「ここは、自分の家じゃないか」とフランジュ。
ブロームがやって来たのは、なんと彼の家だったのです。そこでピンと、フランジュが察しました。
「ま、まさか姉さんを!?」
「ああ。俺の知ってる中じゃ、彼女が一番の肥満体だ」
「け、けど、さあ——」
「お前も何回かぼやいてただろ、早く姉さんのお婿が見つかればいいなって」
「そりゃそうだけどさ。その、姉さんは……その、君に興味があるんじゃないのか? 父さんも『念頭に入れて置いてくれ』なんて言ってたし。お前もお前でなんか、姉さんと意気投合してたしさ」
ブロームは、それを認めました。
「じゃあなんで?」
「フランジュ、お前も見ただろ、アクロの姿を?」
「あ、ああ。まあ自分も、ようやくアニーモを受け入れ始めてるから、余韻は残ってるが凄いと思ってる」
「だろ? でも凄いなんてもんじゃない。驚くほどの太りっぷりゆえ、動けない体だ」
「ならなんで姉さんを? 姉さんだってまともに動けないぞ」
「そうかも知れないが、でもまだ動けるじゃないか。俺が思うに、アクロが誓いを結べるのはカーシェしかいないと思うんだ」
「けど、なあ……確かに姉さんは、自分が未知に思って隠したくなるほど太ってたし、でも——」
「でも、なんだ?」
「——それだけでいいのかなって。探せば他にいそうじゃないか」
「でもよ、アクロのやつ相当滅入ってたみたいだ。出来る限り早く、彼を喜ばしてやりたいんだよ」
その言葉にフランジュが驚きました。昔のブロームのあの感情はどこへやら。しかしそれがフランジュの心を動かしました。
「……そうだな。お前、本当に変わったな」
「ああ。大人になっただろ?」
「あの時の一瞬は危うかったけどな」
「は、はは、思い出させないでくれよ」とブロームは苦笑い。
二人はフランジュの家に入りました。すると父親がこういいました。
「おかえりフランジュ。それとブローム君か。どうだね、カーシェを嫁にする気にはなったかい?」
「そのことなんですがね——」
ブロームは、あえてアクロの体のことには触れず、カーシェにもっと良いお婿さんがいると彼女の両親に教えました。しかし相手が鯱だと聞くと、少し首を傾げました。同族同士が太っていることの二の次に良いのに、それを退けて彼自身よりも良いとは、本当なのだろうかと。
なんと言っても、ブロームの体重は三百キロを超え、彼女の両親世代からしてみれば充分以上にでっぷりと太った体型であるのです。そんな両親からしてみれば、その三、四倍以上なければその鯱が良いとは思えないからで、つまりは九百以上。カーシェですらそこまではいかないし、そもそもそこまで太った人物を今まで見たことも聞いたことがなかったのです。
「本当に、君よりいいのか?」と父親は信じがたい面持ちだ。それにブロームは自信を持ってうなずきます。
「ねえあなた、とりあえず会って見ましょうよ」
母親の説得に、渋々夫は承諾。そして彼は、娘の部屋に行って、彼女を説得しました。
なかなかにカーシェは、頭を下げなかったようです。何せ一目惚れのような急騰した感情をブロームに秘めていたため、意見を曲げようとはしなかったのです。しかしそんな彼が薦めているのだからと、最終的には納得し、本当におもおもとした腰を、彼女は持ち上げました。
それから、フランジュ家は総出で、ブロームが案内する場所へと向かうことにしました。勿論カーシェは歩くことすら精一杯なので、父親が保有するトラックの荷台に載せてもらうことで、指示された場所に行くことになりました。