back

続きが遅れて申し訳ないです。どうにかペースを維持して書き終えました。今回は起承転結の結にあたる部分ですが、それほど盛り上がってなさそうです(おぃ


The Abyss of Heaven: Chapter 4 -Determination-


 城の門前で、僕とジャイアルとパム・ロが立つ。ベルを鳴らすのはパム・ロだ。

『なんだ、俺に何か用か?』

「ああ。実はお前と話がしたい、ウォマポ」

『その体で態々来て貰って悪いが、お断りだ』

「ミドラーを知ってるな?」

『勿論だ。昨日ここを訪れた』

「今彼と一緒で、是非息子について話がしたい」

 インターホンでウォマポの姿は確認出来ないが、どうやら血相を変えたような間が出来た。

『――!? 俺の息子にどうするつもりだ?』

「俺の推測が正しければ、あんたのところの息子は、ここにいるミドラーの一部だ。それを返して貰いたい」

『そんなことさせてたまるか。いいか、息子は俺にとって大事な存在なんだ、誰にも渡してたまるか!』

「だが一つ言っておこう。この世界にも法とルールがある。人の物はきちんと返さなきゃ、窃盗罪で地獄の光がやってくるぞ」

『だ、だが息子は、ちゃんと門番に許可を取ったんだぞ。だから完全に俺の息子だ』

「しかし聞けば、門番が調べても息子の情報は登録されていなかったんだろ? 現世なら、ミドラーの年齢なら普通養子として契約出来るだろうが、ここは違う。ここに来る者達はみな門番によって登録され、それを元に許可証を発行する。つまりお前の言う許可とは、あくまで言葉の上での、単なる口約束にしか過ぎない、そうだろ?」

 パム・ロの説明に、相手は黙り込んでしまった。さすが、伊達に体だけがでかいわけじゃないと、無礼ながらもそう思ってしまった僕。国立大学に通っていたってのは嘘じゃなさそうだ。

『……分かったよ。ほら、入れ』

 観念したのか、ウォマポは引き戸式の門をあけた。今回はジャイアルも付き添い、暑苦しい三人で城までの中道を進んだ。

 この移動の際、両脇に自分以上の巨漢(一方は特段肉厚)達に挟まれると、なんとも凄い圧迫感である。現実世界では真逆の存在であった僕も、こんな体験をすると、まだまだ自分も大丈夫なのかなと思えてしまった。

 そんなこんなで、城の玄関まで行く着くと、そこにはウォマポと、その横にミドラー(僕の分身)が立っていた。ミドラーは相変わらず、惚けたような虚ろな表情で、抱えた業務用の徳用スナック菓子を無心に頬張っている。

「話に聞いた通り、本当に魂の抜けた感じだな」とパム・ロ。

「本当に、僕なんでしょうか?」

「体が溶け込むんなら、そうだろう。このことについては色々と憶測を立てたんだが……」

「何か分かったんですか?」

「単なる推測に過ぎないが、ミドラーは臨死体験で体を二分されたと言っていたな。つまりその際上半身、つまり心や感情といった脳や心臓部はお前のところへ、残りはあのミドラーになったんだろうと思う。そうすれば、お前にあるような心やそれらが分身にはなく、まるで抜け殻のようになってるってことに合点が行く」

「なるほど……でも確かに、心臓には心があると言われていますし、その説は凄く納得が出来ます」

「まっ、そんな精神論は、この死の世界と同様簡単に説明出来るわけじゃないがな」

 そうこう議論している間に、三人はウォマポと会話を交わせる距離にまで近付いた。

「お前がウォマポか。その横にいるのがもう一人のミドラーだな」

「だが自慢の息子なんだ。俺は現世で息子を奪われ、こいつだけでも溺愛してやろうと思ってたんだ。なのに、そんな俺から息子を奪うのか?」

「奪うのとは違う。お前には申し訳なく思うが、こいつの体は、ここにいるミドラーのものだ。落とし物はちゃんと返すのが礼儀だろ」

「しかし――」

 ウォマポには、昨日から先ほどまでのような毅然とした態度がなくなり、乞うようにパム・ロと話していた。その横では、相変わらずミドラーがお菓子をぼりぼりと貪っている。

 早くしないと、また一段と膨らむ僕の体は、自らを不動のものにしかねない。けどウォマポの気持ちを汲み取ると、なんとも板挟みな状態である。

「――とにかく、そいつは返して貰うぞ。もし子供が欲しいのなら、他に養子を取ればいい。俺の側近の妹も、孤児院で亡くなった子供達を養子にしてるぞ」

「だが見てみろ、こんなに立派に成長して……ここまで育ててきたのに、それを見放せって言うのか?」

 立派に、というよりは、単に脂肪を付けて巨大化しただけである。

「捨てろじゃない、返すんだ。それにお前には、今までミドラーの面倒を見てくれた感謝の意も、ちゃんと表明する」

 一瞬、罪の意識もあってそうしようと思ったウォマポ。しかしクビを大きく横に振って、何かを振り払うようにこう叫んだ。

「い、いやだ、やはり絶対に渡さないぞ! お前は知らないんだ、どれほど俺の息子が大事なものなのかを」

「いいから元の持ち主に返すんだ!」

 しかしウォマポは、横にいるミドラーの腕をぐいと取り、反抗した。反動でミドラーの持っていたスナック袋が落ち、ばさりと中身が散らばった。

 正にその瞬間。彼らの真横に、何やら感じる物が現れた。それは白と黒が混在した、混沌とした光――僕は、それを見るのは二度目だった。

「こ、これは――やばい、死への光だぞ!」一歩退くパム・ロ。ジャイアルも、その体に似合わず後ろに飛び退いた。

 だが、ウォマポだけは、一切身動きせずにいた。

「く、くそ、これは!」

「ほら見ろ、ウォマポ、お前が頑なだから、死への扉が開いたんだ」

 そう言いながらパム・ロは、この光に巻き込まれないよう、僕とミドラー、そしてジャイアルの盾となるよう、その巨体を僕らの前に置いた。

「嫌だ……俺はまだ、この世界にいたいんだ――息子と、息子と一緒にいたいんだ!」

 そんなウォマポの顔は、ミドラーの方を常に向いていた。どんどん光に吸い込まれ、ついには腕が離れてしまっても、その視線は一途だった。

 本当に、本当に大切にしているんだ……

『――! ミ、ミドラー!?』

 パム・ロとジャイアルが叫んだ。僕の体は自然と動いており、彼らとは違う本物の肉体で、動かせる限りの動きを見せていた。

 そして僕は、ウォマポの手を取った。

「ミドラー……お前……」

「パム・ロさん、手伝ってください!」

「何言ってるんだ、これには逆らえないんだぞ!」

「駄目だよ! この人は別に、何も悪いことしてないんだから! 僕のせいで、僕のせいで地獄に近付くなんて、そんなの嫌だ!」

 がっちしとウォマポの手を取る僕。しかしながら光の力は凄まじく、どんどんと引きずり込まれていく。それを見かねて、とうとうパム・ロが僕の背中を前のめりでどうにか掴んだ。それに続いてジャイアルも、横から僕を支えた。

 総計10t以上もの重さ。大半はパム・ロが占めていたが、さすがにこの重量では、あの光の力も及ばなかった。

 やがて、光はどんどんと小さくなり、そして消えた。

「……ミドラー……」

 パム・ロは、僕を掴んでいた手を離し、大きく溜め息を漏らした。

「いいんです、もう。だって、こんなに優しくしてくれているのなら」

「しかし、いいのか? お前、好んでないんだろ。その、このままデブるのをさ」

「大丈夫。なんだかパム・ロさんを見ていたら、こんな体でも悪くはないかなって」

「……ぶ、はははは! まさか、俺がそんな風に見られていたとはな!」

 パム・ロが笑い、僕も笑った。するとそれが周りに感染し、最後にはウォマポまでもが笑っていた。

 その時、背後から誰かが近付いて来た。

「あ、門番!」

 ジャイアルの声に、みんなと振り向いた僕。周りの人達は、死の世界に入る時に出会っているのだろうが、僕は初めてその姿を見た――それはかなり巨大(パム・ロとは違い、体型はかなり細めだが、身長的にかなり高い)で、僕の倍ほどもある、ダークレッド色の姿だった。これまた死の世界らしい、非現実的な姿形である。

「何故、お前達は光に逆らった?」

「いや、その……」とさすがのパム・ロも物怖じし、たじろいだ。

「違うんです、間違いだったんです。僕は決して、ウォマポさんが悪い人だとは思っていません」

「ん? お前――なぜ同じ奴がここにいるのだ?」

 門番は、僕と、そしてずっと平然としていたのであろう、いつの間にか落ちたスナック袋を拾い、残った中身を口に含むミドラーを見た。

 僕は門番に、パム・ロのほぼ正解の推測を交え、この状況を説明した。

「……ふむ、そうだったのか。確かに私の目には、君とその分身が同一であると写っている。これは、飛んだ失礼をした、申し訳ない。私たちの間違いを許してくれ、ミドラー」

「いえいえそんな、間違いは誰でもあることですので」

「そうとなったら、君を現実世界に返そう。だがただで返すわけにもいかないな。謝罪にと言ってはなんだが、何か私に出来ることはないか? なんでも言ってくれたまえ」

「なんでも、ですか?」

「ああ」

「それなら……例えば、夢のような話ですけど、パム・ロさんみたいに僕も、現実世界で動けませんか? そこでのこの体は不自由ですし、重くてまともに動けないんです」

「承知した。その体型も私たちの責任であり、どうにかしよう」

「で、出来るんですか!?」

「話を聞いたところ、君と分身は完全にリンクしている。ならば、この死の世界にある分身の魂の力、魂力(=こんりょく)を現実世界と同期させれば可能だろう」

「こ、魂力? 霊感みたいなものですか?」

「霊感とは違う。あれは形而上のものだが、魂力は形而下として存在するもの。だが魂は、現実世界では肉体というものに封じ込められ、感覚的要素しか発揮することは出来ない。しかし、この死の世界にあるのは全て魂であり、この姿は単に具現化したもの。つまり肉体から解放された魂は、現実世界では出せなかった力を、存分に使うことが出来るのだ。

 そして君の魂も、半分に分割されたことにより、片方が完全に解放され、その力が使用可能になるというわけだ」

 そういえば、魂の力について、パム・ロから聞いたことがあった。自身があの肥満体で動けるのは、何かの力が関係していると語っていたが、本人も今回の説明で、ようやくそれを知った。

 するとここで、その彼が二人に割って入った。

「ちょ、ちょっと待ってくれ門番。今の話を聞いてると、ミドラーみたいに魂が分割されることって、決して皆無ってわけじゃないように聞こえるんだが」

「かなり稀少な例だが、私のデータベースには、先々代がその魂と出会っている」

「なるほど……」

「そういうわけだ、ミドラー。つまり君と分身がリンクしているのなら、その分身の魂力もリンクさせ、肉体外に現すことも出来るはずなのだ」

「じゃあ、元の世界でも動けるんですね!」

 門番は頷いた。本来なら、太ったこの姿も変えたいところだが、昔とは違い、ウォマポに溺愛されてることも分かったことだし、このままでもいいと思えていた。親に愛される感覚と同様、それを跳ね返すことなんてありえないのだ。

「それでは早速、元の世界に戻ろう」

 門番が、細長い指の一本を表にし、すぅっと丸めるような仕草をした。するとどうだろう、目の前に、先ほどのあの光が現れたのだ。

「ミドラー、こんなことを言うのは失礼かも知れないが、もしお前が死んだ時、また一緒になろうな」

「あ、はい、パム・ロさん。その時も是非、一緒に住まわせてください」

「勿論だ」

 次にウォマポが言った。

「本当に、今まですまなかった」

「いいんです、ウォマポさん。これからも、もう一人の僕を愛してやって下さい」

「分かった。だが食べさせることは止めて置くよ。君とリンクしているのなら、食事を与える必要はなさそうだしな」

「はい」

 そして最後は、ジャイアルの番だ。

「ミドラー。実は君に、頼みたいことがあるんだ」

「なんでしょうか?」

「現実世界に残してきた妻に、これを渡して欲しいんだ」

 僕が手渡されたのは、一枚の紙。その紙面には、16桁のパスワードらしきランダムの文字列が書かれていた。そして名前と住所、更にはベッドの裏と書かれた、何かを示す言葉も。

「俺は、結婚前に死んだんだ。その後この世界でテレビを見たら、俺のために妻が死後結婚をしたんだ。だがこの手で、婚約指輪は渡せなかった――けど用意はしていたんだ。だから今こそ、前々から準備していたそれを、妻に渡して欲しいんだ」

「そんな、過去があったんですね……分かりました、僕に任せてください」

 僕は彼から、紙を大事そうにポケットの中にしまった。

「ではミドラー、いくぞ」

「はい――あ、あとそれと、ヴァーテクスさんとベースさんにも、宜しくお願いします」

 そうパム・ロ達に言い残し、僕は門番と手を繋いで、光の中へと入った。

 気が付くと、何やら耳に、ピッピッと電子音が聞こえた。何だかデジャヴな感じだ。目の前はまだ真っ暗――けどこれは、僕が目をつぶっているせいだと、少ししてから分かった。

 僕は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。すると、天井と思しきものが目に写った。更に横に視線を移すと、医療機器が目に入り、ここが病室だとすぐに分かった。

「あ、あなた!」

 横で声がした。懐かしく、聞き覚えがある。

「良かった、意識が戻ったのか!」

 そうだ、これは父さんの声――それでさっきのは、母さんの声……

 視界の両端に、二人の顔がぬっと出て来た。それは紛れもなく僕の両親であり、僕は嬉しくなって二人に微笑んだ。

 それから、再び目を閉じた僕。それは半年ぶりの目覚めだった。

  続く


back
- Website Navigator 3.00 by FukuraCAM -