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  夢見物語 2014-07-05

    著:脹カム

 

※夢見物語は、私こと脹カムが夢で見たものを書き起こした物語です。

 一部脚色してる部分もありますが、概ね夢の通りに書いております。

 今回は、二〇一四年〇七月〇五日の夢になります。

 夢の中では面白かったのですが、いざ字に起こすとそうでもありませんでした(滅

 

 

『こんにちはー』

「おー、いらっしゃい」

 昼間の太陽を背に受けた前の男女二人が、住宅街のこの家に住む白髪のおじさんと挨拶を交わし、自分もよそよそしく会釈した。

「はじめまして」

「お、初めまして」

 おじさんが気軽に挨拶してくれたが、こういう状況は初めてで、しかもインドア派なので正直気まずかった。

 自分が今いるのは、前の二人の知人のお宅。そして驚くなかれ、その二人は実は芸能人なのだ。自分はその内の女性とひょんなことで知り合い、人柄の良い彼女に誘われ、もう一人の芸能人と共にここへやって来たのだ。

 見ず知らずの人のお宅に上がるのもそうだし、有名な芸能人とも一緒のため、テーブルに座ってからも緊張は解けなかった。

「気楽にしていいのよ?」

 向かい席の女性に言葉をかけられても、自分は固い表情でしか返せなかった。

「まあ慣れないのも無理はない。これほど有名な二人に招待されてはな。どうだ、ここは交流を深める意味も込めて、近くの海で釣りでもどうかね?」

「それいいわね。おじさんの手料理も久々に食べたいし」

 その直後だったか。突如「ドスン」という音と共に、大きな縦揺れが起こった。衝撃で全身が一瞬宙に浮き、全員が思わず驚愕を口にした。そして次には、電気がプツンと切れたのだ。

「え、地震、停電?」と女性。

「ランタン持って来る」

 落ち着いた声でおじさんが立ち上がった。

 数分後、彼は明かりを持って戻って来たが、それでも周囲は暗かった。つい先程までは外は晴れて明るかったはずだが、突然曇ったのだろうか。

「……それにしても、随分と静かだな」

 道路族はさすがにいないが、さっきまで微かに聞こえていた子供達の遊び声が今やめっきりなくなっており、虫の鳴かない夜の森の如く不気味な静けさが辺りに漂っていた。

 刹那、遠くで一瞬だが叫び声があがった。声はそれっきりだったが、自分含め四人は窓の外を急いで見た。

「――! あ、あれは一体……」

 おじさんの声、そして男女二人は終始言葉を失っていた。自分も、これを現実だと思えず固唾を呑んだ。

 外には、人間じゃない生物――そう、エイリアンがいたのだ。奥の空に巨大な戦艦が浮かんでいてそうだと確信した。しかも容姿は犬そのものといった感じで、擬人化された犬と表現するのが最も適切だった。

 未来的な武装を施していた彼らは、家から次々と住民を連れ出していた。皆、同じような犬型エイリアンの姿をしていたが、連れ出されていたのは全員洋装で、怯えた様子から元はそこに住む人間だと推定できた。そんな彼らは外に出るや、本来の犬型エイリアン達に何やら、緑色のスライムらしきものを頭からかぶせられたいた。それが体を舐めるように地面へと伝い終えると、彼らの恐怖の顔が一転、キリッとした侵略者の目付きに変わった。どうやら何かしらの方法で姿を変えられたのち、あの物体で完全にエイリアン化されるのだろうか。

 ふと、向こうに気付かれたのかおじさんがカーテンを慌てて閉めた。

 理解できないことだらけで、自分達四人は顔を見合わせ、現実を整理できないでいた。ただ一つ分かっていたこと、それは今が危機的状況であるということだ。

 

 

「走れ!」

 今自分は、おじさんの掛け声で裏口から逃げていた。幸いそちら側には犬型エイリアンの姿はなかったものの、すぐにこちらに気付かれ、後ろから追っ手が多数来ていた。

 自分とおじさんは出遅れていた。おじさんは年齢的にもともかく、自分は普段の運動不足が祟ってることを酷く後悔していた。一方二人の男女は自分達よりかなり先を走っていた。向かいは埠頭、その先は防波堤となっており行き止まりのため、二人は右へと曲がった。後ろを振り返り、おじさんがかなりの遅れを取っていること、そして後ろの犬型エイリアン達に追いつかれそうになっているのが分かった。

「私に構うな!」

 前を向き、再び二人のあとを追った。十秒ほどし、後ろから叫び声が聞こえ、自分はやるせない気持ちのまま必死に足を動かした。

「きゃぁあ!」

 右に曲がろうとした途端、かなり先の方であの二人が、複数の犬型エイリアン達に捕まっていた。後ろを振り返ると、そちらからもエイリアンの追っ手が来ていた。

 四面楚歌の状況でも、自分は死に物狂いで唯一の逃げ道である防波堤を走った。躓いて転んでも、諦めず急いで立ち上がり走った。だがそんな悪あがき虚しく、一分もしない内に行き止まりになってしまった。今一度後ろを振り返れば、総勢何十という犬型エイリアン達がこちら目掛け駆け寄ってくる。前に向き直れば、五メートル以上はあろう高さからの海しかなかった。

「……う……うわぁぁぁー!」

 大声をあげ、自分は宙を舞った。そして海に落ちた。

 がぼがぼ言いながら必死に手を掻く。だが着ていた服が重みとなり、海面に浮上できない。

(し、しまった、学校で教わってたことなのに……っ!)

 息も持たなくなり、口をあけて必死に空気を吸おうともがき、大量の海水を何度も呑んだ。

 全身から、力が抜けた。薄れ行く意識の中、自分の体は深く、深く海底へと沈んで行った。でも、これで良かったのかも知れない。あんな風にエイリアンに改造されるぐらいなら、いっそ死んだ方が……

 下の方で、何かの気配を感じた。ああ、もしかしてサメかな? さっき転んだ際に肘を擦り剥き流血してたので、そのにおいにつられたのかもしれない。

 ガブッ、とまではいかないが、自分は牙のある「何か」に咥えられ、海の底へと引き摺り込まれていった。

 

 

 目が覚めた。視界はぼんやりとしているが、白と黒い「何か」が辺りを行き交っているのが分かった。しかも同じようなのが周囲にもおり、自分は別のエイリアンにでも捕まったのかと思った。

「飯だ」

 突然目の前を通り過ぎた「それ」が、光沢のある魚のようなものをどすんと置いた。大きさは数メートル以上もあり、しかももの凄く肉厚だった。

(飯? こんなの、生だし食べきれるわけないじゃないか)

 すると横から、ぐちゅっという生々しい音が聞こえた来た。この頃にはある程度目も慣れてきており、音の方を向いた自分は驚いた。白黒の物体が、こちらと同じ魚を悍ましい牙で貪っていたのだ。そう、その姿は正に食物連鎖の頂点に君臨する鯱。だが人間と同じような手を使い「それ」は食事をしており、足のようなものも確りと生えていた。恐らくあの犬型エイリアンのたぐいで、鯱型エイリアンなのかも知れない。更に目の前を横切った同類を見ると、泳ぐ時は鯱と同じく尾鰭を使うようだ。

(泳ぐ? てことはここ、水の中?)

 どうやら自分が今いるのは、鯱型エイリアンの水中基地に違いない。辺りを見ればここはチューブ状の中のようで、左は無限遠に筒が伸び、右は遠くの方で明るく開けていた。自分はそんな場所で奴らに生かされている、というわけか。

「それにこの魚、どうやって食べれば――!」

 魚に手を伸ばした自分は、思わず目を見開いた。手が、黒かったのだ。日焼けなどではない。完全に真っ黒で、しかも若干の光沢もあった。別の手も同様。慌てて下を見れば胴体が、中央は白、脇は黒という形の配色になっていた。

 頭を上げ、自分は魚をじっくりと見た。光沢のある分、少しだけ鏡のように反射しており、そこには周りと同じ鯱型エイリアンの顔があった。自分の顔を手で触れるとそいつも同じように動き、そして確信した。犬型エイリアンに変えられた人間がいたように、自分も鯱型エイリアンに変えられてしまったのだと。

 それを理解した瞬間、全身がまるでこの体に順応したかのように全神経が研ぎ澄まされた。今まで感じていた人間の感覚はもうない。尻尾の感覚もはっきりと分かった。

「……うまそう」

 目先の生魚に、自分はこの上ない嗜好を覚えた。そして大きな口をあけ、それにかぶりついた。鋭い歯で簡単に噛み千切り身を飲むと、今までにない至福が全身を迸った。

 口が止まらなかった。魚をしゃぶり尽くすように食べ切ったあとには、自分はもう自分ではなくなっていた。

 

 

    完


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