グレース・タウン Grace Town
ノガード Nogard
男 竜 筋肉質→肥満→超肥満 俺
フロウ Flow
男 狼 痩せ→痩せ気味→普通 俺
タール Tar
女 鼠 ふっくら 私
ドレイジル Drazil
男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分
ニプロッド Nihplod
女 海豚 痩せ→痩せ気味→普通→むっちり あたし
タブ Tab
男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺
イザーラ Izara
男の子 蜥蜴+鼠 ふっくら 僕
ルエイソレット Ruasoretp
男 翼竜 俺 筋肉質→超肥満→ぶくぶく
「おい、お前ら!」
ノガードが、地下からロビーへと入る階段ところで声をあげた。その声に、部下達が駈け寄ったが、その状況を見て、フロウとドレイジルが思わず叫んだ。
「ぼ、ボス!?」
「ちょっ——何やってるんですか!?」
他の部下達も、驚きに口をあんぐりとした。それもそのはず、階段から初めに現れたのは声のノガードではなく、両翼を伸ばして壁を支えにしながら、通路にみっちりと膨れた体を上らせるルエイソレットだったからだ。ずっと牢屋にいたので、多くの部下達が彼の最近の姿を見ていなかったものだから、その変わり果てた姿に更に驚愕とした。
しかしノガードの姿は見えない。だがルエイソレットがこの体型で、しかも筋肉のついていないぶよぶよな体では階段を上ることもできないであろう。つまり彼の巨体に隠れ、後ろから援助しているのだ。そんな見えないノガードから、再び声が聞こえて来た。
「お前ら、こいつが座れる椅子か何かを持って来い!」
すると部下達が、慌てて団欒所にある三人掛けのソファーを総出で持ち、地下との出入り口脇に置いた。
ルエイソレットが、地下から巨体を、どんどんと出した。前から見ても凄いが、横から見ると、迫りだした腹が地面にまで垂れ下がっているのがようくみえ、部下達は初めて見る限界を超越した肥満体に息を飲んだ——そして中には、ボスもやがてこんな風にはならないかと危惧する者もいた。
そんな中、ようやく地下から這い上がって来たルエイソレットが、ぜえぜえと喘ぎながらどすんとソファーに腰を下ろした。するとその衝撃で彼は一瞬バウンドし、更にソファーが大きく撓んで、壊れるかと思うほど強烈に撓った。だがどうにか、それは持ち堪えた。しかしながら三人掛けのソファーには、これまたみっちりとルエイソレットの体が埋まっていた。そして彼の溢れ出る汗が、既に背凭れの部分を濡らし始めていた。
そのあとに、ノガードがゆっくりと階段を上り切った。ルエイソレットが相当重いのは当然のことで、更に自重も加わってか、ノガードも相当な汗水を垂らしていた。まるでサウナから出て来たかのようである。
「ボス、大丈夫ですか?」とフロウが、心配に彼に近寄った。
「ふぅー……ああ、なんとかな」
「なんでこいつを出したんですか? 外はもう戦場見たいですよ。略奪とかも一部で始まってるようですし、早く逃げないと」
「そのためにこいつを出したんだ」
「どういうことですか?」
だがノガードはその質問を無視し、言った。
「ニプロッド。駐車場から食料運搬用のトラックを玄関前に準備させろ」
「えっ……は、はい!」
わけが分からなかったが、ボスにはそれなりに考えがあるのだろうと、彼女は命令に従ってどたどたと足音を立てながら駐車場へと向かった。
「よしお前ら、玄関の前まで行くぞ」とノガードが、再びルエイソレットに肩を貸そうとした。それと見たフロウたちが、自らも彼の補助に回った。彼らは、ルエイソレットのぶにゅっとした体の中から、上手いところ抱えられる部分を探し、ボスと一緒に彼を一斉に持ち上げた。ただタールだけは、子供のイザーラがいたので、その子を抱えながら見守ることしか出来なかった。
「くっ……お、重い……」とドレイジルがたまらず言った。するとタブも、同じ飛膜を持つものとして、こうもらした。
「翼竜がこんなに太るなんて、信じられない——くうぅぉお!」
「す、すまない……」
ルエイソレットが申し分けなさそうに言った。不思議と彼は、牢屋にいたころに比べ、性格が変わっているように見えた。
そんな彼の体は、ノガードたちの補助のおかげで、徐々に持ち上がった。そしてゆっくりと、全員で玄関口へと向かい、外へと出た。すると既にニプロッドが大型トラックを停車させ、そこから降りて待機していた。
「良しニプロッド、後ろの扉をあけてくれ。スロープもちゃんと下ろすんだ」
指示に従い、ニプロッドはトラックの後にある荷台の扉をあけると、スロープを下ろした。そこを通り、みんなでルエイソレットを中へと運び入れた。さすがは食料運搬用で、1tを超える彼でもスロープは軽く撓るだけだった。だがそのスロープは、短いがそれなりに角度があったので、この部分を通貨するだけでも数分を要してしまった。それほど彼の体を動かすのは酷というわけだ。
運転手のニプロッドを除き全員が荷台に乗り込むと、タール以外は大量に汗と息切れを出し、中でへたりこんだ。特にノガードにいろんな意味で近いフロウの体毛は、既に濡れそぼち始めていた。
「中央のタワーまで行け」とノガード言った直後、再び近くで爆発が起こり、トラックが少し揺れた。ニプロッドは何も言葉を返さず、ボスの言うままにトラックを走らせた。
トラックが走り出し、ノガードは部下に運転席との間にある小窓をあけさせ、運転中のニプロッドにも会話が行き届くようにした。
「それでは、お前らにこれからの行動を伝える。まず中央タワーへ行き、そこから隠しエレベーターを使って外へと脱出する——以上だ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」あまりに簡潔な内容に、額から落ちる汗を拭いながらフロウが言った。
「なんでボスは、そこに隠しエレベーターがあるって分かるんですか?」
「こいつさ」とノガードは、ルエイソレットの柔らかい肩を叩いた。それを真似て、ルエイソレットの横にいるタールに抱えられたイザーラも、彼女の腕から身を乗り出して彼の肩を小さな手で叩いた。
「ルエイソレット? もしかしてこの町の爆発も、こいつの仕業なんですか?」
「惜しいが違う。ルエイソレットは、本来死刑囚なんだ。だがそれを免れた——その代わりこいつは、ここに送られ、ある任務を任された」
「任務?」
「ああ。それはこのグレース・タウンでトップとなり、あらゆることをしきることだ」
「なんで態々そんなことを?」
「この更生施設には、反対派がいるんだ。罪を犯したものが自由に暮らせる——特に殺人を犯したりした奴が、こんな施設で俺達みたいに平和に暮らせてると分かったら、いい気はしないだろう?」
フロウは首を縦に振った。
「そしてここから出るには、知ってると思うがポイントを稼ぐ必要がある。だがポイントを稼がずとも、ここで俺達みたいに上手く暮らせれば、そいつらにとっては天国となる。それを、この更生施設から出所した数少ない人たちから聞いて知った反対派の奴らは、丁度生涯を終えようとしたいたルエイソレットを利用して、特に悪質な犯罪者たちを殺させたんだ。こいつは翼竜で筋肉質——今はもう見る陰もないが——トップとしての力を誇には充分な素質があった。それに反対派の手が加われば、ここでトップになることは容易く、また殺しも簡単というわけだ」
「あの、ボス、どうやって奴らの手をこいつが借りたんですか?」
「反対派の奴らは、この施設と関連がある監視室の職員となってこの施設に潜入したんだ」
「しかしこの施設は、確か規則にのっとり、外部との通信はあらゆる面で禁止されているのでは?」
「その通りだ。そこでここに入る際、もう一人の反対派が刑務官となり、ルエイソレットをここまで運びいれた。その際、無線の映像機器や武器などを持ち込ませ、それを使ってルエイソレットは奴らにこの町の状況を送るとともに、彼らの指示に従った。更に別の施設に潜入した反対派が鉄箱(外部からの荷物が届く奴)を利用して、高性能な武器や爆弾などを追加で送らせることで、適宜な対応が出来たわけだ」
ノガードは、あらゆることをルエイソレットから一度聞いただけなのに、まるで自分のことのように的確に話していた。イザーラにぶよぶよな体を触られたりして、きゃっきゃっと玩ばれているルエイソレットは、彼の話を聞きながら、彼は単なる筋肉な奴ではないことを改めて実感した。
「つまり……そうか、ルエイソレットは体格は良かったが、元々ボスのように筋トレをするようなやつではないんですね。それですぐ、トップになって指示するだけの立場になってから、怠けた生活であそこまで太り、更にこんな風にまでぶくぶくになったわけですね」
「勘が鋭いな、まさにその通りだ。つまりルエイソレットが筋肉質で逞しいという噂の真実は、ここに来たばかりの僅かな期間だけのことなんだ」
あらゆることが繋がり、フロウは納得をした。だが一部の同僚はまだ話を咀嚼中であり、フロウはノガード並みに頭の回転が早いようだ、とルエイソレットは無言で頷いた。
「……ということはボス。もしかしてこの町中で起こっている爆発も、奴らの仕業ですか?」
「そうだ。奴らが鉄箱を利用して爆弾を送り込んでるんだ。だがこれは、ルエイソレットが言うには最悪の場合に備えたBプランらしい」
「それは、まさかこのルエイソレットを捕まえたからですか?」
「そうかも知れない——もしくは、こいつとの交信が途絶えたからかも知れない。それが唯一の内部との通信手段なわけで、それが途切れてしまった今、奴らには内部の現状を知る事は出来ない。それならば、いっそ施設全体を破壊してしまおうというわけだ」
「なんて奴らだ! ここにいる全員が全員悪いわけではないのに」
「だが奴らには、そんなこと関係ないのさ。最終的に大爆発を起こし、この更生施設もろとも破壊するだろう。それまでにどうにか逃げるんだ」
ここでタブが、こう案を出した。
「ならいっそ、ルエイソレットを置いた方が良いのでは? もう脱出方法も分かったんですし、こいつは単なる木偶の坊じゃないですか」
その言葉にルエイソレットが、彼を見据えた。だが睨んでいるというわけではなく、寧ろ助けて欲しいと懇願する、弱々しい目つきだった。
すると、それにノガードが答えるかと思いきや、真っ先にフロウが言った。
「いや、こいつも連れて行こう。ボスが言ってたじゃないか、無用な殺人は避けると。それにルエイソレットは、どう見てももう悪い奴じゃないだろ?」
タブは、元ボスであるフロウの言葉に、不承不承頷いたが、ノガードは感心して二回も頷いた。そしてルエイソレットは、フロウに小さく「ありがとう……」と言った。
その時、トラックがぴたりと停車し、エンジン音が止まった。どうやら中央タワーに到着したようだ。辺りは焼け野原になっており、周辺は中央タワーなどの大きな建物だけが現存していた——だがこれは、そういう建物は一般の住居ではないため、鉄箱がないためでもあった。
先ほどと同じように、ニプロッドが荷台の扉をあけ、スロープを下ろすと、女性以外の全員でルエイソレットの体に手を添え、彼をゆっくりとスロープから下ろした。さすがに前向きだと、前に突き出て垂れた腹にバランスを崩し倒れられたらたまらないので、後ろ向きでゆっくりと、これまた数分かけて、荷台から下ろした。
そこでニプロッドが、ボスに尋ねた。
「ボス。さっきの話なんですが、こいつを送っては時間の浪費になってしまいます」
「ニプロッド、フロウの言葉を聞かなかったのか?」
「いいえ——けど、どれほど外まで距離があるか分かりません。このままだとボス達の体力が持たないかと」
「だがやるしかないだろ」
「でもボス。あれを使えば、少しは楽になるのでは?」
ニプロッドは、誰も載っていない荷台の奥を指差した。それは、食料の箱を運ぶための折り畳み式の台車だった。ノガードは彼女の肩を叩き、それを三台手に取った。