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グレース・タウン Grace Town

ノガード Nogard

  男 竜 

フロウ Flow

  男 狼 

タール Tar

  女 鼠 

ドレイジル Drazil

  男 蜥蜴 

ニプロッド Nihplod

  女 海豚 

タブ Tab

  男 蝙蝠 

イザーラ Izara

  男の子 蜥蜴+鼠 

ルエイソレット Ruasoretp

  男 翼竜 


「邪魔するぜ」

「なっ……誰だ貴様!?」

 突然、グレース・タウンの西全体をシマに持つ虎のボスの部屋に、黒いスーツを着た筋肉質の竜が後ろ手に、足で扉を蹴破って殴りこんで来たのだ。それに、部屋でボスの護衛をする鳶と鯱の二人が前に進み出た。だが竜は、逆に面白そうにして彼らを見つめ、そして口を開いた。

「悪いな、ちとお前らの陣地を横取りしようと思ってな」

「くそ、下克上か——他の手下らはどうしたんだ!?」

「こいつのことか?」

 竜は後ろ手になっていたものを前に出した。するとそこには、一人の手下と思しき骸の腕が握られていた。それを見たボスは、苦虫を噛み潰したような表情で、両腕達に言った。

「おい、やっちまえ!」

 ボスの左腕の鷲が、さっと宙を舞い、素早く竜の頭上に回った。その俊敏さで、竜の後ろに周りこんだ鳶は、嘴を相手に向けた。

 だがその直後、鳶は何かによる強烈な打撃を受け、鈍い音と共に壁に叩きつけられた。

「残念、俺には尻尾がある。それぐらいのことを弁えられないとは、ボスの腕としてどうかと思うが」と竜が語った。それに激昂したボスの虎は、鯱に喚いた。

 先ほどとは違い、右腕の鯱はずしんと片足を踏み鳴らし、その標準的とは言え寸胴でがっしりとした体を誇示させた。

 竜は動かない。相手の様子を窺っているのか。すると鯱は、ばっと重々しく走り出した。そして器用にその体を拗らせ、鳶を倒した尻尾のごとく彼も図太い尾鰭を振り翳した。

 だがその軌跡は、途中で止められてしまった。鯱が驚きに竜を見つめると、相手は容易くその尾鰭を掴んでいた。鯱が慌ててそれを引こうとするが、筋肉が盛り上がった竜の腕からは、一寸たりとも動かなかった。

 やがて竜は、片足を横に広げて「ふん!」と鼻息をもらすと、鯱の尾鰭をジャイアントスイングさせ、思い切り扉めがけて投げ飛ばした。鯱の巨体は、物凄い破壊音と砂埃と共に扉を破壊し、そのまま廊下の壁に叩きつけられて床に落ちた。

「さあてと、次は可愛い子猫ちゃんの番か。おしおし怖がらなくてもいいぞ、俺が優しく抱っこしてやるぞ、ほうら」

 侮辱されたボスはもはや完全にブチ切れ、機敏さと力強さを兼ね備えた剽悍な体を奮い立たせると、背凭れの長い椅子から立ち上がって机を飛び越えて、そのままの勢いで竜に挑んだ。

『ボス、お帰りなさい!』

 とある大邸宅の玄関で、部下達が両脇に並んで挨拶をした。全員、昔とは違って、服装もかなり綺麗になり、スーツも確りと決まっていた。

「ボス、ついに西部を奪ったんですね?」

 以前より、少しだけふっくらとした狼のフロウが、後ろ手に入って来たボスの竜ことノガードに、答えを急かすように言った。それにノガードは、顰めっ面をすると、慌ててフロウが、一歩退いて頭を下げた。

「……慌てることはない、フロウの言う通り、西部は完全に俺の物になった。ほれ、土産だ」

 そう言って、後ろ手になっていたものを前に出した。するとそこには、つい最近までグレース・タウンの西を仕切っていたボスの虎の首根っこが握られていた。その体は満身創痍だが、ノガードの自身はいたって無傷である。それを見たノガードの部下達は、再度頭を下げて、彼を敬った。

 そんな彼らの前に、ノガードは虎を放り投げた。

「ひぃ、お、お助けを……」

「お前は使い物にならねえ。牢屋にでもぶちこんでおけ」

 フロウのように、前より少し体に肉のついた男蜥蜴ドレイジルと男蝙蝠タブが、虎の腕を掴むと、地下の牢屋へと運んだ。

「ボス、部屋には食事のお風呂の準備が出来ています」と、女海豚のニプロッドが言った。彼女もまた、細かった体が少し豊満になり、女性らしい美しい流線が全身に現れ始めていた。

「ああ。それでイザーラはどんな調子だ?」

「今日も健康そのものです。これもみんなボスのおかげです。それで今は、タールが寝かし付けています」

「そうか、もうそんな時間だったか。分かった、今日はもう休め。地下から戻って来た二人にもそう伝えろ」

 そう言い残して、ノガードは会釈する二人の部下のあいだを通って、二つある中央の階段を上り始めた。そしてそこから180度向きを変え、二つの階段の丁度真ん中にある三階へと上る階段を上がった。その様子を、部下達は最後まで確りと見送った。

 自室に戻ったノガードは、スーツを脱いでジャグジーでゆったりとしながら、脇に置いた肉などをゆっくりと嗜んでいた。彼は今、明日襲う東部のことについて考えていた。ここ一年、小さなアパートに住む湿っぽいところから、グレース・タウン全体に根を張るまで成長した彼の一団。今ではノガード団と言われ、静かにグレース・タウンに浸透していた。そしてある程度準備が整ったところで、ノガードは、例のルエイソレットが主となって統括している中部を最終目標として、その周りのシマを順に奪うことにしていた。

 その初めとして行なったのが、今日の西部略奪だった。町全体にネットワークを広げたおかげで、それぞれの地区から何らかの干渉を受けても確実に情報を得られ、今回の西区を奪う際も、そこと絡む北区と南区からのデータを使っていたのだ。つまりこれは、ノガードの確固たる策略が奏功したわけである。力だけでなく、そんな邪知にも長けたノガードに、手下達は益々、彼を尊敬するようになった。

 ノガードは、がぶりと肉片を齧り取ってそれを呑み込むと、自然と悪い笑みを浮かべた。なぜなら、今日打ちのめしたあの虎は、西部を統括している——即ちルエイソレット直々の部下なのである。だがその部下があんな雑魚だったので、これからも楽勝に事が進むなと考えたからだった。


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