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(2010/11/29 双葉さんの許可を頂き挿絵を追加しました。ありがとうございます!)

 

Chapter.1の「以来、クロガネとチョコは張り合うようにドカ食いを始めた——」の一文で二ヶ所に修正を加えました。どちらもこのChapter.2に必要な事柄だったのですが、書いててうっかりその事を忘れていました OTZ

因みにこのChapter.2から、絵とのリンクが始まります。

 

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(=ひかり) Chapter.2

(挿絵:双葉氏)

 

 

 

 

 それからというもの、その効果が如何に素晴らしいものかを、クロガネは一日で知ることになった。一日分だがなけなしのお金を払ったおかげで翌日の食事はかなり節制したのに、なんと体重が思いの外増量していたのだ。

 初めは単なる偶然かと思った。けれどお金の使用が元通りになるやいなや、チョコとの体格差が歴然となり始める。彼は自らの肥え行く様にほくそ笑んだ。

「へっ、お前まだまだ太り足りないぜ」

「ち、畜生……うぷ……こんだけ食って、なんでお前に追いつけないんだぁ? 君よりも全然食ってるはずなのに……!」

「残念だが、僕が力量を発揮したらこんなもんさ。見えない場所で努力してんだよ」

 そういいながら今日も、無理食いを余りせず、普段通り自分が満足する分だけ平らげて終えた——それでも量は一般よりも遙かに多いが、もうお腹がはち切れんばかりに食う必要は無いのだ。幾ら食べるのが好きとは言え、苦しいまでのはさすがに御免なのである。

 そんなこんなで、クロガネとの大差が明確になったチョコは、半ば諦めかけてカフェで一息入れていた。

「はぁ……」

 もう太るのを辞めようかな、正直動くのも結構つらくなって来たし。けれどレオナさんへの思いは捨て切れない。あれこれと悩んだ末に彼は、重い腰を上げて席を立った。そして会計を済ますと外へと出た——

 ——とそこへ、偶然にもレオナが居合わせた。チョコを見つけるなりレオナはすぐに声を掛けた。

「おはようございます、チョコさん」

「あ、レオナさん!」とチョコは顔を赤らめた。

「今日はお一人なんですね。良ければまた、あなたの体を触らせてくれませんか?」

「もも、勿論ですよね!」

「ふふっ、面白い人」

 右手を軽く口にあてがって笑う姿に、チョコの胸はドキドキと高鳴った。レオナは、何か言いたそうにモジモジとし始めた。

 チョコは次の言葉に悩んでいる。するとレオナが、先陣を切って話を持ち出した。

「あの……実は、聞きたい事があるのですが」

「ははい、なんでしょうか?」

「ボクの為に太ってくれるのは嬉しいのですが、でもちょっと心配になってるんです」

 そう言って両手を前に組むと、それを内側に寄せた。その仕草にチョコは生唾(=なまつば)を呑み込んだ。

「何が、なんでしょうか?」

「体の事です。確かにボクは、あなたとクロガネさんの太った体は嬉しいのですが……それにどうして、ボクの為にそこまで躍起になってくれてるのですか?」

「そ、それは……」

 少し返答に迷った。けれどもう、自分はあいつには追い付けない。なら真意を教えてもいいかなと、チョコは思い始めた。そして一呼吸置くと、彼はとうとう自分達の意向を明かした。

「実は、自分とクロガネは、レオナさんに興味を抱いて欲しかったんです」

「興味ですか?」

「はい。正直自分達のような太っちょは、女性になど縁がありません。だから一番気の合う仲間内にあるクロガネと毎日一緒にいたんですが——そんな時レオナさんがやって来て、それからお互いどっちが心を射止められるかと、太る事であいつと競い合っていたんです」

 そんな答えを耳にして、レオナはやや驚き気味に反応した。

「そ、そうだったんですか? でもそれじゃ、まるでボクが女性みたいな扱いになってますね」

「はい…………?」

 レオナの言葉に、少し引っかかりを覚えたチョコは、気味の悪い間をあけて、こう聞き返した。

「あの、レオナさん。女性みたいな扱いとは、どういう意味ですか?」

「そのまんまの意味ですよ。だってボクは男なんですし」

「へぇー、男、ねぇ…………」

 途端にチョコは白目を(=)き、そして叫んだ。

「オトコぉ!? うそぉん」

「?」

 戸惑い気味のレオナに、チョコは身を乗り出して言った。

「だって帰国子女って言ってたじゃないですか!」

「はい。でも男でも、帰国子女になりませんか?」

「……あ、確かに。あぁ、日本語の馬鹿ァ……でもそのおさげの髪とかは? 普通男はしませんよね?」

「そうなのですか? ボクが前にいた国では、男の人もこういう髪型してましたよ」

「じゃその高い声は? 綺麗な瞳は?」

「それは、その、実は昔からのコンプレックスでして。どうやら親からの遺伝らしいんです」

「そうだったんですか——ああ、なんて誤解だったんだ」チョコは頭を抱えて(=うつむ)いてしまった。さすがのレオナもこの様子には、

「あの、ごめんなさい。なんだか誤解を招くような事をしてしまって」

「いいんです、こっちが勝手に間違っただけですから。あ、あと因みに名前は? レオナってなんか女性っぽいんですが」

「良く言われます。でも玲於奈(=レオナ)の『オ』は、漢字では『(=おす)』と書くんです」

「な、なるほど」

 そしてふと、チョコは思った。

(この事、あいつには言えないよなぁ……なんてったって——)

 

 

「フ……お前、痩せたんじゃないか? そんなことではレオナさんの心は射とめることなどできやしないぞ?」

 フフンと、たぷたぷの頬に汗を垂らしながらのクロガネ。物凄く自慢げである。それにチョコは、

(かわいそうで教えられない……)

 ・・・

「玲雄奈さんね……」

 負け犬のようなライバルの顔を見て、とうとうクロガネは確信した。これはもう僕の勝利だなと。

 そして彼は、遂に動き出した。ゼエハアと息を切らしながら、彼女——ではなく彼、レオナに結婚指輪を差し出したのだ。

「で、でもボクはお、おと——」困惑するレオナにクロガネが押しを掛けた。

「ケモノにおとなこどもはカンケーないさ」

「いや、そうじゃなくて」

「僕じゃまだ足りないのかい」

「そ、そんなことないよ、でもォ……」

 この誤解の状況にレオナは、チョコと同じくここまで頑張って、後戻り出来ないような体型になったクロガネに対し真実を告白することは仕舞いに出来なかった。クロガネの心からの告白に負けたとも言える。

 しかし一つ屋根の下で時を共にすると、次第にレオナの心も変わり始めた。それが決定づけられたのは、一段と太ったクロガネがレオナにお腹を差し出して来た時のことである。この頃になると、もはや歩くのも困難の極みであった。

「す、すごぉいね! やわらかそ〜」とレオナ。

「フフ、さわってみるかい?」

「じゃ、じゃあちょっとだけ……」

 外はふさっとし、中はぷにっとしている。この二つの全く異なる快楽的感触は、レオナの心身を大きく刺激した。まるで羽毛とウォーターベッドの心地を巧みに合わせたような代物で、彼は思わずこう感嘆した。

「……気持ち良い……」

「だろう? じゃあ次はこれだ」

 クロガネはドスンと尻餅を着くようにして地べたに座ると、大股を開き、自慢のお腹をこれでもかと揺すり始めた。この行為だけで相当な体力を浪費しているはず。その甲斐あってか、レオナの反応は更にでかくなった。

「す、凄い!」

「だろう? ふぅ、ふぅ、僕だって、君のことを思ってるんだ。だから——」

 クロガネは一旦、レオナに視線を向けた。その輝かしい双眼に再び顔を前に戻すと、こう続けた。

「——い、いっしょに……幸せな生活を送ろう……っ」

 息が荒々しく、それでも限界までレオナを喜ばそうとしたクロガネ。この一途な一生懸命さに、レオナは彼のあらゆる面の魅力に惹かれていった。

(ま、いっか)

 そう思ったレオナは、静かにこう頷いた。

「う、うん……」

 

 

    続


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