グレース・タウン Grace Town
ノガード Nogard
男 竜 筋肉質→肥満→超肥満 俺
フロウ Flow
男 狼 痩せ→痩せ気味→普通 俺
タール Tar
女 鼠 ふっくら 私
ドレイジル Drazil
男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分
ニプロッド Nihplod
女 海豚 痩せ→痩せ気味→普通→むっちり あたし
タブ Tab
男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺
イザーラ Izara
男の子 蜥蜴+鼠 ふっくら 僕
ルエイソレット Ruasoretp
男 翼竜 俺 筋肉質→超肥満→ぶくぶく
アクロ Acro
女 鯱
エルゲ Elgae
男 鷲
「ノガード……ここは、どこなんだ?」
窓がない荷台にいても、時折トラックががたんと揺れるところを見ると、舗装されていないか、まともに整備されていない場所であることはルエイソレットにも分かった。つまり、町中に向かっているわけではないということだ。
「山奥の方さ。トンネルをくぐって、森もかなり奥まで来たしな」
「……本当に、こんな太り過ぎで動けない俺でも、暮らしていけるのか?」
「ああ。俺が今向かっているところは、どんな奴でも受け入れてくれる場所だ——おっ、そろそろだな」
突如、森が開けた。そこには奇麗な草原と丘があり、奥には青々とした空と山が現れた。完全に、田舎の風景だった。そしてその中に、ぽつりと佇む、石垣で出来た建物があった。
だがそれは、遠近法のせいであった。かなり遠くにあったのか、徐々にその建物に近づくにつれ、それが如何に巨大であるかが分かった。そして同時に、その建物に取り付けられた十字架が、はっきりと見えはじめ、ようやくそれがなんなのかが分かった。
トラックが、ようやく止まり、ノガードは運転席から飛び降りると、どすんと重々しい着地音がなった。そして荷台の扉を開けてスロープをおろすと、まず先に台車三台を外に並べ、それからルエイソレットを、荷台から降ろし、そこへと座らせた。今はもうリミッターを再起動させたのか、やはりルエイソレットを持ち上げるのにはかなりの苦労をしていた。
台車を押し、ノガードは、建物に近づいた。
「なあ……これ、教会か?」とルエイソレット。
「まあ似たようなものか。ここは修道院だ。ここなら、お前のようなやつでも住める」
「本当か? こんな欲の塊だと、逆に修道士たちから貶されるんじゃないのか?」
「大丈夫だ。ここはそういうところじゃない。孤児院でもあるから、どんな奴らでも受け入れるのが、この教会の掟なんだ」
「……どうして、そんなことが分かる? お前、まさかここにいたっていうのか」
するとそれに、ノガードは無言になった。ルエイソレットも、それ以上言葉を言おうとはしなかった。
やがて教会の前に着くと、ノガードは、木で出来た、閂のある古びた門をノッカーで叩いた。映画などで出てきそうな、歴史ある風情がそのまま残されているようだ。
少しして、中から足音が聞こえて来た。「ぺたぺた」という足音で、やがてそれが止むと、門にある小窓がかぱっとあいた。そして目だけを、そこから内部の人が覗かせた。どうやらまだ子供のようだ。
「だれ?」
「エルゲ修道士はいるか?」
「エルゲ修道士? ここにいるのは、エルゲ院長だけ」
「……恐らく、そいつでいい」
「ここに連れて来る?」
「ああ、頼む」
小窓が閉じ、ぺたぺたという足音が遠くになっていった。やがて、再び足音が聞こえて来たが、ぺたぺたの足音もあったが、更に今度は「カツ、カツ」と、硬いものがあたる音が聞こえて来た。
再び、小窓があいた。そしてそこから覗かせた鳥目が、円く見開かれた。
「ノガードか!?」
「久しぶりだな。お前、院長になったのか」
「はは……お前の教授のおかげさ」
すると小窓が閉じ、そして門が開いた。そこから現れたのは、紫紺色の修道服に身を包んだ、ノガードより身長が3分の2ぐらいの男の鷲——エルゲだった。そしてその後ろには、エルゲより身長が3分の2ぐらいの、むっちりとした女の鯱がいた。恐らく最初に小窓で見たのが、彼女なのだろう。
「……ノガード、だよな?」
「それ以外に何がある?」
「いや……その、随分と、でかくなったな」
「昔の俺に戻ったと思えばいい」
「……はは、確かに子供の頃のお前は、太っていた上に、今みたいに筋肉もなかったものな。それで、久々に来て何の用だ? もしかして、ここに戻って来てくれるのか」
「いや、あいつさ」
ノガードが後ろを指差した。彼の大きな体で背景が隠されていたので、エルゲは体を横に出して後ろを覗いた。
「ノガード、お前は何か、デブが集まる町にでもいたのか?」
「たまたまだ。それより、あいつをここに頼みたいんだが」
「なるほど、な……台車に乗ってる所を見ると、自力では動けなさそうだが?」
「だからここへと運んで来たんだろ」
「そうか……まあ、それはここの仕来たりで、勿論大丈夫だな。だが、お前はどうするんだ?」
「俺は、ここには居られない。どこか遠くまで行くさ」
「残念だな、折角久々に会えたっていうのに」
「まあいいさ。とりあえず俺は、院長になったお前を見れてよかった——それと後ろのは、新人か?」
「ああ。捨てられていたところを助けたんだ。名前はアクロ、これでもまだ幼児程度なんだぞ」
「ほほう、鯱は随分と大きくなると聞いたが。本当にそうなんだな」
ノガードがアクロという女の鯱を見下ろすと、彼女は怯えて、エルゲの後ろに隠れてしまった。
「はは、可愛い奴だ。まっ、そういうわけで、あいつを頼むよ」
「分かった。俺一人じゃ無理そうだから、援助を呼んで来る」
「なら俺は、先に行ってるぜ」
「そうか。んじゃ、またな」
「ああ」
そしてノガードは、修道院を去り、ルエイソレットの元に歩み寄った。
「ノガード、今のは知り合いなのか? 随分と慣れ親しんだ感じがしたんだが」
「そうだ。許可もちゃんと貰った。今から何人かでお前を運び入れてくれるそうだ」
「本当か? ありがとうな、態々俺のために」
「気にするな。これが俺のやり方だからな」
そういうとノガードは、トラックの方へと向かった。
「もう、行くのか?」とルエイソレット。
「ああ」
ノガードにはこれ以上二言は無用だと、雰囲気を察してルエイソレットはもう言葉を出さなかった。ただ、唯一ある程度自由に動かせる両翼だけは、しっかりと手を挙げて、トラックで走り去るノガードに別れの合図をした。
やがてルエイソレットは、修道院から現れた十人もの修道士達に支援されながら、中へと入って行った。
「ここが新しい場所か。かなり有名な刑務所で、大事件での殺人犯が多く収容されるんだよな」
「はい。まさに、我々には丁度よい場所です」
二人は、その建物の中へと入って行った。だが物音しない静かな場所で、少し不安が過ぎり始めていた。
するとそこへ、横から老鼠が近づいてきた
「お主達が、新しい刑務官達かの?」
「あ、ああ。もしかして、あんたがここの看守か?」
「いや、儂は単なる専属医師じゃ。お主らがここに入る前に、健康診断を行なう必要があるからの」
「なるほど、分かった」
「それじゃあついてきなされ」
そして二人は、老鼠に、とある個室へとつれてこられた。
「まずは、この薬をのみなされ」
老鼠が差し出したのは、紙コップに入った白い液体だった。
「ああ、バリウムか——俺、飲んだことないんだよな」
「僕もです」
そして二人は、疑う余地もなく、すんなりとバリウムを飲んだ。意外にも甘く、二人は驚いた。
「随分と美味いな。まるでジュースだ」
「ふぉっふぉっふぉ。バリウムは飲め奴もおるからの、味付けしてある奴もあるんじゃよ。さてと、儂が呼びにくるまで、この部屋で待っておれ」
「あの、一つ質問いいですか? なんでこの刑務所は、こんなにも静かなんです?」
「殺人犯の中には、いかれた奴もおろう。そんな奴の年がら年中の叫喚など聞いてはいられんじゃろ。じゃからここの施設は、全てに置いて防音になっておるのじゃよ」
「なるほど。かなり厳重に作られているわけか」
「そういうわけじゃ。では儂は、次の準備に取り掛かるとしよう」
そして老鼠は、部屋を出て行った。
「……それにしても、変わった部屋だな。こういう風に健康診断するものだったか?」
「あれじゃないですか、機械が隣の部屋にあるとか」
「ああ、ここは単なる待機室ってわけか。それにしては、なんにもなさすぎだろ」
確かに部屋は、広い上にがらんどうで、彼らが座る椅子と洗面台、そしてテーブルなど、まるで生活に必要最低の物が置かれた個室のようであった。だが二人は、それでもここに居続けた。
その後、彼らを見たものは誰一人としていなかった。まるで彼らの存在が、この刑務所のように、初めから無かったものであるかのように。