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突然のデブ

2015/11/29 脹カム

 

 

「ついに、ついに完成したぞい!」

「ついに出来たんですね、博士!」

「ああ、助手である君のおかげじゃ。そしてこれが透明になれる薬——透明薬じゃ!」

「そのまんまですね、博士!」

「しかしのぉ、一つ問題があるんじゃ」

「それはなんです、博士?」

「薬を完成させるのと引き換えに、かなりのカロリーを有してしまったのじゃ」

「どのくらいなんです、博士?」

「100000000カロリーじゃ」

「えええぇぇぇー!?」

「ま、まあ安心せぇ。透明になる際に莫大なエネルギーを消費するからの——実質、1回の使用で体重は10キロの増加で済む」

「いやいや、10キロでも相当ですよね——因みに透明になれる時間はどれくらいなんです、博士?」

「大凡10分じゃ。1分前になったら脳内カウントダウンが始まるからの、事前対策はばっちりじゃ」

「……なんか、無駄に凄い効果がありますね、博士」

 

 

 そんなこんなで、ここは国内最大のスイソ銀行。

「とりあえず、ここまでは普通に来たけど……」

 助手は今、私服の格好で、その手にはあの透明薬の入ったタレビンが握られている。

「予備は持って来たけど、あまり使いたくないなぁ」

 そう言って肩掛け鞄の中をまさぐると、百ほどあるタレビンが擦れ合いガラガラとなった。

(……研究存続のため、やるしかない——もう後ろは振り返りませんよ、博士!)

 研究所で待つ博士に向かい心の中で叫ぶと、助手は手にしていたタレビンを開け、くいと飲み干した。すると彼に接触していた全てのもの——衣服や鞄、はたまたそこに入れられたタレビンがすっかり姿を消した。同時に、彼にはずしっと重みがのし掛かった。

 

 

「はぁ、ふぅ、結構、やっぱり、20キロは重いな」

 スイソ銀行の警備は厳重で、例え透明になりセンサーや監視映像に引っかからなかったとしても、ロックされた扉を通り抜けることはできないし、広い施設内を未見知で進むのは非効率の極みだった。

『残り1分前、59、58、57』

「ああまずい! これで3回目か——仕方ない!」助手は手探りで——透明になった姿は自身でも見ることができないのだ——鞄の中のタレビンを掴み蓋を手の感触であけ、感覚で口の中に薬を注ぎ飲み込んだ。これでも2度目に比べ、摂取方法がだいぶ熟れていた。

「ぐっ、また体が重くなった……早く、金庫に向かわないと」

 

 

「ひぃ……ふぅ……か、体が、重い……」

『残り1分前、59、58、57』

「あ、ああ、まただ……これじゃ、切りがない——こうなったら」

 何度目か分からない経口摂取に嫌気が差し、助手は鞄にある薬を片っ端から飲み干し始めた。

 

 

「臨時ニュースです。突如スイソ銀行に、謎の侵入者が現れました。しかしながら、その人物は異様に肥大化しており、自力での移動は不可能と思われ、一体どのようにしてそこに現れたのか、現在調査を進めておりますが、原因は今のところ不明とのことです」

 それでは、さきほど第一目撃者である警備員にインタビューをおこないましたので、そちらの映像をご覧ください」

『いやぁ、あんな巨漢がもしセキュリティゲートを通ったらすぐに分かりますし、裏口からはあの体じゃ通れないでしょう。一瞬であんな体になるとも思えないし、一体全体何がどうなってるのやら』

「次に、謎の侵入者を捉えた監視カメラの映像をお伝えします。本映像には衝撃的な内容が含まれているため、予めご了承ください」

 再び切り替わった映像の裏で、報道員は全員それに顔を顰めたという。

 

 

  完


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