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by Delta in 2006-4-1

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ここはトンガ王国

あり余るほどの食料が容易に手に入る、とても素晴らしい国だ

ここに住む竜達は、食べることが何より好きな者達ばかりで

皆普通の竜より何十倍にも太っている

だがそんな平和な王国に、ある事件が発生した

 

 

「……これより、新国王に任命されたマクガネル王より

 民間竜へのメッセージが送られる。心して聞くように!」

(わぁぁーーー!!)

「ごほん……。えー、私が、今からこの国の王となる、マクガネルである!」

(マクガネル王、ばんざーい!!)

「静粛に! 王はまだ話を終えていないぞ!」

「そこで、今より、私が新たに一つの法を制定する!」

(法!? 新しい法なんて何十年ぶりだ?)

「それは……」

 

  ――この国に住む者は、必ず太ってはならぬ!

    普通の竜と同じ体型を維持すること!

    もし少しでも太っているようだったら、強制的にダイエットをさせる!――

 

「な、なんだと!? それはどういうことだ!?」

「私は太っている者が大嫌いだ! 太っていていいことはあるのか?! えぇ?!

 太っていると、空は飛べない、動くこともままならない、そのくせに

 異常なまでに食を食らう! それではただの使い捨て電池の様ではないか!」

「ふざけるな! 今まで食べることで生きてきた俺達にそんなことさせるなんて!」

「そうだそうだ!」

「黙れ、民間竜! 今からこの法に逆らう奴は、維持でもダイエットをさせてやる!」

「くそ! そんなこと認めてたまるかよ!」

「……ほぅ、王である私に逆らうとでも言うのか? 哀れな民間竜ども!

 いいか! 今から見る光景をよーく目に焼き付けておくがいい!!」

そういって王は、兵士達を民衆の中へと送り込んだ

そしてその兵士達は、何やら液体のようなものをかけ始めた

すると……

「な、なんだこれは?!」

太っていた竜達は、見る見ると痩せ始めていった

そして、常に空腹を覚えている彼らが、初めて空腹を感じない体になり

さらに体の骨などが浮き彫りになるほどにまで痩せていった

「……そ、そんな……こんなことって……」

「分かったか?! 私に少しでも逆らうのであれば、お前達を

 この痩水(しゅうすい)を使い、無理矢理骨と皮になるまで痩せさせるぞ!」

「く、くそぉ……」

 

  ――そんなのおかしいよ!

 

哀れみと混沌の中で、ある一匹の若い竜が叫んだ

「……なんだ? 若造が何か私にようかね?」

「そんなのおかいしよ! 今までそうやって生きてきたのに

 どうしていきなりそんなことをするんだ!?」

「お前には分かるまい! ここに住んでぶくぶくと太った体で

 他の大陸に行ったときに浴びる竜達の視線が!

 唯一この大陸だけは太っていることに何の羞恥心も覚えないが、

 他の大陸ではそれが大きな羞恥心となるのだ!」

「別にいいじゃないか! 僕達は僕達! 自分は自分じゃないか!」

「うるさい! 私はこれまでどんなに恥ずかしい思いをして来たか……。

 私はもうそんな風になるのが嫌なのだ!」

「あなたは何も分かっていない! どれほどこの大陸に住む竜達が幸せに生きてきたか!」

「幸せがどうした!? こんなせまっこい大陸で一生を暮らすことが幸せか!?

 ああそうか! どうせ貴様らはそんな太った体ではまともに動くことは出来ないからな!」

「酷い……酷すぎる。僕達は今までの生活で十分幸せに生きてきた!

 それなのにあなたは、その幸せを壊そうとしてる!」

「違う! 私は皆をもっと幸せにしてあげようとしているだけだ!」

「何故分かってくれない?! それがそもそも大きな間違いなんだ! 皆は今のままで幸せだ!」

「ほう? そこまでしてお前は太った体が好きなのか?」

「そうとも! 僕はこの太った体が大好きだ!」

「なら一度だけ、お前にチャンスをやろう!

 指定したポイントからこの城まで、お前がどのくらい太った状態で来れるかを試してやる。

 行く先々で私の兵達が、痩水を持って立ち阻んでいる。

 お前はそれを乗りきり、私のところへその太った体を維持して来れるか?

 もしそれが成功したのなら、私は君の心内を認め、この法を取りやめることにしよう!」

「……分かりました。その挑戦、受けて立ちます!」

そして王は、その挑戦の日時を明後日の午前十時に決定した

僕はその日のために準備を整えて、最後になるかもしれないこの大量の料理を

別れ惜しそうに平らげた

 

 

午前十時……いよいよ僕の挑戦が始まった

僕はまず、第一エリアであるベルバー草原を駆け抜けて行った

こんな体になってから走ったことは一度も無かったので、すぐに疲れてしまったが

間々に休憩を挟みながら、第二エリアであるフォート山脈へと向かった

すると突如、目の前に一竜の兵士が現れた

「ここが第一関門だ! 正直同族同士の争いはしたくないが、許せ!」

「仕方が無いさ、君のせいじゃないんだから」

「……ありがとう。私の名は、ヘブラム!」

「僕の名はオーウェイ!」

「……では、いくぞ!」

ヘブラムは、持っていた痩水を撒き始めた

僕はそれを避けようとしたのだが、体が大きいせいで、痩水が体にかかってしまった

すると、僕の体は少し細くなってしまった

それと同時に、まるで胃袋が締めつけられるような間隔に襲われた

(まずい……体が大きいせいで、避けようにも避けきれない!)

「どうした!? まだまだ始まったばかりだぞ!」

再びヘブラムは痩水をばら撒き始めた

僕はなんとか、それを避けることに成功した

先ほどより体が細く、軽くなったためか、動きか軽やかになった

もしやと思い、僕は思いっきり足に力を入れ、そして地を蹴った

すると僕の体は大きく宙を舞った

(そうか! 今まで僕は太っていた体で動いたから

 体が軽くなると同時に、今までよりも大きく跳ぶことが出来るのか!)

そして僕は、ヘブラムが液体を撒くタイミングを見計らい、大きく空を跳んだ

次の瞬間、僕の体はヘブラムにのしかかり、ヘブラムはそのまま倒れこんでしまった

「……くっ、ここまでか……」

「そのようだね、じゃあ僕は先に進むよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

そういってヘブラムは、僕にある物を手渡した

「これは太水(たいすい)と呼ばれるものだ。

 これを体にかければ、痩水と逆に太ることが出来る」

「ど、どうしてこれを……?」

「……私も太っていることに誇りを持っていた……。

 だが、王に逆らうことは出来なかったんだ……すまない」

「いいよ、仕方が無いさ、竜にはそれぞれ事情があるんだし」

「……ありがとう、オーウェイ。なんとしてでも王を説得してくれ……」

「……はい、わかりました!」

僕は倒れているヘブラムを後にし、第二エリアであるフォート山脈へと向かった

 

 

その後僕は、第二、第三、第四エリアも制覇した

各エリアで出会った兵達は、皆ヘブラムと同様、王により強制的にやらされていた

そのため、皆が僕に少しでもがんばってもらうために、太水を渡してくれた

そして第五エリア(トンガ街)では、痩せ細った竜達が僕を応援してくれた

もちろん、その第五エリアで出会った兵士もこれまでと同様の竜で、同じく太水を渡してくれた

 

そしてついに、トンガ城までやってきた……

僕は王室の前で一回大きく深呼吸を行い、中へと入っていった

「……!!」

「王……言われたとおり、僕は太った体でここへとやって来ました」

「……なぜ、何故なんだ?! 何故そこまでしてがんばる必要がある?!」

「王、僕はあのとき言いました。僕は、この太った体が好きだと」

「だがどうしてだ? 太った体ではまともに動くことも出来ない!

 それに、お前は他の大陸に行ったことは無いのだろう? その時の気持ちが分かるはずが無い!!」

「いえ、分かります。何故なら僕は、一度他の大陸に行ったことがあるからです」

「……何だと?」

「僕は昨年、ある大陸を訪れました。しかしその大陸に着くやいなや

 あなたの言う通り、周りの竜達から刺すような視線を感じました。

 その後僕は鬱状態になり、総合病院へと行きました。

 だがその病院こそが、僕の心を変えてくれたのです。

 

  ――病院に着くと、ある一匹の竜がいました。彼には左脚と右の翼がありませんでした。

    だけど彼は、そんな体をしているにも関わらず、常ににこにこと笑顔を振り撒いていました

    僕は彼にこう問い掛けました。

    「君は片脚と片翼が無いのに、どうしてそんなに笑顔でいられるの?

     僕はこんな体だから、周りの竜達の視線が嫌で仕方が無いんだ。

     君もきっと、同じように感じてるはずなのに……」

    すると、彼はこう言い返しました

    「別にいいんじゃない? 僕は僕、君は君なんだし。

     別に片脚が無いからと言って、片翼が無いからと言って、僕が僕であることには変わりは無い。

     例え周りからどんな目で見られようと、僕であることには変わりは無いんだしね。

     それに僕は、周りから見られているのが嬉しいんだ。

     だって普通の竜なら、普通に生活してたら周りからは何の反応も無い。

     だけど僕の体は普通の竜とは違うがために、普通に生活してても

     周りの竜からは色んな反応がある。僕はそれが嬉しくて仕方が無いんだ!」――

 

そのとき僕は初めて知りました。僕が普通の竜とは違うことによって

普通に生活をしていても周りからの注目を集めることが出来るんだと。

そう考えると、僕はなんて素晴らしい体を持っているんだと思うことが出来たのです」

「――そうか」

「そういうことです。あなたは自分自身の体に自信を持っていなかっただけです。

 太っていることなんか気にすることは無い、逆にそれは自分自身の特徴なのですから!」

「……そう、そうか、なるほど! 分かったぞ! 私は自分自身の体に誇りを持っていなかったのか!」

「そうです! しかもあなたは今は王! もう何もかも気にしなくても良いのです!

 あなたは周りの誰もが認める存在なのですから!」

「ありがとう! えっと君は……」

「オーウェイです」

「ありがとう、オーウェイ君。私は間違っていたよ。

 今すぐあの法を取り消し、前までと同じように平和な暮らしが出来るようにしよう!」

「ありがとうございます!」

 

 

その後、王は例の法を取り消し、皆を太水によって元の体へと戻した

王は自分自身の体に自信を持ったので、今まで我慢していた食欲を一気に爆発させた

するとどうだろうか? 民間竜も驚くほどの早さで太っていき

今ではトンガ王国一の巨体の持ち主となった

 

  ――かと言う僕、オーウェイはと言うと……

 

 

「王! 今月は新たに、北東大陸より猪の肉を輸入しようと考えているのですが、どうでしょうか?」

「うむ、オーウェイ君、その考えはいいぞ! 今すぐにでも輸入の申請をしよう!」

王は、その大きな体を椅子から立ちあがらせようとした

「う、むむぅ……」

「王? 大丈夫ですか?」

「あぁ……。悪いが、手を貸してはくれぬか?」

「分かりました。そこにいる兵! 今すぐ十竜の兵をここに呼んでこい!」

「かしこまりました!」

王室の扉付近にいた兵は、すぐさま十竜の兵を王室へとよこした

「……せーの!!」

十竜の兵と僕は、一斉に掛け声と上げて、王を椅子から立ち上がらせた

「す、すまない……。まさかこんな風になるまで太るとは思っても見なかったから……」

「何言ってるんです、王! 王がそんな弱気ではだめですよ!

 それにあなたは、ここまで太っているからこそ王の威厳を保つことが出来るのであり

 その体こそが王の証! ここにいる全員、および民間竜は、あなたがここまで太っていることを誇りに思っています。

 そして皆があなたを目標に、毎日がんばって大量の料理を平らげているのです」

「ありがとう、オーウェイ君。君には何かと世話になるな」

「とんでもありません。僕もあなたを目標に、毎日がんばって料理を食べてます。

 しかし、やはり王には敵いません。僕の体はまだまだ王の半分にも満たしてません」

「はは、そうだな。まあ、いつか私を抜くほどの巨体の持ち主になってくれることを期待してるぞ!」

「そのお言葉、心より感謝します!」

そして王は、十竜の兵と僕に支えながら大きな巨体を動かし

王室の端にある、申請用紙が入っている棚へと向かった

 

今の王は、自力で歩くことは出来ない

自分自身がいる王室の中を動くことさえ出来ない

だがその巨体は、僕達王に使える者と民間竜、誰もが憧れる体であり

皆がそれを目標に太っている

 

 

月日が流れ、20年後、王マクガネルはこの世を去った

そして新たに王として任命されたのが……

 

「……これより、新国王に任命されたオーウェイ王より

 民間竜へのメッセージが送られる。心して聞くように!」

(わぁぁーーー!!)

「ごほん……。えー、私が、今からこの国の王となる、オーウェイである!」

(オーウェイ王、ばんざーい!!)

「静粛に! 王はまだ話が終わっていないぞ!」

「そこで、今より、私が新たに一つの法を制定する!」

(法!? 新しい法なんて何十年ぶりだ?)

「それは……」

 

  ――この国に住む者は、決してダイエットをしてはならぬ!

    何故ならば、そうやって生命の欲求である一つ

    食欲を抑制しなかったからこそ、今までこの国は平和を貫いてきたからである!

    皆は食べることが好きだから、この国へとやってきたのであろう!

    だったら、何故食に関することを抑制しなくてはならぬのだ?

    そう、ここは食が絶えない国!

    だからこそ皆の者、今こそ食に対する欲求を全て解放しようではないか!

    太っているからといって懸念することは無い!

    太りすぎて動けなくなったからと言っても、周りの人が助けてくれる!

    この国こそ、竜が持つ欲求を満たす国であり、それこそがこの国の平和の源でもあるからだ!――

 

「オーウェイ王……私達民間竜になんてやさしいんだ……」

城の前にいた民間竜皆が涙した

 

  ――そして、私をここまで育ててくれた、前任の王マクガネルに

 

    私は、心から感謝している!!――

 

 

                The End..


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