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  著者  :fim-Delta

 作成日 :2007/09/27

第一完成日:2007/09/30

 

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雀の鳴き声が、今日の朝を告げた。ディルは目を覚ましたが、ラレックは本当に疲れていたのか、未だ深い眠りの中にいた。

「……ラレック?」

小さな声で問いかけたが、返って来たのは言葉になっていない寝言だった。

ディルは少し部屋の中でうろついた後、静かに部屋を出た。無理矢理連れて来たラレックに、無理をさせる必要はなかったからだ。

ディルは食堂で軽い朝食を取り、その後、ギルが語った洞窟へと車で向かった。

 

洞窟は、山の隘路を抜け、中腹程の場所にある森々たる木々の中に入った先にあった。

いざ中に入って見ると、光苔のおかげで意外に中は明るかった。だが先へ進んで崖のへりに辿り付いた時、思わず足が竦んでしまった。

内部は明るいのに、この崖はそれをも凌ぐ深さで、まるで奈落の底に繋がっているように思えるほどだった。

「……なるほどな。ここから先は、飛んで行くしかないということか……」

ディルは軽く準備体操をし、その後、軽い助走をつけて崖から飛び立った。

洞窟内には所々鍾乳石があったが、広大な広さのおかげで、彼は難なく空を飛ぶことが出来た。

それからおよそ五分後。彼はようやく、洞窟の最奥底に辿り付いた。そこは円蓋状の部屋になっており、

奥にはギルが語っていた、今までに見たことがないほど奇怪で巨大な構造物があった。彼の話では乗り物だということなのだが……

ディルはその乗り物をじっくりと眺め、そして周辺を回ってみた。どうやら入り口らしきものは見つかったが、中は完全に真っ暗だった。

仕方が無く彼は、近くにあった光苔を幾分か捥ぎ取り、それで辺りを照らしながら乗り物に乗り込んだ。

中は、思った以上に広かった。恐らく外壁が極端に薄いのだろう――ならば、益々奇怪だ。

彼はまず、円形状の通路を回った。どうやら外壁に沿って通路があり、中心部が部屋となっているようだ。

一つ一つの部屋を覗くと、中はこれまた奇怪。巨大なベッドが一台、ぽんっと置いてあるだけで、後は何もないのだ。

そんな部屋を幾つも入った後、ようやく変化のある部屋に辿り付いた。そこは先ほどの部屋と同様な巨大なベッドの他に、

棚や机などと言ったものがあり、さらに奥にもう一つ部屋があるのだ。先ほどとは違う部屋の大きさから、

恐らくここがこの乗り物の船長か何かの部屋なのかも知れない。とりあえず彼は一旦この部屋を出て、残りの部屋を探索することにした。

だが結果は同じで、どれもベッドだけの部屋と同じ構造だった。結局、あの船長部屋らしきところだけが、唯一違った内装であった。

ディルはまず、その船長部屋を探索することにした。ベッドには何も無い。上にも、下にも。机の上にも、何も無い。

だが棚には、汗が滲んで黄ばんだような服があった。しかし不思議なことに、棚に入っている服は抽斗一本ごとに一着だった。

……それもそのはずだった。その服は、まるで巨人が着るのではないかと思わせる程巨大だったのだ。

一度ディルはそれに袖を通してみたが、もはやウェディングドレスのように、服の裾が地面を曳いてしまっていた。

やはり奇怪だ。外観もそうだが、この乗り物の中も……この乗り物自体、そしてその中にある物も全てが奇怪の塊であった。

ディルは次に、部屋の奥の扉を開けた。そこは――操縦室だった。中央の突出した台に、椅子と操作パネルと舵が設置されていたからだ。

その台の周りには、小さな花壇が部屋の円形状に沿って並べられており、全ての花壇には見事な野菜果物を実らせていた。

(ここも、あの村と同じような現象になっているのだろうか)

ディルは心の中で呟いた。もはや数年以上も放置されたこの土壌でも、まるで豊饒の地で育ったかのような野菜果物が育ち、

しかも確りと抑制も利いているその姿形は、どう見ても不可解としか思えない――やはり、この村には何かあったんだ!

彼の内心は、新たな発見による優越感によって有頂天になっていた。これが初の、彼の大スキャンダルと成りえるかも知れない。

彼はもっとこの内部を探索しようと、今度は台に上がって操作パネルを弄った。

 

  - CHOOSE THE COMMAND -

 

  ・SPACESHIP

  1.OPERATION     (ABNORMALITY)

  2.ROUTE SETTING (CAN’T SELECT WITH ABNORMALITY OF SPACESHIP)

  3.INSIDE

 

  ・UTILITY

  4.INTERNET      (CAN’T ACCESS TO THE SERVER)

  5.EMAIL         (CAN’T ACCESS TO THE SERVER)

  6.PROGRAMS      (ALL PROGRAMS DATA DAMAGE)

 

  ・PRIVATE

  7.DIARY

  8.FILES         (DATA DAMAGE)

  9.CREW’S LIST

 

再び不思議な出来事を目の当たりにした。パネルに表示されているのは全て英語表記であった。

恐らく正しい使い方はされていないのだろうが、それでも意味は理解出来た……が、問題はそこではない。

なぜこの宇宙から来たような代物に、このような英語表記がなされているのか。向こうで似た物が使われていた? それはありえない。

つまり、この宇宙船――操作パネルで”SPACESHIP”と表記されていることから――は、この世界で作られたものなのだ。

しかし一体なぜ……。さらなる疑問が、彼の頭に圧し掛かった。

とりあえず、彼はコマンドの”CREW’S LIST”を選択した。すると画面に、部屋の数と同人数の名前のリストが上がった。

勿論どれも知らない名前ばかりで、何の役にも立たなかった。なので彼は次に”INSIDE”コマンドを実行した。

すると今度は画面に、それぞれの部屋と通路、そして宇宙船周辺の映像が流れ始めた。だがこれも、使えるものではなかった。

彼は最後に、”DIARY”コマンドを実行した。すると画面に、ツリー状で日記のリストが列挙された。

アイコンを見る限り、どうやら全てが動画で保存されているらしく、それぞれの項目には、日付と簡単な注釈が描かれていた。

ディルは動画を再生しようとしたが、”DATA DAMAGE”という警告メッセージが発せられ、再生が出来なかった。

だが彼は諦めず、上から順に項目を選択して行った。するとやがて、とある動画だけが運良く再生することが出来た。

動画が再生されると、舵を手前に、椅子に座っている男竜が映し出された。

 

  『宇宙船が故障してから一ヶ月。食料が尽き果てたことで、私達はもはや完全に生きる気力を失った。

   この洞窟であらゆる脱出法を試行して見てたが、全く旨く行かずに袋小路に入ってしまった。

   人目に立たないようプロジェクトの実験を施行するためにこんな洞窟を選んだのが、どうやら裏目に出てしまったようだ。

   ……私達はこのまま餓死を待つことにする。実験を……私達は実験を行う研究者で、

   あらゆる実験体を使用して来た――勿論同族達も……。だが、この状況で私達は身を挺して、自らで実験を行うつもりはない。

   確かに最良の条件下ではあるのだが……。どうやら私達研究者は、人の命と自分の命との量りの差は大きく離れているらしい。

   ……まさか、こんな時にそんな悲しい事実を理解してしまうとは、何とも哀れな自分だろうか……。

 

   最後に、もしこの宇宙船を誰かが見つけたのなら、私の遺言と注意事項を聞いてもらいたい。……もしも、だ。もしも――』

 

メッセージはそこで途切れていた。運良く動画は再生されたが、どうやらこのデータも破損していたようだ。

中途半端に終わった言葉に、ディルは心に痼りを残したまま、拉げて捩れた手摺りを掴んで台を降りた。

そして彼はその後、一度村の宿に戻ることにした。どうやらこの村の調査は、もう少し続けなくてはならないようだ……

 

村の宿に着き、ディルは自分の部屋に入ると、そこにはラレックの姿がなかった。

ディルはふと、腕時計を見やって時間を確かめた。……一時だった。まだ昼飯の時間ではある。

彼はラレックを探しに、食堂へと向かった。すると予想通り、そこには昼食を取っているラレックがいた。

「よっ、ラレック」

スパゲティを頬張ったまま、ラレックは顔を上げた。ディルに気付くと、彼は急いで頬に溜めていたものを飲み込んだ。

「んぐ……おう、ディル。どうだ、何か成果は上がったか?」

「勿論さ。旨く行けば、大スキャンダルになるかも知れないぞ」

「おうおう、言ってくれるじゃねえか」

ラレックはテーブルに置いてあるハンバーグをぱくりと一口。

「今回ばかしは、相当な自信があるんだ。何てったって……」

「……どうした?」

ディルは、テーブルにずらりと並んでいる料理を一瞥した。スパゲティにハンバーグ。ジャンバラヤにパフェ、そしてホットケーキ。

「……これ、お前の昼飯か?」

「ん? ああ、そうだが?」

「随分と食べてるんだな。お前、そんなに大食いだったっけ?」

「大食い? 別に普通の量だとは思うけど――勿論、俺にとってはだけどな」

そう言ってラレックは笑った。それにつられ、ディルも笑った。

「はは、確かにそうだな」

「そうだ、ディル。お前も何か食べろよ。まだ昼食食べてないんだろ?」

「お、そういえばそうだったな」

ディルはラレックの向かい側の席に着き、そしてウェイターに葱塩カルビ定食とケーキを注文した。

「ほぉ……ディルにしてはいつもより多めだな、ケーキを付けるなんてさ」

「まあな。洞窟内をひとっ飛びして来たから、結構疲れてるのさ」

「なるほどなぁ。まっ、俺に比べればまだまだだけどな」

「当たり前だ。お前に勝てるなんて一生無理だろうな」

「いいや、分からないぞー? お前だっていつかは俺以上のデブになる確率だってあるんだからな」

「凄い低確率だが、まあありえないこともないだろうな」

「……お前が、デブ、かぁ」

「……何だよ?」

「いやさ、お前が太ったらどうなるのかなぁって」

「どういうことだ?」

「太ると結構印象変わるじゃん? 俺自身は普通のつもりなのに、周りからは「あれ、太った?」なんて言われるようにさ」

「あー、なるほどな。まあ……どうなんだろうな」

その時、ディルが注文した料理が届いた。彼はそれを受け取り、がつがつと食べ始めた。やはり久々の飛行を行ったせいか、

かなりの疲労を覚えていたらしい。それと同時にラレックも、いつの間にやら追加注文していた大盛りの中華そばを堪能した。

そして彼らがそれぞれの食事を終えると、ラレックは軽い噯を出し、それから二人は食堂を後にした。

「さてと……ディル、これからどうするんだ?」

「とりあえず、今日はこれでもう引き上げる。折角の三連休を全て無駄にするのは勿体無いしな。

それに、今回はかなり良い成果が上がったんだ。今度の夏季休業時にでも再調査すればいい」

「だけど、誰かがお前と同じネタを見つけたらどうするんだ?」

「自分で言うのも何だが、こんな話題を出し切った村を、再度ネタにしようなんて思う奴は普通いないだろ?」

「確かにそうだな。なら、その時は俺も手伝わせて貰うぜ」

「どうせお前は食って寝るだけじゃないのか?」

「失礼だな。俺だってやる時はやるさ」

「それじゃあ、その時は宜しくな」

「おう」

ディルとラレックは部屋の荷物を纏め、宿のチェックアウトを済ました。そして彼らは車で自分達の街へと戻り、

今日と残った明日の休日をゆったりと過ごした。それから彼らは、再び自分達の仕事へと戻って行った。

ディルは様々な街で起きた事件などを調査したり取材したりし、ラレックはいつも通り、地元での撮影依頼のみを受諾し、それを行った。

それから一月後、二○○七年八月中旬。そろそろ夏季休業が始まるということで、ディルとラレックはイルのことで話し合うことにした。

彼らはそれぞれの役職が違い、またラレックが地元でしか仕事をしないということで、お互い会うことは滅多に無く、

特に今回は、一月丸々出会うことが無かったため、今回の対談があの三連休以来初めてとなった。

 

ディルは、会社のロビーで待っていた。とその時、目の前のエレベーターから、異様に巨大な竜の姿が現れた。

「お、ディルじゃないか! 久しぶりだな」

「――ら、ラレック!?」

ラレックのお腹は、一月前と比べて格段に成長していた。もう妊婦なんてどころではない――ズボンから贅肉が溢れて出しているのだ!

確かに彼は元々太ってはいた。だがそれは、どちらかと言えばずんぐりとも言えるような体型で、腹が丸く突出していただけだ。

しかし、今の彼は……もはや完全なる”デブ”だった。それ以外、何物でも無かった。……一体彼に、何があったのだろうか……?

 

 

 

 

 

          Underground 2   第2部   了


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