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  School 5 - 成人〜:飛躍 -

 

 フヨッタは今日も、学校に来なかった。いえ、正確には来られなかった。そのことを私は、誰よりも知っている。

 卒業式が終わり、私は最後の教室で、友人達と写真を撮り合ったりした。その後職員室へと向かい、担任の先生にお別れを告げると同時に、もう一つの役目を伝えた。

「そうか、悪いねオクセーヌ。フヨッタには是非、宜しく伝えてくれ」

「はい先生。今まで、ありがとうございました」

 深々と頭を下げ、鞄に二つ目の卒業証書を入れると、私は校庭から空へと舞い上がった。

 

 

 私の暮らす児童養護施設に到着すると、私は急いでフヨッタの部屋へと向かった。

「ただいま。卒業おめでと!」

「わー、ありがとう〜」

 そう答えたのは、目の前のこんもりとしたドラゴンのお腹——じゃなくて、その奥にあるけど今は見えないフヨッタ。すると脇で、ガンボがお菓子を貪りながら私に言った。

「遅かったな」

「友達と記念撮影してたからね」

「えー、いいなぁ、僕もしたかったなぁ〜」とフヨッタが、羨ましそうに漏らした。

「じゃあ三人で写真撮影でもする?」

「おいおい、どうやって撮るのさ。フヨッタは腹しか写らねーだろ、ガハハハ!」

「なんだよガンボぉ、僕だって頑張れば、お腹から顔ぐらいは出るよ〜」

 ふと、私にいい案が閃いた。

「そうだわ、フヨッタのお腹にカメラを置きましょうよ」

「お、そりゃ名案だな。いわゆる俯瞰撮影ってやつか。それならこいつも写れるな」

「やったぁ! じゃあオクセーヌ、お願いね〜」

 私はフヨッタの丸くて柔らかな巨腹に乗り、(=うま)いことカメラを固定した。けれどその間、私の羽毛でお腹が擽ったいと彼が何度もお腹を揺らすので、この作業には骨が折れた。

 シャッターの時間をセットし、私とガンボは、フヨッタを挟むようにして顔同士を寄せた。

「フヨッタ、はいこれ」

 二枚の卒業証書を鞄から取り出し、片方を彼に手渡した。そしてみんなで卒業証書をカメラに向け、

「それじゃ行くわよ……1+1は?」

『2ぃ!』

 

 

 細雪(=ささめゆき)の降る中、ぐつぐつと何かを煮込む温かい音が微かに聞こえた。俺はそんな家の前に立ち、玄関のベルを鳴らした。バタバタと足音が近付き、扉ががちゃりと開いた。

「ガンボ! 久しぶりじゃない!」

「おう。にしてもオクセーヌ、お前、随分とまた豊満になったな」

「夫が夫だからね、仕方ないわよ」

「ブハハ、確かに!」

 俺は大きな腹をぶよんぶよんと揺らし、笑い声をあげた。けど最近、膨らみきったお腹が胸を持ち上げると、そこの毛が顔にかぶさってむずむずするんだよな。

「そういうあんたも、噂に聞けば昆虫界最強だってね?」

「最強じゃなくて最重量。それもこれも、フヨッタと毎日のように遊んでたおかげかもな。でもまだ歩けるあたり、あいつとは比べものにならないな」

「ふふ、そうね……もしかして主人は、太り足りなくて周囲に肥満を撒き散らしていたりして」

「ブッ! 亭主に対してそりゃひでー言い草だわ! まっ、否定はしないが?」

 更に大きくお腹を揺らした俺は、ますます顔が擽ったくなった。

「ささ、中へ入って。外は寒いでしょ」

「心配すんなって。昆虫界のトップだぞ、なんのために脂肪を蓄えてるってんだ」

 俺は慣れたようにジョークを飛ばすと、オクセーヌの案内で家にあがった。

「この写真、あの時のか」

「そう、高校卒業の時の写真。懐かしいでしょ」

「ああ。にしてもあの頃から、フヨッタは別格だったよな」

「ほんとよねぇ。特にあの食堂での事件——」

「あー覚えてるぞ! 確かに『盾矛(=たてほこ)』って番組で勝利した、絶対に壊れない椅子ってやつをあいつがぶっ壊したんだよな。ただあの番組はヤラセとかで終わっちまったし、結局のところ、本当に壊れないような椅子だったのかは不明だよな」

 そんな思い出話に花を咲かせていると、いまやオクセーヌの旦那となったフヨッタの部屋に到着していた。

 彼女のあとに続き、室内へと入った俺。そこには天井に届かんばかりに満ち溢れ、弾力性に優れた物体がでかでかと、この空間内を膨張によって支配していた。

「やぁぁ、ガンボぉぅ、久しぶりぃっ!」

 野太い音が、何かを食みながら聞こえて来た。その声に一切名残はなかったが、目の前にいるのは正真正銘、この家のあるじこと、あのフヨッタであった。

 

 

 

    完


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