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 黒地(クロジ)

 犬 男 巡査   風流(フェンリュ)

 狐 男 巡査部長 丞(ジョウ)

 鰐 男 警部   団包(ダンポウ)

 猫 男 爆破犯人 炸彈人


「んー、まだかぁ?」

 クロジ中央警察署のエントランスで、太っちょの鰐警部、ダンポウが痺れを今にも切らそうとしていた。今集まっている彼と、そして巡査部長の痩身の狐のジョウ、そして激太りの巡査の犬、フェンリュの計三人は、会議の結果二グループに分かれて調査を行なうことになった。そしてその内の一方に、目星を付けた犯人の猫が関わっていると思われる隣州の警察署から派遣された内の一人が、付き添うことになっている。

 だが、その肝心の派遣は今もまだ来ないのだ。だからこうやって鼎談(=ていだん)しているのだが、それもそろそろ限界である。

「すみませーん!」

 エントランスの先から、鶯色のロングコートを羽織った、鯨の女性がドスドスと近付いて来た。種族的に体は大きいが、それでもフェンリュには及んでいないのは、(=さぞ)かし彼が太ってるという証である。

「君が派遣された人かい? なんだ女性なら、今回の遅刻は多めに見てやろう」とダンポウ。

「はぁ、はぁ、いえ、違います……実は、高速道路で事故がありまして、それで、予定されていた人は、遅れることになったんです、ふぅー」と彼女は、額の汗を拭った。

「なんだ、そういうことだったのか。つまり君が、その代役って訳か」

 鯨の女性は、息を少しばかし整えると、フェンリュ、ジョウ、そして最後にダンポウと目を合わせた。

「はい。私はリン(=)と申します」

「リンか。にしてもそのロングコート、まだ秋になったばかりなのに、暑くはないのか?」

「少し、暑いですね。でもこのコートは、私に取って大事な形見なんです」

「なるほどな。それで、今回ことは話で聞いてるか?」

「はい」

「ではこの四人を、まずどうやって分けるかだが——」

「あっ、それでしたら私、フェンリュさんにお供するよう指示されています」

「ぼ、僕?」と、フェンリュは間の抜けた顔をした。

「ほほう、フェンリュ、良かったじゃないか」にやりと笑うダンポウ。ジョウも心なしか、にたりとしていた。

 それから四人は、二手に別れて警察車輌に乗り込んだ。クロジ北駐在所には車がなく、警邏(=けいら)は自転車——しかしフェンリュの場合、体重の問題で二年前から徒歩——なので、これが五年ぶりの乗車だった。その時彼が感じたのは、車内の圧迫感だった。勿論その原因は、彼の巨大化した体である。

 決して、運転を自ら買って出た鯨のリンも綺麗に乗り込めるわけではないが、彼の場合は扉を開け、そこと車の屋根に手をかけると、そのまま横にどすんと助手席に座った。そして体を横に揺すって座席にそれを収めると、扉をバタンと閉めた。

「ふぅ。こんなに車って狭かったっけ」

「ふふ、そんなに体が大きかったら仕方がないわ」とリン。そして彼女は、車をダンポウチームとは反対方向に走らせた。

 

 警察車輌の中で、買って来たホットドッグの紙包みを解くと、助手席にいるダンポウは自前のソースディスペンサで更にケチャップを足した。ブチュブチュとかなりの量が上乗せされ、それを脇目で見た運転席のジョウが少し顔を(=しか)めた。

「なんだ、別にいいだろ」と横目で返すダンポウ。

「けどまだ、昼にもなってないじゃないですか」

「仕方ないだろ、小腹が空いたんだからよ」

「だから警部、昇進出来ないんですよ」

「むむ、ききぶでならないな(聞き捨てならないな)」

「せめて飲み込んでから話して下さい。全く、昔の先輩は何処へ行ったんですか」

「それより前は、もっと酷かったんだぞ。俗に言う、長期のリバウンドって奴だな」

「えっ、陸軍に所属していた時ですか?」

「ああ。お前には話していなかったか。実はな——」

 

「それで、ダンポウ警部って昔からあんな体型なんですか?」

 運転をしながら、リンが横のフェンリュに聞いた。

「いや、入署した時は体格が良かった程度だったらしい。けれど少しずつお腹が出ていって、今じゃご存じあの体。でも本人曰く、輜重兵(=しちょうへい)の頃を繰り返してるだけだってさ」

「しちょうへい?」

「軍の糧食や被服、武器や弾薬、つまり軍需品を輸送する兵士のこと。警部は昔そこに所属していたらしいんだけど、ちょくちょく摘み食いしてたんだって。それで僅かにだけど脂肪が身に付き始め、ある時同僚に怪しまれてそれが発覚し、隊長に報告されたんだ」

「じゃあ免職されちゃったんですか?」

「ううん、違う。警部は事件を知悉(=ちしつ)するのに長けているように、昔っから頭が良かったんだ。だから警部は、軍隊の事務職に異動されたらしいんだけど……」

「そこでは、尚更太っちゃったんですね」

「そう。動かない上、節制するような場所じゃないからブクブク太って、さすがに見かねた上司が遂に解雇したんだ。それから警部も気持ちを入れ替えてダイエットに励み、こうして警察官になった訳だけど、職場に落ち着いた途端また摘み食いが始まって、今に至るらしい」

「なるほど。つまりリバウンドしちゃってるんですね。そして今も、それが続いてると」

「アハハ、正にその通りだ」

 顔を綻ばせるフェンリュは、リンとの会話で少し明るさを取り戻していた。

 その後は、彼女が車を走らせて指定エリア内を巡回したが、今日は特別、事件も何も起きなかった。炸彈人も、どうやら本日はお休みらしい。

 

 

 

 翌日。ダンポウと共に、彼が買ってくれたスーツを受け取りに向かうフェンリュとジョウ。二人はまだ、昨日の傷付いた活動服を着用していた。そしてそのあとに付くのはリンだ。

「ありがとうございます、ダンポウ警部」

 一着のスーツを手に、礼を述べたジョウ。フェンリュも「ありがとうございます」と言い、確りとお辞儀をしたが、その角度は会釈程度にしかならない。だがその理由を似たり寄ったりのダンポウは知っているので、その事に関しては看過した。

「お前らが頑張ったご褒美さ。残りの二着は配送したから、今日の夜にでも届くだろう」

「えっ、そんなに買って下さったんですか!?」

「ジョウ、一着だけスーツを買う馬鹿が何処にいる。お前は活動服以外に持ってないだろ」

「いえ警部。私が警部だった頃のスーツを、今も持っていますので」

「おお、そうかそうか、そうだよな。だがサイズはどうなんだ?」

「私は問題ないですが、けどフェンリュに関しては」

「ガハハ! 確かにそうだな。フェンリュ、お前はさすがに昔のスーツは着れないだろ?」

「は、はい……」とフェンリュ。

「気にするなって、俺もおんなじだからよ。とにかく早く着替えな、このあと会議だし。おっとそれと、悪いがリン、君は一階で待っててくれ」

「分かりました」

 フェンリュとジョウが試着室で着替えを済ませると、ロビーでリンと三人は一時的に別れ、三人は会議室にて今日の予定を視聴した。そして更にここで、フェンリュとジョウには警部のバッジと手帳が渡された——というより戻された。

 直後、会議室に電話が鳴り響いた。まるで先ほどの様子を黙視していたかのように、相手はあの炸彈人だった。

 

    続


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