back

M ドルフィニアン Dolphinian 僕 アーニー Earny 

M 熟年フォールスオルカン Middle Age False Orcan 俺 コウフ Cofe 

M 中年シャーカン Middle Age Sharkan 私 ウィスフィ Wisphe 

F 中年オルカン Middle Age Orcan 自分 パル Pal 

F ホエリアン Whalian 私 カドル Kador 

M フィンレスポーポィスン Finless Porpoisen 俺 ディープ Deep 

エンテヨ Enteyo

万能機器

母宇宙連盟

調査船ネオクレイザー


「ぐげ……ぷぅ……」

「こ……コウフ?」

 家の中は、アーニーのと同じように必要最低限。そしてそれよりも小さめの家とは言え、それでも充分過ぎる大きさだ。そんな家の床を、目の前にいるフォールスオルカンの体が埋め尽くしていた。それらはぶよぶよと、わずかに微震する柔らかい脂肪とエンテヨの混合物の塊で、それを体に限界まで身に付けた彼は、ぜえぜえと息をしながら、ロボットアームによりデリバリーされたホットドッグを手に取った。そしてそれを、なんと一口で丸呑みしたのだ。首だかわからないところが一瞬隆起し、やがてそれは山のようなお腹の中へと消えた。

 一つ幸いと言えるのかどうか、ベッドと玄関口は垂直だったので、コウフの顔はそんなお腹に隠れずに済んでいた。しかし、普通ならあまり付かない肩上にもたっぷりと脂肪がついて盛り上がり、たぷたぷのほお肉も持ち上げられたおかげで、首は完全に埋もれ、そして顔もそこに呑み込まれんとしていた。

 そんな彼の、ホットドッグを食べるスピードは収まらない。一本、二本、三本、次々とそれらは巨大な胃倉庫へ、機械的に逐一搬送される。

「コウフ?」

「……ばる、が?」コウフの食べる動作が止まった。

「コウフ、どうしちゃったのよ……」

「ぶぐぅ……な”に、が、あっだ?」

「その体よ!」

 しかし刹那、コウフの手が再び動き始め、最後のホットドッグ一本を、ごくりと丸呑みした。

「ぶぅ……お代わり」

 コウフは、首と胸の間に置いた万能機器を、涎を垂らしながら打ち込んだ。すると、室内の壁にロボットアームが引っ込み、そして今度は、ドーナッツを100個、更にコーラを10リットル乗せて再び出て来た。彼は真っ先に、コーラをがぶ飲みした。

「ごぶ、ごぶ、ごぶ」

「コウフ!」

 だがコウフは、口端から零しながらコーラを飲み干すと、次はドーナッツを饕り始めた。それもまた、食べ滓がぼろぼろと、自身のへと落ちていった。

「んぐぐ、ばぐ……ぶぅ、ぶぅ……げぶぅ! んぐ、んぐ、んぶう」

 彼は今や、完全に食事に夢中になっていた。一言も発せず、アーニーよりも格段に酷い状態だ。

「どうして、どうしてこんなことに?」

 パルが自問した、まさにその時だった。突如、コウフの家の床がどたんと開いたのだ。するとコウフは、ベッドごと下へと落下し、そして次の瞬間、どっぱーんという波が砕けるような轟音が響いて、底から激しい水飛沫が舞った。

「ど、どうしたの!?」

「コウフはもう、家畜となったのさ」後ろからウィスフィが答えた。

「どうして、どうしてこんなことに……」

「彼は、先ほども言ったが、本心でアーニーを連れ去ったのではない。それに君は知らないだろうが、コウフは妻を事実上殺した人なんだ」

「なんですって!?」

「コウフはな、風俗店で作ってしまった子供の存続問題の際、妻となる女性から子供——カドルを奪ったのだ。彼女は悲しさのあまり自害した。

 実はコウフは、子供に対して贔屓しがちな性分なのだ。だから独占欲も強い。だが本人も、それはいけないと分かっていて、心の中でいつも葛藤していた。だがカドルの時は、それが悪くも弾けてしまい、それでここへと逃げ込んだんだ」

「……だから、アーニーにもあんなに優しかったのね」

「そうだ。だがコウフは、アーニーを連れ去ったことをかなり後悔していた。娘が調査宇宙船ネオクレイザーの船員となって淋しい中、欲に負けたことを自責していたよ。

 つまりコウフには、自分を抑えられない難癖の衝動に加え、娘のいない寂しさ、そしてアーニーを拐かしたことに対しての悔恨と、あらゆるストレスがうまくも作用して、彼をあんな姿にさせたのだ」

「けどそれを招いたのは、全てあなたのせいじゃない!」

「ああそうだ。だがこれは、神のためなのだよ」

「神、神、って、なんなのよ……」

「気にするな。とにかく今、君は私に従うのが一番だ」

「どういうこと?」

「アーニーはもう、自らで動くことは出来ない。しかも、家畜を太らすための豊富な資産と食料があるここに住まわせない限り、お子さんは満足しないってわけだ。それにアメーバが付いている限り、食べる量を減らすわけにはいかないだろう?」

「そ、それは——」

「君は必然的に、この施設に居続けることだろう。アーニーにどれほどの愛情を注いだのか、あの子の太りっぷりと愛情からようく分かってるさ」

 パルは悩んでいた。確かにここは、ウィスフィによって作られた違法な施設だが、息子を助けるためには、ここに定住させるしか方法がない。こんな地下からでも、エレベータが巨大なのでどうにか外へと出せるが、それからアーニーをどうやってアメーバから守るのか。下手に外へと出せば、アーニーを苦しませることになる——そんなこと、彼女には出来るわけがなかった。彼女は息子を溺愛しているのだから。

「……ねえ、コウフは、どうなっちゃうの?」

 パルは、どうにか話を逸らすことにした。

「それは、私も神に仕えている分、悪魔ではないゆえ、幸せな日々を送れるようになるさ。肥育カプセル内では、半永久の人生をそこで送ることとなるが、私は一切の苦痛を味わわせないよう、彼らの自我が食欲に支配されるまでちゃんと見守ってるんだ。そして先ほど、コウフは君の言葉が脳に届かなくなったようで、私はその時だなと見計らったわけだ。彼はこれから、ずっと欲を満たしてくれる食事で、心をいっぱいにし続けることだろう」

 ウィスフィが語り終えた、その時。後ろから、宇警達がやってきた。

「ウィスフィ。どうやらあんたが行なったことは、かなりの重罪になりそうだ。言い逃れは出来ん、例の神とやらの存在を教えて貰おうか。それと食料のことも」

「分かった」

 そしてウィスフィは、再び大勢となったパル達を引き連れ、ある場所へと案内した。そこは彼の家で、玄関を抜けると、左に個室があったのだが、彼はそのまままっすぐを進み、そして大きな一枚扉を抜けた。

 扉の先には、巨大な部屋があった。下手をすれば、地下街と同じかと思わせる大きさだ。そこにはカプセルがあって、しかし良く映画とかで見るようなものではなく、中は小さな個室のようになっていた。ベッドがあったり布団があったりして、そこに家畜たちが苦しまないベストポジションと体勢をキープさせたまま、あのロボットアームで食事を与えているのだ。

 定期的に脂肪とエンテヨを抜いているのか、全員コウフ程度で肥満は収まっていた。コウフでも何十トンという計り知れない体重だが、彼は一年すら経っていないのにこの有様、そのままでいればいつかは、惑星を覆い尽くすほどの肉塊になりかねないので、当然ではある。

「これが家畜……っえ、ヴィロック?」

 パルは、カプセル装置に書かれた名前を見て吃驚した。そしてカプセル内には、そこいっぱいに膨れ、腹部の白さが表面積の半分を上回るほどに肥えたシャーカンの男が入っていた。

「ああ、クレイザーの船長だな」

「——! ま、まさか行方不明になっていたのって……」

「そうだ。彼は偉大な船長だ。惑星クレイザーを見つけただけでなく、この惑星まで見つけたのだからな。だがこんな秘密を外部にもらすと相手は一点張りだった。それで丁度良かったから、私は船員達を家畜にした」

「それじゃあレンズも……」

「ああ、そこにあるよ」

 ウィスフィが指さしたところには、これまたカプセルを埋め尽くさんばかりに太り、鯨畝が入り乱れたホエリアンの女性がいた。

「これは非道にもほどがある。死刑より重い生き地獄が確定だぞ」と宇警達は思わずもらしてしまった。

「分かっている。だが神に仕え、そして不死を研究し続けるためには、そんな非道さも必要なのさ」そういいながらウィスフィは、ぐるりとUターンし始めた。

「何処へ行く?」

「ここは畜舎だ。君たちは、神にもお目にかかりたいんだろう?」

 それからウィスフィは、先ほどの個室へと戻った。

「何もないじゃないか」と宇警のリーダー。

「まあそう慌てるな」

 ウィスフィは、いつもの要領で、ベッド脇にある数字パネルを押した。すると、部屋がエレベータとなって、下降を始めた。同時に天井のライトから距離が離れ、暗くなり始めた。

「この下に、神がいるのか?」

「ああそうだ」

 やがて、部屋の下降が止まった。するとあたりは真っ暗で何も見えず、そしてどこからか、言葉に出来ない音が反響して聞こえて来た。

 宇警達は、備品のライトを点けた。

「な……なんだこりゃあ?」

 周りは騒然となった。パルも、コウフの時と同様、再びスクーターの上で身が固まってしまった。


back
- Website Navigator 3.00 by FukuraCAM -