今回は、抑揚のない平坦さで、短めです。いわゆる繋ぎみたいなもので、次辺りが起承転結の結になりますので、もうしばらく我慢してて下さい m(_ _)m
デブドラゴン 男 グラップ
デブ鮫 男 ルアム
子鯱 男 ダハ
鯱 女 オーパール
『——そういうわけでさ、グラップ、俺の退院祝いに、料理を作ってくれよ』
「うーん、本当はそうしたいんだけど……」とグラップは、言葉を詰まらせた。
『何かあるのか?』
「実はね——」
港の倉庫で、数社のレストランのシェフやコック達が、料理をせっせと作っている。その中に、グラップもいた。
「おい、追加はまだなのか?」
厨房の外から、怖面の竜がそう言って入って来た。しかし視線を下げれば、下っ腹のでかさに思わず恐怖が薄れる。だが、本当に危ない奴らであることは噂などで承知済みなので、気は抜けない。
「わたくし共も全力で作っていますが、人手が足りないもので」と別レストランのシェフ。
「数社も同時にケータリングしてるのにか?」
「その……なにぶん、作る料理が多い物で」
「分かった、だが早くしろよ。今日は取り引き相手が帰国する日だ。不愉快な思いはさせたくないからな」
そう言って竜が、厨房を去っていった。それを見計うと、先ほどのシェフの部下である蜥蜴が、こう愚痴った。
「へっ、何が『早くしろよ』だ。あんなにデブが集ってたら、十社いたって間に合わないっつーの」
「おい、口に注意しろ。あいつらが聞いてたらどうするんだ?」とシェフ。
「すみません……けど、幾らなんでもありゃ行き過ぎですよ」
「だな。かれこれ一ヶ月、もう料理を作り続けているが、見るたんびにでかくなってる」
「今流行りの、ウィルスにでも感染したんじゃ?」
「あのウィルスに、太る症状なんてないさ。しかし何か、ありそうな感じがするな」
しかし疑問に思っていても、なんの意味もない。とにかく彼らには、料理を作る業務をこなすしかないのだ。
『じゃ、じゃああのビルミートって奴、まだアサイリーマにいたのか』
「もう帰っちゃったけどね。でもその時の、彼のお別れパーティーは凄かったよ。時々支えがないと、歩けてなかったし」
『一体どうしちまったって言うんだ? 他の奴らもそうなんだろ?』
「うん。あっ、でもあの老鼠おじさんだけは違ったね」
『あの、命を助けてくれたじっちゃんもいたのか? だがスパイってのは、さすがに冗談なんだろ?』
「聞いたら『おやじジョークじゃよ、本気にしとったのかえ?』だってさ」
『ハハハ、さすがにあの年齢でスパイはなぁ。当然分かってはいたが』
「まあ、そういうわけ。ビルミートが帰国したのはいいけど、パーティーはまだ続いてるんだ。きっとオーパールさんの遺産を、豪放磊落っていうの? 無茶苦茶に使ってるんだね」
『マジかよ。あいつら、いつまで太る気なんだ。そのうち死んじまうぞ』
「でもそれは、ルアムも同じなんじゃない?」
『うっ……ま、まあそういうことなわけか。なら仕方ない、パーティーの依頼はまた違う日にするわ』
「ごめんね。その時は、豪勢なものに仕上げるから」
『ああ。それじゃな』
ルアムは通話を切り、グラップも受話器を置いた。
あれから、また一ヶ月弱が経った。料理を依頼するのに疲れたのか、それともレストランの味を全部堪能し過ぎて飽きたのか、段々とレストランが出張する数も減り、グラップのレストランもようやく平常の生活に戻れるようになった。
「よし、今日からはようやく以前通りの生活に戻れるぞ。全く、あの港の奴ら、一体なんだったんだ?」とシェフ。この二ヶ月、かなりのハードワークだったせいか、特大の厨房の通路の横半分を占めていた、入り口を阻むような彼の巨体も、少し絞られたように見える。
「そういやグラップ。火事で怪我をしたルアムっていうあの親友が、退院したんだって?」
「あ、はい。でもそれも、半月以上前の話ですが」
「聞けば、その彼の退院パーティーをしようって話だったらしいじゃないか。けど港の仕事の方で出来なかったと。なら、そろそろそれをやろうじゃないか」
「で、でもいいんですか?」
「何か問題でも?」
「結構、ここ数ヶ月大変でしたし……」
「見た目で判断されちゃ困るな。僕は太ってるかも知れないが、そこまで怠けてはないぞ。そして僕が大丈夫なら、君たちも大丈夫、そうだろ? 君たちの方が痩せてるんだしな」
ということで、グラップはルアムに連絡を取り、翌週、彼の退院パーティーを遅かれながら催すことになった。
続