著者 :fim-Delta
作成日 :2007/10/07
第一完成日:2007/10/08
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「ディル。お前、体の方は大丈夫なのか?」
「……ええ……」
係長の言葉に対しても、ディルは窓から見える外の景色を眺めながら、上の空で答えた。
「……君は暫く休んだ方がいい。このままでは、君の体が危ぶまれる」
「……でも……」
「確かに、君の悲哀な気持ちは分かる。だがそれによって、君の体はどうなったんだ?」
「……そうです、ね……」
ディルはデスクに手を付き、力を込めて椅子から立ち上がった。
「ふぅ……」
ディルの大きくなった体は、非常に彼の行動を抑制していた。……いや、それが全てではないのかも知れない。
あの事件以来、ディルはまるで、ラレックに少しでも近づこうとしているかのように、一日中何かを食べ続けているのだ。
おかげで彼の体は日に日に肥え、たった一年で、彼の体は当時の四倍にもなってしまったのだ。
服を着ていても垂れ下がる腹の肉。ボタン式ではきついため、ゴム式の物にしたズボン。
そして何より、重くなった体によって、動く度に良く聞こえる息遣い。そして揺れる体。
もはや昔のディルの面影など一切残さず、彼は完全に肥満竜と化していた。
「……係長……」
「何だね?」
「……休んだ方が、いいのかも知れませんね……」
「そうだな。とりあえず君には、短い間でもいいからのんびりと休む時間を設けるべきだろう」
「……分かりまし――」
その時だった。部屋の扉が唐突に開けられ、そこから威勢の良い声が聞こえたのだ。
「みんなぁー!」
突如現れた竜。その姿には、どこか見覚えがあった。
(――! ま、まさか……そ、そんなことって……)
「――ら、ラレック!?」
「係長! お久しぶりです!」
「し、しかし君は……」
「死んだと思ったんでしょう? いやぁ、それが、良く分からないけど、俺だけ生き残れてたんですよ!」
ディルは信じられないといった面持ちで、係長と話すその竜を見つめた。容姿、喋り方、態度、全てがラレックと合致していた。
「……ラレック……」
「ん? えーっと……君は、新人さんかな?」
「ラレック! 俺だよ、俺!」
「……何処かで会った……っけ?」
「お前、最後に俺を笑わせてくれたよな。死なんて怖くないなんて言って、その後盛大にゲップをしてさ……」
「――! でぃ、ディル!? ディルなのか!?」
「ああ、そうだよ! 俺だよ、ディルだよ!」
「う、嘘だろ、ディル!? お前、その体どうしたんだよ!」
「……お前がいなくなって、すげえ寂しくて……。分からないけど、お前に少しでも近づきたかったのかも知れない……」
「……そうか……」
「……俺、お前にまた会えて本当に嬉しいよ!」
ディルはラレックに向かって可能な限り早く歩き、再会の感動を表そうとした。
だがそれを表すより先に、ディルとラレックの大きく突き出た腹がぶつかり会い、互いに跳ね飛ばされてしまった。
「うわ!」
「お、おっと――ちょ、ディル! お前、太ったんだから少しそのことを考えろよ!」
「わ、悪ぃ……」
暫くの間沈黙が流れた――が、それをラレックが断ち切った。
「……は、ははははは!」
「ど、どうしたんだよ、ラレック?」
「まさか、お前まで俺のように太るなんて思っても見なかったからさ! しかも腹同士がぶつかって跳ね飛ばされるなんて……。
……どうやら俺達は、お互い”体”でしか語り合えなくなったようだな」
「……は、はは……確かに、そうかも知れないな」
「……どうだ? ここは一つ、一緒に飯を食いに行かないか?」
「お、悪くないな」
「んじゃ係長、ちょっと飯食って来てもいいですか?」
「ああ、勿論だとも。但し程ほどにな。お前らのような奴が二人もいるとなると、食堂の冷蔵庫が空っぽになってしまうからな」
「安心してください、係長。もしそうなりそうになったら、ちゃんと食べる場所を変えますから」
「ははは。ま、精々再会を楽しみなさい。特別にディルには、今日から三日間フリーにしてあげるからさ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。その代わり、その後は確りと働いてもらうからな――勿論、ラレックもだぞ?」
「勿論です、係長!」
「勿論!」
それから、ディルとラレックは社内食堂へと向かい、そこで食事をし、そして係長の予想通り、冷蔵庫を空っぽにしかけた。
仕方なく彼らは、会社近くのファミレスに入り、そこで再び食事を再会した。
その日の彼らは、会話、笑い、食事、それらが一切途切れることなく続き、話もさることながら、彼らの体も徐々に広まっていった。
五年後、その時のディルとラレックは、もはや社内の有名コンビであった。互いの親密さも然り、その体型が見事に買われたのだ。
椅子を複数個使って座り、また互いが手よりも先に腹が触れてしまうほどの横幅。
飽くことの無い談笑。地元しか仕事を行わないその怠惰さ。そして何より、一日中何かしら貪り続けるその食欲。
彼らは今も肥え太り、その体は日に日に大きくなって行った。
椅子を破壊したり、脆くなった床を突き破ったり、はたまた壁や地面に罅を入れてしまうことも屡々あった。
だがそんな出来事も、全ては彼らの笑いのネタであり、それがまた、彼らの食欲を増進させる糧でもあった。
記者のディル、そしてカメラマンのラレック。社内の中で彼らは、唯一腹で語り合える竜であった。
Underground 2 終