Foodstuffer なんですが、そろそろ試験版みたいなものを公開しようかなって思ってます。
色々システムを変えたりして以前よりかはシンプルにし、実質残り作業はCPUの調整ぐらいになったんで、完成までは残り僅かでしょうか。
(でも意外に細々としたところを調整したくなったりするんで、そこで時間がかかるかも?)
<登場人物>
ソーシュ Sorsh 臙脂色のシャーカン 男
ペル Pel 紫竜 男
ネイディア(Nadir) 第二章
あの「ダイエット特集 ~歩行困難者編~」に出演し、俺は半年間番組内でダイエットに励んだ。勿論その間は、定期的に会社から支給される食欲減退薬を飲みながらである。しかしおかげで俺の体重は、見事半分の一七五キログラムにまで落ち、番組はそこで幕を閉じた。
今までの中でもっとも時間単位での減量率が高く、そして初めて中途半端な状態での出演終了となった今回。一七五キロとは言え、倍もあった半年前に比べたら断然軽い軽い。一歩一歩踏み出すたびに息切れし、あいだあいだに何か間食しないとお腹が持たず、結局楽してあれこれ食べている内にまた太るというスパイラル。もしそれが実生活だと考えたらさぶいぼものである。
「さぁてと、半年ぶりの出社か。あいつ今頃、どうなってんだ?」
俺はペルの姿をあれこれ予想しながら、お馴染みの異質なセクション、Pセクションのオフィスに入った。すると俺の席の隣には、まるで紫色の巨大バルーンのように膨れた物体が、でんと鎮座していた。
「おぅペル。随分とまた丸まったな」
「あ、ソーシュ、おはげぷぅ!」
「ハハハ! なんだその挨拶は」
「へへ、ゲップが出ちゃった」
ニコニコと嬉しそうな表情を浮かべるペルは、一年半前と然程変わらない体型をしていた。彼は肥満状態(この会社での定義)特有で常に何かを頬張っていた。
「にしても、ほんとにかなり太ったんじゃないのか?」
「うん。今日寮で体重量ったら、三〇〇キロになってた」
「ちょっと待て。つまりお前、半年で倍近く太ったってことか?」
「……そう、だね。前回の番組出演時と同じ状態になっちゃったね」
「すげーな。半年で太れるレベルじゃないだろ」
そう笑いながら、俺もデスクに着いて常備食品を食べ始めた。痩せたのも束の間、この会社にいる限り太り続けなければならない。それが俺達Pセクションの仕事だ。
「でもさ、ソーシュって多分半分ぐらい痩せたよね?」
「ああ」
「半年でそれだけ痩せれるなら、半年で同じくらい太れてもおかしくないじゃん」
「なるほど、確かに言われて見ればそうだな」
ペルの理論に納得した俺だが、一般的に考えたらどちらもおかしな前提である。だがそうした実りのない会話はいつもの通り。俺達は久しぶりの再会で、いつものようにこの半年間について話し合った。大概は、増量側は出社しては太るだけの繰り返しでそれほどネタはないため、会社側が最新の製品や技術、施設などを用意する減量側の方が主体となって喋る。それにペルぐらいにまで太ると、話すだけでも疲れるため――ただでさえ日がな一日口を動かしているわけだし――減量側は聞き手に回るのだ。
それから俺達は、お互いまた自らの肥育に励んだ。やがてやってくる次の仕事に向けて。
だが半年後。充分を遙かに度外して太ったペルに、未だ仕事が舞い込んでこなかった。
「ふぅー、ふぅー」
「なぁペル。お前、まだ食うのか?」
「うん、もっと、ふぅ、ごはん」
ペルは全身の脂肪を揺らし、目の前の常備食品に手を伸ばした。しかしそれも、もう暫くしたら完全に届かなくなりそうだった。
今のペルは、驚異的に太っていた。俺が会社に戻って半年で、彼はなんと一八〇キログラムも太ったのだ! あともう数十キロで五〇〇キロという大台に達しようとしていたその体は、今までにないほど脂肪を蓄えていたため、体の調節がうまくいってないというか、その状態に適応できていないようだった。息はいつも切れた感じだし、何より汗が冗談抜きで終日止まっていない。その分の水分を補うために彼は、一日でなんと数十リットルものジュースや炭酸飲料などを飲み、それだけで成人竜十人分弱の糖分やカロリーを摂取していた。
ここまででかくなり過ぎた彼は、たまにお腹がつっかえて常備食品が取れなくなるため、それを俺が補助していた。しかし、仕事だからとある程度は度外視出来た肥満も、ここまで来ると憂慮を隠しきれない。今の俺だって、三〇〇キロを超えるほどリバウンドしていたが、それでもまだ一年前と比べたら痩せている方である。なのに俺は、今までにないほど自分の体が心配になっている。
だが周りには、少なからず四〇〇キロは超えた社員が増えていた。元々キャリアを積み、何年も肥育に勤しんで最高八五〇キロまで太った社員もいたらしいので、それより半分ぐらいならまだまだ大丈夫だと、俺は心の中で言い聞かせた。
向かいでは、後輩二人が食っちゃべっていた。その内の藍色のホエリアンは、ペルのような呼吸になるほど大きく太っていた。彼は若いながらも、ペルに匹敵するほどの肥満体であろう。実際、仲の良い同僚の黄竜(こちらは筋肉質までとはいかないが確りと絞られた体型)が、彼のあらゆる行動のサポートに当たっていた。起立もさることながら、廊下ほど歩行補助になるものがないオフィスでは、少し歩くだけで疲れるホエリアンのために、黄竜が常に肩を貸しながらでっかい椅子を持ち運んでいた。
幸いペルは、彼ほど経験が浅くないためか今の体でも一応自力で歩くことは出来た。しかし左右に大きく揺れるたびに全身の脂肪もそちらに偏るため、時折バランスを崩しそうになっていた。
「……一体いつになったら、お前の仕事は来るんだろうな」と俺は、やめることの出来ない常備食品を口に含みながら天井を仰ぎ見た。
「ふぅ、分からない。でも、はぁ、もうちょっと食べてたいし、ふぅ、まだあとでいっかな」
凄い食欲だ。痩せることと太ることの両立がこのセクションのモットーなのに、今のペルは痩せることより太ること――ただこれは間接的な意味合いで、彼自身は食べること――の方が天秤の中で重くなっていた。
しかし噂をすればとはこのこと。丁度上司がオフィスに入ってきて、俺の向かいのホエリアンと隣の紫竜をそれぞれ見た。
「うむ、良い感じだ」
すると上司が、その二人を呼んだ。二人はお互いの同僚の助けを借りて立ち上がると、同僚が上司の前に置いた椅子にどすんと座り込んだ。この時点で紫竜もホエリアンも、息をぜえぜえ言わしていた。
「君達の仕事が決まったぞ。今回はちょいと特殊でな、映画の出演だ」
「え、映画ですか!?」
呼吸でつらそうな面持ちながらも、ペルが目を輝かせて言った。
「そうだ。SF映画でな、とある宇宙人の役をして貰う」
「ぜぇ、ぜぇ、ということは、ふぅ、自分らは痩せないんですか?」とホエリアン。
「いや違う。映画の中で宇宙人が更生する話があって、そこで実際に痩せるんだ。普通なら特殊メイクとかで体型の変化を作り上げるんだが、現実味を持たせたいという監督の意向で、君達は撮影を行ないながらダイエットをする。それが今回の仕事だ」
ホエリアンと紫竜は、たっぷりと汗を付けた顔を見合わせ、そしてお互い嬉しそうに頷いた。
こうして、上司の指示を皮切りにようやく、異常なまでに太ったペル達の減量物語が始まるのだった。
続く