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デブドラゴン 男 グラップ

デブ鮫    男 ルアム

子鯱     男 ダハ

鯱      女 オーパール


 ルアムは、執事にリムジンを運転して貰い、オーパールとダハと一緒に彼女の別荘へと向かっていた。

「……そうか、それは可哀想だな。てことはあいつらのせいで、君らの財産はゼロというわけか」

「はい。でもルアムさんのおかげで助かりました。どうにか生活費の方は工面できそうです」

「俺に出来ることなら、なんでも言ってくれ。今回のような別荘を売る作業だって、俺達が代わってやってやるよ」実際には彼の部下達が殆どだが。

「頼もしいわ」とオーパールは、にこやかにルアムを見つめた。彼のお腹の上には今、ダハが乗っかって眠りに就いている。その安心たる顔と言ったら……彼女は更に微笑みを増した。

「——て、これが、別荘なのか?」

 執事を残して車を下りた三人。ルアムは目の前の別荘に目を瞠った。別荘というからには、彼と同じほどの敷地を持つオーパールの実家より、小さいと思っていたのだ。

 しかし現実は、彼の家よりも何倍と大きかったのだ!

「ちょ、ちょっと待ってくれオーパール。確か君は、別荘が数十件あるとか言ってなかったか? 全部、これと同じようにでかいのか?」

「はい。夫は自宅に殆どいませんでしたので、寧ろ別荘の方を重点的に大きく建てたんです」

「おいおい、こんな質問をして悪いが、君の遺産は一体どのくらいあったんだ?」

「そう、ですね。大体……」

 そしてオーパールは、驚愕のお値段を発表した。それにはルアムも、つい白目を剥きそうになった。何せ彼は、このアサイリーマでもトップ10に入る大富豪で、少し図に乗っていたのだ。だがそんな彼の何十倍、いや、何百倍という資産を、彼女の夫が所有していたのだ。恐らくこの国ナンバーワンの大富豪は、噂では聞いていたが彼女の夫なのかも知れない。それか少なからず、ベスト3には確実に入っている。

「そんなに金があったら、一生、それこそ遊んで暮らせるじゃないか!」

「え、ええ。そこまで驚きましたか?」

「当たり前だ! 畜生、その金が全部あいつらに渡ったってことは、あいつら一生裕福に暮らせるってわけか。忌々しい奴らだ!」

 ルアムのそんな声に、とうとうダハが目覚めてしまった。ルアムのお腹で何回か、顔を擦ると、むくりと頭を擡げた。

「す、すまないダハ。起こしてしまったか」

「うん……もう、着いたの?」

「ああそうだ。悪いオーパール、つい声を荒げてしまった」

「いいんです。それじゃ、行きましょうか」

 オーパールは音声認証と指紋検査、更に網膜検査で別荘内に入り、そのあとにダハを抱えたルアムが続いた。

 このようにして、彼は彼女の別荘を全て周り、それを売却する作業を済ませた。これだけあれば、以前ほどでは無いにしろ、ルアムの貯金並みにお金がたまり、ダハと共に幸せに暮らせるであろう。

「ようし、これで終了! これからは安心して暮らせるな、オーパール」

「色々とありがとうございます、ルアムさん」

「良いって事よ。にしても、もう暗くなっちまったな」

「良かったら、今日は私の家に泊まっていきませんか? そちらの家より近いですし」

「おっ、いいねえ」

 するとダハも「やったー!」と大喜び。今じゃすっかり、ダハの父親はルアムになっていた。

 こうして、三人はオーパールの家に着いた。今までのどの彼女の別荘より小さいが、それでもルアムと同じぐらいの敷地面積だから、充分である。

 そんな豪邸には、事前にルアムのコンシェルジュが手配を済ませ、小さなパーティーセットが出来ていた。そこで食事を済ますと、用意された部屋にルアムは入った。一応まだ知り合って間もないため、オーパールとダハは別室にいたが、これは彼女ではなく、彼が望んだことだ。まだ彼女の夫が亡くなって間もないのに、それと同じようなことをするのは、なんとなく心が引けていたのだ。

 しかしダハにとって、今や父親は完全にルアムになっており、凄くなついていた。なのでちょくちょく寝室を抜け出しては、彼の寝室でぐっすりと眠りに就くのだ。

 だが、今日はどうやら違うようだ。すると何故か、ルアムは淋しくなり、また心配にもなり、恥ずかしながら、彼女の寝室をノックし、中に入ることにした。少しだけでも、寝る前にダハの顔を見ておきたかったのだ。

「ダハは、もう寝てるのか?」

「えっ? 今日もルアムさんのところに行ったんじゃないんですか?」

「いや、来てないぞ」

「やだわ、どこにいるのかしら」

 オーパールは不安になり、ルアムと共に広い屋敷内を探すことにした。広大過ぎ、家中を回るのは一時間とかかってしまうので、ある程度推測を立てて探すしかなかった。

「とりあえず、何か食べてるとかはないか? あいつ、結構食欲旺盛だしな」

「そうかも。夫は良く、夜中に起きては何かを食べてまして、時々もダハも、それを真似ていたようですし」

「ならまずは、台所からだ」

 そして二人は、台所に向かった。すると案の定、ダハが台所で、冷凍された肉の塊を持って居たのだ。子供にしては、かなりでかい代物を抱えている。

「ダハ!」

「あ、ママ?」

「何やってるの、こんな夜中に!」

「ごめんなさーい」

「で、何をしようとしたの?」

「りょうりしようと、おもったの」

「料理?」

「うん、パパがよくやってくれたんだ。ここにある、かちんこちんのおにくをね、かいとうするの」

「そんな危ないこと、一人でやろうとしたの?」

「だって、おなかすいたんだもん」

「分かったわ。じゃあ明日、ママがこのお肉を料理してあげるから、今日はケーキで我慢しなさい。もうこんな真似は、しちゃだめよ?」

「はーい」

「ごめんなさいね、ルアムさん。迷惑をかけちゃって」

「いいってことよ。それにダハも、なかなか食い意地が張ってて、まるで俺みたいだな」

 ハハハ、ウフフと笑いながら二人は、ダハと一緒に冷凍室に入った。そして少し機械を操作し、あの肉の塊を再び吊るした。なるほどその作業は、全て父親から教わったんだなと、ルアムは理解した。

 そして、三人は冷凍室を出た——が、何やら焦げ臭い。それに奥の台所の方から、何やら煙が出ている。

「……なんだ、これは?」と台所へ。すると、

「——か、火事だわ!」

 恐らく、ダハが色々ガスやら何やらを弄ったせいなのだろう。台所のどこからか出火して、今ではかなり広く台所が燃えていたのだ。さっきまで冷凍室にいたから、熱気のことも分からなかったに違いない。そのため今、この通路は非常に暑くなっていた。

「クソ、通路の先が……」

 生憎冷凍室からは、台所までの一本道しかない。窓は一応あったが、ルアムは勿論、オーパールやダハも通れないほど小さな、所謂換気用のものだった。

 つまり、逃げ道がもうないのだ!

「待ってろ、今すぐ救助隊を呼ぶぞ!」

「ママー、もえてるー」

「ダハ、これは火事なのよ!」

 パニックの中、ルアムは携帯電話で、すぐさま救助隊に連絡を入れた。

「よし、五分後に到着するそうだ。このままじゃまずい、とりあえず冷凍室に避難しよう」

「はい」

 だがここで、三人に更なる災難が襲った。なんと、冷凍室の扉がロックされていたのだ。

「やだわ! 火事のせいで防衛システムが働いて、扉がロックされちゃった!」オーパールは叫んだ。

「な、なんだって!?」とルアム。

 後ろを振り返れば、火の手がこの通路に入り込もうとしていた。このままじゃまずい、どうにかしないと……

「る、ルアムさん!?」

 ルアムは台所の方へドッドッドッと駆け、戸口の方で身を翻すと、極力尻尾を通路側に丸め、両手を両壁にバッと付けたのだ。

「何をしてるんです、それじゃ——」

「五分だと、この通路にまで火が侵入するだろう。ならここで、俺が少しでも食い止める!」

 彼の顔は、苦悶に満ちていた。しかし二人を守ろうと、そして心配させないようにと、苦し紛れに笑顔を振りまいていた。

 意識が、段々遠のいてきた。ぐわんぐわんと、オーパールのルアムの名を呼ぶ声が聞こえている。

 その時、サイレンのような、聞いたことのある音も耳に入った。……そうだ、救助隊だ。良かった、これで助か——

 ルアムの意識が戻ったのは、翌々日のことだった。

「……ん……こ、ここは……」

「め、目を覚ましたんですね、ルアムさん!」オーパールは歓喜の声を上げた。

「あ、ああ……で、ここはどこなんだ?」

「ここは、病院ですよ」

「そう、か……ん、おかしいな。俺、なんで俯せなんだ?」

 普通、病院で寝ているとしたら、大概は仰向けだ。まあその人の癖だったり寝返り等でそうならないこともあるが、彼の場合はお腹が出過ぎのため、横向きにはなれるが、そこのお肉が邪魔で転がれないし、そもそも俯せだと苦しくなってしまうのだ。真っ当な医者なら、それぐらいすぐに分かると思うのだが……

「それはね、あなたの背中が全部火傷だからよ」

「な、なるほど……そういえば、そうだよな。にしても、やけに腹がスースーするな。俺は一体どうなってるんだ?」

 その時、彼のお腹のどこかを、誰かがぴたっと触った。

「——! なな、なんだぁ?」

「あっ、こらダハ! もう駄目じゃない!」

 するとベッドの下から、ごめんなさいとダハが出て来た。

「だって、ルアムさんのおなか、ぷよぷよしててきもちいいんだもん。なんかスライムみたい」

「す、スライム?」とルアム。

「実は、その……あの、あなたがあまりにも、お腹に脂肪を付けているから、普通に俯せだと圧迫されるので、穴あきのベッドにしたんです」

 ルアムは、それを赤面しながら聞いた。なるほど自身のデカ腹では、とうとうそんな領域にまで達したか。しかも恥ずかしいことに、彼の場合は太鼓腹ではなく、完全なる脂肪太りであったため、そのお腹はだらりと床に垂れ下がり、少し広がっていたのだ。

「は、ハハ……つまり今、俺は便座のようにあいたベッドの上で、お腹だけを下に垂らしてるってわけか。なんか少し、ひんやりしてる部分があるなあと思っていたが、それは俺の腹が地面にまで垂れてるってことか」

「そう、ですね」

「はぁ、いつの間にか俺も、そんなに太ってたんだな。これじゃあグラップも、驚くわけだ」

「この際ですから、ダイエットとかします? 医者も言ってましたし」

 しかしルアムは、首を横に振った。

「いや。なんでってダハは、俺のこの体が気に入ってるんだろ?」

「まあ、そうなんですが……しかし、無理矢理前の父親に似せなくてもいいんですよ」

「ダハは、色々と辛い経験をしてるんだ、幼いながら。だったら俺が、ダハを喜ばせないと」

「ありがとうございます。でも、本当にいいんですか?」

「ああ。そうだ、そういえば君の夫は、最終的にどのくらい体重があったんだ? それと同じくらいに太れば、ダハも嬉しくなるだろ」

「そう、ですね。大体……」

 そしてオーパールは、驚愕の体重を発表した。それにはルアムも、とうとう白目を剥いてしまった。何せ彼は、このアサイリーマでもトップ10に入る大肥満で、少し高を括っていたのだ。だがそんな彼の数倍、いや、数十倍という重量を、彼女の夫が誇っていたのだ。恐らくこの国ナンバーワンの大肥満は、噂では聞いていたが彼女の夫なのかも知れない。それか少なからず、ベスト3には確実に入っている。

 

    続


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