普通Mシャーカン 私 船長ヴィロック Captain Veloc
普通Fホエリアン わたし 操作者レンズ Operator Lens
太いMドルフィニアン 俺 船員アーニー Crew Earny
細いFオルカン 自分 船員パル Crew Pal
母宇宙 Mother Space 8進数 連盟
ロビーの中心が、どうやらこのピラミッド式建造物の中央らしい。そしてそこから、放射線状に8本の道があり、入り口を0として、時計回りに1、2、3と、7までの番号が振られていた。四人は、二手に分かれ、左から1、2、3と、そして、右から7、6、5と調査をした。そして4番の道で合流し、結果を話し合った。
まずは、左から調べたヴィロックが語った。
「1番はまず、医療区画だった。2番は居住区域だが、全部で4つの部屋があり、食料庫もあったが、そのどれもがでかかった——どうやらここには、私たちのような海洋族が暮らしていたのかもしれないな」
「俺もそう思う。そう考えれば、水中を経由して行く道も納得出来るな」とアーニー。
次に、レンズが語り始めた。
「そして3番が、会議室を含めた研究区画よ。機械は、当時のものとしてはかなりの最先端だったわ。けど色々な薬品があったけど、どれも母宇宙連盟言語で書かれている割には、わたしの知らない薬品も多かったわ」
「自分達が探したところも一緒でした。0と4のラインを境に対称的だったわ」とパル。
「となると、最後は4番だけか」
ヴィロックはそう言って、4番の通路を見た。今までとは違い、そこだけなぜか、真っ黒く塗られた通路だったのだ。明らかに、他の奇麗で潔白な通路とは違う。
「何があるのでしょうか?」
「分からないな。ただレンズ、注意はしておけよ」
そしてヴィロックが先頭に立ち、4番の通路を進んだ。奥に行くにつれ、黒い通路は暗くなっていき、不安も増した。やがて先には、巨大な扉が立ちはだかった。他のところは、どこも共通の規定の扉であったが、ここは入り口と同様、それらより縦も横も倍近くはあった。その扉には、あのパネルも設置されていた。
「アーニー、パル、いけるか?」
二人は頷いて、入り口と同様の手口で容易に扉をあけた。当時として技術が進歩していた建物も、十億年経った今では、簡単な仕組みでしかなかったのだ。
扉が開いた。中の明かりがパッと開いた。だだっぴろい部屋、あらゆる機材があり、ここも研究施設のようだが、通路と同じく、全てが黒く塗り潰された内装であった。だが何よりも目を引いたのは、中央に聳える、巨大なカプセルだった。アーニーが何十人も入れそうな大きさで、中身は空だが、何かを収容していたのか、管や配線が上からだらりと垂れ下がり、水の喫水線も僅かに残っていた。
「ここは、何を研究していたんだ?」
「分かりません、船長。ただここを見る限り、あまり合法的ではないのかも知れません」
レンズの言葉に、ヴィロックは彼女に目を向けた。
「あくまで仮定なのですが、もしかしてこの惑星は、既に誰かに発見されていたのでは?」
「十億年前にか?」
「半無限の宇宙では、ある惑星を見つけるのに何十億年とかかってもおかしくはありません」
「だが、どうしてここには生命体がいない? 滅びたというのか?」
「もしくは、逃げたのかも」
「……単なる憶測に過ぎんな。とにかく、ここを発見し、新たな惑星として登録するのは私たちだ。クレイザーが第一発見グループとなってもおかしくはないだろう」
「そうですね」
ヴィロックとレンズが論駁しているあいだに、船員二人が既に、この部屋の内部を隈なく見回っていた。そしてアーニーが、突如大声をあげたのだ。
「どうした!?」
声の方に全員がかけよると、アーニーが指から血を流していた。どうやら、結構深い切り傷を作ってしまったようだ。
「悪い、ガラスの破片で指を切っただけだ」
「破片?」
「見てくれ船長、ここのカプセルだけが、割られてるんだ」
彼の言うとおり、子供が入る程度のカプセルがいくつも装着された機械の中で、真ん中から奇麗に割れているのが一つだけあったのだ。
「内側から飛び出したのかしら」
「いやレンズ、それは違う。見ろ、カプセル内にガラスの破片が落ちている。つまりこれは、外部から割られたってわけだ」
「船長、それより彼を、医療区画に運びましょう。ここにはなんの細菌があるか分かりませんから」
「そうだなパル、彼を頼んだ。私たち二人は、ここで調査を続ける」
「分かりました、それでは1番エリアに行ってます」
そしてパルは、アーニーを医療区画へと運んだ。
「全く、ドジなんだから」とパルが、医療区画の一室で、包帯を巻きながら言った。
「へへ、悪い悪い」
「それじゃあ次は、少し検査をしましょうか」
「十億年前の医療器具なんか使えるのか?」
「もし母宇宙連盟の医療システムに準拠してるなら、この緊急医療キットは、初心者でも扱えるはずよ」
そう言って彼女は、そのキットの中から、両手サイズの機械を取り出した。そこから伸びる幾つかの線は、大きなリストバンドのようなものと繋がっており、それを彼女は、アーニーの胸に巻いた。そして機械の電源を入れると、画面に心拍数など、あらゆる状態が映し出された。
「ぅ!」
「大丈夫、それは血液検査用に血を抜いてるだけよ」
「なら先に言ってくれよ、吃驚したじゃないか」
しばらくして、そこには母宇宙連盟言語で表された情報が一覧された。やはり少し、ドルフィニアンとしては太り気味な数値が出てきているが、それ以外は特に問題はなさそうだった。
「……ウィルス検査も問題なし、細菌感染も問題はないようね」
「良かった。なら安心だな」
「まあ簡易キットだから、完全に分かったわけじゃないけどね」
「大丈夫さ。あーあ、それにしても腹が減ったな」
「まったく、こんな時に良くそんな呑気な事が言えるわね」
その時だった。背後の扉がすーっと開いて、そこからヴィロックとレンズが現れた。
「体調はどうだ?」
「問題ないって船長。検査も陰性だし——それより、そろそろ昼食時だと思うんだが」
「はは、お前には参ったよ。そうだな、居住区域に食料庫があっただろ、そこから食事を持って、昼食でも取るか。それと、部屋割りはどうする?」
「部屋割り?」
ここでレンズが、説明をした。
「さっき、どうか研究施設のコンピュータを起動させたのよ。ここには調べたいことが山ほどあるから、しばらくはここにいることにしたの。必要なものも揃ってるしね」
「よっしゃ! これでひもじい思いもなしに、鱈腹飯が食えるな」
「ちょっとアーニーったら。全く、食料庫は空にしないでよね」
パルの冗談に、アーニーは「ははは」と笑って返した。だが意外にありそうな話に、彼女は苦笑いすることしか出来なかった。
そして四人は、まず部屋割を決めた。2番エリアには、ヴィロックとレンズ。そして6番エリアには、アーニーとパルの部屋が割り当てられ、それぞれのエリアにある食料庫から食材を取る方針にした。そして自分の部屋で食事ができるので、わざわざ一堂に会する必要はないが、昼食の時だけは、ロビーで食事を取りながら、会議をすることにした。なので今の昼食は、そのようにして四人がロビーで食事を取っていた。
「いやあ、十億年前とはいえ、母宇宙連盟の属していて助かった」とアーニーが、食事を取りながらいった。食料庫にあるのは、真空パックされていながら、特殊な加工が施され、通常のよりも美味な保存食。十億年前の最先端技術のおかげであり、かなりの長期保存も可能になっており、加えて母宇宙連盟に属していたわけで、その内容物も確りとした規定で作られているため、十億年後の彼らにも食事が可能となっていたのだ。
そんな食事を、黙々と取っていた。そして全員、1パックの保存食を食べ切った。1パックとはいえ、その量もまた海洋族並みの仕様で、尚更ここには、海洋族が住んでいたのではと示唆させていた。
「あれアーニー、それで足りるの?」とパル。
「さっき、早く昼飯を食おうとしていた割には、私たちと同じ量だな」ヴィロックもそう訝った。
「本当、いつもなら倍の2パックは食べてるのに」
レンズからもそういわれてしまい、アーニーは笑いながら答えた。
「うはっ、俺ってそういう風に思われてるのかよ。まあなんつうか、腹一杯になったんだよ」
「ま、そっちの方がアーニーのためにはいいわね」とパル。
「お前の忠告が、ようやく俺の脳に届いたのかも知れないな」
「そうだな。まあ雑談はここまでとして、昼飯はこれでおしまいにしよう。これから再び、ここの調査を始める。調べることは膨大にあるからな」
ヴィロックの言葉に、船員三人はうなずいて、ロビーにある特殊な芥箱(芥を完全分解し、必要な物質にわけて再利用する)に、食事の時に出た芥を捨てた。そして船長の指示のもと、それぞれの仕事にあたった。
こうして彼ら四人は、この未知の惑星の謎の施設内で、少しの間生活することになった。