雄鷹フランジュと、その義理の蜥蜴家族、そして雄蜥蜴のブローム、計五人は、リビングで昼食を取っていました。テーブルにはピザLサイズの箱がぎっしりと詰まれており、その大半がすでに空となっています。
そして今彼ら、彼女らは、食後のデザートとして、十個入りドーナッツ箱を空いたテーブルに上に敷き詰め、既に九箱を空にしていました。
普通に考えれば、ありえない光景です。そこにいる全員は男女問わずどっぷりと脂肪に浸かっており、普通サイズの椅子のよう並べられてるそれは、実はアニーモ特注の、普通より倍サイズの椅子。それに、フランジュとその母が座ります。父もそれに座っていますが、大きく膨らんだお腹の脇がもろに椅子から食み出てます。
一方ブロームは、それを二幅対にしてどっかりと座っています。大きく膨らんで、一応作業着で支えられてはいるものの垂れ下がったお腹に、両脚が大きく広げられています。
そしてこの中で一番の最重量者カーシェにいたっては、椅子を三つに並べているのです。体だけでなく、一日中座り続ける彼女のお尻は座布団のように広がっており、そこにもうひとつの椅子があるようになっています。
「いやあ、やっぱり食べ物と言ったら、ピザとドーナッツに限るな!」
そういってフランジュの父が、締めに残り半ガロンのコーラをぐいぐいと飲み干し、盛大なげっぷをもらします。そして満足そうに、ぱんぱんに膨れた太鼓腹を叩きました。げっぷ用の空気が体に残っているのだろう、叩くと彼のお腹は、能の小鼓を叩いたような気持ちのよい音がなりました。
「それにしてもブローム、君は凄いな。私達の時代では考えられない。私の娘もそうだが、最近の子達は立派に太ってくれて気持ちがいいよ」
「ありがとうございます」そういってブロームは、次のドーナツを取ろうと箱に手を入れます。
「あれ……あ、もうないのか」
「悪い、もっとあった方が良かったか」
「いえいえ、そんな——」
するとここでカーシェが、話に割って入りました。
「気にしなくていいのよブローム。私ももっと食べたいもの」
「はっは、そうかそうか。それじゃあ今から追加を頼んでおくよ」
既にフランジュ、そして父母は満腹済み。しかし追加で来たピザ五箱とドーナッツ二十五個を、カーシェとブロームは全部平らげてしまったのです。この量は、母が大食いの二人を考慮して多めに頼んだのですが、見事にそれを完食してしまった二人に、父親も微笑を隠せません。
「二人は、いい夫婦になれそうだな」
「——ちょ、ちょっと小父さん!?」
思わず最後のドーナツを噴出しそうになったブロームは、慌てて口を押さえ、とにかくそれを飲み込んで、一気にコーラを飲み干しました。
「冗談、ですよね?」とブロームが聞き返します。
「だが半ば半分は、本当だぞ?」
カーシェが父親をちらりと見ます。
「お父さん?」
「そろそろカーシェも、花婿を貰うのにちょうどいい年頃だと思うんだ。ここまで立派に脂肪も蓄えたことだし、準備はそろってる。何より同じ種族同士だしな」
さすがに唐突な質問に、ブロームは驚きを隠せません。しかし成人になった彼は、未だに恋人などを持ったことがなく、そういった関係を一度ぐらいは築きたいと考えていました。
しかし今の彼は、もっともっと太ることで前進していたので、ここで急停止を掛けるのもどうかと渋っていたのです。
「……うーん、それは……」
「君の趣向には合わないか?」とカーシェの父。
「いえ、そうじゃないんですが……あまりにも唐突過ぎましたので」
「今すぐ答えは出さなくても良い、だが念頭には入れてもらえないだろうか?」
「そう、ですね。正直俺、カーシェを見た瞬間ドキってしたんです。何かあるのかも、って思いましたから」
「そうかそうか! なら是非とも、私の娘を頼むよ」
ブロームは頷いて、ちらりとカーシェを見ます。するとカーシェは頬を赤らめ、そっぽを向いてしまいました。
少しだけ、気まずいような空気が流れました。そこでフランジュが、一旦距離を開けた方がいいと気を遣い、ブロームにこう提案しました。
「そういえばさブローム、最近アクロを見たか?」
「アクロだって?」
顔を急激に変えたブローム。しかし以前ほどの顰めっ面はありません。
「ああ。だってさ、中学最後の時から見てなかっただろ? どうなってるか気になるし、昔の同級生に会うのも悪くないと思うんだが」
「そ、そうだが……」
「やっぱり、まだ対抗心燃やしてるのか?」
「いや、俺はもう子供じゃないんだ。そんなことで頭に血が上ったりはしないさ」
「じゃあどうして?」
「そのさ……なんだか恥ずかしくて。昔はあいつとは距離を置くようにしてたんだが、それが今となっちゃバカバカしく思えて、なんて幼稚だったんだって思えて」
「はは、確かにな。中学生にもなって、あんなことで感情が揺さぶられるなんて」
「あんなことって——当時の俺にとっちゃ、かなりの敵だったんだぞ?」
「だけど今じゃ、大人の判断ってものが身に付いて分かっただろ? なあ、自分も見てみたいんだよアクロ」
「そうだなあ。学校では凄く有名だったから、もしかしたらテレビに出てるかもって時折眺めてたんだが、ニュースにすら出ないもんな」
「あはは、お前散々いいながら、やっぱり気にしてんじゃん」
「うっ……」と、ブロームは的を射抜かれ言葉を返せません。
「まあとにかくさ。食事も終わって一段落もしたことだし、行ってみないか?」
ブロームはしばし考え、今はカーシェとの距離を置きたい方が良いな思い——つまりは見事にフランジュの作戦にはまったわけで——アクロの家に行くことを決意しました。
「それじゃ、ちょっと昔の同級生に会いに行ってくるわ」とフランジュが椅子から立ち上がった。
「入学式の時のアクロは確かに凄かったからな。会って来たら是非、彼の近況を教えてくれよな」
父親の言葉に、フランジュはうんと頷きます。そしてゆっくりと重たい腰(嫌々な方ではなく、リアルに重い腰)を持ち上げたブロームとともに、アクロの家へと向かい始めました。