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グレース・タウン Grace Town

ノガード Nogard

  男 竜 筋肉質 俺

フロウ Flow

  男 狼 痩せ→痩せ気味 俺

タール Tar

  女 鼠 ふっくら 私

ドレイジル Drazil

  男 蜥蜴 痩せ→痩せ気味 自分

ニプロッド Nihplod

  女 海豚 痩せ→痩せ気味 あたし

タブ Tab

  男 蝙蝠 痩せ→痩せ気味 俺

イザーラ Izara

  男の子 蜥蜴+鼠 僕

ルエイソレット Ruasoretp

  男 翼竜 俺 筋肉質 → ???


 グレース・タウン東部を支配するボスが住む豪邸の門前で、脇にある草叢に隠れるノガードの部下達。

「いいか、今からここの野郎が、北部の奴と会合する。それに向かう時に門が開く。そこがチャンスだとボスは言っていた」と狼のフロウ。元ボスだけあり、ノガードがいない今、先導をするのは彼の役目だった。

 彼の言葉に、蝙蝠のタブが言った。

「んで、俺達はどうすれば?」

「ここの門は自動式らしい。野郎が門に近づくと、センサーが反応して門が開閉するんだ。つまり手動でないから、開いて閉まるまでの間に中に入っちまえばばれないってことだ」

「……そうか。その際、このすぐ上にある唯一の『目』を、空を飛べる俺がいじるってわけか」

「そういうことだ。その間に俺とドレイジルが中に入る」

 その時だった。フロウの耳につけられた小型無線機から、誰かの声が聞こえて来た。

『フロウ、来たわ』

「サンキュー、ニプロッド。んじゃ、そっちも気をつけてな」

『ええ』

 ニプロッドは、門を出た所の丁字路にある並木の後ろに隠れていた。そこから北部のボスの様子を窺うとともに、彼が乗る車のあとを追うのが彼女の役目だった。

 少しして、門が開いて、如何にも高級そうな車が出て来た。しかもオープンカーである。物騒な場所とは言え、一応は更生施設内ゆえ、拳銃などの武器類はないため、基本ここでの争いは肉弾戦となる。そのため防弾ガラスなどは不要なのだ。

 オープンカーは、門を出て右へと曲がり、北へと向かい始めた。ニプロッドは静かに、静音式に改造した大型バイクに跨いでそのあとを追った。

 一方、フロウ達も行動に移っていた。自動式ゆえ、ゆっくりと動く門が閉まり切る前に、タブが闇夜にその漆黒の体を飛び上がらせ、唯一の目である監視カメラをいじった。それが働く数秒の間を見計らい、さっと素早くフロウとドレイジルが、迫り来る門の間をすり抜けた。

 やがて門が閉まる音とともに、外にはタブだけが残された。彼の仕事はもう終わった、あとはこのことがばれないよう、静かに空を飛んで拠点に戻るだけだった。

 部下達が動いているあいだ、ノガードは東部ボスの豪邸の裏側に来ていた。高い防壁と、そして空からの進入を防ぐためのバリア(これは更生施設が予め備えていたもの)で完全に中へと通路を遮断していた。だが彼は、その中にある、手抜きともいえる部分を見つけていた。高い遮断性だけを追及したがゆえの抜かりであり、今彼は、そこを入念に調べていた。

「おお、久しぶりのお客じゃのう」

「な、なんだ?」

 突然の声に一歩退いたノガード。外灯が殆どない裏道のおかげで気がつかなかったが、目を凝らせばそこには、布のフードをかぶった一人の鼠の老人がいたのだ。

「どうじゃ、儂の作品を見ていかんかの?」

「ふん、あんたみたいな老い耄れの作った作品なぞ、見たくもない」

「ほほう、物を見ないでよくそんなことが言えるものじゃ」

「いいか爺さん、俺は今忙しいんだ。悪いが、そこをどくんだ」

「あんたに言われる筋合いはないぞい。ここは儂の店なのじゃからな」

「店だって? こんな所に店を建てるとは、愚考にもほどがある」

「ふぉ! 儂は人がごったがえす場所は嫌いなんじゃ」

「だからって、ここに建てることはないだろ」

「『ここ』だから良いんじゃ。ほれ、とりあえず儂の作品でも見ていかんか、きっとお主にも役立つこと間違いなしじゃ」

 ノガードは鼻息をならすと、昨日のこともあって余裕を持っているのか、どれどれと、質素なボール紙の上に並べられた三つの作品を見つめた。

 しかし、そこに並べられているのは、とても現実的なものではなかった——即ち……

「なんだこれ、子供のおもちゃか」ノガードは眉を寄せた。

「違うぞい、本物じゃ」

「本物って爺さん、頭がどうかしてるのか? 『なんでも透視出来る機械』『体がゴムになる薬』『足が何十倍にも速くなる薬』確かにいくつかは実際にありそうだが、それでも誇張してたりするんじゃないのか?」

 すると老鼠は、作品の一つ、足が速くなる薬を差し出した。栄養ドリンクのように一口で飲み干せる小さいものだ。

「それ、毒じゃないのか?」

「まあ初めは、そう思うのも無理はないのぉ」と老鼠は、薬の蓋をあけると、半分ほど口に含んで飲み下した。

「……これでどうじゃ? 儂が半分飲んだのじゃから、お主も半分。儂よりもお主の方が体は丈夫じゃからの」

 ノガードは、鼠の様子を窺ったが、なんの変哲もなかった。しかしそれはそれで、薬の効果が出てないとも見て取られ、どちらにせよ安心ならなかった。

 しかし老鼠は、再び薬を差し出して来た。全く、と首を横に振って、ノガードは彼から薬を受け取ると、残りの半分の飲み干した。

「ふぅ、これで良いんだろ、爺さん?」

「そうじゃそうじゃ。初めは疑念があるものじゃが、実感が沸けばすぐに、儂の作品の素晴らしさが分かるぞい」

 その時だった。ノガードの耳につけた無線機から、部下の声が聞こえて来た。

『ボス? こちらフロウ。ボスの言った通り、家の裏側のブロックの一部が、少しこちら側に突き出ています』

「やはりな。誰かがこの家から脱出しようと試みたんだ。きっと奴隷か誰かだったんだろう。だがこっち側が上りになっているせいで、向こうから押してもブロックは動かない——だが逆に、俺の方から押せば、ブロックは下っていくから押せるってわけだ」

『な、なるほど、さすがボス! どうやってその情報を?』

「情報を得るには第一に、その地域一体に情報網を張り巡らすことだ。そうすれば、こういう些細なことも、のちに進入の手立てとして助けとなる。勉強になっただろ?」

『はい!』

「よし、フロウ。あとは教えたとおりにやれ」

 フロウは合図をした。ノガードは耳を澄ました。

(……ガリ……がりがり……)誰かが何かを引っかく音が聞こえた

 そう、これはフロウが、狼の鉤爪でブロックを削る音だ。いくらブロックがずれているとは言え、こちら側からでは全体的に壁が凸凹しているので、どこが動かされた場所か分からないのだ。しかしこのおかげで、ノガードは動かすべきブロックの位置を把握することが出来た。

「悪いな爺さん、お別れだ。もう一生会うことはないだろう」

「いんや。お主の方から、こっちへとやってくるぞい」

「ふん、そんなことあるものか」そう言い残してノガードは、微かに聞こえる音を頼りに、その場所へと向かった。

 やがて、音が間近に聞こえる場所に来ると、そこにはノガードの全身がすっぽり入るほど大きなブロックがあった。試しにこちら側から合図をすると、向こうからも合図が帰って来た。

 本来、並大抵の力ではこのブロックは動かせない。だがノガードは、自身の体のことをしっかりと承知していた。部下の男達三人を合わせたものよりも、はるかに自分の方が力があることを。現実に、彼の自室にあるトレーニング器具は、どれも彼らをへし折ってしまうほどの重量ばかりなのである。

 そんな強靭な肉体を使い、ノガードは全身でタックルをかまし、ぐっと地面を足で踏みしめ、ブロックを押した。向こうからも、二人の部下達の援助があったかも知れないが、ノガードにとってそれは本の微々たるものであった。

 踏ん張りを利かせ、歯を食い縛りながらブロックを押すノガード。やがてそれは、少しずつ動き出し、やがてノガードが横になって入れる程度の隙間が出来、そこで部下達と合流した。


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