キャラが多すぎたので、個人的な意味も込めてメモ。
グループA:
主人公 _ 僕
川獺 雄 俺
鮫 雌 私
グループB:
兎 雌 自分
蛙 _ わたくし
鷹 雄 おいら
昨日は、あっけらかんとしてしまうほど、ゲームがあっけないものだった。ずっとこんな調子なんだろうか? まあそれはそれで楽だけど……
あの最初のゲーム後、参加者全員にはくっきりと分かれるものがあった。あっけなく第一ゲームを突破したことに悦喜し、テンションがあがっているもの。逆に、あっというまに失格となり、そしてその行方がわからないことに、また一兆円という大金とともに恐怖を覚えて口を閉ざすもの。
ちなみに僕はというと、どちらでもない。正確にはどっちともあるとも言える。友達の川獺といるときは、楽しげに会話出来るが、とたんに一人になると、まるで同じグループの雌犬のように、口をぱたりと閉ざしてしまう――まあ独り言を言うのもあれだが、しかし先ほどいった川獺や鮫などは、高まった気分をおさえられないのか、最低限口笛を吹いたり歌を歌ったりと、とにかく口を閉ざさない。
「ことん」
思いにふけっていると、突如、ゲームを知らせる紙がとどいた。はてさて今回は、どんなものだろうか……
今回のゲームは、グループごとのメンバー同士の結束力を問うものだ。大食堂に集まれ
「観察力か……なるほど」
僕は、ようやくゲームらしくなってきたと、扉をあけて大食堂に向かおうと、ドアノブに手をかけ、半円廊下に出た。
「おう」
川獺だった。昨日とは違い、やはりゲームとなると、気を引き締めているように顔が真剣になっていた。
「今回は、結束力を問うものね。ということは、四人で頑張れってことよね」と横の部屋から、鮫が出て来た。
その反対側の扉からも、犬が出て来た。しかしゲームにおののき始めたのか、口をつぐんだままだった。
「あんたも、がんばってよね。そんなにくよくよしてたら、ゲームに勝てないじゃない」と鮫が、雌犬に注意した。
「そ……そんなこと言われても……あたし、なんだか怖くなって」
「いやだったら、ギブアップしてもいいのよ? そっちの方が効率がいいし」
「そ、そんな! あ、あたしだってね、お金が欲しいのよ!」
「だったらもっとしゃんとしなさいよ!」
すると川獺が、女同士の口げんかに割って入った。
「落ち着けって。とにかく、犬にも頑張って貰わないといけないんだ。なにせ結束力を問うゲームだぞ? 彼女をギブアップさせるようなら、その時点でゲームに負けることにならないか?」
なるほど、と僕はうなずいた。グループの一員として、ゲームに参加させなくては、結束力など言えたものじゃない。
「……分かったわ。でも、ふざけたまねはしないでよね」と鮫が、言葉きつく犬に言った。
そして僕たちは、四人と分館を玄関ホールをつなぐ廊下を歩んだ。
すると突如、地響きがして、ぐらりと辺りが揺れた。
「地震か?」と川獺。
「さあ――!?」
鮫が、一瞬にして顔を青ざめた。なんと玄関ホールへの境界線のところの床が、ぱっくりと割れていたのだ。しかもそれはどんどんと広まっていく。
「な、なにあれ……」僕は思わず、息を呑んだ。
「もうゲームは始まっていたのか!? いや、とにかく早くあそこをわたろう。さもないと、何が起きるかわかったもんじゃない」
川獺がみんなを引き立て、急いで玄関ホール手前までやって来た。まだ割れた幅は広くない。これならなんとかわたれそうだ。
がっしりとした体が跳躍力にあだとなる川獺でも、なんとか大またでそれをわたった。それに倣い、鮫も、そして僕も裂けた廊下を渡った。
それにしても、底が真っ暗だ。まるで底なしのような、落ちたら、死んでしまうような深さであった。
「ちょっとあんた、なにやってるの!?」
鮫が大声で叫んだので、後ろを振り返ると、まだ犬が裂け目の手前で尻込みしていたのだ。その間にも、裂け目はどんどん広がり、ジャンプしないといけないぐらいになりはじめていた。
「おい! 早くわたらないと、どうなるか分からないぞ!」川獺も彼女を急き立てた。しかし彼女の竦んだ足を見ると、相当怖がっており、身動きが取れないようだった。
「い、いや……わたれない!」
「大丈夫よ! 私たちが大またでわたれる程度だから!」と鮫が、彼女をなだめようとする。だがすでに、裂け目は大またで渡ることはできなくなっていた。
鮫の説得もむなしく、犬との間隔は、どんどんと開いていった。
「ちょ――おい、後ろを見てみろ!」
犬が後ろを振り返った。すると、そこには半円の廊下が見えず、変わりに通路をふさぐ、大きな壁がせまりはじめていた。
まずい、彼女をこの奈落の底に落とす気だ。僕も彼女を助けようと、大声を上げた。
「はやく渡って! そのままだと落とされる!」
「で、でも……」
「早く、早くしなさい!」
「早くしろ!」
「いや、いや……こんなの、渡れない!」
僕を含めた三人の説得もむなしく、とうとう犬は、ぺたりと地べたに頽れてしまった。
見る見る、彼女と距離が離れ、そして迫り来る壁は、徐々に彼女に近づいた。
やがて、僕は思わず目をつぶってしまった。二人もそうしたのかどうか、分からない。ただ、耳にだけは、その阿鼻叫喚がはっきりと聞こえていた。
――いやぁぁぁぁぁああ!
僕が目をあけると、既に裂け目はなく、壁もなくなり、先には半円廊下が見えていた。
「……なあ、あいつ、どうなったんだ?」と川獺。
「し、知らないわよ……と、とにかく、大食堂に向かいましょ」
そうは言ったものの、鮫も相当動揺しているようだった。さっきの喧嘩を悔いているのかも知れない。
とにかく僕たちは、どうにか足を動かし、玄関ホールから大食堂に向かおうとした。するとその時、ばったりと、もう一つのグループと遭遇した。
僕は、彼らのメンバーを一瞥した。雌兎、 雌蛙、雄鷹……あれ、蜥蜴は? グループの中ではリーダー的な存在の彼は、一体どこへ?
しかしその答えを、僕は相手のメンバーの表情を見ることで理解した。どうやら、あっちも、こっちと同じように、あのゲームでメンバーを一人、なくしたらしい。
大食堂に着くと、中央ステージには既に、紳士猫が立っていた。
「おめでとうございます。ゲームは終わりました。結果は、あなたがた二グループ、どちらも結束力が良いと分かりました。特に鮫がいるグループは、初め犬と喧嘩をしていたものの、いざあのゲームが始まると、犬のことを必死で助けようとした。
もう一方のグループも同じです。たとえいざこざがあっても、いざとなったとき、助け合おうとする――しかも全員一丸となって。これはもう、口に出さなくても結束力が高いといえるでしょう」
「ふ、ふざけるな! お前、あの犬の命をどうやって返してくれるんだ!?」川獺が、片足を一歩前に出して怒鳴った。
「命? どうやら、あなたは誤解していらっしゃる。あの犬は死んではいませんよ」
「じゃ、じゃあ今どこへ……」
「前と同じ、元の世界に戻ったのです。あの深い闇のそこは、元の世界とつながっているのです」
「……それは、また冗談なのか?」
「ご想像にお任せします。ただ一つ、忠言があります。一兆円を手にするからには、遊戯という名のゲームではありません。ここでのゲームは、体を張ったスポーツのようなものなのです。それだけは、しかと心にお留め置き願います」
そして猫は、また昇降機のような物で、中央ステージから姿を消した。
全員は、一度その中央ステージに集まった。しかしそこには、凹んだ部分があるだけで、スイッチなど、昇降機を動かすようなものはなかった。
それから全員は、またいつもどおり、翌日までの暇な時間を、出ることの許されないゲーム館で過ごした。ただ今日だけは、一番口が動く川獺も、だんまりしていた。鮫もどうようで、向こうのチームも全員無言だった。
なにせ相手チームは、一番先導的な蜥蜴がいないゆえ、こんな空気になるのも当然だった。
果たして、次のゲームはどのようなものなのか。本当に死なないで無事に済むのか。それが分からない今、僕は、一兆円という大金と自身の命という、大きな懸け物を天秤にかけたことを、大いに悔やんでいた。
しかし、このようなことになることは、怪しいとは思っていたとはいえ、事前に知ることは出来なかった。そう考えると、僕は一兆円というお金を目指してゲームに挑む。それしかない。
そう思うことで、僕は混沌とした気持ちに鞭を打った。