グレース・タウン Grace Town
ノガード Nogard
男 竜 筋肉質→ 俺
フロウ Flow
男 狼 痩せ→痩せ気味 俺
タール Tar
女 鼠 ふっくら 私
ドレイジル Drazil
男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分
ニプロッド Nihplod
女 海豚 痩せ→痩せ気味→普通 あたし
タブ Tab
男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺
イザーラ Izara
男の子 蜥蜴+鼠 ふっくら 僕
ルエイソレット Ruasoretp
男 翼竜 俺 筋肉質 → 超肥満
ゆっくりと、気持ち良い朝を向かえたノガード。豪華絢爛とは言えずとも、広い面積を誇るベッドの中で、彼はもぞりと動いた。
どうやら昨日は、随分と食べ過ぎちまったらしい。まだ少し、体が重めだな——そう思いながら、彼はゆっくりと布団から出て、ベッドから脚を下ろした。そして寝ぼけ眼のまま、ゆっくりと体を動かし、そのままトイレの中に入った。
しばらくして、彼はトイレから出ると大きく欠伸をして片腕を伸ばしながら、もう一方の腕で、だらしなくも腹をぽりぽりと掻いた。
「ん?」と、ノガードは思った。何か、違和感があったのだ。
ふと彼は、下を見下ろした。そこには、真ん丸としたお腹があった。ああ、昨日食べ過ぎたからなぁ……
「……いや、違うぞ」
思わず独り言ちた彼。それもそのはず、腹に溜まったものが今しがた、しっかりと出しきったはずなのだ。それなのに、彼のお腹は昨日の限界状態のままだったのだ。しかも今彼が着ている服はタンクトップだったため、よりその腹がくっきりと目立っていた。
おそるおそる彼は、その妊婦のようなお腹を摩った。まだ表面には、割れていた頃と同じ腹筋が残っていた。次に彼は、そのお腹をぽんと叩いて見た。するとまるで中が空洞で太鼓のように、見事な狸腹のように響いた音がした。
彼は慌てて、部屋を出た。まだ朝は早い、誰も起きていないようだった。彼は急いで階段を駆け降り、ロビーに入ると、そのまま大きな玄関を出た。
体の重さはそれほど変わらない。恐らく脂肪が付いたわけではなさそうだ。しかし走るさい、その腹が少し妨げとなっていた。
「くそ、あのじじい、どこだ!?」
その時だ。ちょうど道路に出る鉄格子の門から、すっと誰かが横切ってきた。背中が少しまがった襤褸のフードを纏ったその姿に、ノガードは瞬時にそれが誰かが分かった。
「おい!」
すると、鉄格子の向かいにいる老鼠が立ち止まり、彼の方を向いた。
「おお、お主か。なるほど、ここはお主の家なんじゃな」
「それがどうした。おい爺さん、この腹はどういうことなんだ?」
老鼠は、ちらりとノガードの膨れた腹部を見た。
「ふぉっふぉっふぉ、そりゃ、食べ過ぎじゃろう」
「そんなことを言ってるんじゃない! なぜこの腹が、元に戻らないんだ?」
「はて、それはゴムの効果が切れたからじゃろ?」
「切れたって、切れたら元の体に戻るんじゃないのか? 爺さんが何を知っているのか分からないが、俺がルエイソレットの奴を気絶させた時、恐らく体がアニメのように部屋中に膨らんだはずだ。だがそのあとは、しっかりと元の体に戻ったぞ」
「その時は、まだ効果が残っていたからじゃろ? 儂が思うに、お主、昨日は随分と鱈腹食事を取ったようじゃな」
「あ、ああ。それがどういう関係があるんだ?」
「まだ薬の効果が残っておったんじゃよ。じゃから胃袋も腹を膨れた。じゃがそのままの状態で、恐らく効力が切れたんじゃ。薬の効果が切れた時、それがお主の体となるんじゃよ」
「そ、そんなの聞いてねえぞ! 下手したら、俺は奴の部屋いっぱいに膨れたままだったかも知れないってことじゃないか」
「けどそうはならんかった。この薬のおかげで、奴を打ちのめせた。それで良かろう?」
「だけどよ、こんな腹のままで——」
その時だ。彼のお腹から突如、ぐぅーっという虫の音が鳴った。
「ふぉっふぉっふぉ、どうやら胃袋も膨れたおかげで、腹の虫も大きくなってしまったようじゃな」
「クソ、これじゃあルエイソレットの奴と変わらないじゃないか」
「まあまあ気にするでない。それよりお主」
「なんだよ、爺さん?」
「ルエイソレットは、何かを隠しておるぞい」
「ああ、またその話しか。前にも議論しただろ」
「分かっておる。ただその事を、自然と分かろうとする日がくるじゃろう。じゃから決して、奴を殺してはならぬぞい」
「……ふん、どうだかな」
すると老鼠は、ゆっくりと道を進んだ。
「まあ儂は心配しておらんぞ。お主のことは分かっておるからな」と言い残し、再び門の向こうから姿を消した。
「あっ、待て爺さん!」
ノガードが慌てて、門の鍵をあけた。そして門を開くと、慌てて道路に飛び出た。だが、左右を見渡せども、老鼠の姿はない。そこは彼の家に沿って直線があるのみで、到底あの老鼠の足では、姿を消す場所までいけない。
「……なんだったんだ……?」
しばらく呆然と道路の先をうわのそらで見つめたノガード。少しして、我に返った彼は、再び門を閉めると、家へと戻って行った。
するとその時。ちょうど向かいの個室から、フロウが部屋を出て来ていた。どうやらまだ酔いが残っているようで、頭を手で押さえていた。
「ああ、ボス、おはようございます」
「ああ」
「……ボス?」
「なんだ?」
フロウが、何かを言おうとしたが、すぐにそれを呑み込んだ。だがノガードには分かっていた。彼の目線が、明らかに自分の腹に行っていたのだ。
「昨日、どうやら食い過ぎちまったようだな」
「あっ、そ、その……そう、ですね。ボスが楽しんで貰えて何よりです」
ノガードは頷き、そしてそのまま自室へと戻らず、なぜか食料庫の方へと向かい始めた。
「あ、ボス! 食事の支度は俺達が——」
「気にするな。お前は二日酔いだろ、今日はしっかりと休め。これからはもう、どこも襲う必要はないからな」
「は、はい! ありがとうございます、ボス」そういってフロウは、再び自室へと戻って行った。
ノガードは、それを見送ると、食料庫へと向かった。そして段ボールを四箱、自慢の筋肉で持ち上げると、まずはそのまま地下へと向かった。
本来これは、ニプロッドの仕事なのだが、今日はなぜだか自分でやりたかった。
地下へと着くと、手前のルエイソレットがいる牢屋の扉をあけた。彼はまだ、床でぐうたらに寝そべっている。昨日かなり食べたのか、完全にスーツのボタンを外して、そのでかい腹を出しながら、膜のある両翼を大胆に広げている。
「おい、飯だぞ」とノガードが、段ボール箱の一つ丸々、そこに置いた。
「ん……んぁ……?」
ルエイソレットは、片翼で目を擦りながら、もがもがと身を起こそうとした。だがベッド生活に慣れ過ぎたためか、床から起き上がるのには、相当苦労していた。なにせベッドの場合は、体を揺さぶって、足をベッドから下ろしてしまえば、あとは立ち上がるだけだが、床の場合は、身を起こすか、両手を支えにして立ち上がらないと行けない。特に彼のような太り身にとっては、床から起き上がるのは少々至難なのである。
やがてどうにか起き上がると、目の前にいるノガードを、ぱちくりとさせながら見つめた。
「……は、ははは! ノガード、その腹は一体なんだ? 昨日相当食ったようだな」
「黙ってろ。ほら朝食だ、勝手に食え」
「はいはい分かった分かった。それにしてもお前、なんで俺を生かしておく? 前にも言ったが、お前の操り人形にはならないぞ」
「無作為に殺すのは、俺の道義に反するからな」
そう言ってノガードは、牢屋の門を閉めると、別の牢屋へと、それぞれ朝食を配った。ルエイソレットは、先ほどの言葉を首を傾げながら考え、やがて、段ボール箱から食事を始めた。
食事を配り終えたノガードは、残った段ボール二箱を持ち、三階へと向かった。誰も見ていない——よし、と彼は、そのまま自室へと戻った。
*ぐぅー……*
再び彼の胃袋がなった。それに彼は、思わず舌打ちをした。困ったことに、この腹の虫が今までで一番の曲者となっていた。何せこんな体で虫の音を辺りに撒き散らせば、彼はルエイソレットのように単なる大食者に見られてしまうかも知れない。だからどうにかそれを抑えようと、牢屋では我慢していた。
だが自室に戻って、ふっと肩の力を抜けば、しきりに腹の虫が鳴り響く。
「畜生……胃袋がこれほどまで膨れたってことか……全く、集中も何もあったもんじゃない」
そう言ってノガードは、段ボール箱をあけると、そこから大きな肉片を取り出した。そしてそれを、がぶりと豪快に千切り、頬張った。
昨日の肉ほど上質なものではない。やや硬めな肉だが、彼にはどうでも良かった。とにかくボスとしての威厳を保つためには、腹の虫を鳴らしてはいられない。まずはしっかりと腹に食料を入れて置く事が大事と、彼は手早く食事を取った。
(腹八分目、それぐらい食べれば大丈夫だろう。とにかく腹の虫さえ止めばそれでいいんだからな)
彼はそう思いながら、段ボールにあるコーラ1ガロンの容器の蓋をはずすと、豪快にラッパ飲みした。この炭酸も、胃袋を膨らましてくれるので、恐らく少ない食事で満腹感を味わえるだろう。そのように細かいことまで考慮しながら、ノガードは朝食を取っていった。
(大丈夫。いつものように筋トレをしてれば、こんな腹、すぐに凹ませるさ)
「げふ……ふぅ、美味かった。やはりいつもの肉の方が、歯応えもあるし、俺にはあってるな」
そういって彼は、残った段ボールを一箱、自室のテーブルに置いた。またいつ、腹の虫が赤ん坊のように鳴くか分からない、その時のための予備だった。
そして彼は、もう一箱の段ボールの中から、先ほどの朝食の残りをテーブルに並べようとした。
「……ん?」とノガードは、段ボール箱を除いた。だがそこは、見事に空っぽになっていた。彼はふと、コーラの容器を手に取って見た。するとそれも、見事にすっからかんになっていた。
まさか、食い過ぎたか? ノガードは思わず、自分のお腹を見下ろした。するとそれは、食事前より少しだけ膨らんでいた。彼は思わず、今朝のように、自分のお腹をぽんと叩いて見た。
するとどうだろう。朝のような鼕
々 たる音はなく、ぎっしりと中身が詰まった太鼓のように、表面を叩いた音だけがなった。彼はまたもや舌打ちをした。あれこれと考えに耽り過ぎていたせいか、うっかり腹いっぱい食べてしまったようだ。しかもよりによって、段ボール丸々一箱分食べてしまうとは、本当にこれではルエイソレットと同じような状態である。
ノガードは、はぁーっと大きくため息をもらしながら、空の段ボールを折りたたんで、部屋にあるダストシュートへ捨てた。