著者 :fim-Delta
作成日 :2007/08/08
第一完成日:2007/09/27
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作成日が一ヶ月以上も離れてますが、決してその間この小説を書いていたわけではなく、
途中で完全に放棄してました。 orz
正直ネタだけは出来て、小説が書けないという現象が続いていた時期だったもので……
なのでこの小説は、実際のところ完成日一日前に、一月ぶりの修正&追加を行い、そして完成させたものだったりします。
ちなみにこの小説は、Undergroundの続編として書きました。
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カメラマンは、コーヒーを飲みながら古い新聞を捲っている記者を見て訝しんだ。
「何だ、ディル。まだその記事のことを気にしてんのか?」
「ああ。どうもこの村に関することが引っかかってな」
「だけどさ、そんな既に知れ渡った村のことに関するネタなんて、もう無いんじゃないか?」
「確かにそうだ。だがもし、この村に何か裏があるとしたら?」
「裏、ねぇ……確かにそりゃそうだが、だからと言ってどうするんだ? この村はもう調査し尽くされたし、結果だって出たじゃないか」
「まあな。けど結果ってのは、肥沃な土壌と特殊なバクテリアの存在……じゃあなぜ、それらはあの村でしか生きられないんだ?」
「そりゃ、あの村の湿度と温度、それと風とかの色んな条件が一致しないからだろ?」
「そんなに弱いバクテリアなんて、この世に存在するのか?」
「おいおい、ディル。お前は科学者じゃないだろ?」
「ま、まあそうだけど……」
「……首を突っ込むのもいいけど、せめて趣味程度にして置けよ」
「分かったよ、ラレック」
そう言い終えると、同僚のラレックは自分の仕事場へと向かった。
ディルは「そうだよなぁ」と心内で呟きつつ、自身も自分の仕事に戻った。
翌日。ディルは今日から久々の三連休――なのだが、この機会を利用してディルは、ラレックを連れて例の村、イルを訪れた。
イルは、数年前に突如有名になった、そこ彼処に豊富な土壌を持ち、年中豊作に見舞われている村だ。
そんな形而上的な現象に、あらゆる科学者達がその村を訪れ、あらゆる調査がなされた。
だが最終的に「土壌とバクテリアが要因」という結論を出したに留まり、なぜバクテリアがその村にだけ生きられるのかという、
より深い探求はせず、推究すらなされなかった。それは、どれだけ追求しようとも手掛かりすら掴めなかったという理由もあるのだが――
そんな蟠りが残る結論に、ディルは科学者でもないのに疑問を懐いた。
こう、理論的に分かるものではないのだが、所謂記者の勘、ってやつだ。
「だから俺達は、今ここにいるって訳だ」
「ディル、お前の勘は当たった試しがあるのか? 全く、大事な三連休だっていう時に……」
「ラレック、そこが肝心なんだよ」
「どういうことだよ」
「当たったことがないから、次こそ当たる確率があるじゃないか」
「へっ、言ってろ」
ディルは少々ムキになり、アクセルを強く踏んだ。そして一向はまず、イルの村長に会いに行くことにした。
「すいませーん」
家の前に立ち、ベルを鳴らすディル。やがて一人の巨大な竜――それも、なかなかに肥えた女竜が現れた。
「……どちらさまです?」
「俺は記者のディルです。こちらはカメラマンのラレック」
「どうも、ラレックです」
「私は村長の秘書です。何かご用件ですか?」
「少しばかし、この村、イルのことについて知りたいんです」
「この村のことに関しては、もう既に調べつくされたはずですが?」
「まあそうなんですが――あ、ほら、そうだ。例えば、この村の英雄がどんな成り行きでそうなったのかとか」
「それなら本人に聞いた方が宜しいのでは?」
「そ、そうですね……では、その方の家はどちらで?」
「ここの東を抜けて、畷を通ったその先です。大きな屋敷がすぐに見えますから、迷わないと思います」
「ありがとうございます」
ディル達は秘書に指示された通り、畦道を抜け、そしてついに大きな屋敷を視野に捉えた。
「随分と大きな屋敷だな」
「……はぁ、ここまで随分と遠かったな」
「何だ、カメラマンとしてだらしないな、こんな距離でへこたれるなんて」
「だから俺は地元でしか仕事をしないんだ」
「もう少し、その腹を凹ませたらどうだ?」
ディルが指したラレックの腹は、どう見ても妊婦を思わせるように膨れていた。
「……何ヶ月目だよ?」
「うるさいな。俺だって好きでこうなった訳じゃない」
「じゃあ何でだよ?」
「カメラマンっていうのはいっつもこんな重いテレビカメラを背負わなきゃならないし、仕事する度に疲れてしゃあないんだよ。
だから晩酌は欠かせないし、そんなことしてたからこうなったんだよ」
「何だよ、結局自分自身のせいじゃないか」
「お前には分からないだろうな、この辛さ。記者はいいよなぁ、携帯と手帳とカメラさえ携えてればいいんだからなぁ~」
「な、何だよ……記者にだって、なかなか辛いところはあるぞ」
「ほう、そうかい? んならこれを持ってみろよ」
ラレックは意地悪っぽく、持っていたテレビカメラをディルに手渡した。
「――ぐ! お、重いな……」
「だろう? んじゃ俺は先に行ってるぜ」
「なっ……お、おい、ちょっと待てよ! このカメラ――」
「あー、ちなみにそれは”PDW-F330L”っつって、180万はするから落とすなよー」
「そ、そんなに高いのかこれ!?」
「これでも安いほうなんだけどな。ま、おかげでそれを持ってるだけでも結構精神が削れるぜ」
「おい! ちょっと待てよラレック!」
「じゃあなー」
ラレックはディルを置いて、一人巨大な邸宅へと向かっていた。
後に残されたディルは、テレビカメラに気を使いながら、ゆっくりと先を進んだ。
「おー、ようやく到着か」
「うっさいなぁ……ほら、返すぞ」
「おぅ、サンキュー」
「……ま、これでとりあえずお前の辛さが分かったよ」
「だろう?」
「……さてと、それじゃあ早速英雄にでも会うとするかな」
そう言ってディルは、巨大な扉に取り付けてある呼び鈴を押した。
暫くして、家の中から、ドン、ドン、という大きな足音を鳴らしながら、玄関に向かってくる音が聞こえた。
そして扉の鍵がガチャリと鳴り、ゆっくりと扉が開いた。
「……どちら様ですか?」
中から出てきたのは、先ほどの秘書よりも一回り、二回りも大きい、メタボリックどころの問題ではないほどの肥満竜だった。
あのラレックでさえ、彼と比べれば痩せている以上に見えるかも知れない……
「あ、あの……えー、俺はディルです。こちらはカメラマンのラレック」
「どうも」
「僕はプラムって言います。……それで、何か御用ですか?」
「実は、こちらにお住まいの村の英雄と話がしたくて、ここに来たんです」
「あー、ギルのことですか? それならどうぞ中に入ってください」
ディル達は、プラムに連れられ中へと入った。中に入るとそこは、まるで美術館のように縦横が広々としていた。
その光景にディルとラレックは、ただ感嘆とするばかりであった。
「はぁ~、凄いなぁ……」
「……俺は初めてだな、こんな広い家を見たの……」
だがこの時、記者のディルはようやくこの家の異変に気付いた。入ってから何かおかしいとは思っていたのだが……
「……そういえば、プラムさん。失礼な話、この家はなんでこんなにも物が無く、ただ広いんですか?」
「プラムで良いですよ、ギルさん。僕の方が年下なんですから。……質問の答えなんですが、それはギルに会えば分かりますよ」
「なるほど……。ちなみに、プラムの年は?」
「僕は十五です」
『十五!?』
ディルどころか、ラレックまでもが驚き、見事に発声のタイミングが一致した。
「え、ええ……十五ですけど、何か?」
「あ、いや、その――そう、十五にしてはおっきいなぁって……」
「……ははは、確かにそちらから見れば僕は太ってるかも知れませんね。けど、この村の中では結構普通の体型ですよ」
普通? ディルは一瞬彼の言葉を疑ったが、考えてみればこの村に来てから、会ったことのある住民はあの村長の秘書だけだった。
それにあの秘書だってなかなかに肥えていたし、ラレックを優に上回ってもいた。……そう考えると、彼の言葉は正しいのかも知れない。
そんなことを考えていると、いつの間にかディル達は、一つの大きな扉の前に来ていた。
その扉は、玄関と同じぐらいの大きさで、縦幅はディルの二倍、横幅はその十倍だった。
そんな巨大な扉の前では、あのプラムも、まるで普通の子竜そのものに見えてしまっていた。
「この部屋の中にギルがいます。僕は今彼の昼食を作ってる最中なんで、これで失礼します」
そう言ってプラムは、ドシンドシンと足音を鳴らしながら、通路の奥を曲がって消えてしまった。
「……何だか、嫌な予感がするんだが、ディル?」
「……俺もだ、ラレック……」
ディルとラレックは、一度唾を飲み、そして意を決して扉を開けた。
「……誰だぁ?」
「――ひっ!」
ディルは思わず退いてしまった。ラレックも、やはりその衝撃には耐えられず一瞬蹌踉になった。
「……用件はぁ?」
語尾が滑らかにフェードインするその声は、恐らく声を絞り出してる故なのかも知れない……。
なぜそう思えるのか、それは、目の前にいるギルという存在を見ればすぐ分かる。
ギルは……まさかの創造と合致していたのだ。正にあの扉と同じように、横幅はディルの九倍近くあり、
身長もディルの一.五倍――だがこれは、何処の肉だかは分からないが、付き過ぎた脂肪によって体が押し上げられているからであり、
足が完全に宙に浮いているので正しくは無い。だから正確に言うなら、身長ではなく体高だろう。
……だが、そんなことを論議している暇などない。彼は――もはや同じ生物とは思えなかった。
気が付けば、彼には腕がなかった。代わりに飛膜を張った翼が生えていた……即ち彼は、ワイバーンなのだ。
「……用件はぁ?」
今度はより強く、そして響く声でギルが尋ねた。ディルは、その圧巻な体型のギルに打ちのめされつつも、何とか声を出した。
「……あ、あの、お、俺は、ディル、って、言います……」
「……お、俺はラレック……」
「……それでぇ、用件はぁ?」
「あ、あなたの、お話が聞きたくて……」
「話ぃ? なんのだぁ?」
「そ、その、あなたが英雄と呼ばれた経緯を……」
「なんだぁ、そんなことかぁ」
ギルは大きくお腹を揺らし、笑った。その光景はまるで、海に波を起こす者のように見えた。実際、彼の腹は波打っていた。
「何処から話せばいいぃ?」
「そ、そのぉ……とりあえず、初めからお願いします」
「分かったぁ」
そしてギルは、ゆっくりながらも着実に話を進めて行った。それと共に、ディルやラレックも段々と、ギルの体型に慣れ始めて行った。
「とぉ、いう訳なんだぁ」
「なるほど……」
「それじゃあ、この村の現象の一番初めの原因は、その洞窟に潜んでいた謎の<気体>だったって訳か」
「そういうことだぁ、ラレックぅ」
「そしてその原因が、何故かは知らないが未だに継続していると……」
「そうそうぉ。だけどぉ、おかげで私達は平和に暮らせるようになったからぁ、これはこれで良いと思ってるぅ」
「……だけどなぁ――」
とその時、辺りに超低音が鳴り響き、軽い地響きが起きた。
「……何だ、今の?」
「ああぁ、ごめんごめんん。私の腹の虫だぁ」
「は、腹の虫なのか、今の――」
刹那、ドタドタという物凄い足音を響かせ、部屋にプラムが入って来た。
「ああギル、ごめん! 今すぐ昼食持ってくるよ!」
「良いってぇ、ゆっくりで良いよぉ」
「大丈夫、もう殆ど昼飯は出来てるから!」
そう言って再びドタドタと足音を鳴らし、プラムが去っていった。やがて、部屋に豪勢な料理が運ばれて来た――それも大量の。
「ディルさんん、ラレックさんん、一緒に食事でもどうですかぁ?」
「え、良いんですか!?」
舌を唸らせそうな料理を見て、ラレックが言った。
「勿論ですよぉ」
「……俺は、いいや」
「おい、ディル、こんな豪華食事は滅多に食べられないんだぞ!?」
「そうだけど、さっき昼飯食べたばっかりじゃないか」
「なーに言ってんだ、軽くサンドイッチを食べただけじゃないか」
「お前とは胃袋の大きさが違うんだ。とりあえず、俺はパスするぞ」
「もったいねえなぁ」
「無理して食って吐いた方がもったいないからな。それじゃあ俺は先に、車の方へ戻ってるぞ」
「おう。それと序でに、車をこっちまで持って来てくれないか?」
「勿論そうするさ。食事をした後なら尚更、お前は動けないだろうからな」
「ちぇ、何だよそれ」
「気にするなよ。んじゃ、またな」
そしてディルは、自分の車へと戻って行った。残ったラレックは、ギル達と一緒に豪勢な食事を楽しんだ。
ディルは、ギルの邸宅の前に車を停め、その中でラレックを待っていた。
「……ラレック、遅いな。あれからもう小一時間は経ってるぞ?」
とその時、巨大な扉が開いて、玄関から一人の竜が現れた。その竜は、大層立派なお腹を携えていた。
そして彼は、少々苦しそうな面持ちでディルの車へと近づいた。
「よ、ディル――うっぷ……」
「……どんだけ食べたんだよ、お前……」
「分からないが、相当だと思う……。何せギルはあんな体型だから、普通に百人分の料理を平らげていたし、俺もついつられて……」
「全く、お前が太る原因は、ただの晩酌だけじゃなさそうだな」
「ま、とりあえず俺を早く乗せてくれよ」
「おっと、悪ぃ」
ディルは扉のロックを外した。そしてラレックは、ディルの隣にどしんと座る込んだ。
「ふぅ、腹がパンパンだぜ」
「そろそろ生まれそうだな」
「何言ってんだよディル」
「気にするな」
ディルはアクセルを踏み、車を走らせた。
「そう言えば、今日泊まる所は見つかったのか?」
「ああ。お前がむしゃむしゃと昼食を食べている間に、確りと見つけておいたぞ」
「おお、サンキュー……ていうか、今考えれば俺はお前の頼み込みを受けて渋々ここに来たんだから、サンキューってのもおかしいな」
「まあ確かにそうだが、その分お前を不自由にはさせないさ」
「それじゃあ俺のテレビカメラを持って歩いてくれるか?」
「それはお前の私物だから俺の領域じゃないな」
「ちぇ、何だよその理論。元を辿ればお前の領域でも――」
「壊してもいいなら、別にいいぞ」
「……やっぱ遠慮しとくわ」
そんな談話をしながら、彼らは今日泊まる宿に向かった。そして宿に着くと、彼らはチェックインを済まし、自分達の部屋へと向かった。
「それにしても――何処も彼処も広いな」
「やっぱり住民みんなが太ってるからじゃないか? プラムの言うとおり、ここの人達は全員プラム並にデブだしな」
「不思議なもんだな。ここにいるとお前が”デブ”という言葉を使っても、何の違和感もない」
「どういう意味だ?」
「気にするな」
「ふん。どうせ言いたいことは分かるさ。俺がデブだって言いたいんだろ?」
「何だ、知ってたのか」
「当たり前だ。自分の体のことぐらい誰だって分かってるさ」
「んじゃあ何で痩せようとしない?」
「前にも言ったが、痩せようなんて変な努力をしてたら、カメラマンの仕事なんかやってらんねえよ」
「まあお前には忍耐力が無いからな」
「それは否定出来ないな。ま、別にデブだからって、俺はそんな気にしちゃあいないな」
「……けど、プラムとかギルはどうなんだ?」
「あ、あれは……さすがに引くな。ていうかこの村に住む全員がそうだし、そこまではさすがに俺も行きたくないな」
「はは、そりゃそうだろうな」
「……そういえば、そろそろ夕飯を食いに行かないか?」
「ん? もうそんな時間か? ……なら、そろそろ行くかな」
ディルとラレックは椅子から腰を上げ、部屋から食堂へと向かった。
そして食堂に着くと、そこはとても広々としており、テーブル一台一台の間隔も相当広かった。
正に、あのギル級の肥満竜でも通れるよう設計、配置しているに違いない。
テーブルに着いた二人は、でっぷりとしたウェイターに、それぞれハンバーグ定食大盛りと生姜焼き定食を注文した。
「ラレック、昼にあれだけ食べたっていうのに、良く大盛りに出来るな」
「まあ何故かは分からんが、今はもう腹の中がすっきりしてるんだよ」
「ま、そういうもんなのかな」
「そういうもんさ」
「……そういえばさ、ギルが、洞窟の謎の<気体>が原因だって言ってただろ」
「あー、この村の異常現象の原因か」
「そう。でさ、俺達もその洞窟へ行ってみないか?」
「おいおい、ディル。肝心なことを忘れちゃいないか?」
「肝心なこと?」
「ギルは、その洞窟の最奥底にまで行って、その際、今じゃ考えられないがあのワイバーンの翼で飛んだって話だ」
「……それで?」
「おいおいおいおい、ディルさんよ。先ほど俺に”デブ”つっておいて、そりゃ無いんじゃないか?」
「……まさかお前、飛べないのか?」
「当たり前よ。……だから今日、この村まで車で来たんじゃないのか?」
「いいや。俺は長距離飛ぶの苦手だから車にしただけだ」
「……じゃあ、知らなかったのか?」
「いくら太った竜でも、空を飛べるやつだっているじゃないか」
「そりゃそうだが……。まっ、残念だが俺はその中には入っちゃいないんだ」
「そうか……。なら俺一人で行くさ」
「んじゃ俺は、のんびりこの宿で過ごしてるさ」
「……お前がここに来たのは俺の無理強いだし、お前の自由にしてくれ」
「そうさせてもらうさ」
丁度その時、頼んだハンバーグ定食大盛りと生姜焼きが届いた。驚いたことに、料理の量は普通のレストランと変わりなかった。
二人は料理に手をつけ、静かに食事をした。だが料理を食べ終えると、ラレックが言った。
「……もう少し食べてもいいか?」
「ん? まだ食うのか?」
「ああ。今日は久々に動いたせいか、腹が空いてるんだ」
「殆ど車移動だったじゃないか」
「まあな。とりあえず、追加注文をしたいんだが、戻りたかったら先に戻ってもいいぞ」
「いや、いい。今回は一緒にいるさ」
「おお、ありがてえ」
そしてラレックは、追加としてラーメンとパフェを注文した。ディルも、少しでも暇を潰すためにコーヒーを注文した。
注文した品が届くと、ラレックは黙々とラーメンとパフェを食べ始めた。その間ディルは、コーヒーを嗜みながら、
この村の現象について可能な限り深く考えを巡らし、推考した。
一体、なぜこのイルという村にだけ、このような異常現象が起きているのか。
……その原因は分かった。それは未知の<気体>だということだ。
だがそれは、ギルの手によって倒された。……しかし、それでも現象は治まらない。
つまり、原因は他にも何かあるのかも知れない。この異常現象を齎す何かが……
それともう一つ。なぜこの村には、こうも太った竜達が蔓延り、しかも皆、健康そうに暮らしているのか?
特にギル。あの体は尋常じゃない……普通ならば、自重で圧死してしまうだろう。
……まだまだ探るべき問題は多々あるな……
「……ディル?」
「――ん? なんだ?」
「もう飯は食い終わったんだが、そっちはどうだ?」
気が付くと、ラレックの食事は既に済んでおり、逆にディルのコーヒーはまだ半分程残っていた。
「あ、ああ。大丈夫だ」
ディルは残ったコーヒーを一気に飲み干した。一瞬、強烈な苦味が彼の舌を襲った。
「……それじゃあ、行こうか」
「ああ」
ディルとラレックはテーブルを離れ、レジへと向かった。
そしてそこで会計を済まし、彼らは自分達の部屋へと戻って、ぐっすりとベッドで寝込んだ。
Underground 2 第1部 了