle Age Orcan 自分 パル Pal
M ドルフィニアン Dolphinian 僕 アーニー Earny
M 熟年フォールスオルカン Middle Age False Orcan 俺 コウフ Cofe
F ホエリアン Whalian 私 カドル Kador
M フィンレスポーポィスン Finless Porpoisen 俺 ディープ Deep
M 中年シャーカン Middle Age Sharkan 私 ウィスフィ Wisphe
調査宇宙船 ネオクレイザー Neo-Hcraeser
万能機器
スィワー Sewer
母宇宙連盟
エンテヨ Enteyo
「おじさあん……」
アーニーが助けを呼んでいる。コウフは重い体をゆりうごかし、脇からアーニーの腕をとった。正面からだと、お互いのデカ腹が押し合って、今から行なう補助に支障を来たすからだ。
コウフは、風呂場でアーニーの腕を取ると、力みながらアーニーの立たせてあげた。
「——ぷはぁ! ふぅ、ありがとう、おじさん」
「はあ、はあ……良し、いくぞ」
そしてコウフは、ベッドまでアーニーの片腕を支えてあげた。アーニーはベッドに着くと、ゆっくりと180度回転して、どすんとその大きなお尻をベッドに落とした。コウフもくたくたで、彼の横に同じく座り込んだ。さっきまでは、アーニーのお風呂を手伝い、そして彼を座らせながら体を拭いてあげた。しかも彼の体は、以前よりも格段に肉付き、地面まで垂れ下がったお腹、パンヌスは勿論のこと、脇、胸、脇腹、尻のそれぞれの節目に大きな溝があって、そこも奇麗に洗わないといけないため、コウフは体的には重労働なのだ。これを毎日していたら、パルのように女性でも逞しくなるのは当然だなとコウフはしみじみ感じた。
「おじさん、お腹空いた」
「はは、さっきも食ったばかりじゃないか」とコウフは笑いながら、次にアーニーの服を着させてあげた。だが伸縮性のある服でも、今では彼のお腹はどうどうとそこから見えている。そしてコウフは、先ほど用意しておいた食事を載せたテーブルを、アーニーの前に移動させた。そこには、ベッドと同じ大きさのテーブルがあり、そこには彼の大好物、ピザ、ホットドッグ、スクランブルエッグ、ドーナッツ、ステーキ、そしてコーラが8キロずつ置かれていた。勿論これにはコウフが食べる分も含まれているが、やはりその多くをアーニーが平らげる。
いつものように、二人の並んでの食事が始まった。向かいに座っている人がいるとすれば、その迫力に度肝を抜かれるのは間違いない。コウフですらかなり厖大な食欲を持つのに、アーニーなんかは、ピザやホットドッグなど、1キロずつのローテーションで、大きくなった口で豪快に頬張り、一周すると、コーラを1リットル分丸まる飲み干す。しかもまるで子供のように、食べ滓はぼろぼろとこぼすし、コーラは口端から良く零し、食後の彼の体はいつもべとべとだ。ただ幸い、彼の大きな体があるおかげで、それらは床やベッドにはおちず、全て彼の胸乃至腹の上に留まるので、拭いてあげるのは用意である。
「ほらアーニー、また零してるぞ」
「んぐ、んぐ……いいの、だっておじさんが拭いてくれるもの」
「ぶはは、俺はそういう風に思われてるのか」
「だって実際——げふ! そうじゃん」
確かにな、と答えながら、コウフは食事を再開した。そして食事が終わると、やはりいつものように彼は、アーニーの体を拭いてあげるのだった。
そんな日々が続くと、アーニーといる時間はとても幸せなのだが、一向に進展のない状況に、コウフは自室に戻ると疑問がすぐに渦巻いていた。
そして今日。とうとう彼は、同船する教授の部屋に、長らくぶりに訪れた。
「教授」
「……おお、君か、コウフ。久しぶりだな——ん、少し太ったんじゃないのか? それに息があがっているぞ」
教授の部屋は、ぐるりと船を反対側に回りこんだ位置にある。隣室のアーニーの部屋まででも息がやや乱れるのに、そこまでいけば当然息はあがってしまう。その様子に教授は、手で椅子を示し、彼をそこに座らせた。
「それで、なんのようだ?」
「ふぅー……一つ聞きたい。あんたたちは、何を企んでいるんだ? ここに来てから、アーニーにやるのは一日一回のわけのわからん診断。それ以外は、俺と二人でアーニーを幸せにしてやれとのことだけ」
「君が知る必要はないのだよ」
「だが、もうあれから一ヶ月になるぞ。アーニーは今じゃ、一人で動くのもままならない。そして俺は、もう後戻りは出来ないところまで来ちまった。だったら俺を、あんたらのグループの一員として、何か教えてもらってもいいんじゃないのか?」
「そうだな……簡潔に言うなら、神からのお告げさ」
「神からのお告げだと? 冗談だろ?」
「いいや。私には聞こえるのだ、神の声が」
「……分かった。ならそれが聞こえるとして、あんたらは何を考えてる?」
「不死の存在だ」
「不死だと? ハッ! 馬鹿馬鹿しい、何百、何千万年と前からそんな戯言を言う奴がいるが、誰も成功したやつはいないぞ」
「この宇宙が生まれてから、それと同じ年月分の人たちがそれを求めた。理論上は可能といいつつ、それは瞬間冷凍など、本当の不死とは言えないものばかりで、君の言うとおり成功者は今だのゼロだ。だがそれもそのはず、彼らは理論の上でしか、不死の考えをもたないからだ——しかし私は違う。神の言葉という形而上のお告げがあるからこそ、不死の存在を確実に探すことが出来るのだ」
「……それで、アーニーとその不死とは、どんな関係があるんだ?」
「あんたは気付かないのか? 今日の検査結果を見ると、彼はドルフィニアンの11倍もの体重がある。だが彼は、人の手を借りながらも自分で歩くことが出来る。不思議だとは思わないか?」
「確かに、それは凄いことかも知れない。だが宇宙中探せば、そういうことだってありうる」
「ではもう一つ——検査結果を見ると、彼の体は、飢餓の状態にある」
「き、飢餓だと?」
「そうだ。あれだけの体と食欲を持ってしても、彼の体には充分な栄養が行き渡らず、しかもそれらは排泄されるのではなく、脂肪として蓄えられているのだ」
「じゃあアーニーは、食事を止めると餓死するというのか? だが日に日に、アーニーの食欲は増しているぞ?」
「そうだ。彼の栄養吸収率は日に日に低下している、だから今の食欲も、生物の生きるための原始的行動なのだよ。しかもだ、アーニーはいたって健康だ。全てにおいて問題はない——まるで、子供の時から変わっていないのだ。つまりこれが、私たちが求める不死への道しるべなのだよ」
「だから、あんたはとにかくアーニーを満足させろと言ったのか」
「そうだ。何か不安要素などで、彼の食欲が低下したら、命を失いかねない。いくら体が健康的とはいえ、不可逆変化な生物の体は、一回のミスで取り返しがつかなくなるかも知れないからな」
「……俺は、いつまでこうしてればいいんだ?」
「アーニーが亡くなるまでだ。だがその前に、あんたの命が尽きるかも知れないがな」
「そうなったらどうする? あんただって同じだろ、誰が面倒を見るんだ? それに、アーニーがこのまま太り続けるとしたら、あの広い部屋でもあっという間にいっぱいになるぞ」
「そのために、私は新惑星を用意したのだ」
すると教授が、いきなり部屋内のモニターの電源をいれた。すると彼の向かい側の壁に、映像が映し出された。
そこには、未知の惑星が映っていた。
「これが、私たちの発見した新惑星だ。惑星クレイザーよりも何倍を大きく、環境も申し分ない」
「ちょっと待て。なぜあんたはこんなことを? 新惑星を発見したら、それで大金が出るじゃないか。それで不死の研究でも出来たんじゃないのか、何故連盟に言わなかった?」
「神のお言葉があったからさ。それに、私の財力をなめてもらっちゃあ困るな。これでも調査宇宙船クレイザーを立ち上げた身なのだからな」
突然の教授の言葉に、コウフは言葉を失った。まさか、そんなと。もしそうなら、二代目船長としてコウフは、彼の存在を知っていなければならないからだ。
「……いや、俺は二代目船長だったが、お前のことは知らないぞ」
「まあ亡きアーニーと同じ、目立たない役柄だったし、私はあんたよりも若かったからな。だが、名前と姿をがあれば思い出すだろ」
そして教授は、得意の白衣をバッと脱いだ。
特徴的な、右肩から左脇にかけての大きな切り傷の跡がある、中年のシャーカンだ。
「——! ウィスフィか?」
「ああそうだ」
「お前、確かあの時は……」
「そうだ。今のあんたほどじゃあないが、随分と丸かったな。だが体型など時を経れば大分変わるもの。私だってあんたをピザ屋で見たときは、大層おどろいたよ。あんな長身でスリムなあんたが、まさかこんな
肉叢 になっていたなんてな」「おい、言葉には気をつけろよ」
「なんだよ、今更年功序列制度を導入か? いいか、あんたは囚われの身でもあるんだ、それを忘れないでくれよ」
コウフは、それ以上言い返せなかった。宇宙船クレイザーでは先輩とはいえ、年齢的には後輩。だが彼の手の中には、大事な娘カドルの存在がある。反抗は出来なかった。
やがて、宇宙船は長い旅を終え、ようやく未知の新惑星へと到着した。
「ふん……やはり、関係がなかったか」
「そのようですね。単なる脳内にアメーバが入っただけで、それが脳細胞を食い尽くす——前々からある病気の一種ですよ」
「奴らが動いたから私たちもと思ったが。やはり頭のいかれたあいつらの追っても碌な事がないな。我ながら愚かなことをした」
「仕方がありませんよ。不死に執着してしまうのは、知的生物の究極の欲求なのですから。で、遺体はどうします?」
「適当に処分しておけ」
「畏まりました。それでは芥惑星に捨てておきます」