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どうも、いまだに暴走中の自分です(爆 勢いでかけたらさらにもう一つ書きます。


イアート Iaht

アサイリーマ Acirema

ネイパージ Napaj

雄鯨  コハト     俺

雌海豚 セリズン   私

雄犬  レトワール  自分

雌鷹  ルーパー   あたし

雄蜥蜴 フォッシル  僕


<キーンコーンカーンコーン……>

 チャイムがなった。これで昼休みになる。そう思った瞬間、フォッシルはすぐさま席を立ち、真っ先に食堂へ向かった。

 そして、いつものハンバーガー店に赴くと、定員はなれた口調で言った。

「今日もダブルバーガーセット3つと、シェイクのXL2つでいいかしら?」

「それとパンケーキも6枚で!」

「はいはい」

 店員は、呆れるのも飽き、普通にその注文をした。ただ一人の雄蜥蜴が食べるというその驚きも、もうなれっこであった。

「よっ、デブッシル。今日も食ってるか?」

 後ろから、悪餓鬼どもが声をかけてきた。一年前まで、内気だった彼にちょっかいを出していた彼等は、今太っている体のことについて、ちょっかいを出していた。

 だが昔とは違い、フォッシルは彼らの言葉を、別段気にすることもなかった。無視したあとも、次にどんなことを言われるのか気にしたりもしなくなっていた。

 やがて、フォッシル用に用意された特大のお盆には、四、五人前はある料理が運ばれて来た。彼はそれを手にすると、いつものように一番に、食堂のテーブルについた。そしてすぐさま、豪快にハンバーガに噛り付き、そしてそこに鷲掴みのポテトをさらに口に含め、それを一気にバニラシェイクで流した。彼の一日の食事には、もはやどの食べもの飲み物にも、甘さか脂っこさしかなかった。

「……ねえ、フォッシル?」

 すらりとした雌鷹ルーパーが、フォッシルの向かいに、いつもの野菜料理を置いて着席した。それにフォッシルは、口をもごもごとさせて「なに?」と答えた。

「あんたね、これからどうするのよ?」

「——んごく——これからって?」

「勉強もろくすっぽしないで、居残りもしないし、あんた、一体何やってるのよ?」

「ここで間食してる」

「ちょ……こんだけ食べて、まだ三時に何か食べるの?」

「いつもはね、ここにクレープ屋の全種類食べてる」

 ルーパーは嘴を閉じられなかった。全種類とは、十種類。即ち彼は、おやつにクレープを十個も平らげているのだ。

 だからこんな体になるのね——ルーパーは彼の、醜く変貌した体を上から下まで眺めた。

 彼の体重は、一年と一ヶ月前、ちょうどホームステイする前の時は、50キロと、身長や種族を考慮して痩せだった。それが、その後の一ヶ月後、ホームステイで帰還した時に行なった検査(感染症にかかってないかとチェックする)で、体重がなんと65キロになっていたのだ。たったの一ヶ月で15キロ、これは異常だと医者に言われたが、本人は全然気にしていないようで、このままいけば単純計算で、一年で180キロも太ってしまうことになる。

 しかしその時の彼女は、きっとホームステイ先か国が悪かったのねと思っていた。実際彼女がホームステイしたネイパージでは、ここアサイリーマよりも全体的に痩躯であり、彼女も一ヶ月で3キロも体重が落ちていた。それからこうやって、向こうで培った野菜料理の舌で、肉料理から離れられたのだ。

 だが、現実はそうではなかった。帰還後のあの食欲、まさかあのまま続くとは——幸い彼が訪れたイアートよりは、食べ物のカロリーが低かったのかも知れないが、それでも彼の体重は、一年でなんと120キロも太り、今や185キロという大巨漢になってしまったのだ。

 太るたび、彼の服のサイズがどんどんと変わり、このままいけば、来年には300キロを突破してしまう。

 ネイパージではそれはもう異常で、国全体として見ても、見かける確率は、宝くじの高額当選を当てるに近い。アサイリーマでは、実はちょくちょくいて、その倍の体重も時折見かける。

 しかしながら、ここにはある重要な要素がある。それは、フォッシルが「高校生」だということだ。高校生で185キロともなれば、ネイパージの国人にまで範囲を広げたぐらいの確率の少なさだ。そしてこの高校では、一番に近い痩躯の持ち主が、今では高校一の大肥満となっていたのだ。

 その変わり様に、周りは度肝を抜かれた。先生もそうだった。だがこの食堂にジャンクフード規制がかかってないように、健康に気遣うかどうかの判断は、個人に委ねられている部分があるため、先ほどのいたずらっ子がからかったり、口々に噂する程度にしかならない。

 それでも、周りの人達に陰口も叩かれれば、痩せようなんて思う。だがフォッシルは、昔の彼とは違い、こせこせとしない性格になっており、それはそれでいいのだが、体型のことも気にしなくなってしまっていた。

「……どうしたんだい、ルーパー?」

 口にパンケーキを含みながら、フォッシルが彼女に尋ねた。いつの間に彼は、ダブルバーガーセット3つを食べ切っていた。

 彼女はため息をもらし、首を横に振ると、彼よりも断然軽い腰を、重々しく持ち上げて去って行った。それを軽く目で追ったフォッシルは、デザートのパンケーキに集中した。

 そしてとうとう、卒業式がやって来た。多くの人達が、大学や専門学校やら、はたまた一部には就職を行なうことにした者たちが集っていた——ただ一人を除いて。

 式が行なわれる、コンサートのように段々と椅子が並ぶ集会場で、二人分の席でもぴっちしと体を収めるフォッシルがいた。特別に新調されたスーツも、ひと月前に測ってもらったものをベースにしているので、今日が始めてのお披露目なのに、すでにきつきつになっていた。

 そんな彼は、一番最後尾の椅子に着席していたが、それは静かにお菓子のチョコケーキを貪るためではない。彼の体が重すぎて、一番下まで行くのも時間がかかる上、戻る時にあがるのが億劫であったからだ。

 そんな彼の様子を、中段の席に座るルーパーが、ちょくちょく眺めていた。彼女は鷹ゆえ、その鋭い視力で、離れていても彼の姿はばっちし目に映っていた。

 果たして、いくつのケーキを、この卒業式内で食べたのだろう。一口サイズとはいえ、彼是もう二十個は行っている。毎日がこんなんであれば、太るのも無理はなかった。

「——それではこれにて、卒業式を閉会いたします。生徒の皆さんは、教室に戻って、最後の高校生活を味わってください」

 だがそこでも彼は、チョコ菓子だけしか味わわなかった。

 最後のホームルーム。全員涙を流したり、別れを惜しんだりと、生徒共々会話をしていた。また来年、同級会で会おうなと話い会う光景や、携帯で写真を取り合ったりするのが、いかにも卒業らしい最後だ。

 そんな中、ホームルームが終わると、のっそりとその巨体を持ち上げ、すぐさま帰宅しようとした。慌ててそれをルーパーが追い、まだ誰も出ていない廊下で、彼に声をかけた。

「ちょ、フォッシル!」

「なんだい、ルーパー?」

 振り向く彼の口端に、パン屑がついていた。どうやら今度は、菓子パンを食べて入るようだ。

「あんた、どうするのよ?」

「あー……どうしよっかなぁ」

「——! あんたね、いっちゃ悪いけど、両親もしない中、生活保護費で今あなたは生活してるのよ、分かってる? これはね、卒業したらなくなっちゃうのよ? 大学にいくならまだ貰えるかも知れないけど、あんた、就職もしてないんだって?」

 フォッシルは、もぐもぐとさせながら頷いた。そしてパン屑がぼろりとこぼれ、スーツにくっついた。

 彼女はそれを視線で追い、その屑をそのままにしている彼に、とてつもない遺憾を覚え、扼腕した——しかも良く見ると、彼のベルトの裏で、ズボンのフックが外されているのが見えた。

「ふぉ、フォッシル。あんた、ズボンのフック、外れてるわよ?」

「ああ、これね。今日着たらさ、しまらなくて。でもまあベルトが入ったから、なんとか助かったよ」

 まさかの言葉に、ルーパーはもう失意のどん底にいた。

「……それじゃ、またね」

 フォッシルが去り、未だ生徒達が教室にいる中、ルーパーはただ一人廊下で、呆然と立ち尽くしていた。


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