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どうにかエピローグを完成させました。今回はあまり太り具合を肉付きとかでなく数値でしか表していないので、登場人物達の姿はご自由にイメージ&太らしちゃってください。


The Abyss of Heaven: Epilogue


 体重は、450kgと、医者も不思議に思っていたようだ。何せ意識不明の寝た切り状態で、点滴しか受けてないのに、むくみやリンパ浮腫とは違って僕の体には、どんどんと脂肪が溜まっていたからだ。

 だが一番医者が驚いたのは、僕の可動範囲であった。門番のおかげで昔より疲れることもなくなり、お腹が突っかかって床のものは取れないが、頑張れば走ることだって出来た。

 それでも一応、病院ではダイエットプログラムを受けた。だがウォマポが確りと食事を分身に与えていないおかげで、驚くほど腹の虫がぐぅぐぅなって治まらることはなかった。どれだけ僕の胃袋が巨大化しているのか、この時ようやく実感したのだ。

 けど、昔のように空腹のない生活から一変すると、我慢なんて辛くて辛くて仕方が無く、結局恐ろしいほど病院で飲み食いし、退院した時は以前よりもでっぷりと肥え、あっという間に500kg台に突入していた。まだ学生なのに、平均体重の5倍はオルカンでもかなり来ている、両親はとことん心配し、食べるのを止めろ——と言いたいところなのだろうが、奇跡的に二回も命が助かったことで、あまり僕に物言うのも躊躇っていた。

 思えば分身には感情がない。だから空腹になっても、腹を満たすのはウォマポ次第でも問題はない。けど今、全ては心のある僕次第である。映画とかで教訓として述べられていたこともあるが、感情というのは本当に脆い。こういう空腹時、僕はどうにも我慢出来ないのだから。なので今じゃ、恐らく分身が食べていた時よりももっと早く体重が増加しているに違いない。

 そうなれば、学校も色々と大変だ。教室に普通に入れないので、同級生達が態々扉を外してくれる。そして喜ばしいことに、学校側がエレベータの使用許可をくれたのだ。幾ら肥満は生活習慣病だと謳っても、ここまで太れば障碍扱いになるようだ。勿論体育の授業時は休んでいいということで、僕はその間ずっと食堂で何かを食べていた。そんな姿に、クラスの人達は僕を心配するような目付きで見るようになり、不思議と以前の畏怖嫌厭とした感じはなくなっていた。

 おかげで、体重が以前よりも1.5倍近く重いのに、今の方が気持ち的にも断然楽だった。

 それからどうにかして、僕は学校を卒業すると、大学にも行かず、就職もしなかった。だってこんな体じゃ、どこも雇ってはくれないからだ。でも有名にはなったおかげで、政府とかから色々と援助を受けられた。

 でもこのままでは、やがて本当に自重で動けなくなる日が来るかも知れない。そうなる前に僕は、まずやるべきことをやることにした。

 ここはジャイアルの妻が住む家。何人ものヘルパーに手伝って貰い、僕はここまで来ると、玄関のベルを鳴らした。

 色々と調べたのだが、どうやらジャイアルは船員で、でもほんとの所は悪人のはかりごとを暴くためのスパイであった。中々の策士ではいたが、ある日船が台風に襲われ、その際倒れてきた前檣に、彼はやられてしまったのだ。

 がちゃ、と玄関の扉が開いた。

「……あなた……まさか、ミドラー?」

 そこには、ジャイアルと同じホエリアンの女性。種族的に見て細身である。

「はい。えっと、ジャイアルさんの奥さんですか?」

「ええそうよ」

「実は、彼から伝言を預かったんです」

「伝言? あなた、彼の知り合いなの?」

「まぁ、そんなところかと」

 そして僕は、ジャイアルから渡された紙を、彼女に渡した。

「こ、これは……?」

「僕にも良くは分からないんです。けど、これをあなたにって」

「『ベッドの下』は、見覚えがあるわ。ちょっと待ってて」

 彼女は一旦家に戻ると、ある箱を片手にまた戻って来た。

「これ、ずっと開けられなかったの。あとで知ったんだけど、スパイ用品でかなり頑丈な金庫なんですって。だからパスワードが分からないとあけられないし、でも音声認識だから、何の声が元なのか分からないと、暗号が分かってても無理なの」

 ジャイアルはとうに亡くなっている、だから彼の声を使っているということはないはず。となれば、

「じゃあ、奥さんの声で、紙に書かれた暗号らしき文字を読んでみては?」

「そう、ね。やってみるわ」

 彼女は一文字ずつ、丁寧に、そしてはっきりと箱に向かって声を出した。

 全ての文字列を音読し切ると、かちゃりと何かが外れる音がした。ハッとした彼女は、何かを求めるかのように、その箱をあけた。するとあったのは——

「——婚約、指輪……ジャイアル……」

 ホエリアンの目からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。僕は、そっとしてあげようと、静かにその場を去ろうとした。だが不運にも、僕のでか過ぎる体では、足音を立てないなんて不可能だった。

 僕の動きに気づいた彼女は、慌ててそれを引き留めた。

「あ、あの! ……ありがとう」

「……どういたしまして」

 そして僕は、ヘルパー達が待つトラックの荷台へと乗り込み、自宅へと向かった。

 これで僕の役目は終わったが、あと少しだけ気になり、死の世界で出会った人達の、現世での出来事を調べて見た。これもヘルパー達がいたおかげで、すぐに情報収集出来た。

 まず、ヴァーテクス・トップとベース・ボトムだが、彼女は孤児院で職員をしていたらしい。そして彼女達が面倒を見ていた子供達の中に、スィンとスィックがいた。

 だがある時、そこが大火事となり、全焼するという事件が発生。その原因がどうやら、姉のヴァーテクスにあったようで、火の不始末だったそうだ。なるほど、だから彼女は、妹と距離を置いていたわけか……でも、仲直り出来て良かった。

 次にウォマポだが、実は外国の方の、名前を継承していく王族と血縁に関係にある、凄い人だったのだ。しかし彼は、普通のサラリーマンとして庶民に馴染みたいと、物凄くしっかり者で、また働き者であった。のちに結婚もして、王族とは遠く離れた無縁の妻ではあったが、とても幸せなおしどり夫婦となって有名にもなっていた。何より産まれてきた子供を誰よりも愛する姿は、理想のパパとまで言われるほどだ。

 しかし、事件は起こった。電車に乗っていたところ、痴漢と疑われ逮捕されてしまったのだ。有名だった分、その反動も大きく、途端に仕事はなくなり、生活も乱れ、大好きだった息子も妻に連れて行かれてしまい、最終的に離婚となってしまったのだ。

 ウォマポは、子供に未練を特に大きく残し自殺——遺言を残し、それを元に検察や警察達などが改めて捜査をしたところ、なんと誤認逮捕だったことが判明したという。

 彼の死後、王族との血の繋がりもあるということで、国王はある命令を発布した。それが、誤認逮捕撲滅命令だ。車内には必ず監視カメラを設置、どんな状況に於いても綿密な捜査を欠かさないことが要求され、もし誤認逮捕が発生した場合は、大きな損害賠償を請求できる仕組みを作ったのだ。おかげさまで、特に多かった痴漢による冤罪は大きく減少し、逆に監視カメラが決定的証拠となり、痴漢の逮捕率がぐんと伸びたのだ。

 しかし、心残りを残したまま命を落としたウォマポにとって、そんなことは一切関係なかった。もう二度と、現世には戻れないのだから。あんな性格になっても、それは必然とも言える事柄なのだ。

 僕はまた、あれから脂肪をたっぷりと身に付けた。肉のたぷたぷ具合も、数年前より格段に拍車がかっている。

 けど僕は、そんな体でも全然平気だった。周りはとことん心配していたが、常に前向きに明るく振る舞うことで、僕に関しては例外とでも言うように、肉のなれ果てのような容姿にも、自然と接してくれるようになっていた。それもこれも、全てはパム・ロさんの教訓みたいなもの。

 そんな彼、実はすごい記録を持っていた。前述には書いていなかったが、僕は確りと彼の事も調べていた——というより、噂からまず入っていた。

『ギネスブック更新か』そんな見出しの新聞があった。そこを見ると、現存しているギネス最重量者は女ドルフィニアンの900kg。そしてギネスブックには、1,000kgという超重量級の女シャーカンがいたことが記されており、更には非公式ではあるが、100年前に1,400kgもの男ホエリアンがいたという情報も、そこには掲載されていた。

 そんな記事の、古ぼけた白黒写真を見て、僕は思わず笑みが零した。体付きでは判別出来ないほどへんげしていたが、その顔を見た瞬間、僕はすぐに分かった——パム・ロ・ファスタ・スロウワその者だと。

 だが100年前ともなれば、彼に関する文献は極めて少ない。インターネットで調べても殆ど同じような写真しか載っておらず、履歴に関しては大学以前以後は真っ新だ。しかし本人も述べていたように、大学は本当に国立大学で、しかも彼の論文は、海外でも引用されたほどだ。

 大学卒業後は、再び更地のように何の跡もない。ただ一つ、彼が亡くなった時だけは、その巨体が知られてこのように後世に伝えられた。

 憧れのパム・ロ、僕はオルカンで、それを成し遂げてみようと安易に思った。しかし今の僕は、向こうの半分の魂が使う解放された魂力に動かされている。だが彼の場合は、素面で1,400kgだ——やはり、彼にはどうしても敵わないよう。ならせめて、彼に近付けるだけ近付いてみよう……まずは、女ドルフィニアンだ。あともう少しで900kg、現存ギネスはまもなく更新だ。

「ただいま!」

「あら、今日は遅かったのね」と母親。テーブルには、ヘルパーと共に作った、こんもりとした何合もあるご飯に、唐揚げが五十個。他にも色々とあるが、待機中のものが更に沢山とあり、僕は歓喜した。

「お前、また太ったんじゃないのか?」父親が懸念気味に言う。だが今更ということもある。

「大丈夫だよ。病院で検査したけど、良好だったじゃん」

「そうだが……本当に不思議だな、俺達の家系には肥満なんてなかったのに。それにそこまで太ってたら、普通どこかしら悪いはずだ」

「本当よね。でも、無事ならそれでいいわ」

「そうそう。それじゃ、いっただっきまーす!」

「ミドラー。食後のデザートに、チョコレートケーキ二台用意しておいたからね。それと今日のおやつは、ピザ五枚でいいかしら?」

「うん。あとそれに、ギガマックも五セットお願い。足りなかったら嫌だもの」

 そして今日もまた、僕の体には脂肪というものが蓄積された。僕にとってそれは、一般的な見解である邪魔者とは違い、夢へと一歩近付くための大事な貯金なのだ。パム・ロより“こえる”ための。

    おしまい


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