赤竜 M 俺 デスモア Dethmor
黄竜 M 俺 バーグ Berg
紫竜 F 私 アムワー Amwer
緑竜 F 自分 ヴィッグ Vigg
青竜 F 私 フィラード Philard
藤竜 F あたい リード Reed店の奥へ奥へと連れて行かれるデスモア。腕を掴まれ床で引き摺られる彼の周りには、大きな背中と脇腹、お腹しか見えず、表情が窺えないのがなんとも怖い。
やがて彼は、パッと腕を放され、バタッと仰向けになった。少しもたつきながら上体を起こすと、幕が開くように、目の前の大きな背中が脇にのいた。するとそこには、エプロンからはみ出て脚に被さる大きな紫色のお腹が見えた。
「デスモアさん」
女性の声だ。デスモアは頭を
擡 げた。「君は……アムワー!?」
「そうよ」と紫竜のアムワーが平然と答える。
「どど、どういうことなんだ?」
「私ね、実はここの店長なのよ」
「て店長、だって?」
「そう。吃驚した?」
「あ、ああ」とデスモアは、目をキョトンとさせた。
「さてと、それじゃあルール違反したあなただけど——」
「そ、それはすまない! 本当に悪かった! ゆ、許してくれ!」
必死のデスモアに、アムワーはくすくすと笑った。
「うふふ、心配しないで。別に罰を与えるとかじゃないから」
「そ、そうなのか? じゃ一体……」
「実はね、あのハグをしちゃいけないっていうルールは、単なる壁なのよ」
「壁?」
「私達は、見てのとおりこんなに太ってる。だから本当に、私達のことを気に入ってるのか、それで試してるの」
「……その、つまり、どういうことなんだ?」
「店の規則を乗り越えてまで、私達に抱き付く。そこまでするってことは、つまり私達のことを、完全に受け入れてくれたってことでしょ?」
「そう、かもな」
「勿論100回と回数を重ね、ここを訪れた方にも認めるんだけど、あなたみたいな人達は、そこまでしなくても、レベル3に案内するようになってるの」
少し、状況を読めずにいたデスモア。けど彼女の言葉を反芻し、ようやく理解した。
「……てことは待てよ。つまり俺は、まだ三ヶ月程度しか来てないが、もうレベル3に行けるってことなのか?」
アムワーは、こくりと頷いた。レベル3、それはどんな領域なのか。超肥満をも許したデスモアには、その世界を思い浮かべるだけで、ドクドクと血が騒いだ。
「今から、そのレベル3に案内しようと思うんだけど、大丈夫かしら?」
彼女の言葉に、デスモアは辺りをきょろきょろと見回し、そういえばまだ地べたに座っていることを、ふと思い出した。そしてゆっくりと、少し重たくなった体を立たせ、彼女に言った。
「大丈夫だ。早速レベル3に連れて行ってくれ」
レベル3の場所は、なんとなく予想できたが、レベル2より一つ上の階段の踊り場。つまりレベル1からしたら二つ上、地上からしたら始めにある踊り場だ。そこにも監視カメラがあり、デスモアはアムワーの指示に従って、そこに会員証を翳した。するとレベル2同様、読み取り音がピピッと聞こえ、前の壁が奥へと引っ込んだ。
「レベル3では、ハグも自由だから、思う存分楽しめるわ」
「なんだって? それは本当なのか、アムワー」
「ええ。レベル3では疑似生活をするから、そういうのも認められるの」
「疑似生活?」
「レベル2の超肥満以上のレベル3は、何をするにも不自由なの。そんな彼、彼女達の生活の世話を、お客がしてあげるって仕組み」
「ふうむ、なんか良く出来たシステムのように思えるが」
「その通りかもね。でもレベル3に来たからには、とことん店員達には太って貰いたいでしょ?」
「ハハハ! 確かにそうだ。よし、それじゃ行ってくるか」
そしてデスモアは、一年と三ヶ月目にして、デブカフェのレベル3の領域へと足を踏み込んだ。
レベル3の受付は、もはや大変なことになっている。横幅1メートルはあるカウンターの両脇から、受付嬢の脇腹がはみ出てしまっているのだ。円周率を適用すると、概算で彼女のウェストは3メートル以上となる。
どうやらその彼女は、何か座っているようだが、椅子の背凭れが完全に体で隠れてしまっている。翼もほぼ肉の中に埋もれ、下手をすれば翼に見えない。
「レベル3にようこそ」と彼女。
「ここは、その初めてなんだが、どういう仕組みなんだ?」デスモアはもう、声が
吃 るほど興奮していた。「基本料金は1000円。それで一時間ごとに500円プラスよ」
「時間制なのか?」
「でもその代わり、食事は全部無料よ」
「む、無料だって? 冗談だろ?」
「レベル2で承知済みでしょうけど、そこの店員達の食事代は掛からないでしょ? ここもおんなじなんだけど、レベル2とは違って食べる量が半端じゃないから、それをお客さんと共同にすることで、無料化してるの」
「けどそれじゃ、完全に赤字だろ」
「ふふ、そう思う? でもね、このデブカフェを運営してるOCC、
オービス・カフェ・カンパニー という会社は、巧いことやり繰りして、常に黒字を保ってるのよ」そんなことありえるのか、と少し懐疑的になったデスモア。だがここはデブカフェ、理論的なことより、目の前の感覚的なことに集中すべきだと、彼は脳内の疑問を取っ払った。
「なるほどな。良し、それじゃ案内してくれ」
すると受付嬢は、A4サイズのプラスチック製のカードを彼に手渡した。そこには、蟻の巣のような立体的な地図がえがかれており、真ん中にエレベータと思しき4つの垂直線、そして一定の間隔で、それらが通路と思しき十字線の中央に位置し、その東西南北には部屋らしき図があった。そして左上には「5E」という文字が記されている。
これに関し、彼女がこう説明を付け加えた。
「それがレベル3の地図よ。レベル2とは違って、大きな部屋が用意されてるの。だからレベル1より深い地下4階以下まで、奥のエレベータから降りるの。あとは北部屋のN、南部屋のS、西部屋のW、東部屋のE、どれかの部屋に入って、そこで店員達と疑似生活を送るの。因みに部屋の鍵は、そのマップカードと呼ばれる物がそうよ。
そういうわけで、今回のあなたの部屋は、マップカードの左上に書かれてる5E室。つまり地下5階のE、東部屋ってこと」
「ほう、随分と興味深い内容だな。んじゃ、早速行かせて貰うか」
「それじゃ、楽しんで来て」
デスモアは、特大スナック菓子の袋を開け始めた彼女をあとにして、先へと進んだ。するとマップカードの地図通り、そこにはホテルの奴よりどでかいエレベータが、円形状に四つ並んでおり、彼はその内の一つに乗った。
地下5階。エレベータの横幅よりも更に倍近く広い通路に出たデスモアは、東部屋へと向かった。そこにはレベル2の小門ではなく、もはや完全なる門があり、その中心にはA4サイズの液晶画面があり、マップカードを翳して下さいと表示されていた。
彼は、そこにマップカードを差し出した。すると読み取り音の「ピピピッ」という音が鳴り、門がゆっくりと開き始めた。
続