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クレイザー Hcraeser

惑星クレイザー Planet Hcraeser

Mシャーカン 私 船長ヴィロック Captain Veloc

Fホエリアン わたし 操作者レンズ Operator Lens

Fオルカン 自分 船員パル Crew Pal


「あれから一月か……二人は大丈夫だろうか」

「少なくとも、パルは大丈夫でしょう。しかしアーニーはどうでしょうか……」

 ヴィロックとレンズは、ブリッジからあの未確認惑星——名前は発見者がつけられるため、彼はここを惑星クレイザーと名付けた——を眺めた。彼らの乗る宇宙船クレイザーの後ろでは、巨大な宇宙船が一隻と一艘おり、それぞれ母宇宙連盟の船と護衛艦だ。今回は発見者が全員海洋族ということで、新惑星の環境も考慮し、全員海洋族だ。

 未確認惑星改め惑星クレイザーに降り立った一隻と二艘。しかしあの湖には、自然を破壊しない方法では着陸出来る場所がないので、クレイザーが初めてこの地を踏んだ時と同じ場所に着陸し、そこから小型船に乗り換えていった。

 湖に着くと、連盟の関係者と調査隊と医療部隊だけがついてきて、少数部隊でそこをもぐって、あの場所へと向かった。洞窟に入ると、連盟の人たちは唖然とした。こんな場所が推測で十億年前に存在し、しかもあんなピラミッド型の建物があるとはと。

 中に入ると、事前にヴィロックとレンズから話を聞いていた連盟の人たちは、関係者が4番のメインと思しき研究区画へ、そして調査隊は1番と6番と左右から4番へと周り込む形で内部調査を開始し、そして医療部隊は、一部が医療区画で、この文明の医療レベルを見て、残りはヴィロックたちとともに、パルと幽閉したアーニーがいる彼の部屋へと向かった。

 部屋の前に着くと、そこには誰もいなかった。本当ならパルがそこにいて、中のアーニーを見張っているはずだが——トイレにでもいったのだろうか。

「とにかく、中に入ろう」

 ヴィロックが、先に部屋の中に入った。

 そこには、少し背中が丸みを帯びたような、そんなオルカンと、そしてその向こうに、痩せてぐったりとし、腐臭を感じるドルフィニアンが横たわっていた。

「パル?」

 ヴィロックが、オルカンの前に回りこんだ。するとそこには、黙々と弁当をむさぼる、パルの姿があった。やはり、この一ヶ月の間で、見違えるほど太ってしまっていた。いや、ここに初めて来た当初から、アーニーの残す弁当を彼女が食べていたため、太り始めはその時からか——だがどちらにせよ、彼女の体は、昔のアーニーのように、全身にいい感じに肉が付き、オルカンとしては悪くもない体型だが、お腹が見事な太鼓腹になっていたのだ。

「パル!」

 ヴィロックの大声で、ようやくはっとしたパルは、弁当を食べる手を止めた。見ると周りには、複数の空箱が落ちていた。

「パル……お前まさか、朝食にこれ全部食ったのか?」

「……すみません、船長……自分……」

「どうしたのか、言ってみろ」

 少なくとも、アーニーが息絶えていたのは目に見えていた。やって来た医療部隊の一班が、彼を回収にかかっていたからだ。そんな中パルは、あの彼が亡くなった日のことを語った。

「なるほど。だからお前は、罪悪感に駆られたってわけか」

「だって、自分があんなことをしなければ……アーニーは、生きていたかも知れないのに——」

「心配するな。普通の人なら誰だってそうするさ。私だって、同じことをしただろう。君のせいじゃない」

「船長……」

「とにかく、母星に帰ろう。もう一人で寂しくもないし、アーニーだって家に帰れるんだ」

 パルは、ゆっくりと立ち上がった。そしてヴィロックとレンズ、そして残った医療一班とともに、部屋を抜け出た。

「あっ……」とパルが、ふと後ろを振り返った。

「どうしたパル?」

 パルは、じっと、背後にある食料庫に目を向けていた。

「まさか、まだ食い足りないのか?」

「い、いえ……でも……アーニーの分も持っていかなきゃ」

 相当精神面も辛かったのであろう。ヴィロックは、彼女を哀れみ、反論はしなかった。

「よし、それじゃあもてるだけ持っていこう。私たちも手伝う」

「ありがとうございます、船長……」

 ヴィロックとレンズは、パルとともに、食料庫からもてるだけの食料を持った。医療班も手伝ったおかげで、計十箱もの食料を持ち運ぶことが出来た。

 それから湖を出て、ヴィロックの小型船に医療班も含めて乗り込んだ一行は、その後一緒にクレイザーに乗船し、そのまま母星へと帰還した。幸いにも元々船員が少なかったため、パルたちを視診する医療班が同行しても問題はなかった。そしてその間、パルは、最後の思い出として、アーニーのために弁当を黙々と食べ続けた。そしてその日のうちに、持って来た弁当を全て平らげてしまった。

 弁当がなくなると、ぽっかりと心に穴があいたかのように、彼女はしばらくぼうっとしてしまった。だが帰還までの長い空き時間のおかげで、彼女の心は徐々に落ち着き、どうにか自意識を取り戻した。

 半月が経ち、ついにクレイザーの乗組員たちは、母星である海洋星へと辿り着いた。船渠にクレイザーをいれ、特殊なレーザー網で舫うと、床に下ろしたタラップから、まず医療班が、アーニーを収めて密封した棺桶をもって降りていった。そして次にヴィロックとレンズ、そしてその後ろから、ゆっくりとパルが、タラップを降りた。一ヶ月も食ってばかりの生活だったため、少し増えた体重も相俟ちつつ、彼女の運動機能もやや衰えてしまったようだ。

「それにしてもパル、いくら食べ続けていたとはいえ、少し太り過ぎじゃないのか?」

「そう、ですか? 確かに体は重いですけど……でもオルカンとしては、まあ問題はないですよ」

「だが、一ヶ月でそれはなかなかだぞ。一度検査を受けたらどうだ? こんなことを言うのも悪いが、お前が一番アーニーと寄り添っていたわけだし、少なからず彼から何かを貰っている可能性もあるからな」

「アーニー……」

「パル、大丈夫か?」

 パルは、ゆっくりと頷いた。

「私も一緒に行く。だから、病院へ行こう」

「……はい、船長」

「それじゃあレンズ、クレイザーを頼んだぞ」

「分かりました」

 レンズは、クレイザーのタラップをしまい、そして電源をおろすなど、最後の調整を行ない、それを背中にヴィロックとパルは、その足で病院へと向かった。

 病院に着くと、未知の病気の患者と共にいたことで、一般人と共有しない裏口から中へと入った。そして連盟の専属医師に、レンズの診療を行なってもらった。感染検査、血液検査、精神検査、内部検査。あらゆる検査が終わると、専属医師の個室に呼ばれ、ヴィロックとレンズは中に入った。

「お疲れ様。検査は終わって、結果が出ましたよ」

「それで、どうでした?」とヴィロックが、真っ先に尋ねた。何よりやはり、船長である彼が、船員のパルを一番に心配していたのだ。

「色々と話に聞いてましたが、やはり少し、神経が磨り減ったのか、精神面が不安定気味ですね。ですがそれほど悪くはないので、少しの間休暇でも取れば、問題はないですよ——それに、新しい惑星を発見したんですってね? それならかなりの大金も入ることでしょうから、のんびりと療養するのも悪くはないでしょう」

「なるほど……それで、他の検査はどうですか?」

「とりあえず、感染も血液検査も問題はないですね。ただ少し、血液の方には平均値よりも高い値が出ました」

「やっぱり、あれは食べ過ぎよね……」とパルも、少しは反省しているようだ。どうやら今では、あの時自分が行なった行動を、冷静に見つめなおせるようになったようだ。

「まあ、それもありますが、それは仕方がないですよ」

「仕方がない?」とヴィロックが聞き返しました。すると医師は、なぜかにんまりと笑ったのです。

「おめでたですよ」

「お、おめでた?」

「通常よりも大きめですが、きっと遺伝子を継いだのでしょう。とにかく、詳しい検査はまた明日しましょう」

 医師が一人嬉しそうにしていたが、残りの二人は、まだ状況が飲み込めずキョトンとしていた。

 それから、翌日の検査で、やっとパルは理解した。そう、おめでた——妊娠なのだ。そして遺伝子で親子検査を行ない、その結果表が彼女に手渡された。その用紙を、彼女は病院の表口に出て、そこにある柱の影で静かに開いた。

「……自分と、アーニー……」

 パルは、その場で跪いた。そして、結果表を胸に抱きかかえると、すすり泣いた。

 どんどんとお腹が膨れて行くパル。それにつれ、食欲も少しずつ増した。そしてついに、子供を産む時になると、医師が言っていたように、通常よりも大きめの赤ん坊のため、かなりの難産となった。

 しかし、長丁場の奮闘を終え、どうにか産み終えると、意識が朦朧とする中、彼女は笑顔で、産まれたたての赤子をその(=まなこ)で見た。ドルフィニアンの、通常よりも倍近く、オルカンよりも大きめな男の子が元気良く産声をあげていた。

「アーニー……」

 掠れた声で、パルが囁いた。もう名前は決まっていたのだ。


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