イアート Iaht
雄鯨 コハト 俺 →???kg
雌海豚 セリズン 私 →???kg
雄犬 レトワール 自分 →???kg
雌鷹 ルーパー あたし →???kg
雄蜥蜴 フォッシル 僕 →???kg
ルーパーがリビングに入ると、そこにはいつもの三人掛けソファに、フォッシルがずどんと深く凭れ掛かっていた。だが彼女のしてみれば、そこにある変化が歴然としていた。
半年前、三人掛けソファには、幾分か隙間があった。だが今は、まったくもって隙間がなかったのだ。彼の体は、三人掛けのソファにみっちりうまっており、そして腕を乗せるために広がった脇腹が、ちょうど肘掛に乗っており、そろそろ前からでなく、横からも彼の体の一部が食み出ようとしていたのだ。勿論前のお腹にいたっては、大開脚したあいだから、まるで前面についてしまったコハトの鯨の図太い尻尾のように、目の前のテーブルの下にまで潜り込んでいたのだ。
そんな彼の姿に、衝撃を受けつつも、今の彼をどう手助けするのかしらと、ルーパーはなぜか期待し始めていた。
「お昼ごろに戻ると思ったから、食事の準備をしておいたわ」とセリズン。
「おお、本当か。気が利くじゃねえか。ちょうど俺達、飢え死にしそうだったんだ」とコハト。
「嘘仰い。あなたの体なら、食事をしなくてもどれだけ持つことか」
彼女は笑いながらそういって、ルーパー達三人がいつもの席につくと、ワゴン車で大量の食事を持って来た。たしか昔は二台だったはず——けど今は三台に増えたことに気付きながらルーパーは、次々に置かれる料理に目を向けた。前と同じ肉の串刺し料理のサテにタピオカ入りココナッツデザートのサークー・ガディ、さらにピザとドーナッツに、あとはなぜか、ジャイアント・ベビーたちが好きだといっていたペッ・ヤーンとココナッツジュースまでもが、何キロ、何リットルも用意されていた。
この料理は初めて見るわねとルーパーは思い、こう言った。
「また料理の種類が追加されたんですね」
「ああ、これね。まあそうなんだけど、本来は昼食に、フォッシルとかが食べていたものなのよ」
「じゃあ、なぜここに? ……ああ、今は昼ですものね」
「そういう理由もあるんだけどね。もう三人は、カフェにはいかないのよ」
するとその理由を、コハトが説明した。
「つまり、それがルーパーの国にフォッシルがいけなかった理由なんだよ」
ルーパーは、フォッシルを見すえ、聞いた。
「……もしかして、あんた、太り過ぎで動けなくなっちゃったの?」
「あはは、違うよ。一応まだ動けるよ」
「じゃあどういうこと?」
「もう疲れちゃうんだ。この家の中を歩き回るだけでも精一杯でさ」
「あー……まあどちらにせよ、殆ど動けないってことね」
「まあねえ——とにかくさ、その話よりご飯たべようよ。お腹空いちゃった」
それにコハトは、大きく笑って答えた。
「お前、俺達が旅行から帰って来てへとへとだって言うのに、なんて家でくっちゃねしてるお前も腹減るんだよ」
「だって、このお腹だし」
そういうとフォッシルは、腰であろうか、そこを左右に揺らしたのだ。体がでかすぎ、その軌跡は小さいものだったが、その揺れが共振を起こし、腰の上に乗ったお腹が、まるで地震の際に皿を重ねた時のように、上に行くほど大きく左右にゆれ、軽快な脂肪ダンスを披露したのだ。
それを止めると、少し揺曳を残して、彼のお腹の揺れは収まり「あー、またお腹が減っちゃうよ」と最後に締めくくった。
ルーパーを含め、他の四人は大爆笑した。
「はっはっは! うっし、それじゃあそんな食欲魔人のために、さっそく飯でも食うか」
そして五人は、料理を食べ始めた。ルーパーは、自分もそうだし、セリズンも太ったためか、以前よりせまくなった三人掛けソファで、楽しく食事を始めた。この時ばかしは、自然と食べ過ぎてしまうが、それでも今の彼女にとっては、仕事のことを一切忘れさせるほど幸せだった。
さらに彼女を悦に浸らせたのが、フォッシルのもがきだった。一生懸命前の料理を取ろうとするが、もはや一番手前にある料理にようやく手が届く程度。それ以外は、必死になって腕を前に伸ばして「ふん、ふん!」と頑張るさまが、彼女には可愛くてしかたがなかったのだ。だから少しそれを観賞してから、彼のそばに寄り添って、料理を手前に持ってきてあげていたのだ。
恐らく、五十人前以上はあったであろう全ての料理を完食したコハト家は、立派に張ったお腹を全員で摩りながら、時折げっぷももらして、満腹感に浸った。
フォッシルもそうだが、コハトやレトワールも随分と太ったわねと、そんな中ルーパーは思った。全員を一瞥すれば、昔とは違うことが明瞭である。レトワールは、前々から肉エプロンができていたが、今じゃフォッシルのように、脇腹には大きな谷間がいくつもあり、胸なども、まるで女性よりも特大な鏡餅のようになっており、腹部も地面に接していた。そんな体からか、徒歩で帰宅した際に出ていた汗も、今なおでており、全身の毛が濡れそぼっていた。
コハトもコハトで、当然のごとく腹の肉が地面の到達。体の大きな種族でありながら、位置的に側面の姿が見えるルーパーは、大きく前に突き出たお腹にある縞が肉の渓谷に沈んだりするところを見て、びっくりした。前から見れば、お腹が垂れればそのように縞の線が途切れるのはある。だが脇からも、こんなに線がぐにゃんぐにゃんになるなんて、それほど脂肪がついたのであろう。
そしてとなりにいるセリズン。初めはぽっちゃりというかふっくらしたなあと思っていたが、もしかしたらそんなものじゃ済まないかも知れない。大体周りが太過ぎて、彼女の肥満が隠れてしまっている。だがようく見れば、肉付いた頬、女性らしいくっきりした体の稜線も、身に付いた脂肪が崩し始めているところは、昔恐れていた三桁の体重を彷彿とさせた。
「そういえば、確かに年始に体重測定とかするんでしたよね?」
つい我慢できず、ルーパーがそう口を開いた。
「ん、もしかして自分たちの体重が気になるのか——いや、ルーパーの場合は、やっぱりフォッシルかな?」と相変わらずの微笑で彼女を見るレトワール。
「そう、ですね。だってこんなに太った姿、あたしの国じゃもうありえないぐらいですもの」
「そうだな。まあいくらかはいそうだが、ここまで太りゃ、いくら肥満大国と呼ばれようとも、突出した存在だよな」
そういってコハトは、セリズンに目を配った。
「えっ、私も言うの?」
「そうさ。ここは全員で、順番に言おう。フォッシルは最後な」
フォッシルは、うなずきながら、弛んだ顎の肉で顔を沈ませた。もはや首が隠れるほどついた胸肉と顎肉に、頭を下げるだけで顎肉が前に広がり、それを前から見ると、顔が沈んだように見えるのだ。
「こほん——それじゃあ私からね。私は運良く、体重は95kgで収まったわ」
「それじゃあ、あの3桁にはいかなかったんですね」
「ええ、幸いね」
でもこれなら、確実に来年は3桁だろうなとルーパーは思った。
「自分は275kg。以前よりも体重増加は減ったが、でもまた太ったのは代わりないな」とレトワール。
「俺は390kg。そろそろ400kgに突入しそうだな」とコハト。
「僕はね、600kgだって言われた」
6、600kg? それじゃあ、下手をしたら動けないじゃないの、とルーパーは驚いた。まあ彼の体を見ればそうとは思えるが、実際の体重を聞けばいっそう驚きは増した。
「でもあんた、よくそれで家の中を動けてるわね」とルーパーはたまらず言った。
「うん。でも色々と大変なんだよ。特にお風呂は大変」
「お風呂?」
その質問に、コハトが代わりに答えた。
「正直、俺でもそうなんだよ。今まではさ、一人で風呂に入ってたけど、レトワールはまだいいが、俺ぐらいになると、もう体を洗い切れなくなりそうなんだよ。なんとかタオルをこの腹の下にくぐらせたりして洗うんだが——」
そういって彼は、フォッシルの体を上から下に眺めた。
「あんなに体に幾重にも重なりがあったら、一人じゃ手が届かないだろ? 臍が届かないのは良くあることが、フォッシルの場合、もうお腹にすら手が届かないような状態なんだよ。さっきの食事の時に見ただろ?」
「え、ええ。じゃあいつも、誰が体を洗ってるの?」
「俺達で交替してやってる。一昨日は俺、昨日はセリズン。だから今日はレトワールが、洗う番なんだ」
するとレトワールは、その大変さを物語るような目つきで口調で言った。
「だけど、それも結構大変なんだぞ? セリズンはまだいいとしてさ、俺達もこんなデブだから、体を洗おうとしても、お互いのお腹がぶつかりあって大変なんだよ。しかもだ、フォッシルの垂れたお腹を持ち上げながら隙間に手をいれて奥まで洗おうものなら、汗だくものさ」
「ご、ごめんなさい……だったら僕、頑張って一人で体を洗うよ」とフォッシルは、申し訳なさそうにいった。
「気にするな。それぐらいは、俺達もちゃんとしてやるさ——何せデブ同士、汗の大変さは分かってるから。それにさ、意外とお前のお腹を持ち上げる時、感触がぷよぷよしてて気持ちがいいんだよ。あんまり他人の脂肪ってさわったことがないから分からないが、結構楽しいぞ」
コハトのハキハキとした言葉に、レトワールが特ににやにや顔で、彼に言った。
「おいおいコハト。お前にそんな趣味があったとはな」
「なんだ? 何か勘違いしているようだが、お前もフォッシルのお腹を揺らして遊んでただろ」
「ちっ、ばれたか」と笑って返すレトワール。コハトも笑い、そしていつものように笑いは、周りのも伝染した。
「でもルーパーがここへ住むようになって助かるわ。これからはさ、フォッシルを風呂に入れるときは、二人掛かりでやろう。そろそろフォッシルも、一人では洗いきれなくなったからな」とコハト。それに続いてセリズンも言った。
「そうね。彼のお腹を持ち上げる係が必要だものね。そしたら、どうグループを分配する?」
「俺はお前とやろう。ルーパーは、レトワールと一緒に組んでくれ」
「分かりました」とルーパーは答えた。
こうして、昼食タイムは終わった。それからはいつもどおりで、唯一違うのが、今や常にあの大巨漢三人衆が家にいることである。そして彼等は、食後もドライフルーツやドーナッツなどを貪ってテレビを見たりし、特にフォッシルにいたっては、それだけでは足りないのか、時折三人前の冷凍食品をセリズンに作ってもらい食べていた。これでは、600kgまで太るのも不思議ではない。寧ろ1tに到達日も近いのではと思わせた。
そんな中で、ルーパーはいつものようにセリズンの料理の手伝いをしていた。だが途中で、彼女はルーパーにこういったのだ。
「それじゃあ、そろそろお願いしようかしら」
「えっ、お願いって?」
「フォッシルのお風呂の手伝いよ。ほら、次はレトワールだから、今日からは二人組で、チームのあなたもやるんでしょ」
「食事前に、お風呂ですか?」
「昼にも話にあったけど、フォッシルの体を洗うのは大変なのよ? だからみんな、そのあとお腹が空いちゃうの。だからお風呂のあとに夕食を取るようにしてるのよ」
ルーパーは納得した。するとまるで彼女達の会話を聞いてか、レトワールがテレビを見るのをやめ、ソファーから立ち上がった。
「んじゃ、ルーパーは、やるとするか」
「はい」
「それじゃあまず、フォッシルを起こすぞ」
「えっ?」とルーパーは、一瞬その意味が分からなかったが、レトワールに手招きされ、フォッシルの元に近寄った。
「それじゃ、彼の手を掴んで」
ルーパーは、両翼でフォッシルの片腕を掴み、反対側をレトワールが掴んだ。
「んじゃ、一二の三でいくぞ」
『一、二——三!』
三の言葉と同時に、勢い良く腕を引っ張る二人。それに答えるように、フォッシルも足腰に力をいれ、体を前に倒すと、ゆっくりと、力み声をあげながら、どうにか立ち上がったのだ。
「ふぅーーー……ありがとう、二人とも」
「え、ええ……もしかして、もう仕事は始まってるのかしら?」
「そういうことだ。よし、それじゃ風呂場に行くぞ」
一度立ち上がれば、赤ん坊のような足取りではあったが、えごえごとどうにか風呂場まで自力で歩いたフォッシル。立ち上がった際に出ていた汗は、歩くときにはもっと出て、風呂場に着く頃には、もはやぜえぜえと息を切らしていた。
風呂場には、石で作られた腰丈ほどの段があった。そこにフォッシルにはどすんと腰を下ろすと、汗をぽたぽたと垂らした。それを心配するルーパーだったが、逆にそれは、彼女に母性本能を目覚めさせた。
「ねえ、レトワール。あたしが体を洗ってもいい?」
「ああいいとも。力仕事は男の自分に任せな」
そういって、レトワールは用意した泡立たせたスポンジをルーパーに渡した。彼女は、彼に指示されたとおり、まず渓谷になっていない頭と足を洗った。その後、彼はフォッシルの谷間の両脇に手を突っ込むと、それを「ふん——ぐぅ!」と持ち上げた。その隙に彼女は、その中に腕を突っ込み、ごしごしとフォッシルの体を洗い始めた。
それが終わると、同じようにしてまた別の持ち上げられた谷の奥を掃除して、脇下と胸、脇腹と腹と、腹部だけでも四つの渓谷を掃除した彼女。更に背中にある谷間も掃除し、次に腕と脚を掃除した。あまりにも脂肪が付き過ぎると、腕や脚までも沈み込みが発生する。関節部は勿論そうだが、そういうところでない部分も、まるでスライムをくっつけたかのように、でろんと下に垂れ下がった肉の塊ができ、新たな渓谷が出来上がるのだ。
そういう部分もしっかりと洗うルーパー。それを見てか、レトワールはたまらずにやけ顔をこぼした。
そんな中、ついに体を洗い終えたルーパー。最後に、水洗いをせず、泡立った部分をバスタオルでそのまま拭き取って、フォッシルのお風呂を終わらせた。
「ごめんねルーパー。本当にありがとう」
するとルーパーは、まるでやり切ったあとの清々しい表情を浮かべながら、こう答えた。
「ふぅ、いいのよ。それにコハトの言うとおり、結構あなたの体って、ぷにぷにしてて気持ちが良かったわ。それに体を擦るたびにお肉が揺れるなんて、なんか愛嬌があるわね」
「あはは。そういってもらえて嬉しいよ」
笑みを浮かべるフォッシル。その顔は、痩せていた時に比べて断然明るく、膨らんだ頬の肉を思わず突っついてしまった。ぷよんとゆれる彼の頬に、彼女はいつのまにか、彼の虜になっていた。
こうして、ルーパーは幸せな環境を手に入れたのだった。初めは色々と問題があったりとかして、悩んでいた。だがきっと、フォッシルと同じような偶然に、今ではこれが自分の生きる道だと悟ったのだ。
やがてルーパーは、毎日フォッシルの体を洗うようになった。お腹を持ち上げる係だけをコハト、セリズン、レトワールに代わり番こさせ、ルーパーは、とにかくフォッシルのために合い(愛)の手を差し伸べてあげた。するとそれに答えるかのように、フォッシルは躊躇うことなく、多くの幸せを孕んだ自らの脂肪体を膨らませていった。