はぁ、はぁ……
もっと、もっと食べたい……
大きく張ったお腹を揺さぶりながら
僕はもう一つの食料庫へ移動した
ここは巨大な食料庫が多数ある港……
だが、今は誰もいない
津波によって流されてしまった
……僕を除いて
この港は、僕にとっては天国だった
今まで食べれなかったような高級な肉やお菓子など
それらが十数年分も格納されているのだ
生きる希望を失った僕は、ここで暮らすことを決意した
ここにいれば食料の心配は無い
僕は嬉しかった、ここでは食べることだけが唯一の生きる希望
食べているときだけが、悲観を、暗澹を、厭世を、絶望を、消してくれた
――このままでいたい――
僕の弱みに、悪魔が、そう付け込ませた
あまりに弱っていた僕は、その言葉に洗脳された
終わることない食事
一つ、また一つと、食料庫の中身が、ブラックホールへと消えていく
そのブラックホールは、徐々に勢力を増し
相乗的に力を増していった
それに反して、僕の体も、相乗的に、巨大化していった
食料庫を埋め尽くさんばかりに膨れ上がった体は
食べたいという執着心の塊
食べることだけに生きてきたかのようなこの執念が
動くことの無い巨体を、食料庫から新たな食料庫へと動かしている
それはまさに、生命の三大欲求が崩され
唯一 "食欲" だけが残された例だと言えよう
いつしか、ここの港の食料庫が全て空になる
その時は……その時は一体、僕はどうなるのか?
……いや、そんなことはどうだっていい
今は、今は生きる希望を味わうだけだ