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  著者  :fim-Delta

 作成日 :2007/08/03

第一完成日:2007/08/04

 

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惑星フリアを発ち、宇宙へと飛び出した<イボルバ>。シリアスはそこで、コンフォームが示した<歪の場>への航路を設定し、

宇宙船を自動航行モードにした。そして彼は、背凭れに体重を預け、軽く溜め息をついた。丁度その時、船内にアナウンスが流れ出した。

『えー、パイロットのシリアス君、今すぐ食堂に来るように。俺こと船長が楽しみに待っている。以上』

「……」

「ふふ、シリアス。完全に船長に気に入られちゃったわね」

「……もう僕、こんな見っとも無い姿から抜けられないのかな……。このベストだって2Lになっちゃったし……」

「全然大丈夫よ。……船長と比べればの話だけど」

そう言ってティタは、いつもの忍び笑いを漏らした。最後の言葉は吐息を吐いたような微かな声だったのだが、

耳が良いシリアスにはその言葉も確りと聞こえたので、彼はティタを軽く睥睨しながら、渋々食堂へと向かった。

 

食堂に着くと、そこにはいつも以上に料理にがっつく、メルティッド船長の食事姿が見受けられた。

いつも以上に滓も零しているため、御付きのドレッグスィータ達は、世話しなくその滓を食んでいた。

「……船長」

「お、ひりあふ!」

「船長! 喋る時はせめて口の中に余裕を作ってからにしてください!」

「――ごくん……悪い悪い」

「んで、船長。何か僕に用ですか?」

「いや、何も」

「じゃあ何で呼んだんですか!」

「だって一人じゃ淋しいんだもん」

「……全く……」

シリアスは、料理自販機からピザ一枚とハンバーガー三つを取り出した。

そしてそれを、メルティッド船長と同じテーブルの上に乗せ、彼と真向かいの位置で食べ始めた。

「……」

「……」

二人は無言のまま、ひたすら料理を食べ続けた。そしてシリアスが先に食事を終え、彼は物思いに耽った。

「……食うか?」

「はい?」

「今日のシリアスは、何かいつもより食べる量が少ない。それじゃあ次なる目標、3Lサイズのベストは着れないぞ? ほら」

そう言ってメルティッド船長は、シリアスに原始肉を差し出した。シリアスはそれを、浮かない顔で受け取った。

「……船長?」

「むしゃり――何だ?」

「船長は、どうしてそんなに食い意地が張ってるんですか?」

「んー、秘密」

「秘密って、そんなに大事な何かでもあるんですか?」

「あるにはある」

「それは?」

「だから、それは秘密」

「……」

シリアスはその後、無言で原始肉にかぶりついた。やがてそれも完食すると、彼は席から立ち上がった。

「……ごちそうさまです」

「もう行くのか?」

未だ肉を頬張りながら、メルティッド船長が尋ねた。

「ええ、もう十分ですから」

「それじゃあこれでも持って行きな」

そう言ってメルティッド船長は、懐から甘いスナック菓子を取り出し、それをシリアスに差し出した。

「美味いぞー、これ」

「……いらないです」

「何でだ?」

「僕はこれ以上太りたくないんです!」

そう怒号したシリアスは、肩を怒らせながら食堂を大股で出て行った。

「……美味しいのになぁ」

メルティッド船長は、取り出したお菓子を仕方なく、口直しにと渋々食べ始めた。

 

シリアスは操縦室へと戻り、自分の席に着いた。そして暫くの間、彼は物憂げな表情で沈思状態に入った。

それからまた暫くして、メルティッド船長がおやつを摘みながら、部屋へと入って来た。

「あー、満足したー!」

「船長、どうでした? 四時間ぶりの船内の食事は?」

「いやぁたまらんね! それにこのおやつも!」

「船長、それはおやつとは言いませんよ?」

ティタが否定した。それもそうだ――何故ならメルティッド船長が今摘んでいるのは、巨大なソーセージだったからだ。

「何言ってるんだティタ。俺にとって肉、イコール、おやつ、じゃないか!」

「だから船長は、体に余計に肉が付くんですよ」

「むー、ティタの意地悪ー。せめて肉とは言わず、フォアグラと言ってくれよ。俺の肉はこう見えても、かなり上質だぞー?」

そう言ってメルティッド船長は、自分の脇肉を摘み、ぶるんぶるんと揺らし始めた。

それを見ていた船員達は、皆で大爆笑した。だがシリアスだけは、依然硬い表情のままだった。

「……どうしたの、シリアス?」

「……何で、何でみんなそんな気持ちでいられるの? 惑星アダプタが襲撃されようとしているっていう時に……」

「それは、少しでも気持ちをリラックスさせようとしているからよ」

「リラックスだって!? こんな時に――」

「まあまあシリアス君、落ち着きなって。ほら、このチョコでも食べて落ち着けよ」

メルティッド船長が、シリアスを宥めようと甘いチョコを取り出した。

「そんなもの要らないよ!」

「我慢するなって。甘い物が好きなんだろ?」

「うるさい! 船長の……」

「俺の、何だ?」

「――くっ!」

「し、シリアス!?」

ティタの声に見向きもせず、シリアスは操縦室を出て自分の部屋へと戻ってしまった。

そして彼がいなくなると、メルティッド船長は言った。

「……ようやく最近、俺のことを認めてくれたと思ったんだが……」

「……いえ、シリアスは認めてますよ。ただ……ただ、シリアスは生真面目過ぎるのです。事を深刻に捉えがちなんですよ」

「エイディメイト、お前もそう思うか?」

「ええ。シリアスは物事を何かと誇張して考えてしまうようです」

「……もうちょっと、温厚篤実にはなってくれないものだろうか……」

「そうねぇ……これはもう、時の流れに任せるしかありませんね」

「そうか……」

メルティッド船長は暫し思い悩み、そして言った。

「……エイディメイト、ドーナッツを五十個持って来てくれ」

「畏まりました」

 

「どうしてなんだ……」

シリアスは悩んでいた。確かに彼はあのメルティッド船長に憧れていて、だから彼は船長の誘いに乗り、この<イボルバ>に入った。

だが今、船長のあまりの無神経さを目の当たりにし、彼の船長に対する気持ちは大きく揺らいでいた。

彼はベッドの隅に座りこみ、何も考えずただ虚無の思考内を漫歩していた。

――突如、辺りにサイレンが谺した。

「警告する! 反抗勢力群の艦隊が<イボルバ>を捕捉した! 身近な場所に腰を降ろし、被弾時の衝撃に備えろ!」

「何だって!?」

まさか、反抗勢力群が宇宙船を所持していたとは――油断していた!?

シリアスは、そんな反抗勢力群の思わぬ行動に戸惑いながら、素早く操縦室へと戻ろうとした。

だがその刹那、巨大な爆音と共に大きな揺れが起き、彼は体を壁へと持っていかれ、そのまま後頭部を強打してしまった。

それと同時に、彼は意識を失った。

 

シリアスは、何とか目を開けようとしたが、重くのしかかる瞼にそれを遮られた。

だが他の部分は確りと使えたので、まずは辺りの会話を耳に入れて見た。

「メルティッド船長、大丈夫かしら……」ティタの声だ。

「正直、今回ばかしは大丈夫とは言えんな……」エイディメイトが言葉を返した。

暫く二人の間に沈黙が走り、そしてティタが言った。

「……やっぱり、助けに行きましょう!」

ようやく目が開き始めたシリアス。彼は瞳孔を動かし、辺りの状況を眺めた。

どうやらここは<イボルバ>の操縦室のようで、辺りには船員全員が集っている。

そして彼の隣では、ティタとエイディメイトが話し合っていた。

「いや、駄目だ。二人じゃ危険過ぎる」

「でも――」

「ぼ、僕も行きます……」

突然のシリアスの声に、ティタとエイディメイトは驚きながら彼の方を向いた。

「シリアス! 大丈夫なの?」

「何とか……」

そう言ってシリアスは、上体を起こし、頭を軽く押さえた。

「……本当に大丈夫?」

「あ、あぁ、すぐに良くなるよ――それにしても、三人じゃあやっぱり少ないかな?」

「そうねぇ……。最低十人は欲しい所ね……」

「……どうやら、十人は簡単に集まりそうだぞ?」

エイディメイトがそう言って、辺りに目配りをした。シリアスとティタは、それに従った。

すると周りには、既に士気が高まっている<イボルバ>の船員達がいた。皆、メルティッド船長を助ける意志を固めていたのだ。

「船長……これほど皆に、愛されているんですね」

「そうね。私達はあなたよりも長年この船に勤めてる。だからメルティッド船長のこともよく知ってるし、愛してるのよ」

「……あの時、船長に怒ったのは悪かったな……まだこの船に搭乗して間も無い青二才な自分が、言うセリフじゃなかったな」

「いいえ、それは仕方が無いことよ。あなたは何も知らないんだから」

「何も?」

「気にしないで。それよりみんな、メルティッド船長をすぐにでも助けたがってるわよ?」

気が付けば、会話をしていたシリアスとティタ以外は皆、進撃の準備を整えたようだ。

「……じゃあ、行こうか」

「ええ」

シリアスとティタは、コックピットに備え付けてあった非常用の光子銃を手に取った。

そして、元軍人のエイディメイトの指示の元、彼らはメルティッド船長救出作戦を実行した。

 

現状は、まず<イボルバ>と敵艦隊とが舫われていて、一本のトンネルフィールドで繋がれていた。

<イボルバ>の操縦室から抜け出すのは容易かった。何せ相手は、本場の戦いを知らない素人の見張りのみ。倒すのは呆気なかった。

だがトンネルフィールドを抜け、敵艦隊に入ってからは手厳しかった。

何せそこには、<イボルバ>で見張り役をしているような奴とは違い、なかなかに腕が立つ反抗勢力者達が多くいたからだ。

それに<イボルバ>では、当たり前のように内部構造を知悉しているので、容易に策略を練ることが出来たのに対し、

未知の敵艦隊の内部構造など知る由も無いので、エイディメイトですら作戦の立てようがなかった。

だから仕方なく、<イボルバ>の船員達はエイディメイトから教わった戦術のみで、この場を凌いでいた。

「くそ、エネルギーが切れた。新しいのをくれ!」

シリアスが、隣にいた荷持から充電済みの光子銃を受け取った。

壁に隠れて敵のレーザーを避けつつ、その攻撃が止んだ一瞬の隙を見計らい、壁から身を出して引き金を引く、その繰り返し。

だがそれも、やはり本物の宇宙船搭乗員には劣る装備と技量によって、敵の数は段々に減っていった。

そしてついにシリアス達は、メルティッド船長が捕虜されている部屋へとやって来た。

渦巻きながら輻射状に開閉するゲートをくぐり抜け、彼らはついに、メルティッド船長を見つけ出した。

そしてさらに、その隣には惑星アダプタの首脳、コンフォームの姿もあった。

「船長!」

「シリアス!? ここに来ては駄目だ、逃げろ!」

「何を言ってるんですか!?」

「いいから逃げるんだ! ここは核弾頭庫だ! 俺の後には大量の核弾頭が詰まれているんだ!」

「な、何だって!?」

「動くな!」

横から声が聞こえた。シリアス達はそれに反応し、声のする方を振り向いた。

「大人しくしていろ」

「……レチッド……」

そこにいたのは、あの反抗勢力群の首謀者、レチッドだった。片手には何かの起爆装置を携え、もう片方の手には光子銃が握られていた。

だが驚きはそれだけに留まらなかった。彼の後から、彼と同族のコンスタンシャンが現れたのだ。

それを見て、シリアス達のみならず、監禁されているコンフォームまでもが、呆然とそのコンスタンシャンを見つめた。

「と、トレイタ!? 君、一体そこで何をしているのだね!?」

我に返ったコンフォームが、憤りを露に問いかけた。

「ごめんね、コンフォーム様――いえ、コンフォーム。私、こう見えてレチッドの側近なの」

「う、嘘だ……そんなの……仲間だと思ってたのに……」

「仲間? そんな体で仲間なんて、笑っちゃうわ」

「くっ……!」

コンフォームは唇を噛み締め、怒り心頭に達しながらも黙り込んだ。

「それ、ちょっとおかしいわね」

唐突に割り込んだのは、なんとティタだった。

「何がおかしいのかしら?」

「あなた、自分で彼を太らしておいて、それはないんじゃない?」

「わ、私を太らしただと?」

コンフォームが、微かにそう呟いた。

「トレイタ。あなた、コンフォームが常用している薬を直接手渡してたでしょ?」

「……それが?」

「その薬、あなたはメバロチンと称した。だけどそれは嘘――私から見れば、それがドグマチールだってすぐに分かったわ」

「あーら、ご名答。それならその効果もばっちし分かったって訳ね」

「私をなめないでもらいたいわね。それに、あなたの巧妙な計略だって推測出来たわ。

メバロチン……確かにこれには、コレステロール値を抑える効果があるわ。惑星アダプタで生活する上で避けられない肉料理……

それを食べ続けなければならないコンフォームの体を気遣うかの如く、あなたはこの薬を彼に薦めた。

けど、それは変な話なのよね。コンスタンシャンには元々コレステロールを吸収する力なんて無いんだもの――本来菜食主義者だからね。

彼は始め、薬なんて必要無いと思った。だけどあなたは、彼にメバロチンと偽ってドグマチールを与えることで、それを覆した。

ドグマチールには鬱を改善する効果――つまり気分を高揚させる効果があり、それが彼に、薬の必要性があることを錯覚させた。

元々彼は馴れない惑星アダプタでの生活に少々ストレスを覚えていただろうし、この効果は恐らく明瞭に現れたんだと思う。

それから彼は、メバロチンと偽られたドグマチールを常用するようになった。けどこのドグマチールには、ある重要な副作用があった。

……それは食欲亢進作用よ。あなたはそのことを知って置きながら、敢えてそれを彼には教えず、その薬を与え続けた。

元々馴れない食生活に、普通でも太り易い状況に置かれている中、彼はこの薬の副作用によって次第に食事量を増やし――

そして肥大した。あなたの思惑通り、彼は日増しにどんどんと太っていった……どうかしら?」

「……驚きね。素晴らしいわ。百パーセント正解――と言いたいけど、少しだけ誤りがあるわ。残念ながら、これは偶々なのよね」

「偶々?」

「元々この薬を使おうなんてこれっぽっちも考えてなかったわ。私は本当に、コンフォームと惑星アダプタで暮らす付き添い人だったの。

勿論私もそうだけど、その時には誰一人として、コンフォームのことを怨んではいなかった。

……けど、それからが問題だった……コンフォームは惑星アダプタでの生活に取り憑かれ、やがてそこの統治者となった時、

彼は「惑星フリアを支配下に置き、文明開化させる」、そう言ったの……それから私とレチッドは、反抗勢力群を作り上げた」

「そ、それはコンスタンシャンのことを思って――」

コンフォームが反論したが、それを憤怒の声でトレイタが遮った。

「私達のこと思って!? コンスタンシャンは元々菜食主義者で、農耕暮らしの安閑な生活を望んでいるのよ!?

それをあなたは近代化と表して、惑星フリアを新たな文明へと開拓していった――けどその結果はどう!?

田畑は次第に消え、なのに工業すら発達することもなく、文明化どころか廃れてばっかり!

おかげで私達は飢えに苦しみ、今まで以上に困窮な生活を強いられたわ!

……あなたは、”地球”、という惑星をご存知かしら? そこの歴史の一つ、アフリカ諸国の話なんだけどね……

そこの国々は元々、飢餓など一切無い平和な国だったの。だけど、後の”緑の革命”という偽りの言葉によって、それは大きく変化した。

そこに住む人々は先進国の騙詐によって徐々に農場を失い、ついには”貧困”というものが生まれてしまったの。

他にも、嗜好品を栽培すれば金が入って国が豊かになると言われ、それに従うために自分達の食料生産域を削って見れば、

結果自給率が低下してしまって、逆に飢えに苦しむこととなり、貧窮な生活を強いられた所もあるわ。

……そして今、あなたはそれと全く同じことをしているのよ? 幸福と偽言して現実は不幸!

あなたは繰り返してはならない歴史を繰り返そうとしているのよ!?」

もはやトレイタの激昂は、彼女の容貌をも崩し出した。涙も、僅かながら目に浮かんでいた。

「それは中途段階なのだよ、トレイタ! これから盛んになり始め、やがて惑星フリアも先進惑星に仲間入りするんだ!」

「嘘を言わないで! もう……もう周りで仲間が死んで行くのは見たくないのよ!」

暫しの沈黙が流れた。

「……ふふ。だから私、あなたに抵抗することにしたの。そして、惑星アダプタを襲撃することにした。

だけどそのためにはまず、自分達の同志を増やさなければならないわ。だから私は、あなたをぶくぶくに太らして、

同じコンスタンシャンからの信頼を薄れさした。近代化に飲まれた醜い姿って名目でね。

さらにあなたは頂点の座にいることで、惑星フリアに暴慢で気随気儘な態度を素直に示し、ついには殺戮者と成り果てた。

おかげであなたは同族から多くの反感を買い、それに付随して私達の勢力は徐々に増していったわ」

「コンフォームが暴慢になったのは、単に彼の性格だけじゃなく、薬の副作用もあるんじゃないかしら?」

「あら、そんな副作用もあったの? 知らなかったわ」

トレイタがくすくすと笑いを漏らした。それはティタのものとは違い、とても異質で、また脅威だった。

「……コンフォームを捕まえた理由は分かった。だけど、なぜ船長までも?」

今度はシリアスが尋ねた。それに答えたのはレチッドだった。

「簡単なことさ。あいつはコンフォームの雇われ、しかも有名な船長。ついでに殺しときゃあ反抗勢力群の士気も上がるってもんだ」

「何てことを……そうは、そうはさせるか!」

シリアスが素早くベルトから光子銃を抜き取った。だがその手を、相手方のレーザーが貫いた。

「――痛ぅ!」

シリアスは痛みに呻き、持っていた光子銃を床に落とした。

「動くなと言っただろう?」

『レチッド船長。只今、惑星アダプタ付近に到着致しました』

突如艦内にアナウンスが流れた。それを聞いたレチッドは、意を決した面持ちでこう言った。

「さぁて、そろそろ核弾頭を起爆する時が来たようだな」

「ふん、そんなの出来るわけないじゃない! そしたらあなた達まで死ぬわ!」

「それがどうした? 俺の後継者は沢山いる。仮に俺が死んでも、成し遂げた偉業を見て我が反抗勢力群はより勢力を増大させるだろう」

「そういうこと。私達は常に命を危ぶまれて来た。今頃になって命がどうこう思わないわ!」

「……さあ、この宇宙船と共に――滅べ、惑星アダプタ! そして我らコンスタンシャンを汚す者達よ!」

そう叫びレチッドは起爆装置に手をかけた。刹那、複合された出来事がその瞬間に流れた。

一つ、メルティッド船長が核弾頭の山に覆い被さった。

二つ、シリアスが誰かに引きずられながら、ある名前を必死に叫んだ。

三つ、レチッドとトレイタが手を繋ぎ、そして彼らの顔に、希望と共にとても深い悲哀の感情が刻まれた。

 

その一瞬後、全てが混沌に包まれた。

 

 

 

 

 

          宇宙船<イボルバ>のキセキ 最四章   完


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