グレース・タウン Grace Town
ノガード Nogard
男 竜 筋肉質 俺
フロウ Flow
男 狼 痩せ→痩せ気味 俺
タール Tar
女 鼠 ふっくら 私
ドレイジル Drazil
男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分
ニプロッド Nihplod
女 海豚 痩せ→痩せ気味 あたし
タブ Tab
男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺
イザーラ Izara
男の子 蜥蜴+鼠 ふっくら 僕
ルエイソレット Ruasoretp
男 翼竜 俺 筋肉質 → 超肥満
「……まさか、お前がルエイソレットって言うんじゃないだろうな?」とノガード。
「ああ、俺がルエイソレットだ」
彼の言葉に、俯いたノガード。そして突如、彼は首を反らして大笑いし始めた。
「ははははは! 俺が聞いたところじゃ、あんたは俺のように筋肉質で、その力と翼で今の地位を築いたと聞いたが、その体は妊婦よりも酷いな。空も飛べなきゃ力もふにゃふにゃしてそうだな!」
だがこの侮辱に、ルエイソレットは顔色一つ変えなかった。
「そう笑っていられるのも今の内だぞ、ノガード。確かに昔と比べりゃ、俺は『身重』かも知れないが——」
するとルエイソレットは、片翼を動かして何かの合図をした。すると、扉からぞろぞろと彼の手下が入って来て、一瞬にしてノガードは取り囲まれてしまった。
ノガードはぐるりと全員を見回しながら、誰も彼にとっては余裕綽々に見えたのか、こう口に出した。
「ふん、こんなやつらなら、俺一人で充分だな」
しかし、彼が再びルエイソレットの方を向いた時、思わず彼の両目は見開かれた。なんとルエイソレットは、拳銃のように見える銃口を彼に向けており、それを発射したのだ。
ノガードは、ルエイソレットの容貌ですっかり、警戒を解いてしまっていたのだ。
銃口から放たれたのは、網だった。それはノガードに絡みついた。例え一本一本が彼にとって引きちぎるのに容易いものでも、うまいこと脇や股関節にはまったそれは、動きと力を抑制し、さらには周りから飛び掛ってきた部下達により、彼は身動きが取れなくなった。
「畜生、離しやがれ!」
喚くノガードに、巨体をゆっさりとゆらし、ルエイソレットが近づいてきた。すると彼は、ゆっくりと危なげに屈み込むと、スーツの胸ポケットから何かを取り出し、そしてそれをノガードの口の中に突っ込んだのだ。たまらずノガードは、それを呑み込んでしまった。
すると部下達は離れた。ノガードはとっさに、あらゆる筋肉を盛り上がらせ、力を振りしぼって網をどうにか引きちぎると、バッと立ち上がった。
「くっ、お前、俺に何を飲ませた?」
「強いて言うなら、お前を操る装置だな」
「俺を操るだと? ふん、そんなこと出来るわけがないだろう」
「そうかな? これを見てもか?」
するとルエイソレットは、再び胸ポケットから何かを取り出した。それはサイコロほどの四角い器械であり、彼はそれを誰もいないところに放った。
するとその途端に、それは爆発を起こした。手ごろな手榴弾程度の、爆弾と比べれば小さな威力だが——
「今、これと同じものが、お前の胃袋にある。素晴らしいことにこの『キューブリック』は遠隔操作が可能でな。爆発させるだけじゃなく、どこかに『留めて置く』ことも可能だ」
「き、貴様……」とノガードは、拳を握り締めた。
「おおっと、反抗は寄せ。自爆するつもりか?」
ルエイソレットはにやにやとノガードを見つめた。ノガードは、成すすべもなく、力を込めた拳を緩めた。
彼は分かっていた。こいつは
本気 でやばいと。「さあてと。お前の命はもはや、俺の手中にある。その意味は、もう理解したよな?」
「……あ、ああ……」
「なら、今から俺が言うことをようく聞け。今後は一切、俺の縄張りに入るな。そして部下達にちょっかいを出すな。その代わり、お前が得た縄張りは全部やる。お前の努力と力投を称えてやるってもんだ。嬉しいだろう?」
そういってルエイソレットは、部下に先導され、その巨体を動かして部屋を出て行った。体の重みで古びた床が軋み、その音もやがて姿と同じく消えていき、部下達も次第にいなくなっていった。
一人、猫の死体と残るノガードは、その場で呆然とした。彼は思っていた。敗北は認める。だが、やつの言いなりになることが、どうしようもなかった。しかもそれは、下手をしたら一生続くと思うと、彼は気が気でなかった。何より今、彼の腹の中には、あの「キューブリック」という爆弾が入っている。つまり四六時中、彼はこの爆弾に悩まされ続けなくてはならないのだ。
長く、この部屋に残っていたノガード。やがてようやく、重い体を動かすと、部屋をあとにし、ここに入って来た時と同じ裏口から、この襤褸屋を出ていった。
「久々に外へ出歩いて疲れたな。今日はピザでも食いたいところだ」
グレース・タウン中部にある立派な家の自室の前で、ルエイソレットはそう漏らした。すると扉の両脇で護衛している部下の一人が、用意しておいてピザのチラシをボスである彼に差し出した。出前はルエイソレットにとって必需品で、チラシは常に部下に携帯させているのだ。
「ふむ……全部で十種類か。今日はこれぐらいならいけるな。お前、このピザ全種類を頼んでおけ」
部下は頷くと、その場を急いで去っていた。そんな部下とは対称的に、ゆっくりと家の中に入ると、彼は向かいにある立派な木の机の先にある特大のリクライニングチェアに、どっかりと腰を降ろし、大きくため息をもらした。
そこで、部下には見せなかったが、疲労による息の乱れを整え、胸ポケットにあるハンカチで汗を拭き取ると、しばし休憩をした。
やがて、十枚のピザが到着すると、ルエイソレットはそれらを、たった一人で食べ始めた。その体が一段と肥えることは、どうやら間違いなさそうだった。
「このスーツも、新しく新調しないといけないな」とこぼしつつ、彼は食事をやめなかった。
彼がここまで膨大な食欲を誇るのには、疲れたり、元々の胃袋が大きかったりするだけではなく、もう一つ別の要因がありそうだった。なぜなら、食事をする彼の様子は、不思議と現実から逃避したいかのように、意識を極力食事にだけ向けるよう、意識的に強制しているようにも見えるからであった。