著者 :Fimdelta
作成日 :2007/ 4/ 6
第一完成日:2007/ 6/15
第ニ完成日:2007/ 8/ 2
更新日 :2007/ 8/ 2
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正直全く内容が無い小説です;
とりあえず無更新状態を断ち切るための、代役小説ということで orz
つーことで、トップにも書いていたことも完全無視(爆死
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「た、高くないですか!?」
私は驚愕した。通常の魔法紙――魔法の呪文が書かれた紙。この世界では、特殊な紙を通じて魔法を発動することが可能――の相場は、
低級魔法だと10ジェム程度だが、中級魔法なら300ジェム、高級魔法になれば5000ジェムもしたりする。
しかしそれらを考慮しても、この魔法紙の籤は明らかに高過ぎる!
「仕方が無いさ、これは商売なんだよ。それにこの中には、初心者でも簡単に中級魔法を扱えるという特徴があるんだから」
「だけど、これは籤引きですよね? 何が出るか分からないのに、そんな大きな賭けをするなんて――」
「まあまあ安心しなよ、痩せぎすな蜥蜴のお客さん。籤だからと言って、別に外れがある訳じゃないんだしな」
「うーん……」
この中級魔法紙籤の値段は700ジェム――日本円に換算すると、およそ7万円である――
確かに私は、低級魔法しか使えないヒヨッ子だし、そんな奴が中級魔法を使えるなんてとても喜ばしいことだ。
しかしそれと引き換えに、相場の2倍以上のジェムを払わなければならないのは、躊躇ってしまうのも当然というものだ。
もし仮に私が中級魔法を使えれば、こんな破目にはならなかっただろう……
私は、小さい頃から運動部に所属していて、その当時は生涯魔法を使うことなんて無いだろうと考えていた。
だから私は、成年になるまでの間にしか成長しない魔法力を、一切鍛えようとはしなかった。
……だが、悲劇は突然にして現れた。
Pテスト――精神状態テスト――に、何と私は引っかかってしまったのだ。おかげで、私の選手生命の夢はこの時断たれた……
しかし不幸は終わらなかった。昔から運動一筋だった私は一般人よりオツムが悪く、まともな職に全くと言っていい程ありつけなかった。
だから私は魔法使いになったのだ。魔法紙という物さえあれば、私のような者でも魔法が使えるから、という理由もあるが、
呪文を読んで魔法を発動させるための集中力と精神力、そして魔法発動エネルギーを賄う体力が、運動で鍛えられていたからでもある。
……だが、それでも私は、未だ低級魔法使いなのだ。やはり、魔法に関する勉強も、私には向いていないらしい……
「……よし、買った!」
「はいよ! じゃあここから籤を引きな!」
私は箱の中から1枚の紙を取り出した――72番だ。
「72番か……じゃあこれだな」
手渡された紙に書かれていたのは、”矮小化魔法(改造済)”という文字だった。
「うーん……なんか微妙だな……」
「まあいいじゃないかお客さん! こういった中級魔法を、言っちゃ失礼ですが、低級魔法使いのあんたが使えるんだからな!」
「……そうですよね。それじゃありがとう、狼のおっちゃん!」
「おぅ、また来てくれよな!」
私は人里離れた自分の家へと着いた。
「……とは言ったものの、これ、どう活用すりゃ良いんだ?」
私は、リビングのフローリングに置かれているテーブルに腰掛けた。
矮小化魔法――イマジネーションした物体を小さくする魔法らしいが、一日に使える回数が、私の魔法力では二回だけらしい。
私は悩んだ。700ジェムも払い、こんなにも使用回数が少なく、また使い用途が無けりゃ、金の無駄遣いだった。
私は、何とかしてこの魔法の用途を考えていた……と、ふと私は思った。自分自身にかけたらどうなるだろう、と。
昔の映画で、5匹の動物が小さくなって、それから家の中や庭など探検するという映画があった。
あれは結構面白くて、小さい頃あーいうのを経験してみたいなと良く思っていたものである。
「ちょうどいい。一度小さくなって、大きくなった世界を体験して見たかったんだ」
そう言って私は、椅子から腰を上げて矮小化魔法の呪文を詠唱し始めた。
嬉しいことに、普通なら難しい発音やイントネーションも、巧く改造が施されていたおかげで、私は易々と呪文を詠唱出来た。
――その直後、辺りの空間が突如、縦横無尽に拡大し始めた。
目の前のテーブルは奥や上へと引き伸ばされ、横の台所や冷蔵庫も同様に拡大しつつ、それぞれの側へと離れていった。
ありとあらゆる物が拡張されていき、やがて、それらの拡張は静かに治まっていった。
私は天井を見上げた……天井が、自分の身長の何百倍もあるかのように思えるほど、遠くの距離に位置していた。
その光景に圧倒されながら、私は歩を進めた。
「痛!」
私は思わず足元を見た。するとそこには、とても大きな溝があり、私はそこに足を挟めていたのだ。
「こ、これは何だ?」
私は辺りを見回した。溝は遠くまで一直線に伸び、それらは一定の間隔で彫られていた。
また隣同士平行な溝と溝の間には、これまた一定の間隔で、直角に繋がれていた。
一瞬考えさせられたが、答えはすぐに分かった。そう、これはフローリングの目地なのだ!
その溝は、矮小化した私から見るととても大きく、実寸サイズの時には分からなかった細かな汚れも、明白に分かった。
「す……凄い! こんな風に世界が見えるなんて、夢にも思わなかった!」
気分が高揚し、私は一人浮かれて――実際、体重が軽くなったせいなのかも知れない――この世界を楽しんだ。
色んなところを歩き回って、体が小さくなった時に物はどう見えるのか、大いに楽しんだ。
そんな時だった。
「……この大きいスポンジ状の物体は何だ?」
目の前には、空気穴が多数あるスポンジ状の物体があった。その物体は、甘い芳香を漂わせ、まるでお菓子のようだった。
もしかしたら食べれるのかと思い、私はその物体の一部を捥ぎ取り、口の中へと運んだ。
「うーむ……こりゃカステラだな。しかし何故こんなところに?」
暫く考えて、私はふいに昨日のおやつのことを思い出した。
昨日のおやつはカステラで、私はそれをカットせずに、そのままかぶり付いていた。
おかげでカステラの滓がぼろぼろとテーブルに零れ、その幾分かは床に落ちたのだ。
「……なるほど、これは私が昨日零したカステラの滓な訳だな。しかし、滓でもここまで大きいとはな――」
刹那、私はピンと閃いた。この矮小化魔法の使用用途を。
滓がこれ程大きいとなると、普通の食べ物の場合は途轍もない大きさになるに違いない。
つまり、この魔法を上手く活用すれば、私は今よりも何百倍食費を少なく済ませることが出来るのだ!
「さて……」
床には、脂の乗ったステーキにポテトを添えた皿、そして一切れのケーキが乗った皿が置かれていた。
普段なら節約の為に控えておく、私にとっては豪勢な料理であった。
私は例の魔法を詠唱した。そして魔法を唱え終えると、あの世界が引き伸ばされる光景が視界に映り、辺りの物は一気に巨大化した。
そして気が付けば、目の前には驚くほどまでに巨大化した皿、そして食べ物があった。
私はそこから漂う香ばしい香りを嗅いで、すぐさま料理の皿へと向かって行った。
そこには、もはや一つの崖のように思える、聳えるステーキがあった。……これが、全部あの肉だなんて、到底思えなかった。
一応確認の為、私はその”崖”に齧り付いた。すると、こってりとした脂と肉汁が、口の中に広がった――やはり本物だ!
次に私は、ケーキが乗った皿へと移動した。一体あのケーキは、どれほど大きくなったのだろう?
その答えは、あのステーキ同様、とても驚かされるものだった――たった一切れのケーキが、もはや一つの山の様に聳え立っているのだ!
甘い生クリームの白い姿が大きく構えており、その天辺には苺の塔が立っていた。
私は思った。あのヘンゼルとグレーテルのお菓子の家――あんな家、これと比べれば極微無比だな、と。
私は今、家どころか、一つのお菓子の山を目の前で見ているのだ。そしてそれは、確りと食べることが出来る本物だ。
「……じゅる」
思わず涎が垂れてしまい、慌ててそれを啜った。
低級魔法使いという、安給料でひもじいのような生活を強いられていた私だが、もはやそんな心配は要らなかった。
――もう我慢出来ない!
私は躊躇うこと無しにケーキの山にかぶり付いた。頭をスポンジと生クリームの間に突っ込み、ガツガツと周りをを貪っていく。
そして何分か後、ケーキは未だ壮大な山の形を残しているのにも関わらず、私は既に満腹になっていた。
しかもその腹には、全て甘ったるいケーキだけが入っているのだ。こんなこと、普通の生活でも考えられないことだった。
私はあまりにも満足、満腹したため、ついに眠気に襲われ、そのまま感情に任せて眠りに就いてしまった。
私は目を覚ました。辺りからは、甘ったるい匂いが漂っていた。
……そうか、私はケーキの皿の上で寝ていたのか……
ケーキを見上げると、私に食べられた箇所が一部窪んでいたものの、依然威風堂々な山として聳えていた。
この光景を見ると、私は本当に、例の矮小化魔法が当たって幸運だったなと、改めて実感できた。
私は体を起こし、目を擦った。すると目に、ケーキの生クリームがくっついた。
私は、べっとりと生クリームが体中に付いていることに気付き、すぐにシャワーを浴びようと、皿から降りて矮小化解除魔法を唱えた。
すると、小さくなる時とは逆に、目の前の光景が全て自分側に引き寄せられていった。暫くして、辺りのものは全て元のサイズと化した。
私はすぐさま風呂場に行き、体中に付いたケーキを洗い落としていった。
そして体を洗い終えると、私はとあることに気付き、すぐさま例の皿があるところへ行き、再び矮小化魔法を唱えた。
私は毎度の現象を眺め、その現象が収まると、すぐにケーキの皿へと向かって行った。そして着くなり、即効で腐食防止呪文を詠唱した。
すっかり忘れていたことなのだが、幾ら食べ物が大きくても、腐食のスピードは現実と一緒なのだ。特にケーキなどの腐食は早い。
しかしこうも大きいと、全てを完食するには単純計算で数年は必要。となると、腐食防止の対策をしなければ元も子もないのだ。
運良く、私は腐食防止魔法を会得していたため、すぐにケーキ、そして隣に置いてあるステーキ等に腐食防止効果を掛けた。
私はホッと安堵の息を付いた……その直後、私の腹から、ぐぅー、という腹の虫が鳴った。
昨日は甘いものをずっと頬張っていたせいか、今日は無性に目が肉に行った――欲には勝てず、私はすぐさまステーキにかぶり付いた。
とにかく肉の崖を喰らいに喰らって、私は満腹になるまで、それを無心で食べ続けた。
長かったひもじい生活――それが今となっては贅沢三昧! 私は今までの困窮生活から脱したことに嬉々とした。
もう私は仕事に行く必要もない。何故なら、今の貯金とこの矮小化魔法さえあれば、私は一生暮らしていけるのだから!
私は今、この肉の崖と、向こうにあるケーキの山を食い尽くすことに、全身全霊を懸けていた。
あれから一年ほどたった時だろうか。気が付くと、皿の上にあった食べ物は、全て無くなっていた。
「ぐぇっぷ……」
食べて寝るだけの不摂生の生活のせいで、どうやら私はマナー感覚すら衰え始めたようだ。
だが気にはしなかった。今気にしているのは、無くなった食べ物のことだった。
私は半年振りに、矮小化魔法を解いた。久々に、辺りの景色が引き寄せられる感覚を味わった。
だがその直後、明らかに今までとは違う異質な感覚が、私の全身から脳に伝わった。いやに体が重いのだ。
私は一歩歩を進めようとした。だが思ったように足が上がらず、私はスケートのように足を摺って動かした。
すると、たった一歩足を運んだだけなのに、僅かながら体に劣等感が襲い掛かってきた。
堪らず私は、側にあった椅子に腰掛けた――バキン! 即座に椅子の脚が砕けた。
私は勢いよく尻餅をつき、辺りに大きな衝撃音を轟かせた。
「な、何が起きたんだぁー!?」
思わず叫んでしまった。私は何が起きたのか分からず、とりあえずこの体勢を整えようとした。
だが思うように体が動かない! お腹の肉が邪魔をして、私の行動を抑制しているのだ!
何とか体を上下左右に揺すって踠いたが、それはただ体中に付いた肉を揺らすだけとなった。
「はぁ、ふ、ふぅ……」
息を切らしていると、突如玄関の呼び鈴が鳴った。こんな所まで何の用だろう思いつつ、私はこの稀有なチャンスを逃すまいとした。
「だ、誰かぁ~……」
「おい、誰かいるのか!?」
「助けてぇ……う、ふぅ……」
「だ、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃな――はぁ、はぁ……んぐ――無いですー……」
「よ、よし! 今すぐ助けてやるかんな!」
ドアがドンドンと音を鳴らし、大きく撓んだ。やがて、バキン、という音と共に、玄関の扉が外れて壊れた。
するとなんと、そこから現れたのは、あの籤引きの、狼のおっちゃんだった。
「あ、おっちゃん……はぁ、ふぅ……」
「……何処かで、会ったことがあったか?」
「えぇ――はぁ、はぁ……籤を引きました……矮小化魔法を――」
私は息が苦しくなり、大きく深呼吸を繰り返した。
「――! あ、あの蜥蜴の痩せぎすさんかい!?」
狼のおっちゃんは、驚きに目を瞠って私を見つめた。
「一体、どうやったらそこまで太れるんだ……身動き一つ出来ないなんて……」
「そ、それはですね……はぁはぁ、ふぅー……ふ、ふぅ……」
「もういい。とにかく救援を寄越すから、そこで静かに待ってな」
私は言葉を言うことが出来ず、代わりに軽く頷いた。
やがて、私の家に何十人という救助隊がやって来て、全員が力を合わせて、何とか私を家から運び出した。
「全く、いくら矮小化魔法で贅沢三昧出来るからって、少しは考えろよな?」
「す、すいません……」
狼のおっちゃんは、私のお腹をポンポンと叩いた。そして二の腕、さらには脇腹の伸びた肉を、ぷにぷにと摘んで玩んだ。
「……全く、飛んだおもちゃな体だな。まるで外国映画から飛び出して来て見たいだぞ」
「……」
私は何も言い返せず、ただじっと黙っていた。
「……私が責任を持つから、ダイエットをしな」
「だいえっと……」
痩せていた頃は簡単に思えた言葉……だが常に空腹に煩う今となっては、酷な言葉だった。
「い、嫌だ! 私はそんな、我慢出来ませんよ!」
「んじゃあこのままぶくぶく太り続けても良いってのか!? えっ!?」
「……」
「……全く、どっからそんな貪欲が現れるんだ? 魔法使いじゃなくて、昔の魔法使い狩りにでも遭った方がためになりそうな体だな」
そう言って狼のおっちゃんは、病室から出て行った。
暫く一人無言でいると、部屋に病院食が宛行われた。しかしその量は、驚くほど少なかった。
「こ、これだけですか?」
おずおずと看護婦に聞くと、相手は呆れた様にこう言った。
「当たり前でしょう? これが普通の量です」
そう言って看護婦は、そそくさと部屋を出て行ってしまった。私は苛つく気持ちを抑え、目の前の料理を見遣った。
……やはり量が少な過ぎる!
とその時、この問題の簡単な回避方法を思い付いた。単純にこれは、矮小化魔法を使えば良いだけの話なのだ。
私は完全に覚えた改造済み矮小化魔法の呪文を唱え、体を小さくした。だがここで一つの問題が発生した。
小さくなり、体にかかる負荷は低減して動けるようにはなったものの、料理は遥か上のテーブルにあるのだ!
私は目測を誤ったことを後悔したが、一日に二回しか使えないこの魔法を無駄遣いせぬため、私はどうにかして、
ベッドの外枠とテーブルを繋ぐ棒を登攀した。だが不思議と、それは苦では無かった。
元の大きさと今の大きさでは、こうも体の軽さが違うのかと、私は大いに驚いた。
体中の肉が、動く度にぶよんぶよん揺れて、体中の脂肪が擦れ合うこんな体でも、まるで猿のように身軽に棒を登れるのだから。
やがて、私は頂上であるテーブルに辿り着いた。そしてそこには、先ほどとは打って変わって巨大な料理が立ち並んでいた。
私はまずスープの中に体を沈めた。そして顔をそれに浸け、大口を開けてそれを啜った。
ゴクゴクと飲んでいくうち、体中に喜びが逓増していった――やはり私には、ダイエットなんて不可能なんだ!
十分満足するほどスープを飲んだ後は、口直しにパンを齧った。私はそれを、まるでシールドマシンの如く掘削していった。
するとその時、パンの洞穴の外から、慌てふためく看護婦と、あの狼のおっちゃんの声が聞こえてきた。
「お、おい!? あいつは何処に行った!?」
「し、知りません! 逃走したとしか……」
「そんなの不可能だろ! あんな醜い脂肪の塊が動ける訳が無い!」
「じゃ、じゃあ一体……」
「きっと、私が売った矮小化魔法を使ったに違いない。この部屋を徹底的に虫眼鏡で調べる必要があるな……」
「……分かりました」
「とりあえず邪魔な物を片そう。まずはそのお盆を片付けた方が良さそうだな」
「えっ……でも、この中にあの方がいる可能性は――」
「それは無いだろ。どうやってこのベッドからテーブルまで、小さくなったとはいえ、あの巨体を動かすと言うんだ?」
「そ、それもそうですね。それじゃあこれは持って行きますね」
そう言って看護婦は、料理が乗ったお盆を持って病室を出て行った。その時私は「やった!」と思った。
だが、私の勿怪の幸いはこれだけに留まらなかった。やがて私がパンと共に運ばれた先は……何と食料庫だった!
どうやらパンが食いかけだと気付かず、それを元の場所に戻したようだ。
――何という天佑神助!
辺りを見回せば、病院食用の食材他、恐らく食堂での料理用であろう、ケーキや肉なども沢山置かれていた。
しかもそれらは、普通の世界でも十分な量――つまりこの小さな世界では、ここはもう無限の食料庫なのだ!
少々冷えるが、脂肪で覆われたこの体は暖かく、全然問題はなかった。だから私は、ここに何の障害も無く過ごせた。
矮小化魔法(改造済) 取扱説明書
イメジネーションした物体を矮小化出来る。一度に使用する魔法エネルギーは75パワー。
矮小化された物体を元に戻すには、矮小化解除呪文を唱える必要があるが、それは矮小化呪文の逆を詠唱すればよい。
・・
(※ちなみに、矮小化された魔法は、三年後解除されるので、要注意!)
「よ、看護婦さん」
「あら、こんにちは狼のおじさん。今日もここで営業?」
「ああ。ここらで商売するとなかなか良い収入が得られるからな。あ、勿論ちゃんと商売許可も取ってるからご安心を……」
「分かってますよ――それにしても、あれから三年、あの蜥蜴は何処に行ったんでしょうねぇ……」
「……とりあえず、あいつももう普通の体形には戻ってるだろ。一日中がっつける程、金は持ってないだろうしな」
「ですねぇ……」
私はがつがつと食べ続けた。欲を制する必要は無かった。食べ物が無くなっても、また外から調達される。
体が肉で埋もれてるような状態でも、現実世界から見て小さい体は、未だ自由に動かせた。
今日もまた、この巨大な食料庫で私は、縦横無尽に巨大な食べ物の中を食べ進んで行った。
その移動する姿は、もはや体全体についた無比量の肉の座布団が波打っているという以外、現地球に存在する言語では言い表せなかった。
だがそんな時だった。辺りの景色が、突如縮み始めたのだ。
何だか味わったことがあるような感覚――久々に感じたこの感覚……一体何だったっけ?
――か、体が元の大きさに戻ろうとしている!?
「な、何故だ!? 何故体が!?」
私は動揺してしまい、どうすることも出来なかった。やがて私の体は等比的に重量が増し、とうとう身動きが取れなくなってしまった。
だがそれでも私の体の膨張は止まろうとしない。体中の肉という肉が、私の体を覆うだけでなく、部屋をも覆い尽くそうとしていた。
しかしながらそれでも膨張は収まらない! 一体にいつになったら止まるのか、もはや時に身を委ねるしかなかった。
「ぐ……ぐるじぃ……」
息も苦しくなり、まるで無理矢理体を小さな箱に収められたかのように、体全体から圧力が加わった。
それでも体は膨れ続けた。やがて私は完全に食料庫と一体になった。だがそれでも私の体は巨大化を止めない。
――ドゥン!
巨大な轟音を轟かせ、病院の食料庫から、濛々と煙が立ち昇った。
「な、何が起きた!?」
「わ、分からないわ! ……食料庫が爆発したのかも!」
「食料庫でか? 一体何がどうやって爆発を起こすと言うんだい?」
「だけど――あ、あれを見て!」
看護婦が指差した先を、狼のおっちゃんが同じく諦視した。
するとそこから何やらぶよぶよとした物体が、こちらに向かって流れ出して来ていた。
「な、何だありゃぁ……」
「……分からないわ」
二人は呆然とその光景を眺めた。暫くして、ようやく煙が収まると、そこには、流れ出てくるぶよぶよの原型があった。
じっとその姿を見ていると、奥に何やら顔のようなものが見え、二人はそれを凝視した。
「た、助けてぇ……」
「――! あ、あれって――」
「――あの蜥蜴の!?」
二人は驚きのあまり、その場に立ち往生してしまった。その間にも、蜥蜴の体の肉が徐々に流れ出て、今にも彼らを包まんとしていた。
「お、狼のおっちゃぁ~ん……」
「う、嘘だろ……」
「……信じられないわ……」
やがて、二人は蜥蜴の脂肪に覆われた。だが、もはや衝撃で麻痺した脳に、その感覚は伝わらなかった。
それから五分後。ようやく蜥蜴の肥大化は収まった。
その後、周りの介護のおかげで、私は何とか動けるようにはなった。
あの事件のおかげで私は有名になり、色んなところから研究者がやって来て、私を痩せさせようとした。
勿論、大勢の研究者達の力のおかげで、私は徐々に体重を逓減していった。だが太り過ぎた体の名残は未だ消えなかった。
お腹は、一番最後に脂肪が燃焼される部位のため、依然として巨大な風船の儘だった。
だから体を起こそうにも、お腹が突っかえて踠く破目になるし、歩く際にもそれは大きな障害になった。
体を左右に揺らす度、巨大なお腹も揺れ、その大きさと重みゆえ、私自身が自らの腹に振り回される始末。
最初は我慢していたが、やがてそれも限界だ……やはり、私にはダイエットは向いていないのだろうか?
その後、私がダイエットに成功したか否か、それは予想通りの結果に終わった。
THE END