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 七時五十五分。早めに起きて、僕は部屋でゲームの通達を待っていた。シャワーも浴び、準備は万端だ。

 そして八時、コトン、と部屋の玄関口に、一枚の紙が落ちていた。それを拾うと、そこにはこう書かれていた。

  今回のゲームは、既に終わっている。大食堂に集まれ

「終わった?」僕はいぶかった。八時になったばかりで、一体なにをやったんだ?

 僕は部屋を出た。僕の部屋からは、中央の玄関ホールまでまっすぐの廊下になっているが、そこに出ても先には誰もいなかった――足音も聞こえなかった。

 少し不思議に思いながらも、僕は廊下を歩き始めようとした。すると左右の扉ががちゃりとし、計三枚の扉ががちゃりと開かれた。

「おう」と友達の川獺が挨拶して来た。

「ねえ、終わった、ってなんなのかしら?」と雌犬。

「知らないわよ。とにかく私は、お金さえ手に入ればどうでもいいわ」雌鮫が腕を組んで言った。どうやら一晩で心構えをつけたのか、昨日と違ってみんな、言葉を交わしていた。

「そういえば、あの牛がいないじゃない。こんな時にまだ寝てるっていうの?」と雌鮫が、まだあいていない扉に手をやった。

 そしてがちゃり――するとそこには、壁があった。そう、何も無い、ただの壁だ。

「……何よこれ?」

「おかしいわ。あたし昨日、彼とここで寝る挨拶を交わしたんだけど、ちゃんと廊下があったわよ」と犬。

「でも何もないじゃない」そう鮫が反論。

「これは、何かあるぞ。とにかく先に、大食堂へ行かないか?」

 川獺の提案に、僕もうなずき、みんなはその足で食堂に向かった。

 食堂には、なぜか昨日とは違い、テーブルが一台排除されていた。不思議に思いながらも、別のグループも合流して、昨日と同じテーブルについた。どうやら向こうも、一人人数がかけていた。

 すると、中央のステージから昇降機があがり、あの紳士な猫が現れた。

「おはようございます、みなさん。目覚めは快適でしたでしょうか」

「それより、なんで一部屋壁に埋まってるんだ?」と、向こうのグループの雄蜥蜴が言った。どうやら僕たちと同じ状況のようだ。

「それに、もう一つのグループは?」また向こうの雌兎がたずねた。

「それは、ゲームには運も必要ですゆえ」

「ど、どういうこと?」

「つまり、西の館、東の館。これは実在するもの。しかし果たして、北の館とは存在するのでしょうか? みなさま方は、玄関口の南から下船して来たわけですから、東西の分館は見えても、北の方を見えてませんでしたよね」

「……どういう、ことなんだ?」と川獺。

「第一のゲームの内容は『運』。ここで半分に、人数を減らします。一グループ、そして他の二グループから一人ずつ」

「ちょ、ちょっと待って――えっと、その合計七人は、つまりはずれを引いて、ゲームも失格ってこと?」

「兎のお方、その通りです」

「じゃあ、失格した人たちはどうなったんだ? おいら今朝から、ずっと見てないぞ? 部屋だって壁になってたし」向こうグループの雄鷹が今度は尋ねた。

「安心してください。彼らは、もとの世界に戻っただけです」

「もとの……世界?」

「ここは、あなた方がいた世界とは別の世界なのです」

「それは、比喩みたいなものか?」今度はこちら側の川獺が聞いた。

「さてどうでしょうか。ご想像にお任せします」

「……じゃあ、今日のゲームはとりあえず、もう終わったってことなのね」そう鮫が、あんどの息をもらした。

「仰る通りです。なので残りの今日は、お気軽に楽しくお過ごしください。それでは」と猫は、中央ステージから降りてその姿を消した。

 まったく、序盤から半分の参加者を消すなんて――それほど一兆円の道は険しいということなのか、と僕は、改めて気を引き締めた。お気軽になんて、そうそうなれそうにはなさそうだった。


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