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調査宇宙船 ネオクレイザー Neo-Hcraeser

惑星クレイザー Planet Hcraeser

F 中年オルカン Middle Age Orcan 自分 パル Pal

M ドルフィニアン Dolphinian 僕 アーニー Earny

M 熟年フォールスオルカン Middle Age False Orcan 俺 コウフ Cofe

F ホエリアン Whalian 私 カドル Kador

M フィンレスポーポィスン Finless Porpoisen 俺 ディープ Deep

万能機器

スィワー Sewer

母宇宙連盟


 アーニーが誘拐されたとして、その手掛かりを追う警察。だが、縦も横も体の大きなコウフはやはり目立っていたようで、特に、近隣では有名なあの超肥満体のアーニーもいたことから、すぐに目撃情報は挙がった。

「それで、アーニーはどこにいるんですか……?」

 パルは、完全に焦燥し切っていた。

「まだ分かりません。しかし、宇宙船の情報は宇宙港に登録されていたので、それに合うものを今から追跡します」

「なら、自分も連れていって!」

「奥さん、心配要らないですよ。宇宙船さえ分かれば、あとは追うだけですから」

「嫌よ。大事な息子なのよ?」

「ですがねえ……何か危険があるかも知れませんよ」

「だったら尚更よ! あの子を危険になんか晒させるもんですか!」

 もはやパルを止められるものはいなかった。女性とはいえ、その強靭な肉体は性別など問わないほど威圧的なのだ。

「わ、分かりました。それじゃあ明日、宇宙港に来て下さい」

 こうしてパルは、荷支度をし、色々と大量の荷物——その大半がアーニー用の服だったり好物の保存食なのだが——を、まるで遠い昔の商人のように、背負いーの両手に持ちーの肩にかけーので、車に乗り込み宇宙港へ向かった。幸いにもアーニーのために作った特大車なので、彼女の持ち込んだ荷物はしっかりと全部載った。そして勿論、宇宙港で待機していた警察たちが、彼女の荷物に腰を抜かしそうになったのは言うまでもない。そしてそれを全て自分で持ち運ぶ強悍な彼女に、彼らは揉め事だけは避けようと誓ったに違いない。

「ねえ、おじさん? まだ着かないの?」

 アーニー専用の特別広い個室で、大好きなパイナップルピザをコウフに作ってもらい、それを食べながら彼に言った。

「悪いな。どうやら入るスィワーを間違えたらしく、かなり遠回りになるらしいんだ」

「うーん……」

「どうした? どこか悪いのか?」

「ううん。ただ、ママが大丈夫かなあって」

「大丈夫さ。パルには俺が付いてるっていってあるから、安心してるはずだ——それ、おかわりだ」

 コウフは、パイナップルピザの四枚目を専用レンジ数秒で作り、無くなったピザの空箱と交換した。

「ありがとうおじさん。おじさんは食べないの?」

「さっき、ピザを1枚食ったから大丈夫だ」

 するとアーニーは、首をかしげた。

「でもおじさん、いつもは何枚も食べてるじゃん。今日は体調が悪いの?」

「……いや、大丈夫だ」とコウフは、言葉を濁した。今でも、自分がしたことの善悪で悩んでいたのだ。

「じゃあ食べようよ。一人で食べててもおもしろくないもの」

「そう……だな。よし、それじゃあ俺も食うかな」

 彼は、アーニーと一緒に食事を始めた。すると不思議と、心の中のうやむやがそれで忘れられた。そういえば、娘のカドルがいないことの寂しさを紛らわすように、いつも暇な時はピザを食べてたっけな、と彼は思い出した。

 少しして、大食いの二人がいれば、あっという間にピザの一枚などなくなってしまう。コウフは新たに二枚のピザを追加した。

「あはは、やっぱりおじさん、お腹空いてたんじゃん」

「はは、どうやらそうらしいな」

 アーニーといることで、楽しくなり、気持ちが楽になった。コウフは、いつものように、アーニーには到底及ばないものの、ばくばくとピザを食べ始めた。そうだ、これで良いんだと思いながらでいると、自然と食欲も元に戻った。カドルがいない今、それの代役はこの子なんだと。

 半月後のとある調査宇宙船。カドルは、募集で初めてそこに集まった時、驚いた。そして彼女に周りが驚かされた。というのも、体重制限が消えたとは言え、やはりそれなりの体型であるのが船員。少し丸みを帯びていても良いかも知れないが、しかし彼女は、ホエリアンとは言え通常の三倍近くも体が大きかったのだ。

 カドルは、一般よりも五倍ほど大きなフォールスオルカンの父を持つだけでなく、住んでいた周りの人たちも大柄なのが多かった。定住地域ということだけあって、最後の自由な暮らしに、自然と体が脹よかになってしまうからだ。

 しかしここは、そことは違う、まだまだ活気に溢れてる地区。カドルは集まった中で、男女問わず一番の巨躯だった。

「それにしても、本当にあの時はびっくりしたよな」

 カドルと一緒に、食堂で同僚達の食事を準備する男のフィンレスポーポィスン、ディープが言った。元々体の小さい種族のため、彼女と並ぶと成長ホルモンの異常があったかのように見えてしまう。だがそれでも、ディープは立派な大人で彼女と同い年だ。

「でも、私もびっくりしたわ。全員あんなに細いなんて」

「うは、カドルが住む住民たちからは、俺達はそういう風に見えてるのか。でもこれが普通なのさ」

「いい勉強になるわ。やっぱりここに来て良かった」

「俺もだ。君みたいな豊満な海洋族は初めて見たからな」

 そうこういっているうちに、食事の準備が伴い、それを見計らったかのように、他の船員達が食堂に集まってきた。初めはここにいる全員(ディープも含めて)カドルを興味津々に見ていたが、もう見慣れて、今ではその体型も気にもとめなくなった。でも彼女の食欲には、未だ驚かされる者が多かった。ピザ一枚でも、海洋族仕様で大人二人分だ。それを二枚も食べてしまう女性なんて、一生に見ることはないこともありうる。

 しばらくして、食事を終えて再び作業に戻ると、とうとう目的地がブリッジから見えて来た。着陸の準備が始まり、操作者だけでなく他の船員も、そこに集まって席に着いた。カドルだけは特別、二人分の席を一人で占領していた。

「あそこが惑星クレイザーね」

「そうらしいな。何百、何千年、いや、それ以上か。見つからなかった新惑星を発見したクレイザーは英雄だ——そういえば君の父親も、クレイザーの船員だったとか言ってたな」

「ええ。正確には二代目船長よ」

「船長だって!? おいおい、聞いてなかったぞ」

「聞かれなかったから」

「なんだよ、水臭いなあ。でも、もしこの調査が終わって一時帰還した時は、是非とも会わせてくれよ。君の住んでる地域を見てみたいし、さぞかし父親は立派なんだろうな」

「立派なのはお腹だけよ」

「はは、やっぱりそうなのか」

「昔の父さんは、身長が高くて、今の船長みたいに普通の体型だったらしいけど、今じゃ太り過ぎで歩くのに苦労してるのよ」

「へ、へえ……本当に、凄い場所なんだな。だから君も、そんな福々しい体つきなるんだな」

「太ってる、でしょ。ここでは」

「まっ、そうだな」

 それから宇宙船は、着陸態勢に入り、ついに彼女達は惑星クレイザーに到着した。そこには、小さな宇宙港が作られてる意外、昔そのままの環境が残っていた。これは母宇宙連盟の規約にある新惑星の自然保護法によるもので、交通に必要な宇宙港以外には、充分な調査を終えるまでは作ってはならないことになっている。そうしておけば、不便さから放浪者の進入も防げるという狙いもある。

 カドルたちは、宇宙港に降り立つと、そこから専用の小型船に乗り込み、この惑星唯一の水源である湖へと向かった。そこを潜り、そして、噂に聞く何億年前の建物がある場所とは反対側の水路を進んだ。

 のちのちの調査で、その先の底部に、地震か何かで岩に埋もれていた、もう一つの洞窟と、そして建物が見つかったのだ。それはつい最近の話で、ここを調査するのは、第一発見者が報告してから初めてだった。

「パルさん、少しここで宇宙船の燃料補給に入ります」と、パルの護衛にあたることになった警官が言った。

「なんですって? 早くしないと、宇宙船を見失うわ!」

「大丈夫です。他の母宇宙連盟の惑星からの情報で、例の宇宙船の軌跡はある程度見当が付いています」

「そう……」

「……パルさん。息子を心配する気持ちは分かりますが、少し外の空気を吸って気分転換してはどうですか? あと一時間は出発しませんから」

 パルは、警官の言うことも一理あると頷き、彼と一緒に外へと出た。

 寄り道した惑星は、鳥族たちの住むところであった。ゆえに体も、羽毛でふっくらしているように見えるが、実際は全員細めである。そのため、パルのずんぐりむっくりな体型は、とても良く目立った。

 しかし、連盟に加盟している惑星には、衣食住の共通性を持たせる規律がある。そのため、彼女の今着ている、明らかに鳥族たちには無縁のサイズや海洋族用の料理は、特に宇宙港の周辺には、専用の連盟マークをつけてたくさん立っている。

 そんな街路を歩きながら、彼女はとある木造の店に目が釘付けにあった。

「あら、鳥族のパスタって、一度食べて見たかったのよ。アーニーが美味いから一度食ってみろって、言ってたわ」

「え、息子さんがですか?」

「……いえ、夫の方です」

 彼女は、再び過去の失態を思い返してしまった。過ぎたこととは言え、あの時の後悔は完全には拭えていない。そして今、授かった息子も助けられずにいる——

「大丈夫ですか?」と、警官が心配して彼女の顔を覗き込んだ。

「……ごめんなさい、何でもないわ。それじゃあここで食事をしましょ」

「でもここ、連盟マークがついてませんよ。入り口も狭いですし」

「それは何、自分が太りすぎて入れないっていうの?」

 かなり鋭い目つきで睨まれたため、警官は否定できなかった。

 彼女は、その店に向かった。テラスもあったのだが、生憎そこは満席で、中に入るしかなかった。しかし明らかに体は入らず、しかも鳥族専用の店だったので、彼女はテラスと中で食事をしていた人の注目を浴びた。

 案の定、彼女は体を捻って腕から体を入れたりし、どうにか両肩を入れたものの、体の肉が大きく挟まっていた。こんな珍客に、他の客ならず店員たちまでも、くすくすと笑い出した。

 パルは、むっとし、そして「ふん!」と勢い良く、脂肪たっぷりの筋肉質な体を強引に中へと押し込んだ。すると、両脇の木製の板が「ばきばきん!」と豪快に折れ、それがどすんと床に落ちた。この馬鹿力に、鳥族たちはすっと顔色を変えた。

「入り口が狭いのが悪いのよ」と彼女は言って、空いていた六人用の席に着いた。彼女は、海洋族仕様ではない椅子を三つにならべ、そこにどすんと腰を下ろした。警官もそのあとに続いて、向かいの席におそるおそる座った。

「あの、パルさん……幾らなんでも、やりすぎじゃないですか」

「ごめんなさい、ついむっとしちゃって。でも、ここのパスタがどうしても食べたかったの」

 その時、彼女の元に、おずおずとウェイターが近づいて来た。さっきの出来事で、かなり萎縮してしまっていた。

「あ、あの……ご注文は?」

「パスタ、五キロお願いできる?」

「ご、五キロですか?」

 規格外の量に、店員は驚いた。鳥族と海洋族との間にはそもそもの大差がある。だが五キロは、普通の海洋族でもありえない。しかもここは、連盟マークのつけていないお店なのだ。

「ええそうよ。出来るかしら?」

「その……なんとか、やって見ます」

 本当なら断りたいのだろうが、怯えているようで、ウェイターは警官の方にさっと目を向けた。

「俺は、コーラで」

 そしてウェイターは足早に厨房へと入った。

 それからすぐ、コーラがやって来たが、パスタは、少し時間がかかってから運ばれて来た。こぼさないよう慎重になっているのか、店員二人がかりで皿を運び、パルの目の前にどすんと置いた。

 彼女は、やってきたパスタを一口頬張った。独特の薬味、そして鼻から抜けるハーブの香りに、彼女はうっとりした。海洋星でも、他国同士ではやや味が異なる。だが異星、特に異種族間では、その違いが謙虚に出る。中には体質的に食べられないものもある。だがどうやら、鳥族のパスタは海洋族にも受けがいいようだ。

 ふと、彼女は昔の夫アーニーのことを再び思い出した。彼のことを、当時彼女は太っていると言っていたが、今彼が自分の姿を見たら、どれほど太り過ぎに見えるだろうか。

 彼女は、あれこれ考えながら黙々と食べ続け、五キロのパスタを難なく食べ切った。周りの鳥族たちは、まるで大食い大会でも見るような目つきで、彼女を見世物のように傍観していた。

 食事を終えた彼女は、ゆっくりと腰を持ち上げ、会計に向かった。

「扉を壊して、ごめんなさいね。弁償ならするわ」

「いえ、それは大丈夫です。私たちも、不謹慎なことをして申し訳ありません」

「いいのよ。でも、美味しかったわ。ありがとう」

 そして彼女と警官は、宇宙船に戻り、アーニーを攫った宇宙船の追跡を再開した。

「ふぅ……」

 コウフは少し疲れていた。というのも、いつもカウンターを支えに立ち上がったりと、とにかく年齢と重過ぎる体が身体に響いていたのに、ここに来てからは、動くことも殆どしないため、その問題が徐々に悪化していた。

 彼は自室を出ると、隣室のアーニーの部屋に入った。この時点で、息も乱れ始める。

「おじさん、なんだか疲れてるね」

「いや、大丈夫さ……それにしても、今日も良く食べるな」

「うん。だってやることがないんだもの」

 確かにと、コウフは頷いた。彼は一応まだ学生だ。学校への送りはパルがしていたが、帰りは彼自身で徒歩で帰る。ピザ屋に寄りたいというのもあるが、パルが夕食の準備に大変だからだ。それが今、コウフと同じくして、彼も宇宙船に閉じこもりきり。しかもアーニーの場合は、彼のように自室から出ることもないのだ。

 コウフは、アーニーの向かいの席にどすんと腰を下ろし、何度か深呼吸した。

「アーニーは、疲れないのか?」

「今は大丈夫。でも、お風呂は大変だよ。けどおじさんがいてくれるおかげで助かる」

 重い上、自力でまともに洗えないほどのアーニーの巨体は、いつもなら母親のパルが手伝っているのだが、今はコウフが代替しているのだ。しかしコウフも、パルとは違って単なる脂肪太りになりはてているので、その作業は用意ではない。だが彼は、アーニーのことになると、自然と疲れを忘れてしまうのだ。

 アーニーが、万能機器で宇宙船内部のどこかに連絡をした。

「ホットドッグを十本頂戴」

 すると一分もしないうちに、壁からすっとロボットアームが伸び、注文したものを彼のテーブルに置いた。実は厨房が隣なので、このように注文した食事がすぐに用意されるのだ。しかしながら、ここまでアーニーを悠々自適にさせることに、コウフは有耶無耶としていた。一体あの教授たちは何を考えているのか——そしてどこに向かおうとしているのか。だが、アーニーを満足させてくれればそれで良いという条件に、彼は安堵もしているのだ。この孫のように可愛く、そして真ん丸なドルフィニアンに拷問などは出来ない。今この時のように、ピザ屋で祝福のひと時を味わうのと同じアーニーの満月のように丸い笑顔が、コウフには幸せこの上ないのだ。だが少し考えれば、逆にそれが不安因子でもあったりし、彼の気持ちは時折現れる罪悪感とともに渾然としていた。

「おじさんも、一緒に食べようよ」

 アーニーの誘いに、コウフはふっと現実に戻り、笑顔で答えた。

「あ、ああ。そうだな」

 コウフは、海洋星サイズのホットドッグを一本手に取り、それを頬張った。すると、カドルがいない淋しさをピザで紛らわした時と同じようにして、体内のネガティブな感情が食べ物によって埋まり始めた。

「……うん、美味い! これならあっという間になくなりそうだな」

「だったらまた追加すればいいよ」

 こうして、宇宙船の個室内で、二人の平和な一日がまた過ぎた。


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