長らくお待たせいたしました。どうにかデブカフェ完結です。そろそろ更新が遅れる時期なので、どうにか駆け込みセーフで完成させました。
赤竜(せきりゅう) M 俺 デスモア Dethmor
黄竜(おうりゅう) M 俺 バーグ Berg
紫竜(しりゅう) F 私 アムワー Amwer
緑竜(りょくりゅう) F 自分 ヴィッグ Vigg
青竜(せいりゅう) F 私 フィラード Philard
白竜(はくりゅう) F あたし ラピ Lapi
藤竜(とうりゅう) F あたい リード Reed
黒竜(こくりゅう) M 僕 マインズ Mines
「あなた。美味しい?」
「ああ、美味い。うふぅ、もっと」
「もう、あなたったら。これ以上食べたら、身動き取れなくなるわよ?」
「安心しろ、とうに動けないからな」
「うふふ、そうね」
女性客は
靨 を浮かばせ、台所に向かった。彼女は食事を注文するより、自ら作ってそれをデスモアに与える、架空の夫婦を満喫するタイプだ。しかし彼女は、全身をマッサージしてくれたりするので、寝た切りの彼には大いに助かる人物だ。そんな彼女が手料理して用意したのは、それはそれは
駱駝 の瘤 のように盛り上がった料理の山々。思えばこの量、一体何人分、いや、十何人前あるのだろうか。「はい、あ〜ん♪」
「あーん」
デスモアは口をあけ、女性から料理を食べさせて貰った。しかもその一口は、レベル3スタッフ専用に開発された、漫画のようにでかいスプーンによるもので、小食の人なら何口かで満腹になってしまうだろう。
そんな食事も、彼は満足に終わらせると、いつもの彼女のマッサージを受けた。指圧をかけるほど沈み込む彼の体では、痛みはそれほど感じないが、その効果は絶大だった。加えて彼女の優しい言葉とスキンシップが、彼を色んな意味でうっとりさせた。
やがて彼は、そのまま深い眠りに就いてしまった。
「んん、うあ……」
もごもごと
身動 ぎし、全身の肉の揺れを感じ取った所で、デスモアは両瞼を持ち上げた。「……ふぅー。あー、腹減ったなぁ。客はいないのか?」
首を動かし辺りを見回す。ベッドが部屋の中央にあるとは言え、動けない+視界を遮る巨大なお腹に、彼の視野は部屋の半分以下だ。しかしそれでも、どうやらこの部屋には人がいないようだ。
「仕方ない、注文するか——」
がちゃ、と矢庭に玄関の扉が開いた。丁度いい、この客に飯を頼もう。そうデスモアは首を玄関口の方に傾けた。
するとそこにいたのは……
(黒竜、の男? 随分と太った青年だが、またこういうパターンなのか。偶にいるんだよな、性別問わずただお腹を触りに来る客。でもまっ、持て成しはちゃんとしてくれてるし、この際いっか)
「……あの、デスモアさん?」
その、かなり太った黒竜の青年は、歩み寄りながらそう声をかけた。ん、なんで俺の名前をと、デスモアは想像の中で首を傾げ、こう聞き返した。
「前に会ったか?」
「いえ。その、僕、マインズって言う者です」
「マインズ君か。早速で悪いが、料理を持って来てくれないか?」
「いやあの、別にそういうので来たんじゃないんです」
「んん、なら俺の腹を
弄 りに来たのか?」黒竜のマインズは頭を横に振って、こう答えた。
「実は僕、アムワーの息子なんです」
「ほほう!? 店長に子供がいたなんて、初めて聞いた。それでその息子さんが、俺になんの用だ?」
「今母さんは仕事中で、代理人の僕が、デスモアさんをある場所へと連れて行くんです」
「連れて行く? だが待ってくれ、俺は動けないんだぞ?」
「大丈夫です、お手伝いがいますんで」
するとマインズは、指をパチンと鳴らした。刹那玄関から、ぞろぞろとあの筋肉デブ集団が中に入ってきた。男も女もまぜこぜのそのビッグな大集団は、何やら運搬機のようなものを室内に運び込み、その台車にデスモアを、一致団結して乗せた。
デスモアは状況が呑み込めず、相手に身を全て委ねていたが、ただ二つ、お腹が非常に空いており、また大人数のレベル2以上の肥満体が動いているせいで、周囲を取り巻く発汗と放熱の嵐に、朝っぱらから蒸し暑かった。
レベル3のエリアにあるエレベータに乗せられたデスモア。するとそれは、最上階のB1を越え、今までにない階層の1Fに到着した。そして扉の先にある大型トラックに積まれると、マインズが運転する中、デスモアは見ず知らずの場所へと運ばれ始めた。その間彼は、空腹を周りに訴えると、箱から携帯食品をこれでもかと差し出された。でも結局彼は、それを無言で全部平らげた。
やがて、何処かに到着すると、手伝い達の立派なお腹——じゃなくて腕を駆使し、デスモアを荷台から下ろすと、そのままゆっくり、先にある平べったい建物へと向かった。その脇をマインズが歩き、こう説明した。
「あそこは、デブカフェを運営する会社、OCCの本社です」
「ふーん。で、なんで俺をここに? げぷ」
「母さんからの指示で、デスモアさんを『レベル0』に案内するんです」
「レベル0? そんな話、聞いてないぞ」
「仕方ないです。それは従業員のみが味わえる至極の世界で、デブカフェの原点なんですから」
「原、点?」
「はい。デブカフェが出来た理由を、デスモアさんはご存じですか?」
デスモアは頭を左右に振り、同時に顎や首に溜まった脂肪もぷるんぶるんと揺らした。
「肥満に対してもっと免疫を持ち、そして受け入れて欲しいからなんです。つまりデブカフェとは、太りに太って周りに追いやられ、社会から外された人達が結束したことに始まるんです」
「へぇー、そりゃ初耳だな。それで、レベル0って一体なんなんだ?」
「レベル0とは、そのデブカフェの始まりなんです。つまり当初からのメンバーに加え、それに対峙するまで徹した人達の集まりなんです」
「つまり……レベル1よりも低いが、レベル3よりも凄いって事なのか?」
「そんな所です。デブカフェの従業員になったということは、自身、そして他人の肥満をも受け入れたという意味。そこから成長した今のあなたは、レベル0スタッフの醜さにも耐えうるもので、またそれを受領するに値するんです」
「……その、何がなんだか良く分からないが、とにかく俺は、今から物凄い奴と出会うってわけか」
「そう、ですね」
それからデスモアは、OCCの本社に入り、そこにある工場用のエレベータに運搬機ごと乗せられると、そのまま地下深くに降下し始めた。
その様子に、彼はふと、こんなことをもらした。
「普通なら、お偉いさんとかは、高い所に行きたがるもんだが、ここは逆なんだな。なんとなく理解出来るが」
「ええ。高層にレベル0スタッフが集うと、床が抜けてしまいますので」
「ハ、ハハ、そこまで凄いレベルとはな。だが俺も、その道に
驀地 だし、やがてはそうなるんだろ?」「はい。それではまず、地下に到着したら、初めに僕の父さんに会って頂きます。そこからあなたを、レベル0へと案内します」
「君の父親っていうと、つまりはアムワーの旦那か。んで、彼はどんな役職なんだ?」
「ここの社長です。そしてデブカフェの創始者……」
「……てことはまさか、デブカフェの中で一番、太ってる存在とか?」
その時、「チーン」という到着音のあとに、目の前の扉がゴゴゴと重々しく開いた。
——それが、デスモアへの回答だった。
完