遅れ過ぎですがハロウィンネタです。あまり太膨色強くないというか、太ったキャラがいるぐらいですね。
ていうか短編だから1つの記事に収めたかったのですが、あまり書くのが捗らなかったので、とりあえず前編という名目で分けました。
―パンプキンパイ―
10月31日。世はハロウィン一色に染まっていた。様々な生きものの子達が各々の仮装をし、街路に軒を連ねる家々をこう転々する。
「Trick or treat, お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!」
そして家の住民からお菓子を貰うのだ。
そんな中、とある一グループが古ぼけた家の玄関をノックし、同様の決め文句を大言した。暫くすると扉が開き、中からは随分と太った竜が現れた。お腹がぼっこりと出ており、子供達の
仰瞻 では下っ腹の次に顔が見えるほどだった。それに彼らは目を輝かせた。「なんだ?」と竜。
「お菓子だよお菓子ー」
待ち倦ねた子供達が、竹籠を突き出して言った。
「さっさと帰れ」太った竜は素っ気なくあしらった。すると一人の子供が、こう愚痴った。
「なんだよケチー。太っ腹は見た目だけかよお」
「なんだと?」
眼光鋭く、竜は文句を垂らした子供を上から眇めた。子供は蛇に睨まれた蛙のように、恐怖で体を硬直させてしまった。次に竜は、鋭利な牙を剥いて口を大きく開けると
「ガー! さっさと失せろ!」
「うっ、うわぁぁあーん!」
子供達は泣き叫びながら、竜の元を去っていった。
「ったく、目障りだ」と竜は扉を後ろ手に閉めた。だがその直後、再び扉がノックされ、彼は明らかに聞こえる溜め息を漏らして扉をあけた。
「なんの用だ?」
彼の見下ろした先には、一人の小さな兎が立っていた。無言で竹籠を差し出すその子に、竜は呆れた様子で左手を払う仕草をした。
「ほら、早く帰れ」
だが兎は、無表情で竜の顔を見つめていた。どうしたものかと、再度溜め息を漏らして天を仰いだ竜。再び下に目を降ろすと――なんと、そこに兎の姿はなかった。諦めて帰ったか、そう思った竜は、扉を閉め部屋の中へと戻った。
「――なっ! お前、いつの間に入った!?」
室内のテーブルには、先ほどの子兎がちゃっかり座っていた。彼はテーブルの上の料理を指さし、竜を見つめていた。これは何、と聞いているようだ。
「……それは、パンプキンパイだ」
それを聞いた子兎は、今度は料理を美味しそうに見つめた。出来たてなのか、そのパイからは湯気が昇っていた。終始彼は無言だったが、言いたいことは竜にも何となく伝わっていた。
「食べたいのか?」そう竜が尋ねると、子兎はうんと頷いた。竜は「全く」と言いながらも、ナイフでパイを切り分け、その一片を小皿に乗せると子兎に差し出した。子兎は無言でそれを受け取ったが、顔には確りと笑みが浮かんでいた。
「全く、なんで俺がお前に料理をあげなきゃならないんだ」
そんな愚痴を零しつつ、竜も自分の分を小皿に取り分け、子兎と一緒にパイを食べ始めた。だが子兎は、美味しそうにパイを嗜むものの、黙々と何も語らず、笑顔は浮かべているもののただ食べ続けた。これを見かねた竜は、彼にこう言った。
「お前は、何か喋らんのか」
すると子兎は、顔を持ち上げて困ったような表情をした。
ややあって、彼は指を口の前でクロスさせた。
「声が出せないのか?」
竜の問いにこくりと頷く子兎。そして何やら胸元で、指を小さく動かした。それを竜は見逃さなかった。
「なんだ、馬鹿になんかしてないぞ」
子兎はハッとした。そして今度は相手に分かるよう、指と手をはっきり動かした。
「手話が分かって何が悪い」ぶっきらぼうに答える竜だが、子兎は両目を煌めかせていた。まるで希望を見いだしたように、彼はまた手を動かした。
「ここに少し居たいって? 何故だ」
それに子兎は、再び困惑した。何か答えようとしたが、今回は手も語る様子がない。
「……分かった、答えなくていい。好きにしろ」
竜の言葉に、子兎はまた笑顔を取り戻した。
それから二人は、パイを食べ終え、すると子兎が手話でこう語った。
<僕はマオルト。あなたは、なんて名前ですか?>
「俺はアルフェウスだ」
<ねえねえアルフェウスさん。家の中を案内してよ>
竜ことアルフェウスは、天井を見上げて鼻息を漏らした。そして乗り気では無かったが、席を立って子兎ことマオルトを手で招いた。マオルトは跳ねるように彼のあとを付いていった。
部屋中を案内する中、マオルトはあらゆる物を指で示してアルフェウスに尋ねた。彼は物を知らないのだろうか、それとも単に誰かと語り合いたいだけなのだろうか、そうアルフェウスは考えるも、彼の質問には全てちゃんと答えた。
やがて案内を終えると、二人は再びテーブルに着席した。それからアルフェウスは、マオルトに結構高めの甘い紅茶を淹れてあげた。そんな代物を初めて飲んだのか、マオルトは溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
<これ、美味しいね>
「そうか、それは良かった」
続