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 ここは、アニーモという国の首都アニモニア。首都というだけのことはあり、最もガバージュが執り行われている場所です。なのでそこに住む人達の平均は、どの国よりも太っており、アニーモのどの都市においても太っているのです。

 そんな首都には、勿論いくつかの中学校があります。しかしながら一番有名なのは、やはり首都の名前が付いたアニモニア中学校。偏差値はそれほどでもないが、最も体重審査が厳しく、体重が八〇キロないと入れない、アニーモ屈指の中学校です。

 勿論アニモニア小学校もあり、体重が四十キロとなかなかに厳しい基準ですが、高校、大学となると、もっともっと厳しいお所になります。大学に至っては、体重が一六〇キロないと入れないということで、生徒数もそれほど多くはありません。

 それが意味するところは、当然の如くスペースの問題もありますが、やはり貧しさが少し残るアニーモでは、そこまで太ることが困難なのです。

 さて、今日は四月ということで、アニーモでは新学期です。クラス替えもなくそのまま上級生になるだけなので、いたって一年前とは変わりません。新入生の入学式を終えたあとは、ホームルームまでのんびりと教室で皆座っています。

「アニモニア高校、やっぱ入れないとまずいよなぁ。絶対『あいつ』はアニモニア高校入るに決まってるし……」

 雄蜥蜴がそう呟きます。するとその後ろから、友人の雄鷹が近寄って来ました。

「よっ、ブローム」と鷹

「ん? なんだフランジュか」

「なんだって、そりゃ酷いな。ところで、何見てるんだ?」

「高校の体重審査別リストだよ。やっぱりアニモニアが一番いいんだろうが、何せ体重が一二〇キロは厳しいな……」

「そりゃそうだな。まあブロームも、一年前に比べたら随分と太ったが、それでもまだ百キロだもんな」

 確かにブロームは、以前の立派な太鼓腹が更に膨れて、少し垂れ下がり初めていました。

 しかしながら、アニモニア中学校では、高校に向けて必死にガバージュを受けている生徒が多かったため(例えそれが注意されていたとしても)彼以上に太っている生徒などざらにいたのです。

 そんな中、フランジュだけは、一年の頃と変わらず、三年になった今も体重は八十キロのままでした。

「逆にお前はさ、何処の高校にいくつもりなんだ? そんな体じゃ、当然アニモニアにはいかないんだろうが」

「ああ。両親を説得してさ、海外に留学することにしたんだ」

「ほお! さすがリッチなお宅に住むだけはある。羨ましいねぇ〜」

「お前ん家だって、百キロまで太れるだけでも充分じゃないか」

「何言ってるんだよ。確かにアニーモにしちゃあそうかも知れないが、ここはアニモニア中だぞ? こんなんじゃ、あいつにも勝てない」

「はは、そりゃそうだな。そういえば今日、有名なアクロは来てないな」

「ん、そういえばそうだな。まあホームルームも終わることだし、今日は来ないのかもな」

 だが噂をすればだった。もう学校が終わりにも近いのに、教室の扉から、ぜえぜえと喘ぎながら、一人の巨大な鯱がやって来た。しかしその太り過ぎた体ゆえ、少し入り口に挟まってしまったのです。

 すると、彼は手馴れたように、全身の肉を豪快に揺すりながら、むりくりに扉を通り抜けました。

「はあ、はあ……も、もう、終わっちゃったかなぁ」

 アクロも、ブロームのように太ってはいましたが、その変化は一目瞭然。何故なら、一年前の彼なら、まだこんな扉など悠々に通ることが出来たのです。

 そんなに扉が広い理由は、単にアクロのような肥満生徒のためではりません。歳を重ねるごとにガバージュの影響で膨らむ体——つまりは先生達のためなのです。この学校で一番太った先生が、扉をようやく通れるほどに合わせているのです。

 勿論それ以上に太った人もいますが、そこまで行くとさすがに歩くもの一苦労となり、先生としての勤めが出来ないのです。だから先生という立場として動ける程度の最大肥満者を模範として、この扉が作られているのです。

 しかしそんな広さを、この一年でアクロが塗り替えたのです。これはアニモニア中学校が設立されて百年来、初めての出来事です。

「ははは、アクロ。お前にだけはやっぱり、ガバージュの抑制は効かないようだな」

 新しいクラスの担任となった雄犬が、アクロの後ろでそういいました。ガバージュ禁止法が出されても、まだ住民たちの反感を買って強制されていないそれゆえに、先生もガバージュに関しては優しく見過ごします。

「あっ、遅刻してすみません! 実は時間配分を間違えて……お腹が減っちゃってたもので」

 すると、クラス内の生徒は大爆笑。だがその中で、ブロームだけは顔を歪めました。フランジュもそれを見て、笑いを抑えました。

「クソ、あいつのように有名になりたいぜ」

「あれは有名というか、からかわれてるに近いと思うが」

「まあそうだが、でも普段のあいつはどうだ? 見ず知らずの通行人さえ、彼に食べ物を奢る。畜生、そんなんだからあそこまで太れるんじゃないか」

「ま、まあな。だけどせめて、闇雲に成りすぎないようにした方がいいぞ」

「どうしてだ?」

「そりゃ、まあ……ガバージュが禁止されるほどだからな」

「禁止つったって、もしかしたらそれが禁止されるかも知れないじゃないか。大体ガバージュをやめさせようなんて、本当に反感を買うに過ぎないっての」

 ブロームだけが腑に落ちない態の中、爆笑のクラス内ではホームルームが行われ、それが終わると皆解散しました。

 鷹のフランジュが自宅に帰りつきました。いつも通り両親にただいまというと、そのまま自室に向かいます。

 自室といっても、そこは蜥蜴の姉と同じ部屋でした。

「あら、おかえりフランジュ」

「ただいま姉さん」

「悪いんだけどフランジュ、そこにあるパソコン取ってくれない?」

 フランジュは、姉が指差した場所にあるパソコンを手に取りました。

「自分で置いたものなら、自分で取りに行ってよ」

「面倒じゃない。あんまり動きたくないのよ」

「はあ、そういって姉さん、一年前からずっと閉じこもりっきりじゃない」

「何が悪いの?」

「別に何が悪いってわけじゃないけど、せめて早く花婿を見つけないと……動けなくなってからじゃ遅いと思うんだけど」

「大丈夫よ。この体なら、どんな雄でも落とせるわ。とりあえず今は、のんびりしたいだけよ」

 はぁっと溜め息をもらしながら、フランジュは手に取ったパソコンを姉に渡します。

 動けなくなってからじゃ遅い、そう彼は言ったが、既に彼女はその域に達っしようとしていました。何故なら彼女は、一日中ベッドで横になっているからです。

 時折仰向けになったりするだけでも、彼女はまるで丸太を担ぐような力み声を上げます。ましてや起き上がるとなると、最低十分は必要としてしまうのです。

 だから、一度置いたパソコンも手に届かないところがあれば、弟や親を利用してしまうのですが、そんなぐうたらさが、また彼女をベッドに押し付けてしまうのです。

 そんな彼女は、昼と夕方の食事の時間でしか、今ではベッドから降りません。リビングにいくまでは、もっともっと彼女には辛苦で、食後にすぐベッドで寝ても良い時間帯にしか、起き上がらないのです。

 しかしながらそれも、最近変わりつつありました。食事量が最も多い夕方以外、最近は彼女はベッドで食事をするのです。

 そんな着実に変化する蜥蜴の姉カーシェに、今日も弟の鷹フランジュは、密かに慄いていました。


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