2006/07/19以前に完成
! 注意 !
この作品には、グロテスク(暴力系)な表現が含まれています
そういうのが苦手な方は、お読みにならないでください
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この惑星には、地球の人間とは違う生き物がいた
見た目はやや細長い人間と言ったところだが
肌の色が淡い青色で、耳や鼻は平べったく、髪の毛以外の毛は無い
恐らくこの惑星では、太陽光から守るものだけで十分だったのだろう
そして彼らは、自分達のことを”セム”と呼ぶ
この物語は、その惑星内での話である
ある日、探険家である私は、山の秘境にある伝説の秘宝を求め
アラガマル山脈を登っている
この山には昔から、数多くの財宝が眠っていて
特にここ数年間では、何百という財宝が発見された
だが、伝説の宝”呪われし秘宝”は、未だに見つかっていない
殆どの者が、それは偽りの宝だと言うが、私はその存在を否定しない
絶対に何処かにある、そう信じている
しかし未だに見つかっていないとなると、恐らく宝はとても危険な場所にあるのだろう
この山はかなり歪な形をしており、多くの登山者を苦しめ、痛めつけてきた
特に山の頂付近は、大変に危険な場所である
そのため宝の採掘は、殆ど山の麓および中腹で行われる
だが私は、伝説の秘宝を見つけるため、危険な山の頂に足を踏み入れた
そこは創造を絶するものだった
僅かに足を踏み外せは、何百メートルという急勾配を落ちていくことになる
そこにはゴツゴツとした岩が顔を出しており、恐らく生きていられることは無いだろう
私は慎重に、足を一歩一歩進めた
歩き始めてから何時間が経ったのだろうか
その時、目の前に何やら広い高地が見えてきた
(こんなところが……この山に?)
山を麓から眺めたときには、このような平地は一切見えなかった
「さすが、こんな秘境の地があるなんてな」
思わず私は呟いてしまった
私は平地に降り、辺りを見回した
すると、辺りには小さな廃墟と化した家が点々とあった
(こんなにも辺鄙なところに村があったとは……きっとここに、伝説の秘宝があるに違いない!)
私は期待に胸を膨らませ、村の中を探索し始めた
しかし探せども探せども、秘宝らしきものは見つからない
そしてついに、未探索の廃虚となった家は最後になってしまった
私はこの最後の跡地に、全霊をかけて探索を行った
……すると、一部の床がおかしいことに気付いた
こつん、こつん
その床の上を歩くと、下が空洞のような音がした
私はすぐに、近くにあった木片で床を叩いた
すると床は見事に割れ、下への通路が現れた
「や……やったぞ!」
私はすぐにその通路を降りた
下りが終わると、その先には大きな扉があった
大きさは私の身長のおよそ2倍
私はその扉を、駄目元で押してみた
すると意外にも、その扉は寸なりと開いてしまった
私は恐る恐る中へと足を踏み入れた
――静寂
広い部屋故に、この静寂が嫌に恐怖を滲み出させていた
一歩、また一歩、確実に足を進めていく
すると目の前に何やら、一台のテーブルが見えてきた
そしてその上には、古びた一冊の本があった。日誌だ。
私は日誌を手に取り、中を読み始めた
○月×日
私は今日から、とある研究を行うことにした
それは、セムが食事をしないで生きれるようにするための実験だ
この惑星には数々の自然エネルギーが存在している
もしそのエネルギーを、セムの生命エネルギーに変換できるなら
セムは食事を必要としなくなる
そうすれば、現在の食糧危機のようなことも起きなくなるだろう
そのため私は、ある程度の研究員を呼ぶことにした
そしてそのセム達のために家を用意した
×月△日
研究は大失敗だ
私は自分自身を実験台にし、特殊な液体を飲んだところ
体のあちこちがむず痒くなるだけで、何にも変化が無い
この状態がすでに一週間も続いている
……まったく、他のやつを実験台にすれば良かった
△月□日
おそらくこれ書いているときは、今日が出勤の研究員は全員亡くなっているだろう
この研究は、本当に大失敗だった。いや、愚かだったのかもしれない
私は自然エネルギーだけでなく、生命エネルギーをも吸収するようにしてしまった
さらにそれだけでは無い。そのミスが連鎖反応を起こしたのか
エネルギー制御中枢が暴走を起こしてしまった
つまり私は、そこら中のエネルギーを我武者羅に吸い取る体になってしまった
そのおかげで周りにいた研究員は皆エネルギーを吸い取られて死亡
必要以上のエネルギーを吸収してしまったため、それが脂肪として私の体に残った
このまま私はどうなるのだろう……
私は元々の体重が50kgだったはずだ
セム平均体重60kgを基準とすると、今日は3匹を取り込み、私は今230kgだ
しかも明日になれば、5匹を取り込み恐らくは530kg――ギネス記録じゃないか!
……早くここから逃げ出さなければ、さもないとここに住む皆が死んでしまう
だが最悪なことに、ここの研究所は一般セムの体型に合わせた作りだ
230kgという巨漢の体じゃ、道を通るどころか、扉すら通れない
くそ! 私はこのまま他の研究員達を殺し、それを栄養に太っていくのか……
(……つまり、ここには秘宝なんて無かったってことか?)
「くそ! こんな所まで来て――うぐ!?」
私が罵声を言った直後、何かが私の体の中に入っていった
「ごほ、ごほ! な、何だ今のは?」
その直後、私の体は無性に痒くなり始めた
私は我慢出来ずに、服を脱ぎ捨て体中を掻き始めた
(な、何だ、この痒さは!?)
不意に思い出した。あの日誌のことを
それには、×月△日に体中が痒くなりだしたと記されていた
(だがそれは、彼の作った特殊な液体ではなかったのか?)
しかし原因としては、彼の研究に関わるものしか思い浮かばなかった
そこで、何とか体の痒みを我慢して、日誌の続きを読んだ
□月○日
このまま、この山に誰も来ないことを祈る
正直私としては、たった一つ成功したことがある
それは、こんな辺鄙なところに研究所を建てたということだ
これなら誰にも見つからないで済むかもしれない……
それと最後に、ここに私の研究の功績を残しておく
一応実験は失敗に終わったが
生命エネルギーの吸収とエネルギー制御中枢の暴走の問題を解決できれば
・ ・ ・
これは立派な 生 命 体 の完成である
その生命体は、特殊な液体からセムの体内で成長をし
セムのエネルギー吸収の役割をする
その生命体を、私は”テンタクル(Tentacle)”と名付けた
名前の通り、テンタクルはセムの皮膚から触手を伸ばし
吸収したいエネルギー体へと張り付き、エネルギーを吸収する
まさに惑星内で、セムにとっての最高の生命体となるだろう
(生命体……まさか、今私の体に入ったものは――テンタクル!?)
私は恐怖で戦いた
すぐさま私は、地上へと帰ることにした
病院にさえ行けば、この生命体を取り除いてくれるだろう、そう考えていた
だが今思えば、それはこの惑星で最悪の選択だった
私はなんとか地上へと帰ることが出来て、同じ探検家に助けられた
だがその時、私の体の一部からはエネルギーを求め、触手が少し現れていた
この異変に気付いた一匹のセムは、すぐさま私を病院へと送ってくれた
しかし病院についた時、ついにテンタクルは牙を向いた
救急車の後部扉を開いた瞬間、あらゆる方向に触手が、周りにいた多くのセム達に張りついた
悲鳴、奇声、断末声
ありとあらゆる声が辺りを支配した
私も苦しみに叫んだ
徐々に私の体内に取り込まれて来るエネルギーは膨大で、とてつもない苦痛を与えた
体は風船のように急速に膨らみ始め、いつ破裂するのか分からないほどだった
ついに体は車いっぱいに膨れ上がり、私は膨らむ力と車が押し返してくる力の反発にうめいた
そして次の瞬間、車が一気に爆発した。火ではなく、力によって
私は徐々に苦痛からも解放されたが、体は尚も膨れ上がった
何とか体を起こそうとしたが、あまりにも巨大化した体に、その力は無力だった
私はきっと、この惑星内全てのセムと、自然を殺すことになるのだろう
もし全てを殺しきったら、私はその後どうなるのか?
エネルギーが吸収できずに、朽ち果てて行くのか?
――いや、太陽だ!
全ての自然エネルギーをも吸収するこのテンタクルは、きっと太陽のエネルギーも吸収する
……つまり、私はこの宇宙をも飲み込むまで、永遠に膨らみ続けるのか?
一体何時になったらそれは訪れるのか?
私はこれから、永遠と長い期間を、膨らみ続ける体と共にしなくてはならない
秘宝の為に欲を出さなければ良かったと、あれから何十年も後悔している