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太膨オブジェクト(オムツ)を前回述べましたが、あと杖も良いですよね。杖を使わないとまともに歩けない体——良い太り具合です。

 


固有名詞

男 緑竜 ムープ  Moop

 

男 赤竜 ガンヴァ Ganva

 

 

レストリート Restaureet 大型ショッピングモールにある料理店が軒を連ねる道

 


 

 

ムープの暮らし 〜第一月目 午前〜

 

 

 目を覚ましたムープ。時刻はいつものように10時で、片手には空のお菓子、もう片方にも空のコーラが抱えられている。そして前方には、少しせり上がったお腹が見える。

「……はぁ、また太っちゃったかなぁ」

 その時、家の前でがたんと何かが置かれる音がした。ムープはソファーのリモコンを操作して背凭れとフットレストを元に戻すと、立ち上がって玄関をあけた。

 脇に、ペットボトルが7本ケースに入れられていた。ラベルには「島特産の元気印! ファイナー」と高々銘打っている。

 実はこれ、この島の住民達なら誰でも飲むもので、週末に役場から無料で届けられるのだ(しかも常温OK)。

「そういえばこれ飲むと、本当に元気になるなぁ」とぼそり。事実この島に来て体調が(=すこぶ)る良いことは前にも言ったが、それが島の環境のおかげかも知れないが、思えばこのファイナーのおかげかも知れない。

 ケースの中身を家に持ち込んで手の届く範囲におくと、内一つを半分ほど飲んでからマネーカードを首に下げ、いつものガンヴァの店に向かった。

「よっ!」

 相変わらず粋がよいガンヴァの挨拶に、ムープもそれ相応に答えた。

「今日はピザセットをお願いします」

「あいよ」と、いつもの調子でガンヴァは直径45cmの大きなピザと、ハンバーガーセットにも添えた太めのポテトを二十本ほど揚げ、ピザと一緒の大皿に添えるとムープの座るカウンターに置いた。

「いっただきまーす」

 ムープは嬉しそうに大皿の料理を食べ始めた。いつものようにこの量(何度も言うが島では普通弱程度だが)を完食するペースで、もぐもぐと口に1ピース1ピースピザを運びながら、あいだにポテトを挟んでいった。

 だがしかし、ポテトを半分、ピザを4分の3平らげた所で、彼の手が止まった。その異変にガンヴァは、

「どうした?」

「……なんだか、胃が凭れたような感じがして……」

「珍しいな。今日届いたファイナーは飲んだのか?」

「はい」

「んまっ、無理に食わんでもいいぞ。代わりに俺が食ってやるからな」

「えっ、でも良いんですか?」

「なーに、金を払ってるのはそっちなんだから、寧ろ特だろ?」

「あ——はは、確かにそうですね。すみません、じゃあお願いしても良いですか?」

「勿論だ。それと体が気になるんなら、一度病院で診て貰えよ」

「はい。ありがとうございます」

 ムープはやや体調悪そうにしてマネーカードで清算を済ますと、店を出た。

(ズボンがきついなぁ。最近急激に太ってきちゃったみたいだし、一度診察して貰おうかな)

 

 

 病院はショッピングモールの隣にあるが、ムープは今回初めてそこを訪れた。中に入るととても広々としていて、カウチはどれも特大。設置間隔も広めで、そこに座る島民も当然のようにでかい。母国の肥満病院よりも迫力があるかも知れない。

「初めまして。あなたは初診ね」

「えっ、どうして分かったんですか?」

「ここに来る患者の顔はみんな分かりますよ。じゃっ、ここにマネーカードを翳して」

 ムープはリーダーにカードを翳した。付属の液晶画面には自分の名前や住所などの個人情報が表示された。

 これは支払いとはまた別である。マネーカードは、携帯電話と似たような進化を遂げているのだ。初めは本当にお金の機能だけだったが、利便性を兼ねて今では身分証の機能もはらんでいるのである。

「それで、今日は何処が悪いの?」

「胃が凭れてるみたいなんです。いつもより食欲もなくて……今朝はファイナーも飲んだんですが」

「なるほどね。じゃあ席で待ってて」

 ムープは、あいた席に適当に座った。目の前には、とても大きな黒竜が座っていた。ふぅふぅと鼻息が荒く前屈みで、背中は汗でびっちょりだ。その様子が心配になったムープは、ちらりとその人を肩越しに覗き見た。刹那、黒竜がバタンとカウチに凭れた。

「あーだめだ! やっぱボタンが締まんね。諦めっか」

 次に黒竜は、脇に置いていた袋からハンバーガー(サイズはガンヴァの店と同じだ)を取り出し、平然と食べ始めた。後ろからでは大きなお腹で見えなかったが、どうやらズボンをちゃんと穿けてないらしい。

 袋の中身を窺ってみると、そこには少なくともハンバーガー3つ分の包装紙が捨てられており、まだ1つが中に残っていた。それだけ食べればズボンも萎えるよねと、ムープはホッとした表情で席に着いた。

 黒竜の食む音、荒い鼻息とすごい熱気が伝る中、誰かの名前が呼ばれた。それは黒竜だったらしく、彼は食べかけのハンバーガーを袋に戻すと、立ち上がるのがやっとな感じで、歩くのも辛そうに診察室に入った。

 その後ろ姿に圧巻されつつ、今度はムープの名前が呼ばれた。彼は指示された番号の診察室に入り、ここで更なる衝撃を受けた。

「ふぅ、こんにちは。君がムープだね」

 少し息を乱している診察医。なんと医者までもがぶっくらと肥え太っていたのだ! 確かに母国でも太った医者はいるにはいたが、まさかここまでとは——もう少しで先ほどの黒竜に達しそうだし、着用してる白衣は汗で湿ってるだけじゃなく、ピザか何かの食べ滓がくっついていたのだ。

 ちらりと診察医のデスクを見る。奥に、ピザ箱がなんと5つも積み重なっているではないか! しかも恐らく一番上の以外は空箱である。これでは別の意味での肥満病院だねと、ムープは密かに思った。

「さてと、ふぅ、今回は胃が凭れてるんだって? それに食欲もないと」

 診察医の言葉にムープは頷く。

「ファイナーは食事前に飲んだのかい?」

「はい」

「私の研究では、ファイナーがあらゆる面で健康を大きくサポートしてくれることが分かっている。きっとこの島に来たばかりで胃が吃驚しているのだろう。

 胃のお薬を出すから、まずはそれを飲んで見なさい。それでも駄目なら電話してくれ」

 そしてあっさりと問診は終了。これで大丈夫なのかなと、早急(=さっきゅう)にピザを1ピース頬張る診察医を背に、ムープは憂いながらも診察室を出た。

 会計後、処方された胃薬を手に彼は自宅へと帰ることにした。

 

 

    続く


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