普通Mシャーカン 私 船長ヴィロック Captain Veloc
普通Fホエリアン わたし 操作者レンズ Operator Lens
太いMドルフィニアン 俺 船員アーニー Crew Earny
細いFオルカン 自分 船員パル Crew Pal
謎のピラミッド型施設内には、4番の巨大コンピュータに加え、3番と5番の研究区画にそれぞれある二台のコンピュータがあり、その厖大なデータベースに、調査はかなりの時間がかかった。ヴィロックとレンズがデータベースを検査し、残りのアーニーとパルは、得意な機械内部の調査にあたっているが、目ぼしい情報は得られなかった。
確かに、あらゆる研究結果や実験の日記、被験者の状態を記したものなど、何万、何十万年という長い年月分のデータが蓄積されているのだが、まるで意図的に消されたかのように、真意を貫く決定的な内容が欠けていたのだ。つまり「だれだれがなになにの状態になり」や「今回の実験に○○の薬品を投入した結果〜になった」など、明らかに実験の本心をひた隠そうにしているのだ。そしてどうしても答えを導く固有名詞が出そうな部分は、スペース文字で全て消されているのだ。
機械内部も同様だった。コンピュータのゴミ箱を消しても、コンピュータには内部的にデータが保持される。なので、うっかりデータを消しても、再びデータを蘇らす事が可能なのだが、なぜか機械内部の、8進数のこれまた厖大なデータの中には、一つも前述のような固有名詞は登場しない。あるのは、実験結果を記した値とデータのみ、それと関係のない言葉だけだったのだ。
そして今日も、良い結果が見つからないまま、四人はロビーで昼食を取っていた。
「はあ、まったく、こんなにデータがあったら、一生のうちに調査は終わらないわね」とレンズも、ほとほと呆れ気味だ。
「そうだな。せめて表面のデータだけでもとったら、あとは母宇宙連盟に任せようか」
「自分も同感です、船長。やはり四人でやるには無理があり過ぎます——それに、自分たちがこの惑星を見つけただけでも充分じゃないですか」とパル。
「うへ、そりゃあ悲しいな。せっかくの飯が食えなくなっちまう」
「なあに言ってんのよアーニー。今のあんたはそんなに食べてないじゃない」
「ははは、そりゃそうか」
見るとアーニーの弁当は、少しだけおかずが残っていた。それを、もう満腹なのか、突っついたりして弄んでいた。その変化の甲斐あってか、少しずつ、アーニーの立派な太鼓腹は、引っ込んでいった。
「全く、食べないなら、自分が食べるわよ」そういってパルが、少しだけ残った彼の弁当を、代わりに食べてあげた。
そして全員が、昼食を終えると、再び調査へと戻った。
段々と、表面のデータを解析し終える彼ら。そしてそれに伴って、不思議とアーニーの体重も減っていった。一日中調査にあけくれて疲れているのか、とにかく彼のためには良いと、周りの誰もが、初めは思っていた。
しかし一ヶ月が経った時のことだ。
「……あはは、もう食えないや」
アーニーは、弁当を半分残し、その容器を前へ押しやった。
「もう、最近どうしちゃったのよアーニー」とパルも、渋々その残りの半分を平らげる。
「良し、それじゃあ調査を再開しようか」とヴィロックが言って、再びそれぞれの場所で調査を始めた。
パルとアーニーは、5番の研究区画の、一番奥で調査をしていた。そろそろその調査も大詰めを迎えていた。
「へへ、アーニー、もう少しで終わりだな。いつになったら帰れるかなぁ?」
「そんなに早く帰りたいの? ここに来た当初は、鱈腹飯が食えるって喜んでたじゃない」
「あはは、そうだったか? 俺も、すっかりぼけちまったのかなあ?」
「ねえアーニー。その不気味な笑いと語尾を間延びさせるの、気持ち悪いから止めてよ」
「ひゃ、悪い悪い」
最近のアーニーは、何かおかしい。パルはそう思った。だが一度、簡易医療キットを用いたが、特別問題があるわけでもなかった——勿論脳もだ。しかし細かい部分までそれでは分からないため、彼女の本心としては、一刻も早く母星に戻って、彼に治療を受けさせたかった。
しかし、時は来てしまった。奇しくも、調査をあと一週間で終わらせようとしていたときだ。
昼食時、アーニー以外、大人しくなっていた。
「どうしたんだよみんなあ、だんまりしちゃってさあ。確かによぉ、話すほどの調査結果がないとは言っても、何かはなそうぜ、うへへあはは」
「おい、アーニー。お前、本当に大丈夫なのか?」
「船長ー、大丈夫ですってえ。何ってるんですか、俺は普通ですよぉ」
ヴィロックは何も返さず、周りもだんまりした。静かな、食事の音だけがなるロビー。それは不気味なほどであった。
「……あは、うへへ、へ、あは、へはははははうへへは!」
「アーニー!」
ヴィロックの一喝で、アーニーが黙っていれば、まだ救いようはあったが、アーニーは、
「船長ぅ、どうしたんですか、そんなに怒ってさあ〜」
「お前、今日は仕事を休め。やつれてるぞ」
確かにアーニーの体は、確実に痩せていた。太鼓腹も引っ込み、それはそれでよかった。だが彼のダイエットは、際限なく続いていた。今では〝昔〟のパル並みにまで、痩せてしまっていた。
「大丈夫ですってえ、船長お」
「とにかく休め。それがお前のために丁度良い」
その時だった。突如アーニーが、ばんとテーブルを叩いて立ち上がったのだ。その反動で、殆ど残していた彼の弁当の中身が、宙に舞った。
「大丈夫だ! 俺は大丈夫だっつってんだろぉお!」
「お、落ち着いてアーニー!」とレンズが、彼を座らせようとしたが、思い切り彼がその腕を振り解こうとし、彼女はバランスを崩して尻餅を着いた。
これが決定的だった。ヴィロックが、咄嗟に彼に飛び掛かり、彼を倒してのしかかった。昔とは違い、体重の軽くなっていた相手だったので、船長にも余裕でアーニーを倒せた。
「……へへ、うへへはははへへうははへあはへへ!」
もうアーニーが、飛んでしまっているのは目に見えていた。起き上がったレンズとパルも参加し、どうにか狂乱したアーニーを押さえつけると、彼の両手足を縛り、自室へと送り込んだ。これで中からは、パネルを操作できないので出られない。だが運良く、投函口からは保存食の弁当を入れることが出来るので、餓死させる心配はない。
「せんちょうう、俺が悪かったって、だからさ、あは、出してくれよぉ」
「パル、お前はここでアーニーを見張ってろ、絶対に出すんじゃないぞ」
「はい船長」
しかと答えたものの、少し落ち込み気味のパル。今までずっと、数少ない同じ船員として頑張ってきていただけに、複雑な気持ちになっているのだ。
その様子を見て、ヴィロックはとうとう、こう切り出した。
「このままでは、危ないかもしれない。一旦ここを去り、あとのことは母宇宙連盟に任せよう」
「そうですね。アーニーも、早く治療してあげないと——わたしたちだけじゃ無理ですし」
「そうだなレンズ……それじゃあパル、君はここに残って、アーニーを見張っていてくれ。幸いにもまだ食料庫には有り余るほどの食料が残っている。ここで過ごす分には苦労しないだろう」
「分かりました。あとは自分にお任せください」
「ああ、頼んだぞ」
そしてヴィロックとレンズは、パルに別れを告げると、足早にこの建物をあとにした。そして洞窟内にある溜まり池に潜るとそこから下へと上へと潜水し、地上から宇宙船クレイザーに乗り込んだ。通信が可能となる場所までは、スィワーを抜けてしばらく航行せねばならず、半月は要してしまう。つまり未確認惑星に援護が行くまでは、最低でも一ヶ月かかり、それまでにアーニーが持ちこたえてくれと、二人は心底祈り続けた。