グレース・タウン Grace Town
ノガード Nogard
男 竜 筋肉質→肥満 俺
フロウ Flow
男 狼 痩せ→痩せ気味→ 俺
タール Tar
女 鼠 ふっくら 私
ドレイジル Drazil
男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分
ニプロッド Nihplod
女 海豚 痩せ→痩せ気味→普通→ あたし
タブ Tab
男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺
イザーラ Izara
男の子 蜥蜴+鼠 ふっくら 僕
ルエイソレット Ruasoretp
男 翼竜 俺 筋肉質→超肥満
ノガードが、再び自室を出た時には、既に部下達は目覚めており、一階のロビーの団欒所で食事を取っていた。
彼は階段をおり、全員に挨拶をした。すると『おはようございます、ボス』と一斉に返答が来た。しかし多くの目が、彼のお腹に行っていた。やはり、この筋肉質の体に太鼓のような腹は、目立つのだろうか。
だがフロウにも既に触れられていた点などで、これ以上は面倒だと、彼はそのことを無視して話を続けた。
「さてと、グレースタウンの統率する立場になったとは言え、油断は禁物だ。そうすればルエイソレットのように、自らでは何も出来ない体になってしまう。
だからまず、ニプロッドとタブには、引き継いで偵察などを行なって貰う。もしかしたらどこかで、俺達のようなレジスタンスが蠢いているかも知れないからな。
次にタールとドレイジル。お前達には子供がいるから、あまりここから離れた仕事はしない方がいいだろう。タールは専業主婦として、ここにいてくれれば良い。ドレイジル、お前はこのアジトの監視役を務めて貰おう。
それからフロウ」
「はい」とフロウは返事をした。
「お前は元々こいつらのボスだった。こいつらのことは、お前が良く一番知っているだろうし、信頼も厚い。お前は他のやつらの情報を纏め、俺に伝えろ。つまりお前は、俺の補佐役ってわけだ」
その言葉に、本当にノガードを尊敬しているのであろう、フロウは威勢良く「はい!」と答えた。
「まっ、昔よりは神経を張り巡らす必要もないし、退屈になるかも知れないが、これからも頼んだぞ。それとニプロッド、お前は先ほど言った仕事にだけ集中してくれ。牢屋の奴らに食事を渡すのは俺がやる」
そういってノガードは、再び自室へと戻り始めた。だが後ろから、ニプロッドが立ち上がって声をかけた。
「あの、ボス」
「なんだ?」
「本当に、下の食事はボスがやってくれるのですか?」
「勿論だ。俺も怠けちゃいられないからな」
「そうですか……それと、あの、お腹の方は——」
するとノガードは言下に答えた。
「ああこれか。ふん、気にするな、単に昨日食い過ぎただけだ」
「そうですか——分かりました」
ニプロッドは再び団欒所へと戻り、ノガードは二階から三階の自室へと戻って行った。
「ねえ、やっぱりちょっと、おかしいわよね」とニプロッド。
「そうですね。いくら食べ過ぎたとは言え、普通食べた物は消化されます。だからといってすぐに脂肪にはならないですし、そもそもノガードさんのお腹は、脂肪が付いたようには見えませんでした」
この中で一番頭の良いタールが、髭をひくひくさせて言った。
「そうよね。あたしだって最近、体が良い感じに肉付いてきたと思うけど、あんな風に急激には変われないもの」
ニプロッドは自身でも分かっている通り、この幸せな生活で今では、むっちりとした体型になっていた。タールもすこしふっくらとしているように見えるが、元々そんな感じだし、全身の毛がそういう風に感じさせているのかも知れない。とにもかくにも、女性人はみんな、脹よかな体型になったってわけだ
一方男性人はというと、それほど変わりはなかった。彼女達よりも動く範囲が多いため、特にタブに至っては飛行が命なわけで、太るわけにはいかない。ただフロウは、ボス特性というか、ノガードが過去に言っていた「周りに影響されやすい」のように、そのノガードに影響されたのか、いつの間にか普通の体型にまで成っていた。
そんな状況下でも、やはりノガードの異常は見て見ぬ振りができなかった。
「本当に、まるで風船みたいな腹だったな」とドレイジル。
「……そういえばよ。北部のボスを倒した時、ルエイソレットの奴が来たっていってたな?」とフロウ。
「ああ。その時は既に、ボスはあそこの野郎を倒したって言ってたな。そしてもうあの家を去ったって。つまりルエイソレットとは出会わなかったって」
「タブ。お前はそれ、見たか?」
「いや。俺は表玄関で様子を見ていたからな。ボスは裏口から出入りしたんだろ?」
「そうだな。確かにそうかも知れない。……だけどさ、あのあとの南部での作戦、かなりおかしかっただろ?」
フロウは、タールに目を向けた。彼女の意見を聞きたいようだ。
「確かに、フロウさんの言うとおりです。あんな無謀な作戦——もしかしてノガードさんは、北部でルエイソレットに、何かをされたのではないでしょうか?」
「じゃあつまり、その影響で南部では自暴自棄になったってわけか?」とドレイジル。
「いいえ、あれはノガードさんの作戦です。けどあの作戦は、明らかにルエイソレットを誘う作戦です。きっと、そうしないといけない、そうしないと命を落とすかも知れない何かをされたのではないでしょうか?」
そこでフロウが、恐ろしそうに言った。
「もしかして……あのボスの体、ルエイソレットの奴に何かされた影響なのか?」
「かも知れません。けど恐らく、ルエイソレットを牢屋で生かしているということは、そのことについては既に終幕しているのでしょう」
「いや、その逆で、ルエイソレットから何か情報を引き出すために生かしてるんじゃないのか?」
「それはありません。もしそうなら、彼に食事を与えないか、体罰を加えないと吐かないことを、ノガードさんは知っているはずです」
「なるほど……俺達に何も教えないのは、南部の時のようにボスの優しさなのか?」
「私はそう思います。ノガードさんは、自分で問題を抱え込むタイプなのでしょう」
「そうか。本当にボスには色々と、謎な部分があるな」
そのフロウの言葉に、全員が一丸となって頷いた。
それからみんなは、食事を終えるとノガードに教えられた通り、それぞれの仕事についた。
昼より少し前。ノガードは少し早めに、昼食の準備をしていた。いつものようにダンボール箱を四箱持ち、それを地下へと運ぶ。その一箱はルエイソレットに。もう一箱は他の牢屋の者達に分配。そして残りの二箱は、自らの部屋に。
部屋に戻ると、ノガードはその二箱をテーブルに載せた。テーブルの上には今、ダンボール箱が“二箱”あった。
「……はぁ。全く、まさかもう一箱食っちまうとはな。確かにこんだけ胃袋が膨らめば、これぐらい平らげられるんだろうが……しかし、前はやることがあったが、この町のトップとなれば、やることが全くない。だからとは言え、俺が部下達の仕事を担えば、ボスとしての立場も下がってしまう。
もしかしてルエイソレットのやつも、俺と似たような状態だったのか——クソ! なんで俺は太ることばっかり考えてるんだ。運動すりゃいいんだ」
ノガードはいらいらしながら、昼食を食べ始めた。実は彼は、昼食までの間、たっぷりとあいた時間を、部屋にあるトレーニング機器で運動していたのだ。
だが運動もすれば腹も減る。特に今の彼のお腹では、今までより何倍もそこに住む虫の力があった。そして結局、またダンボール一箱分の間食をしてしまったのだ。確かに元々食べようと思えば食べられる、竜らしい頑丈な体ではあるが、今ではそれが悩みの種になっていた。
昼食に、再び彼はダンボール一箱分平らげ、既に現在までで30キロほどの飲み食いをした彼。いくら体の大きい竜とはいえ、それだけ食えば腹の膨らみが明瞭である。
彼は、結局またやることがないので食後の運動を始めた。だがおやつ時の三時。結局また、予備の食事を使ってしまっていた。
そんな調子で、一ヵ月が経った。特に問題もなく、今日も平和にノガードは、ダンボール箱を“五箱”持って地下へとそれらを運んでいた。そしていつものように、ルエイソレットの牢屋から、食事を配給した。
「なあ、ノガード」
「なんだ?」とノガードは、ダンボール箱を置きながら言った。
「お前、最近相当食ってるな?」
「……別にいいだろ」
「ははは、どうやらお前は、俺と似たもの同士だな」
その言葉に、ノガードはルエイソレットを睨みつけた。
「おいおい、そんな顔をするなよ。実はさ、そんなお前に頼みがあるんだよ」
「頼みだと?」
「最近は俺もさ、ちょっと食い足りなくなって来てるんだ」
見れば、風呂にも入れないこの独房で、ルエイソレットの着ていたスーツは汚くなっただけでなく、ボタンも全て外されていた。ノガードとは違い、行動範囲が狭いこの牢屋——ましてや元々動くのが億劫なルエイソレットにしてみれば、ほぼ座りっぱなしの場所となってしまい、やることがない彼には食事だけが唯一の暇を埋める綱。それらの状況が悪くも合わさり、彼の肥満が逸早く進んでしまうのは当然のことだった。
もはや彼は、こんな惨めな格好になってしまい、細かいことも気にしなくなっていた。とにかく退屈な日常を満足できるだけで幸せなのだ。そしてそれが、運動ができない彼にとっては「食事」なのである。
「なあ、頼むよ。もう一箱だけでいいんだ」
「お前のボスとしての威厳はどこにいったんだ?」
「そんなもの、とうに捨てたさ。それに昔の部下達も、俺の失態に全員忘れてるだろ。なっ、一箱だけだし、お前もどうせその腹から察するにかなり食ってんだろ? だったら俺にも食わせてくれよ」
ノガードはため息をもらしながら、牢屋を出た。そして鍵を閉めると、こう言った。
「じゃあ明日からな」
地下から上がり、そのまま自室へと戻るノガード。地下から計三階分もあがれば、重い体に多少応えるのか、彼は少し息を切らしながら、テーブルにダンボール箱を三箱置いた。そしてその内の一箱目をあけると、少し疲労した体に肉をかじって詰め込み、いつものコーラで呷るように飲み下した。
そんな状態であっても、彼は決して部屋での筋トレは欠かさなかった。食事量が増えても仕方がないと、彼は諦めていたのだ。それよりも自らの力が衰えば、ルエイソレットの二の舞になることは、既に自分の目で見ていたため、筋肉だけは維持しようと努力しているのだ。
しかし日に日に、腕や足の逞しい筋骨隆々さは保持していても、お腹だけは裏腹にどんどんと膨らんで行った。初めは部下達もそれに驚いていたが、彼らの間で納得できる会話がなされたのか、ある時からふとそんなことはなくなった。
こうしてノガード達は、平穏な日常を、この更生施設グレース・タウンで過ごすようになった。