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最近また体調を崩してしまいましたが、ポメラの真価のおかげで小説を書けて助かってます。

しかし、今自分の使ってるDM5が1万円台を切っていたのは驚きでしたね。


男 緑竜 ムープ  Moop

 

男 赤竜 ガンヴァ Ganva

 

男 東洋竜 リモウ Limou

 

女 黄竜 ミリース Millies

 

レストリート Restaureet 大型ショッピングモールにある料理店が軒を連ねる道

 


 

 

  ムープの暮らし 7 〜第一年目〜

 

 

「あちゃぁ、300kgオーバーかぁ」

 ムープは繁々と、台秤のモニターを見つめた。そこには数字ではなく「OVER」との表示が。体重計ではないこの秤は今、限度の300kgを超過したことを告げているのだ。そしてその対象となっているのが、台に乗っているムープそのものであった。

 初めは、増え続ける体重と日進月歩する体型に些かの不安はあったが、自分の皮を剥いで時が経ち、彼はガンヴァのような磊落な気持ちを持てるようになっていた。既に定番の衣服であるオーバーオールも数回サイズアップしており、それでも脇からは脇腹がはみ出している。そのためこの測定結果を目の当たりにしたムープは、台秤から降り、それを持って玄関口を出た。

「ふぅ、きっとリモウさんぐらい、太っちゃったんだろうなー」

 とうの昔、といってもまだ一年足らずだが、あの時よりも体重が今や3倍。母国では大変な騒ぎになる所だが、この島ではなんら多大なる影響はない。

 ムープは、家の外に台秤を置いて粗大ゴミシールを貼ると、体重という概念からさよならした。そして週末に配られるファイナーを家の中に運び、内一つをぐびぐびと飲み干した。

「さてと、今日も食べるぞぉ」

 そして彼がまず向かったのは、定番のガンヴァの店。今ではお馴染みのピザセットと倍量のハンバーガーセットを注文すると、美味しそうにそれらを胃に収めた。その様子にガンヴァは頷いて言った。

「最近お前もようやく躊躇わなくなったよな。それでこそこの島の住民だ」

「へへ、ありがとうございます。気持ちが良いんで、今日は少し追加しようかなぁ」

 ムープは久しぶりに、壁に掛けられたお品書きを一瞥した。

「ホットドッグ一本追加で!」

「威勢が良くて気に入った! よし、おまけにタダで倍量にしてやろう」

「ありがとうございます♪」

 やがて現れたのは、なんと長さ30cm、直径5cmもある巨大なホットドッグだった。ケチャップやマスタードもソーセージを覆いつくすほどで、ムープは平均竜(この島で平均というのは通用しないが)でも取り過ぎ過ぎるほどのカロリーを摂取したあとでも、その重量感たっぷりのホットドッグに目を光らせた。そしてたぷんたぷんに膨らんだ頬を押し広げ、それを豪快に丸齧りした。ぶちゅりとケチャップとマスタードが溢れ、手の甲に落ちたりほっぺに付いたりし、それを彼は綺麗に舐め取った。

「あー、美味しかった。げふっ」

「ガハハハ、良く食ったな」

「あのパーティー以来、なんか吹っ切れちゃった見たいで」とムープは、たっぷりの脂肪を蓄えたお腹を軽く数回叩いた。

「それじゃガンヴァさん、ごちそうさまです」

「あいよ。また明日も待ってるからな」

 それからムープは、いつものショッピングモールへと動き始めた。

 

 

「はぁ、はぁ、最近、疲れ易くなっちゃったなぁ」

 額から吹き出る汗を拭いながら歩くムープ。結構前なら羽を動かし風を送ることも出来たが、もはやそれをまともに動かせなくなり、尻尾さえ揺らされているに過ぎない状態の現在は、ただただより一層熱を籠らせる体に耐えるしかなかった。しかしこの問題も、今や重視していない。何故なら彼以上の巨体がまだまだわんさかといるこの島では、所々に頑丈で特別なベンチが設置され、それらはなんと冷気を発するのだ。だから以前と違い数分で、一度でショッピングモールに行けなくなったムープでも、涼みながら休憩を挟むことが出来るのだ。

 彼は数回それを行ない、10分かけてショッピングモールへと到着した。そして中に入るや否や、早速レストリートのクレープ店に向かった。

「あらいらっしゃい。今日もいつもの?」

 店員のミリースは質問しつつ、手はもう動いていた。

「はい」そう返事をしたムープは店前のベンチに座り、モール内に効いた冷房で火照った体を冷やした。やがてクレープ群が完成すると、ミリースはそれらをムープの元へと運んだ。出来上がったクレープは、締めてなんと5つ。しかもどれもこの島ならではのサイズ。果たしてこの時点で彼は成人の何倍、十何倍のカロリーを摂取するのか計り知れない。だがそういった心配も、完全にここの島民となったムープには関係の無いこと。彼は美味しそうにモグモグはぐはぐとクレープを食べ進めた。

「うふふ、あなたって本当に幸福顔ね」

「えへへへ、そういって貰えると嬉しいから、おかわりしちゃおうかな〜」

「そしたら喜んで作るわよ」ミリースは笑顔で答えた。

 結局ムープは、ここでも追加注文をした。

 

 

 クレープを完食したムープは、暫しそのままのベンチでゆったりとした時間を過ごした。そしてモール内で12時を告げるチャイムが鳴ると、彼はよっこらせと重たい腰を持ち上げ、行き付けとなったあるに入店した。

「おお、いらっしゃいアル! 今日も満漢全席いくカ?」

「はい。でも昨日それじゃ物足りなかったんで、追加でチャーハンをお願いします」

「ハッハッハ、ムープは我よりも大食いアルね!」

 笑いながらリモウは、厨房に注文票を届けた。やがてムープが着席したテーブルには、これでもかと大量で多くの料理が運ばれてきた。そもそもこの店の満漢全席とは、一番の大食漢である店長のリモウが限界と感じる量の料理を提供するものであり、元はその彼が祝い時にたっぷり食したいと、自らの為に用意した料理群なのである。それに対しムープは更に料理を追加し、それは即ちリモウを超えたと同意なのである。

 油こってりの料理達、それらをムープは美味しそうに平らげていく。リモウはその光景を満足そうに眺めつつ、相変わらずの食いっ気を示す量の昼飯を頬張っていた。

 そして……

「うーん、さすがに追加はきつかったかも——うっぷ!」

 ムープはお腹を摩り、オーバーオールの脇から朝よりもはみ出た脇腹がぷるんぷるんと微震した。

「我には到底無理な量ネ。ムープには感心するアルよ」

 そしてリモウは、ぱつんぱつんに張ったオーバーオールの胸当ての上から、躊躇無くムープの腹部を叩いた。

「あはは、なんか照れちゃうなー」

 そんなこんなで、ムープは心もお腹もいっぱいいっぱいにこの店を出ることが出来た。

 

 

 以後のムープの行動と言えば、普段通りである。行きと同じように合間合間歩道で休息を入れながら自宅へと帰り、あとは平和なテレビを見ながら間食して昼寝をし、目覚める頃には空腹から、お得意先のバーグバーグにデリバリーを頼んだ。ただそこでも、普段より一品多く注文をした。

「ピンポーン」

 呼び鈴が鳴り、ムープは待ち侘びたとばかりに重い体をどすどすと玄関まで歩かせた。

「どうもバーグバーグです。毎度ありがとうございます」

 いつものように料理はテーブルに置いて貰い——実は動けない人など用に配達員が食事処まで料理を運ぶサービスがあり、それにムープも今では甘んじているのだ——そしてムープはカードリーダーにマネーカードを翳した。すると、普段とは違った音がそこから聞こえた。

「ありゃ、ムープさん、残金がマイナスになりましたよ」

「えっ……」

 いつもと違う状況に、ムープは久しく無かった戸惑いを覚えた。だが宅配員は、慣れたようにこう伝えた。

「ではムープさん。明日朝にでも役所に電話しといて下さい」

「電話、ですか?」

「はい。月に支給されるお金が足りない場合は、役所でその金額を増やせるんです。電話すれば役員が来てくれるので楽ですよ」

 そして宅配員は、ムープの家を去って行った。

(そういえば、お金が不足した時のことは何も考えてなかった。それほどお金を使ってたのかぁ……)

 そんな風に驚いていたムープ。けど今の彼には、その憂慮もすぐに消え失せた。

「それにしても支給額を増やして貰えるなんて、しかも役所まで足を運ばなくても大丈夫だなんて、やっぱりここは良い島だ、うんうん」

 猜疑心なく暢気に彼は独り言を漏らすと、注文したバーグバーグセット(60×30×5cmのハンバーグと5つ分の蒸した皮剥きジャガイモが入っている)をなんと4セット、気楽に食べ切ったのだった。

 その後はまた間食しつつ、スリープタイマーをセットしたテレビをぼーっと惚けながら鑑賞し、ソファーの背凭れを下げてフットレストを上げると、両脇に大量のお菓子とジュースを抱えたまま、大鼾を欠いて眠りについた。

 

 

 翌朝。起床後すぐにムープは役所に電話を入れ、支給額増額の旨を伝えた。すると十分後にそちらに伺いますとの返答があり、彼は家でファイナーを飲みながらそれを待った。

 やがて家の呼び鈴が鳴らされ、ムープは玄関をあけた。するとそこには、ぱつぱつのスーツに身を包む汗だくの白竜が立っていた。それはそれは相当の肥満っぷりで、脇に抱えたセカンドバッグが単に脇腹に乗せているように見えるほど。体格は今のムープ以上で、あの黒竜に相当していた。

「ムープさんですね。ふぅー……えっと失礼ですが、ソファーか何か借りても?」

「あ、はい、良いですよ」

 ムープは、自分の寝床の脇にあるもう一脚のソファーに役員を案内した。役員は気兼ねなくドスンとソファーを沈み込ませると、ベルトが巨腹に食い込み、押し出されたお肉がそれを覆い隠してしまった。

「ふぅ、申し訳ないですが、えっと何か飲み物ありますか?」

 役員の要望に、ムープは冷蔵庫から未開封の4Lペットボトルジュースを取り出した。それを役員に差し出すと、彼は豪快にぐびぐびと、一気にジュースを空にした。

「ぷはぁー、ありがとうございます。えっとそれで増額の件ですよね。ふぅ、ムープさんの使用金額レベルを見ますと、とりあえず支給額は2倍で大丈夫かと」

 そして役員は、セカンドバッグからカードリーダーを取り出した。

「えっとここにカードを翳して下さい」

 ムープは言われるがまま、そこにマネーカードを翳した。すると「ピロリン♪」という音と共に、リーダー部分から「完了」という文字が表示された。

「はい、ありがとうございます。えっと差分のお金もチャージされましたので、ふぅ、またいつも通りマネーカードは使用出来ます。それでは」

 そう言い終えると、役員は少しもがきながら立ち上がった。余りの呆気なさに、ムープは少々焦りながら聞いた。

「も、もう終わりなんですか?」

「えっとはい」

 そして役員は、訪問時からふぅふぅと常に息を荒くしたままムープの家を出て行った。その様子に「大変そうだなぁ」なんて思いつつ、ムープはすぐに頭を朝食のことに切り替え、ガンヴァの店へと向かった。

 ファイナーで元気な一日。更にボーナスが入ったような気分になったムープは、昨日より更に一品多く料理を食べようと決意した。序でにきつくなり始めたオーバーオールも新しく買おうなどと、本日の彼は一段と陽気になっていた。

 しかし前日は既に普段より一品多かったため、平常時と比べると今日はいつもより二品多く食べることになる。そのため当然の如く、食後の膨れたお腹に齷齪したのは言うまでもない。だがその顔には、いつもの満ち溢れた感情が表れていた。

 

 

  続く


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