赤竜 俺 デスモア Dethmor
黄竜 俺 バーグ Berg
紫竜 私 アムワー Amwer仕事終わりの夕方。終了時間がそれぞれ違ったので、待ち合わせの場所、デブカフェの最寄り駅に向かうと、あの酔っ払っていた同僚の黄竜と、その他二名が待機していた。
「おっ、デスモア、ようやく来たか」とその黄竜。
「おい、なんで他の奴も来てるんだ?」
「お前の趣味をさ、とことんみんなに知って貰おうと思って」
「ったく……バーグ、就業時間が遅くなるってのは、このことだったのか」
「ハハハ、まぁ気にするなって」
デスモアは首を横に振りながら、デブカフェへと三人を案内した。そしてあの長い階段を下り、店内へと入った。すると、この店へデスモアを招待したあの紫竜が、出迎えてくれた。
「あらデスモアさん、いつもありがとうございます。今日は、お友達を連れて来て下さったんですか?」
「そうだアムワー。悪いが今回は、四人用の席で頼む」
アムワーは頷き、いつもは二人用の席を、今日だけは彼を四人用の席に案内した。その時の後ろ姿を見て、デスモアはハァハァと息を乱しそうになった。が、同僚もいることだし、今日は少し抑え気味に着いていった。もし彼らがいなかったら、絶対に成長した彼女の背肉をお触りしていたに違いない。もしくは転けた振りをして抱きつくとか……いや、これは実際はいけないのだが、一度つい実践してしまっていた。
だが、少しふっくらして来たデスモアでも、彼女達にして見ればまだまだもやしっ子。彼が倒れて来たところで、彼女達の体は微動するだけだった。
「こちらへどうぞ」とアムワーが案内すると、デスモアとバーグが片方の席に、もう片方には他の二人が座った。
「……にしても、本当に全員太ってるな。しかもあんだけ太ってるのって、地上じゃ殆ど見ないぞ。んで、ここはどういう仕組みなんだ?」とバーグ。
「まず基本料金500円が取られる。これはサービス料金と先付け——つまりお通しの料金だ」デスモアが説明した。
「随分と安いんだな」
その時、四人の前に、あのポテトフライと唐揚げのセット、先付けが出された。デスモアは見慣れているが、他の三人は驚いた。
「こ、これがお通しだって? しかも500円? 随分と安いんだな。しかもこれで、お触りし放題なんだろ?」と再びバーグ。
「ああ。ただ抱き付くのは駄目だ。あくまでタッチのみ」
「だがこれは、料金としてはかなりお手頃だな」
そして三人は、デスモアに見習いながら、両脇を通る店員達の豊満な体をタッチしながら、夕食を楽しんだ。初めは躊躇していた彼らだが、時間が経つにつれてその気持ちは薄れ、注文を聞いている店員に対しても、堂々と背中から脇腹にかけての肉をなぞったり、尻尾を突っついたりした。
気付けば、もう一時間以上このカフェに居座っていた。
「正直デスモア、俺は結構好きだぞ、この店。本当に来てみたら、お前の言ってたことがようく理解出来たわ」
しかし他の二人は、それほどでもないようだ。元々肥満免疫がないのかも知れない。というかそもそも肥満免疫ってなんだって話だが。
「んじゃ、そろそろ帰るとするか」
こうして四人は、会計を済ますことにした。レジには女の緑竜がいた。彼女は、デスモアが初来店した時、先付けを出してくれたあの女性である。半年前より目に見えて太っており、翼なんてもう、閉じると飛膜が肉で隠れるほどだ。
「それではお会計、4000円丁度になります」
四人は割り勘で、それぞれ1000円ずつ出し合った。デスモアはやや食欲を抑え気味だったが、それでもやはり彼が少々特をしたようだ。
階段を上り、暗くなって星空の
下 で、四人は解散することにした。「けどマジで、一人1000円は安いよな。また行きたくなった」
「そうなのバーグ? 僕はあんまり興味がないなあ。確かに彼女の達の脂肪は、触ってて気持ちは良かったけど」と同僚A。
「俺はそもそも、あーいう女性はやっぱり好みじゃないな。スリムな奴がいいと、改めて分かったよ」と同僚B。
「まっ、それぞれ意見はあると思うさ。とにかく俺は、ここが気に入ってるんだ」
そうデスモアが締めくくり、四人は別れた。
その後、デブカフェにて、同僚のバーグと屡々会うことがあった。どうやら彼も、どっぷりとこのデブカフェに嵌ってしまったようだ。それはそれで、デスモアも同士が出来て凄く気が楽になった。
そんなある日のこと。今日は珍しくバーグは来ておらず、一人でいつものように、デブカフェの席に着こうとしたデスモア。その彼のもとに、女紫竜のアムワーが近付いて来た。また半年前よりも太っており、エプロンは一年前と同等なので、垂れ下がったお腹が下から覗いていた。
「デスモアさん。いつも来店して下さり、本当にありがとうございます」
「いやいや」とデスモアは、彼女のお腹を堂々と触り、揉んで、左右に揺らしたりした。涎が無意識で垂れそうになり、彼は慌ててそれを啜った。
そんな彼を余所に、彼女はこう口を開いた。
「実は当店では、五十回、この店を利用して下さった方に、もう一つのデブカフェをご案内しているのです」
「もう一つの、デブカフェ? VIPルームみたいなものか?」
「そう、ですね。実はデブカフェには、3つのランクがあるのです。初めて訪れた方々は、まず目を慣らして貰うべくこのレベル1に。五十回ご利用下されば、私達を受け入れたということで、レベル2にご案内するのです。そしてそのレベル2で更に五十回、つまり計百回来店して頂いたお客様には、当店最高レベルの3にご案内するのです。
勿論、レベル2に行けるデスモアさんでも、レベル1に来て頂いて一切問題はありません。ただレベル3に行くためには、レベル2で経験を積んで頂く必要があります」
「ほう、随分と面白い仕組みのRPGだな。つまりレベル2は、このレベル1よりも太ってるってことだな」
「はい。そして種類も増えています」
「因みに料金は、どんな風になってるんだ?」
「料金は少しだけ割高になります。レベル2の基本料金は700円で、レベル3では1000円となります」
「なるほど。だがこれだけのサービスで1000円は、充分安いな。よし、ならレベル2に案内してくれ」
彼女は頷き、店の外に出て、階段を上り始めた。しかしその巨体ゆえ、すぐに息を切らし始めた。一段一段、脚を交互にではなく、一段上がるごとに両足を揃えるため、それは余計にだった。しかしそんな彼女に、疲れてもいないのに、自然とデスモアも気息が乱れ始めた。
そして、一つ目の踊り場に着いた。地上からだと二番目の踊り場である。そこには監視カメラが付いていたが、それ以外は壁で覆われた普通の踊り場である。
「あのカメラに向けて、会員証を翳して下さい」
デスモアは言われた通りにした。すると「ピッ」という音とともに、目の前の壁がガコンと凹んだのだ。そして左に続く、かなり広めの道が現れた。
「す、凄い……こんなところがあったなんて」
「ここから先は、今までのとは違う方達が居ます。少なからずレベル2は、デスモア様を不満足させることはないでしょう」
「少なからず、ってことは、レベル3とかになると、そうはいかないということなのか?」
「ある程度肥満が進むと、みんな一つの形に纏まってしまい、差別化出来るのは種族と遺伝性のみとなります。けれどレベル2なら、まだ他の種類も付け加えることが出来るのです」
「ふむふむ。で、具体的には?」
「それは、入ってからのお楽しみです」
「良し、ならそうしよう。因みにアムワーは、このレベル2にも来たりするのか?」
「いえ。ですが気にしないで下さい。レベル2には、私以上にお客様を満足される店員方がいますので」
「そうか……なんか、色々とありがとな。このデブカフェに君が案内してくれたおかげで、俺にはようやくストレス発散出来る趣味が見つかったんだ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、またいつかな」
「はい。ではごゆっくりどうぞ」
そしてデスモアは、奥へと進んだ。
続