back

 

by Delta

__________________________________________________

 

 登場人物&用語集

 

 

  ダイナス     ― Dinos

             DSLの元所長

 

  フラッディ    ― Floody

             物語の主役。ダイナスに次いで所長となった

 

  キッド      ― Kid

             フラッディに手紙を送った子竜

 

  竜生       ― 人間で言う「人生」

 

  DSL      ― Dragon Speciality Laboratory

             (竜体専門研究所)の略

  ガネル収容所   ― 法を破ったり、罪を犯した竜達が入る場所

 

__________________________________________________

 

私ことフラッディは、有名研究所である、DSLの副所長である

私はこの研究所で働くことに誇りを持っている

だが……そんなある日、私の竜生を大きく変える事件が起きた

 

  ――臨時ニュースです

    無許可でDNA実験を行わせたとして逮捕されたDSLの所長、ダイナスが

    医学法第32条より、先ほど15年の懲役が求刑されました――

 

その後、副所長である私が所長の任を任されたのだが

このような大きな事件を犯したせいで、私は毎日のように報道陣に囲まれ

日に日にストレスが溜まっていった……

 

「フラッディ所長! この事件を気に、研究所の規律などは

変えたりしないのでしょうか?」

「所長! 一体ダイナスさんというのはどういうお方だったのでしょうか?」

「所長、所長! 待ってください! せめて一言だけでもコメントを!」

「うるさい、黙れ! 私は研究所での仕事が忙しいんだ!」

 

  ――毎日がこのような事々の繰り返し――

 

「所長、大丈夫ですか? 最近ストレスを溜め過ぎじゃないですか?

私が変わりに仕事をしますが……」

「いちいちうるさい! 私は大丈夫だ! それより早く朝飯を持ってこないか!」

「は、はい!」

私は、研究所の職員達に怒りをぶつけていた

正直それはいけないことは分かっている

だけど今は、食事の時間すら惜しいほど、とても忙しいのだ

度重なる取引先とのキャンセル……私のストレスはもう限界だ!

「所長、朝食です。どうぞ」

「なんなんだこれは……!! こんなんで足りると思ったのか! ふざけるな!」

「で、でも所長。いくらなんでも食べ過ぎで……」

「口答えをするな!」

「……分かりました。今すぐ追加分を持ってきます……」

私は、少しでもストレスを発散するために食に走った

食べる時だけはストレスを全く感じなかった

だがそのような生活を続けていったため、徐々に私の部屋には

大量の食料で埋め尽される様になってしまった

今では、あの大事件に関しての報道も無くなって、ストレスも感じなくなっても

何かしら食べていないといられない体になってしまった

そして……

 

  ――えー、ニュースの時間です

    先ほどガネル収容所で、1年前に逮捕されたダイナスが自殺しました――

 

「所長! 出てきてください! 一言、一言コメントをお願いします!」

「フラッディ所長! 先日のダイナスの自殺に関して一言!」

 

あの事件から一年後、ダイナス元所長の自殺により

再びDSLに注目が集まった

やっと取引先も増えてきて、信頼度も上がったところだと言うのに……

私は、報道陣が待ち構えている、研究所に入り口へと行った

「黙りたまえ! 私は仕事で忙しいんだ!」

「……ど、どうしたんですか所長?!

一年前と比べて随分と太りましたけど、何かあったのですか?」

「何があったの何も、貴様らがそうやって私にストレスを与えたからこうなったんだ!」

「所長! それは自分の責任じゃないのですか? 食べ過ぎを竜のせいにするなんて!」

「クソ野郎! 少しは引っ込んでろ!」

「な、なんだと!」

私はすぐに研究所へと戻っていった

 

その後、研究所には山ほどの抗議の手紙が殺到した

「所長……。今日は35通もの抗議の手紙が来ております」

「分かった、そこら辺にでも置いておけ」

「はい、所長」

全く……なんであんなことを言ったぐらいでこうなるんだ?

言いたいことを言っただけじゃないか!

そう心の中で叫びながらも、私は今日届いた35通の手紙に目を通した

 

  ――……所長があんな口を聞いていいのか?!――

 

  ――いくら報道陣があんなこといったからといって

    あの返しは酷すぎます!――

 

いつものように、私に非難を浴びせる言葉ばかりだ

「まあいつも通りのことだな……。えーと、次は……ん?」

 

  ――ふらっでぃ さん はじめまして

    ぼくは キッド です 5さい です

    ぼくは ふらっでぃ さんを みて かんどうしました

    ぼくは ふらっでぃ さんのような つよいりゅうに なりたいです

    いちどぼくと おはなしをさせてください おねがいします――

 

「……こういう竜もいるものなんだな」

私はいつも通り、手紙を読み終えると全てゴミ箱へと捨てた

だが、今日に限って、先ほどの”キッド”という子竜の手紙は捨てなかった

 

私はキッドという子竜の手紙が気になって仕方が無かった

何故かは分からないけど、私はこの子に合うべきなのではないか?

そう考えてしまうのだ

毎日その子竜のことばかりが気になってしまい、とうとう私は

手紙の送り主である子竜の家へと向かった

 

(ピンポーン)

「……ぁーい。どなたですか……!!」

「はじめまして。君がキッドだね? 私は……」

「ふらっでぃさん! ふらっでぃさんだ! わーい!

ねぇねぇ! ぼくのいえにあがってよ! おねがい!」

「あっ、ああ。分かった」

私は勢いに押されて、この子の家に入ってしまった

「うむ……正直ぎりぎりな幅だな……」

「ごめんなさい……ぼくのいえ、とってもせまいから……」

「気にしなくてもいい。太ってる私が悪いのだから」

「わるくない! ふとってることはわるくない!」

「えっ、ど、どうした?」

「だって……てれびでみたときもそうだったよ。ふらっでぃさん

ふとってることにきかれたとき、とてもおこってた」

「それはそうだろ? 太った体で良い事なんて一切無い」

「ちがうよ! ふとってることはいいことだよ!」

「どうしてだ?」

「だって……ぼくのパパとママ、おなかがすいて

それで……それでしんじゃったんだもん!」

「ぇっ、じゃあ君の両親は……」

「……もういないよ、さいしょはわからなかったけど

だけど、だけどもうわかったんだ、パパとママはもうかえってこないって……」

「ごめん……何だか辛い話をさせちゃって……」

「べつにいいよ、ほんとうのことだもの。だから、ふとってることはわるくないよ!

だってふとってる りゅうさんたちは みんなおなかがすいてないんだもん!」

私は、この子が何を言いたいのかは良く分からない、理屈だってぐちゃぐちゃだ

だけど、何故だか分からないけど、この子の言っていることは、本当な気がする

今まで何かと癪に触る原因となる自分自身の体が

今日この日、私は初めてその概念から解放された

「……そうだね、君の言う通りだ! 太っていることは別に悪いことじゃないんだね?」

「そうだよ! やっとわかってくれたんだね! ありがとう!」

「はは、お礼を言うのはこっちの方なんだけどな。

それと……一つ言ってもいいかな? 君は一人ぼっちなんだよね?

だったら、私と一緒に……その、住まないか?」

「いっしょ……いっしょに!? え! ほんとう?! ほんとうにいいの?!

ぼく、いつもひとりだから、とてもさびしかったんだ!」

「そうか! それなら話は早い、今すぐ準備をしたまえ! すぐに私の家……

というより、研究所に案内しよう!」

「やったー!!」

 

私はキッドが準備を済ますやいなや、すぐに研究所へと向かって行った

そしてこの子を、私の部屋へと案内した

「わぁ! ひろいんだね! このへや!」

「あぁ、この部屋は私の専門部屋なんでね。私の体に合わせた造りになっているんだよ」

「……所長。報道陣が入り口で待ち構えています」

「ちっ、また来たか……」

「どうします、所長?」

「仕方が無いな、今日はしっかりと出向いてやるさ」

「ねぇねぇ? ぼくもいっていい?」

「え……、だけど……」

「おねがい! ぼく、いちどてれびにでたかったんだ!」

「……仕方が無いな、そうするか」

「ありがとう! ふらっでぃさん!」

 

「あ! 只今、フラッディ所長が現れました……!

子竜です! 所長が子竜を連れて出てきました!」

「所長! その子竜は一体どうなされたんですか?」

「実はな、この子には両親がいないのだよ。だから私が引き取った」

「では、一体どうやって子竜のことを知ったんですか?」

「私はこの子から一通の手紙をもらってな、それを読んだ時、何かを感じたんだ。

だから私はこの子に合いにいって、そして知り合ったんだ」

「そうそう! そのあと、いろいろとはなして、そしたら

ふらっでぃさんが、ぼくをここにすませてくれるといったんだ!」

「……こんな太った竜とでもいいのかい? こんなに太ってたら――」

「なんでそんなこというの?! ふとってることはわるくないんだよ!

ぼくの、ぼくのパパとママは、おなかがすいてしんじゃった!

なら、ふとってることはわるいことじゃないんだよ!」

「太ってるということは体に悪いんだよ? 分かるかい、坊や?

確かに餓死しちゃうことは行き過ぎだけど――」

「ちょっと、そこの記者。相手は子竜だぞ! そんな子竜の前で餓死とかなんとかいって!

少しはこの子の気持ちは分からないのか?!」

「いいよ、だいじょうぶだよ、ふらっでぃさん。

ぼくは……ぼくは、せかいじゅうのみんなに、ふとっていることはわるくない

ということがわかってくれれば、それでいいんだ!」

 

  ――私は、何をしていたのだろう?

    こんな小さな子が、両親を無くしたこんな小さな子が

    両親の死を間に受け、そして記者にさらに責められても

    この子は、この子は挫けない

    なんて強い子なんだろう!

    それなのに私は、最初から報道陣にやられてばかり

    それで太った私は、自分自身にすら負けてしまっていた

    なんて私は弱かったんだ……――

 

その後、私はキッドのおかげで自信を取り戻した

太っていることなんて気にしない、周りから、報道陣からどう責められようと

自分自信を保つことが出来るようになった

 

 

  ―― 月日は流れ…… ――

 

 

「父さん、これを見て! DNA配列の変更に成功したよ!」

「おぉ~、よくやったなキッドォ!」

「……父さん、お願いだからその呼び方やめてよ……

前からいってるじゃん、ハンドルネームで呼んでって」

「ははぁ、そうだなぁ、キッドォ!」

「もぅ父さんったら!」

「はははぁ! いいじゃないか別によぉ」

「……はは、まあそうだね」

フラッディ所長、いや、僕の父は、あれから前向きに、そしてやさしい性格となり

研究所では誰一竜として、父を悪く思うものはいなかった

そして徐々に業績を上げ、今では世界に君臨するほどの研究所となった

そのせいか、父はあれからさらにぶくぶくと太っていき

一時は部屋から出られないほどに太ってしまった

その時は研究所の皆がドアを破壊して、なんとか脱出した

だが太りすぎた体は、通常の通路でも横幅いっぱいに埋まってしまっていたので

研究所を新しく造り替えたのだ

……かと言う僕も、勿論父には勝らないものの、見事に立派な体付きをしている

そんな二竜が居るせいか、この研究所にはやたらと太った竜が増えてきた

最初は僕と父だけだったのが、研究員の一竜、二竜と増えていき

今ではほぼ7割が肥満竜となっている

そんな竜がいるこの研究所では、最近肥満竜用の生活用品の開発も行うようになった

実は、僕と父の二人は、この体付きのおかげで結構話題となっており

それ以来、この研究所に限らず、色んな所で肥満竜が受け入れられるようになり

10年間で100倍もの肥満竜が増えてしまっていたのだ

だからこそ、肥満竜の多いこの研究所では、その生活用品の開発が行いやすいのだ

 

ちなみに、父は勿論この研究所開発の車椅子を使用している

勿論っていうのは、どう考えても僕の父は超肥満竜であり

腕や脚も完璧に肉に埋もれているのだ(微妙に出てはいるけど)

そのため、寝るときも、まるでボールのように転がりながら寝る

そんな父は、一般企業が開発した商品などではどうにもならないのである


back
- Website Navigator 3.00 by FukuraCAM -