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どうやらこの話は、太キャラはいますが太膨要素はなさそうですm(_ _)m


 黒地(クロジ)

 犬 男 巡査    風流(フェンリュ)

 狐 男 巡査部長  丞(ジョウ)

 鰐 男 警部    団包(ダンポウ)

 猫 男 爆破犯人  炸彈人(さくだんじん)

 鯨 女 隣州の警官 凛(リン)


 休日、まだどこもお店が開店していない早朝のことである。

「ここが、奴が待ち合わせた場所か……」

 運転席にいる、だぼついた二重顎に手を当てる鰐のダンポウ警部。後部座席には鯨のリンも乗っている。

「何か問題でも?」と狐のジョウ巡査部長。三人は今、車の中で先に止まっている犬のフェンリュ巡査の乗る車を監視している。

「フェンリュが警部から降格されて5年。なんで今更あいつを? それにこんな形で呼び出したりしたら、警察に囲まれるのは目に見えている」

「確かに……まるで何かを決心したかのような果たし状でしたね」

「となると相手は、過去の出来事からインターバルをおいて、今逆襲を始めようとしているのか——」

 その時、目の前の車がゆっくりと徐行を始めた。それを追うようにしてダンポウも車を走らせ、更にその後ろからは、ひっそりと尾行する警察車輌が続いた。

 やがてフェンリュの車は、大きなビルの駐車場へと入り、ゆっくりと下に下って行った。何故かセキュリティゲートのバーは上がっている。

「俺達も入るぞ」とダンポウも、地下へと入った。

 不思議なことに、休日だというのに車がそれなりに止まっていた。その中の空いている場所に彼が駐車すると、既にフェンリュが車外に出ており、ヘッドセットからの要求に従ってかエレベータへと向かったいた。するとそのエレベータは、まるで意思を持っているかのように、フェンリュが近付くとその扉を開けた。

「クソ、監視カメラをハッキングしてやがったのか。俺達のこともバレたかもな。仕方ない、取り付けた隠しカメラで様子を窺い、あいつがピンチになったら屋上へ乗り込もう」

 そしてダンポウは、鞄からラップトップ(=ノートパソコン)を取り出し、フェンリュのスーツに装着された第三の目からの映像を三人で眺めた。

 

 

 エレベータ内で、フェンリュは過去の記憶を色々と引き出していた。屋上に来いとの炸彈人の命令で、ここでの時間は少し余裕がある。この間に少しでも相手の情報を思い出しておかないと。フェンリュに狙いを定めたということは、彼と面識のある人物に違いないからだ。

 だが、考えても考えても全く思い出せない。交番で見た猫の顔は、どんなに頑張っても記憶の一片を(=かす)めることすらない。結局はエレベータの電光板に屋上を示すR、即ち40階に着いたことが表示されて到着音が鳴り、フェンリュはフッと軽い深呼吸をすると、開いた扉から屋上に足を踏み出した。

「ついに着たな、フェンリュ」と、向かいに立つ猫が言った。朱色のYシャツを着ている。

「君は、誰なんだ?」

「フフ、しょうがないか。兄弟なのに似ていないと良く言われてたからな」

「兄弟?」

「そうだ、兄はあんたに殺された。これで思い出せるだろう?」

「……いや、悪いけど分からない。似たような境遇は多々見て来てるし」

「——! 自分の兄を思い出せないだと!? あれだけ酷い仕打ちをして、思い出せないだと!?」

 炸彈人は目を瞠り、怒り肩でフェンリュに歩み寄った。だが途中で立ち止まり、こう続けた。

「なら、これで思い出せるだろう」彼は胸ポケットから、一枚の写真を取り出してそれを投げ渡して来た。だが写真は途中で落ちたため、それをフェンリュは拾わざるを得なかった。

 前後に股を開き、足を下げた側の腕で苦労そうに写真を拾うと、フェンリュは写真の人物を見た。一人は目の前にいる朱色の服を着た猫。もう一人は……

「……バイビィ(白鼻)、か」

 全てが繋がった。そう、炸彈人が起こした事件のことも。

 バイビィは、五年前の大事件で植物状態に陥った。彼は爆弾処理班に所属しており、その日はクロジ中央警察署から出動命令を受けていた。

 

 

 生前のバイビィ。がっちりとしたその猫は、専用車からツールボックスを持って降り、報告を受けた駅へと向かった。

「爆弾があるのはそこか?」

「はい」

 答えたのは、スーツを着たすらりとした犬。そう、若き日のフェンリュである。そしてその脇には、血を流して転がる死体が一体。

 バイビィは、早速解体に向けて準備を進めながら、彼に聞いた。

「ここで何が起きたんだ?」

「爆弾を持った指名手配犯がこの駅にいると聞いて駆けつけた所、それに気付いた犯人が銃を放ったんです。そして人質を取ったため、僕は止むを得ず銃撃しました」

「せめて、爆弾のことを聞いてくれてたら良かったんだが」

「どういうことです?」

「鍵だ」

 爆弾と思しきアタッシュケースには、4桁の暗号で施錠されていた。

「手の込んだ爆弾なら、直接このケースの鍵と連動している場合がある。だからそれを解錠することが第一関門なんだ」

「そう、だったんですか……すみませんでした」

「君は、この手の事件は初めてなんだろ?」

 フェンリュはこくりと頷いた。

「なら気にするな。良し、もう下がってろ、あとは俺の仕事だ」

 バイビィの指示通り、フェンリュはこの場を退いた。だがそれ以降、彼は何も口にしなくなった。大爆発ののちのことである。

 

 

「遺言も無かった。ただ無言で、兄の心臓は止まった。それから一週間、お前への恨みは溢れんばかりだ。何故お前は、ちゃんと遺体を調べなかった?」

「それは……」とフェンリュは言葉に(=つか)えた。

「それはだな、今のお前の姿と一緒だからだ! あの時から怠けていたんだろう? でなきゃ、どうして遺体の服の中にあった、暗号が書かれた紙を見つけられなかったんだ?」

 フェンリュは、何も答えられなかった。不言(=ふげん)だった。

 炸彈人が、更に近寄って来た。フェンリュは腰にぶら下げたホルスターから銃を取り出すべきなのだろうが、的を射た相手の言葉に、身動きすら取れなくなっていた。そして炸彈人の為すがままに、呆然と立ち尽くす彼の体には縄が巻き付けられた。そしてその先端を屋上の鉄柵に(=)わくと、言った。

「知ってるぞ、地下の駐車場にあんたの仲間がいることを」

「——!」

「あそこにはな、大量の爆弾が仕掛けられてある。不思議に思わなかったか、こんな休日の早朝に車が止まり過ぎてないかって?」

「ま、まさか……」

「この運命を決めるのはお前だ、フェンリュ」

 

 

「まずいわ、助けに行かないと!」

 車内で映像を見ていたリンが外に飛び出した。

「お、おいリン! 危険だ、戻れ!」

 だがダンポウやジョウの忠告を無視し、彼女はエレベータに乗り込んだ。

 

    続


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